なぜか剣聖と呼ばれるようになってしまった見習い魔法使い異世界生活(習作1)

田中寿郎

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第一章 始まりの章

第2話 選択肢~異世界で再スタートしますか?~

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「なるほど、つまり、あなたの魔法を受け継いだ俺は最強の魔法使いとしてこの世界で無双の大活躍をする、という感じな流れ、ですかね?」

俺は目の前にいる不気味な骸骨に向かって言った。

『まぁそうじゃな。活躍の前に少し修行が必要じゃが・・・』

骸骨が答える。

『なに、数百年も修行すれば、いずれ無敵にもなれるじゃろう。ワシのようにな。』

「数百年て・・・」



目の前にいる "ソレ" は、ローブを纏い、右手には表装に宝石の嵌った本を持ち、左手には杖をもっている。

いかにも魔法使いっぽい装い(いでたち)ではあるが、フードの中から見える顔は、生身の人間のそれではなく、骸骨なのだった。

足はなく、まるで宙に浮いているように見える。もしかしたら下半身は単に見えにくいだけなのかも知れないが。



「もし…断ったら…?」

『別にかまわんぞ。断るなら元の世界に帰してやる。あるいは・・・』



骸骨が言うには、俺は、建設現場の屋上から転落したのだそうだ。

その骸骨は、自分の跡を継げる弟子となる者を探していて、ちょうど良さげな魂が死にかけていたので、この世界に連れてきたのだと言う。

俺は実はまだ死んではいないが、病院のベッドの上で意識不明の重体という状況だそうだ。助かる見込みは薄く、もってもあと数日といった状態だと説明された。



そう、憶えている、その日、現場に気まぐれに顔を出したクズ上司が、思いつきで新人に仕事を言いつけ問題が起きてしまったのだ。

止めるのも聞かず、現場のルールを無視して勝手な指示を出し、案の定、現場の他業者とトラブルになったのだが・・・

「オメエがちゃんと新人を教育しとかねぇからだろぉが!!」

と、その上司は理不尽な責任転嫁をしてきたのだ。

逃げるように上司が帰った後、進捗状況を確認するため現場の屋上の歩いていたが、クズ上司にとっさに反論できなかった悔しさでイライラていた。その時、ふと転落防止ネットが外れているのを見つけ、直そうと手を伸ばした時・・・突風が吹き、転落した。

足場の上に乗るのに無精して命綱を付けなかった。イライラしていたと言い訳してもどうにもならない。

落ちたのは覚えているが、その後、落下中以降の記憶がないのは心の防御作用なのかもしれない。



つまり、今から病院に戻っても、あとは死ぬだけ、ということか・・・

『そう言うことになるな。運が良ければ生きながらえるかもしれんが、おそらく一生寝たきりの生活になるじゃろうの』

つまり、選択肢なしって事か・・・

『いや、選択肢はもうひとつある』

ん?

『せっかく態々(わざわざ)手間をかけてこの世界に連れてきたのじゃからの。もし望むなら、この世界の人間として、平凡な人生を送らせてやってもよいぞ』

なんか、さっきから何も声に出してないのに、骸骨が答えているような・・・

『左様、お主の心を読んでおる。隠し事はできんというわけじゃ(笑)』

骸骨はそう言ってニヤッと笑ったように思えたのだが、骸骨なので表情は分からない。

そもそも、声も音ではなく直接心に響いているようだ。言葉の後についていた「(笑)」のニュアンスまで伝わってくるような気がする。

『望むなら、この世界のどこかの平凡な夫婦の子供として生まれさせてやってもよい。赤ん坊スタートじゃから、当然ワシと会った記憶もなく、前の世界の記憶もなく、この世界に生まれた普通の人間として生き、死んでいく事になる』

そんな事もできるのか・・・神なのか?

『神ではない、ただの魔道師じゃ。まぁ、不妊治療的なアレじゃな』

不妊治療?!

『それくらいは容易い事。ワシは長いこと死霊術を研究しているのでな。魂を生き返らせる事もできる。その実験の過程で、そんな事を頼まれる成り行きになってしまっての・・・』

まぁ、他の世界から魂を引っ張ってこれるレベルだしねぇ。

『それはともかく、お主には、ワシの跡継ぎとなって、ワシの作った肉体に入るか、あるいは、この世界の人間として普通に生まれて平凡な人生を送るか、あるいは元の世界に戻って寝たきりの生活になるか、という3つの選択肢があるわけじゃ』

『・・・・この間の奴は、この世界で平凡な人生を選択した』

?!

俺一人じゃないのか?

『そうじゃ、先日連れてきた奴は、おまえの世界では "にいと" とかいう職業じゃったそうじゃが』

それ、職業じゃない・・・

『ん?職業ではないのか?まぁ何でもよいが、そやつは、死後も続く長い修行を嫌がり、断ったのじゃ』

あー、まぁ、分かる気がするが、ニートだもんね・・・。

『平凡な人生より、波乱万丈なほうが面白いと思うのじゃがのう。しかしまぁ、平凡な人生が幸せ、という考え方も分からんではない、ワシも色々あったからのう・・・』

骸骨が遠い目をした。いや、骸骨なのでよくわからないが。顔がちょっと斜め上を向いたので、遠くを見ているのかな、と思っただけだ。

まぁ、骸骨になるほど長く生きてきたのだから、そりゃあ色々あったのだろうな…

いや。

ちょっとまて。

その前に何か引っかかる言葉があったような…


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