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第三章 アルテミルの街とその領主

第31話 間違えて盗賊を助けてしまう2

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しかし、倒れた男たちの中からも一人、リーダーと思われる厳つい顔の男が立ち上がっていた。

その男が声を発する。

「きさま、仲間か?!」

コジロー:「いや、通りすがりだが・・・?」

男:「勘違いするな、そいつらは違法な奴隷商人だぞ!」

「!!」

厳つい顔の男は続ける。

「俺はアルテミルのランクB冒険者ガラハだ!奴隷商人捕縛の依頼をうけたのだ。」



だが、ボルも反論した。

「馬鹿な、合法な商売だと聞いている!盗賊に狙われていると・・・」

ガラハ:「本当だ!ギルドカードを見せてもいい!」

ボル:「そんな・・・」



ガラハ:「分かったなら邪魔をするな!おい、立てるか?!追うぞ!」

ガラハは仲間に声を掛けるが、しかし腰が抜けてまだ動けない者が多く、なんとか動ける者も膝が笑っている状態だった。



馬車はかなり遠ざかっている、まもなく峠を越えて見えなくなってしまうだろう。急がなければ逃げられてしまう。

「くそ、オレ一人でも追うか・・・」

駆け出そうとしたガラハをコジローは制止した。

「大丈夫だ、馬車は捉えられる。」

コジローはマロに、馬車を止めてくれるよう頼む。即座にマロが走り出す、そのスタートダッシュはまるで瞬間移動したかのようだ。

地球で見たアニメのキャラクターみたいだとコジローは思ったが・・・

・・・今はそんな事を考えている場合ではない。

「俺達も行こう!」

コジローはガラハの腕を掴み、転移を発動した。転移はあまり見せたくなかったが、自分のせいで犯罪者を逃してしまったとなるのも困るので仕方がない。

馬車はもう見えなくなっていたが、"見える範囲" で転移を二度繰り返し、馬車が見えるところまで追いつく。そして三度目の転移で馬車の近くまで移動した。

ガラハはいきなり転移に巻き込まれて目を白黒させていたが、すぐに我に帰って馬車に駆けつけると・・・馬車は既にマロによって無力化されていた。

馬車はかなり遠くまで走っていたが、フェンリルのマロにとっては大した距離ではない。一瞬にして追いつき、馬車の前に立ちふさがり、再び咆哮を放ったのである。
御者と奴隷商は失神、馬車を引いていた馬も泡を吹いて倒れていた。。。



改めて馬車を見てみると、各面に小さな窓がついているが、それ以外は板で覆われていて中がよく見えず、窓にはが鉄格子がハマっていた。なるほど、普通の乗客や荷物を運ぶ馬車とは違う。

ガラハが御者と商人を縛り上げていると、ガラハの仲間たちが追いついてきた。ボルも来た。みなマロの咆哮の影響からはすっかり回復したようである。

ガラハはアルテミルの街に戻り、警備隊に奴隷商人を引き渡してからギルドに報告する必要があるが、コジローも同行するよう要求された。

ガラハとしては、コジローとボルの身元を確認する必要がある。コジローも、捕まえたのが本当に奴隷商人なのか、確認する必要がある。双方ともギルドカードは見せあったので、念の為、ということであるが。

馬車の中には拉致され奴隷にされた被害者が居るが、警備隊に引き渡して身元確認ができるまでは開放する事はできないとの事だった。



帰りの道すがら、ガラハとボルから話を聞いた。

他にも二人、奴隷商人に雇われた護衛が居たのだが、途中でガラハ達に倒されたらしい。その二人も騙されていたのかも知れないが、仕方がない。あとでガラハの仲間達が現場に戻って二人の遺体を埋めるか燃やすかする必要があるだろう。

「犯罪奴隷を運んでいると説明されていたんだがな・・・妙に報酬が高いし、裏街道や森の中ばかり通るからおかしいとは思ったんだが。奴隷の身内の盗賊に付け狙われていると聞いて信じてしまった。だいたい、襲ってきたのがアレだからな・・・。」

とボル。

アレとは、いかも盗賊の親分という顔つきのガラハの事である。コジローも盗賊だと思ったのだが、それは口には出さず、仕事を妨害したことをガラハに謝罪した。

「まぁいい、結果的に捕まえる事ができたしな。俺はこんな顔だし、よく誤解されるんだよ。」

とガラハは笑って許してくれたが、コジローは気をつけないといけないと思う。

日本で生きていた頃、「泥棒と叫びながら逃げる泥棒」という光景が当たり前の国もあると聞いたのを思い出した。

今回のように、もし、犯罪者が「盗賊に追われている!」と叫びながら逃げていて、それを鵜呑みにして逃亡に手を貸したら、実は追っているのは警察であった、と言う事もありうるのだ。

犯罪現場を取り押さえるならば、加害者と被害者、両方とも確保するのが鉄則なのである。

今回も、奴隷にされていた被害者をその場で開放できないのは、奴隷商人の仲間が、奴隷に扮して身を隠している可能性があるからなのだそうだ。

人間同士は騙し合いか・・・

魔獣に襲われているなら分かりやすいのに、と思ったが、襲っているのが誰かの従魔である可能性もあるかと、マロを見ながらコジローは思いなおしたのだった。

『人間は嘘をつくものだ』とゼフトが言っていたのを思い出す。

それを肝に銘じて、慎重にいくしかない。。。



コジローたちは街に戻り、薬草摘みの日々に戻ったが、そんな時、コジローに護衛の指名依頼が来た。

本来、コジローのランクでは護衛依頼はほとんどないのであるが・・・


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