上 下
13 / 115
第二章 街へ

第13話 ギルド登録試験1

しおりを挟む
「恐ろしい技だな」

転移しながらの連続斬り───「転移斬」とでも名付けようか───の練習に集中していたコジローは、マドリーが庭に出てきたのに気づかなかった。

突然声を掛けられてビクッと驚いたコジローに、マドリーは

「すまんすまん、安心しろ、誰にも言わないよ、持ってる魔法や奥の手については隠しておくのは当たり前だからな。」

と笑った。

「こんな場所に住んでいて、言いふらす相手はロバくらいしかいないしな(笑)」

よく考えたら、マドリーとネリーには昨日の戦いで既に転移を見せてしまっているので、隠す意味はなかったのだったが。



さらに3日ほど、同じような修練の生活を繰り返した後、コジローは街へ行く事にした。
ゼフトも、今は色々な経験を積む事も、魔力操作の習熟には効果があるだろうと言っていた。
コジローとしても、突然連れてこられた新しい世界を、もっと色々見てみたいという思いもあった。

翌朝、街に行く用があるというので馬車に乗せていってくれるとマドリーが言った。買い出しや素材の売却があるというのは嘘ではないだろうが、おそらく、本当はコジローのために馬車を出してくれたのではなかろうかとコジローは心の中で感謝した。

馬車といっても引いているのはロバだったので、馬より遅いようだったが。

普通、街道沿いには盗賊が出たりもするのだが、この街道は町からマドリーの家を結ぶだけの道なので、滅多に通る人間がいないので、盗賊も出ないとマドリーは言っていた。

盗賊は出ないが、魔物は出るのであるが、ゼフトの使役する魔狼達が街道周辺をパトロールして、魔獣も盗賊も駆逐してくれているのだった。

マドリーとネリーはゼフトと関わって町で暮らしにくくなってしまったので、町の外で暮らすために色々とゼフトが助力してくれているとか。アンデッドでありながら、ゼフトは随分人間に優しいようであった。

街の人は、ゼフトがアンデッドであることは知らないのだが、『森に住む魔術士は死霊術を操る』という噂があり、畏怖されているのだとか。死霊術と言えばアンデッドを使役したりする魔法なので、人々にはあまり快く思われていないのだそうだ。



3時間ほどで、街が見えて来た。

街の名はアルテミル。

コジローは自分の脳に刻まれたデータベースから街の情報を引き出してみたところ、人口は五千人程らしい。

周囲を高さ数メートルの城壁で囲まれている。この世界には危険な魔物が居るため、基本的に街はどこも、しっかりとした城壁を持った、いわゆる「城郭都市」の構造になっている。

大抵は門には門番(警備兵)が居て、入退場を管理している。魔物や盗賊(場合によっては他国の軍隊なども)が攻めてきた時に、迅速に門を閉じる必要があるためである。

マドリーは一応、その町の冒険者として登録されているため身分証があるので、その確認だけで入れるが、コジローはないので、門のところで降りて別れる事となった。

「いつでも遊びに来てくれ。それと、南の6区に息子と娘が住んでいるので、何かあったら頼るといい。」

マドリーはこの町に住んでいるという子どもたちの住所を渡してくれた。

マドリーが衛兵にコジローの事を紹介してくれたので、手続きはスムーズに済んだ。

コジローは、森の中に済む魔術士の弟子で、武者修行のために町に出ることになった、ということになっている。別に嘘でもない。魔術師がアンデッドであると言う事は、言う必要がない情報である。

ゼフトが住む森は、通称「死霊の森」と呼ばれており、実は領主によって立ち入りを禁じられている場所でもあった。

その森に住むという怪しげな魔術士の弟子と聞いて、衛兵は少しだけ嫌な顔をしていたものの、すんなり通してくれた。

ゼフトは畏怖されてはいるが、たまに町の人の頼み事を聞いたりする事もあるのだそうで、それなりに信用もあるらしい。

通常、街への入場時には税金を払う必要があるのだが、コジローが冒険者登録をするつもりだと伝えると、入門税を免除してくれた。冒険者はモンスターを倒してくれたり、旅人を護衛してくれたりと、街の運営・防衛にとって欠かせない存在なので、税金も免除など、色々優遇されているのだそうだ。

以前、冒険者に高い税を課した領主が居たのだが、冒険者が税のかからない街へと全員移住してしまい、モンスターを倒すのに領主の兵士だけでは足りず、大変な事になってしまったという有名な話があるらしい。

本来は、まだ冒険者登録していないコジローは税金をとられるはずであったが、冒険者が不足気味なので冒険者志望者は優遇してくれているらしい。

ただし、次に通る時に登録が済んでいなかったら罰金だと言われたが。



マロはコジローの従魔として首輪をつける事になった。子犬の姿になっているマロに危険があるようには見えないが、一応魔狼である。魔獣が街の中に居れば、最悪、討伐されてしまう可能性もあるが、従魔の印をつけていれば大丈夫なのである。

マロに渡された首輪は随分大きかったが、首に掛けるとちょうどよいサイズに縮んだ。大きさに合わせて伸縮してくれる魔道具なのだそうだ。自動伸縮してくれるなら、マロが大きく変身しても大丈夫だろう。

首輪の貸し出しは無料だが、後で買い取ることもできるそうだ。いちいち返さず付けっぱなしで良くなるので、購入してしまう人が多いらしい。



まずは登録を済ませてしまおうと、コジローは町の冒険者ギルドへ向かった。ギルドに登録すれば、ギルドカードという身分証を貰えるので、この先色々と役立つだろう。

門を入って正面の大通りに面している場所にギルドはあった。マドリーが言っていた通り、分かりやすい場所で迷う事はなかった。

受付で声を掛けると、書類に向かっていた受付嬢が顔を上げる。

受付嬢は名札にエイラと書いてあった。



「はじめての方ですね、どのようなご用件でしょうか・・・あら、可愛いワンちゃん」

コジローの隣でマロがおすわりして尻尾を振っている。

マロの態度が時々あざとい気がするのは気のせいだろうか・・・

「触ってもいいですかぁ?」

エイラは受付から出てきてマロを撫で始めた。

「わかいい~~~。この子、ペットじゃなくて従魔なんですね。」

従魔の首輪に大きめのペンダントがついているのは、ひと目で従魔だと分かるためなのだろう。

時間は午後2時頃、あまり混んでいない時間帯であり人もまばらなのだが、中に居る者から

「犬なんかでエイラの気を引きやがって・・・」

という声が聞こえたような気がしたが、コジローは気のせいかもしれないと流した。

コジローには特殊能力として鋭い聴覚が備わっている・・・などという事はないので、陰口はイマイチよく聞こえないのだ。

それでもエイラには聞こえたのだろうか、慌てて席に戻って営業スマイルを浮かべた。


しおりを挟む

処理中です...