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第二章 街へ

第24話 卑劣な矢

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昼食の後もコジローは薬草の採集を続けた。

マロは時々どこかへ走っていく。しばらくして戻ってくると、口に獲物を咥えている。

マロが獲ってきた獲物は全部マジッククローゼットに収納した。街に戻ったらまとめて肉屋に売ってしまおう。マロにはかわりに肉屋で別の肉を狩ってやればよいだろう。

気がつけば、薬草もかなりの量がマジッククローゼットに溜まっていたので、採集は止めにして、少し森を探索してみることにした。



小川を遡るように歩いていくと、何かが突然飛んできて、腕を掠めていった。掠った腕の皮膚が少し切れている。

飛んできた何かは、空中をターンし、また戻ってくる。

コジローは飛び退きながら、"加速" を発動、飛んでいる何かの速度がスローダウンしていく。

それでも十分に早いが、それが何なのかは見えた。

・・・ツバメ?

脳内百科辞典から情報を引き出してみる。どうやら飛んでいたのはマスワローという鳥の魔獣だったようだ。飛行速度は非常に高速で、翼にウィンドカッターを纏っているのが少々厄介な相手である。もし不意打ちで頸動脈でも斬られてしまったら、命を落とすことになるだろう。

マロなら苦にならない相手であろうが、ちょうど、どこかに走っていってしまったところだった。

マスワローはなぜか、繰り返しコジローに襲いかかってくる。

コジローは抜いた剣を長く伸ばし、向かってくるマスワローを斬ろうするが、空を斬るばかり。

マスワローの飛行速度はかなり速かった。

コジローの "加速" の魔法は現在4倍速、つまり、マスワローの速度は4分の1にスローダウンして見える。おかげで、目で追えないほどではないが、それでも、コジローの剣の腕では飛んでいる鳥を斬り落とすというのは、難しいのであった。

ツバメと長剣と言えば、佐々木小次郎 "ツバメ返し" を思い出す。コジローの愛読マンガであった「小次郎が行く」の主人公・小次郎も、佐々木小次郎に憧れていたのだった。

ただ、秘剣 "ツバメ返し" というのは、結局のところ、どのような剣であったかは定かではないと書いてあった。

ツバメの飛ぶ軌跡から思いついたとか、飛んでいるツバメを切り落とす練習をして編み出したとか、諸説言われているらしいが、結局、真相は分からないらしい。

コジローもマスワローを相手に練習していれば、コジロー流ツバメ返しでも編みだす事ができるだろうか?

などと思っていたところ、マロが戻ってきて、苦もなくマスワローをキャッチ、噛み殺して食べてしまった。。。

マスワローがしつこく襲いかかってきたのは、近くに巣があったからのようだ。マロはすぐに巣を見つけ・・・雛たちも食べてしまった・・・

ちょっとかわいそうな気もしたが、親鳥が死に、どちらにしても雛達は生き残れなかったであろう。弱肉強食の厳しい世界で、魔獣の命をいちいち憐れんでいては生きてはいけない。それよりも、剣の腕をもっと磨かないと、コジロー自身がこの世界で生きていくのは難しいかもしれないと、改めて思うのだった。

カランと、また音がする。

コジローにだけ聞こえる音。胸のオーブのペンダントがコジローの魔法のレベルアップを知らせている。

加速:5倍速

才能をすべて時空系に振ってしまったので、時空系魔法の習得・成長だけは早いコジローであった。他の魔法はダメでも、せめて時空系魔法はどんどん上達しておきたいところだ。



◆飛び道具は避けられない

さらに森を進みながら、どこかに、剣や魔法の練習に良さそうな場所はないかと探していたのだが、突然矢が飛んできた。コジローの肩を掠めて地面に突き刺さった矢は10cmほどの小さなものだった。

矢の角度から飛んできた方向を推測して見ると・・・居た!

木の上・・・リス?いや、小人?!

リスのような大きな尻尾を持つが、手には小さな弓を持っている。
脳内百科事典によると、リリパットという小人の魔物らしい。多少の知能はあるが、それほど頭は良くない。弓を使うのは本能的なものらしい。

リリパットが次の矢を放ってくる。
例によって、マロはまた狩りに行って傍にいなかった。

剣の達人であれば飛んでくる矢を撃ち落とすという芸当もできるのかもしれないが、コジローには難しい。また、コジローは離れた場所にいる相手を攻撃する手段を持っていない。

できるのは・・・逃げの一手か。

コジローは転移を発動、もと来た方向へ数十メートルほど瞬間移動で後退して逃れる。

そこにマロが帰ってきた、口には鳥を咥えている。

リリパットはマロが現れて逃げたようだ。



ふと、マロは飛んでる鳥をどうやって仕留めたのか?とコジローは不思議に思ったが・・・

マロは魔法も使えるのだから空中の敵も仕留めることができるのは当たり前か。
コジローも、遠隔攻撃ができる魔法が使えない代わりに弓を覚えたいとは思っていた。

しかし、飛び道具はやっかいだなぁと思う。
そういえば、マドリーもゴブリンアーチャーの矢を受けて負傷していたのを思い出した。

飛んでくる矢の気配を察知して撃ち落とす、などという芸当は、マンガの中だけの話、可能だとしてもごく一部の達人だけなのだろう。
敵の弾丸は一切当たらず主人公の撃った弾は百発百中、などと言うことも現実にはない。

銃の弾丸を避ける事は達人でもできないだろうが、矢も十分危険である、普通の人には撃ち落とせる速度ではないのだ。
飛び道具はそれだけ有効だから昔から多様されてきたのである。

不意打ちで死角から撃たれたら、コジローには防ぎようがない。
強いて言えば、弓矢は命中率が低いというのが救いか。

もう少し、防御力と索敵能力がないと、なかなか生き延びるのは難しそうな気もする。

まぁ、マロが居てくれれば大丈夫ではあるのだが。。。



そのマロは、獲物を取ってくるたびにコジローが褒めてくれるので、調子に乗ってどんどん獲物を狩っていた。

そのうち、少し遠いが、かなり大きな獲物の気配を発見する。

近づいてみると、居たのはモンスターボアだった。

ランクCの猪の魔獣で、肉がまぁまぁ美味い。

これも狩っていったらコジローは喜ぶだろう。

大型の魔獣ではあるが、フェンリルであるマロにとっては、狩るのは造作もない。とは言え、ウサギや小鳥を狩るよりは、少し手間を取るのは仕方がなかった。



マロがモンスターボアを狩っている時、コジローの背後から気配を抑えて近づいてくる影があった。

忍び寄ってきた者達は完全には殺気を隠しきれていなかったのだが、コジローは気付いていなかった。マロが居れば殺気に気付いたのだろうが、今は居ない。
コジローのように勘が悪いのでは、弱肉強食のこの世界では生きていくのは難しいだろう。

忍び寄ってきた者達は、しかし、コジローの近くまでは寄らず・・・矢を番え、狙いを定める。

放たれた矢は・・・コジローの背中に命中した。

射たのはドジルであった。


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