生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎

文字の大きさ
2 / 66
序章

第2話 ルーク、出奔する

しおりを挟む
ヒボルはルークより後に孤児院に引き取られた少年であった。その時ヒボルは四歳、ルークは二歳であった。

親が死んでしまい、荒んだ生活をしばらくしていたヒボルはみすぼらしい格好をしていた。それに比べて、ルークは清潔な衣服を着ていた。

その後、孤児院で暮らすようになってからも、ルークはいつも清潔な服を着ている。

元気に遊んでいれば子供の服などすぐに汚れる。孤児院では、着替えが豊富にあるわけではない。少し汚れたくらいでいちいち服を替えてはくれない。だが、なぜかルークはいつもきれいな服を着ているのである。

それを見て、ルークがシスターや神父様に “えこひいき” されていると思ったヒボルはルークに意地悪するようになったのであった。

もちろん本当は、キレイ好き(感染症に弱い)なルークが自分の衣服が汚れる度に自分で浄化クリーンしていただけなのであるが。





最初のうちは、ルークは魔法を使っているという自覚はなく、誰でもみんな【クリーン】を使えるものだと思っていた。

ある時、ヒボルの服が汚れているのを見て、ルークは(クリーンを使って)キレイにしないの? とヒボルに言ってしまったのだ。

だが、自分の服が汚れている事を馬鹿にされたと思ったヒボルは、その後、ルークが魔法を使えると言っても信じず、逆にイジメが酷くなったのであった。(そのため、ルークは自分がクリーンを使えると言う事を隠して言わなくなったのであった。)



   * * * * *



ルークがどこで毒を手に入れたのかも不明だし、ルークが毒を入れたのを見た者も居ない。冷静に考えれば、今回もルークを犯人と断定するのには証拠が不十分なのだが……

一週間前の盗難事件の時は、証拠不十分と言う事で、ルークの罪は不問と言う事になったが、今回はそういう雰囲気にはならなかった。

今日は、いつも公明正大でルークにも優しかった神父様が出張で不在だったのである。

日頃から少々変わり者であったルークである。おかしなヤツだと思っていた者も多かった。そうなると、金を盗んだのもルークの可能性があると思えてくる。そして、先週の盗難事件から続けての事である。毒を入れたのもルークじゃないかと疑念を抱く者が多かったのだ。

その空気を敏感に読んだいじめっ子のヒボルがさらに追い打ちを掛ける。

ヒボル「俺は見た! ルークが何かをスープに入れてた!」

ルークは皆の皿にスープを注ぐのを手伝っていた。その時に入れたのだろうとヒボルは言う。自分の分だけは、毒を入れる前に先にとりわけて置き、その後入れたのだろうと。

単なる稚拙な推測に過ぎないのだが、「なるほど」と呟いた者が居た事で、皆筋は通っているような気になってしまう。

何にせよ、全員が同じスープを食べていたのにルークだけが平気だったのは事実なのである。

状況証拠しかない状態ではあるが、トール爺とヒボルの発言がダメ押しとなり、誰も彼もがルークが犯人だろうと思い始めていた。

トール爺「覚悟しておくのじゃな、明日になったら街の警備隊に突き出して、牢屋に入れてやる! 毒をどこで手に入れたのかも警備兵が聞き出してくれるじゃろう……まったく、クソガキは痛い目を見んと正直になれんのだから性質タチが悪い」

それを聞いたルークは、朝が来る前に孤児院を抜け出した。

誰も自分を信じてくれない。このままではトール爺さんの言う通り、警備兵に捕まってしまう。そうなれば、きっと、乱暴な取り調べで罪を無理やり認めさせられてしまうだろう。

以前、教会を訪れた旅の者が、自分は冤罪で牢屋に入れられたと話していたのだ。その人物は、本当は無罪だったが、取り調べて酷く殴られ、罪を無理やり認めさせられたのだと言っていた。自分は無実だったのに、神はどうして救ってくれなかったのかと責めるような事を言われ、神父様を困らせていた。それをルークは聞いてしまったのである。

警備兵に捕まれば、身に覚えのない罪でも無理やり認めさせられるとルークは思い込んでしまった。

無実の罪で拷問を受けたり牢屋に入れられるのまっぴらだと思ったルークは、孤児院を抜け出し、街から逃げ出す事にしたのであった。



   * * * * *



門の近くに隠れていたルーク。やがて朝になり、街の門が開く。

※この世界では、街の外には魔獣が闊歩しており、街は高い塀で囲われた城郭都市となっている。

このタールの街も、高い壁で囲われた狭い街であり、夜の間は門が閉じられているため、街の外に出る事はできない。だが、狭い街である、街の中にいれば、いずれ捕まってしまうだろう。

門の前には、朝一番で出発したい商人のキャラバンが門が開くのをまっていた。

ルークはその商人の馬車の荷台に素早く潜り込む。

時間となり、門番の警備兵が門を開くと同時に馬車は出発した。荷台を調べられる事もなく、ルークは無事街を出る事に成功したのであった。





街からある程度離れたところでルークは荷台から飛び降りた。

馬車はルークには気づかずそのまま行ってしまう。

街道に一人取り残されるルーク。

だが、ルークは後悔はしていなかった。むしろ、これから始まる自由な世界に心を踊らせていた。

ルークの直感が囁いていたのだ、今こそ旅立つ時だと。

六歳という年齢は、一人で旅に出るのには少し早すぎる気はするが、ルークは自分の直感を信じたのだ。このまま孤児院にいてはいけないと、魂の奥から囁く何かがあったのである。



   * * * * *



翌朝になり、トール爺さんが予告通り警備兵を連れて孤児院にやってきた。

そこでルークが居ない事が発覚する。

だが、その時点では、まさかルークが孤児院を抜け出したとは思わず、孤児院の中に隠れているのだろうと皆でまずは孤児院の中と教会の中を捜しまわったのであった。だが、どこにもルークは居ない。そこでやっと、ルークが孤児院を抜け出したのではないかという話になった。

警備兵「だけど、本当にそのルークって子供が犯人なのか?」

トール爺の連れてきた警備兵は半信半疑であった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

「お前の戦い方は地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん、その正体は大陸を震撼させた伝説の暗殺者。

夏見ナイ
ファンタジー
「地味すぎる」とギルドをクビになったおっさん冒険者アラン(40)。彼はこれを機に、血塗られた過去を捨てて辺境の村で静かに暮らすことを決意する。その正体は、10年前に姿を消した伝説の暗殺者“神の影”。 もう戦いはこりごりなのだが、体に染みついた暗殺術が無意識に発動。気配だけでチンピラを黙らせ、小石で魔物を一撃で仕留める姿が「神業」だと勘違いされ、噂が噂を呼ぶ。 純粋な少女には師匠と慕われ、元騎士には神と崇められ、挙句の果てには王女や諸国の密偵まで押しかけてくる始末。本人は畑仕事に精を出したいだけなのに、彼の周りでは勝手に伝説が更新されていく! 最強の元暗殺者による、勘違いスローライフファンタジー、開幕!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...