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第1部 1章
1. 国立魔導書専門高等学校( 魔専 )
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ーー西暦2030年、7月7日。人類はこの日、初めて「魔導書」を発見した。その発見は世界中に大きく報じられ、人類の歴史的快挙となった。
のちに人類は、この日のことを"七夕の魔法"と呼ぶようになる。
***
「……ょう………しょう……っ……」
暗闇の中に少女の声が響く。またこの夢だ。知らない少女の声が、自分の名前を呼ぶ夢。一体何度目だろう。この夢を見るのは。
「……きて……」
あれ? こんどは聞き覚えのある声……。
「……起きて! 翔っ! 」
なんだか胸のあたりに重みを感じた天ノ翔はまだ眠そうな瞼をあけた。そこにはかわいらしい少女の顔があった。ツヤのあるショートヘアは、小麦畑のような、淡い茶色を帯びている。瞳は宝石をそのままはめ込んだような、エメラルドグリーン。そのあまりにも整った顔の持ち主が、家も隣で翔の幼馴染の若草翠である。
「おはよっ!よく眠れた? 」
美少女が起こしてくれる朝。
最高のモーニングコール。
これが現実だったらなぁ。そう解釈した翔は、再び夢の世界へ……
「って、いかせるか!! 」
こんどははっきりと声が聞こえた。なんだ、夢じゃなかったのかと思いつつ、体を上げようとしたが上がらない。なんで? あー、そうか。この女の子が乗っかってるからか。などと半分寝ぼけていると、
「さっさとおきなさい! 早くしないと遅刻するわよ! 」
再び聞こえた声で、翔の意識は完全に覚醒した。
「み、翠!? なにやってんの!! 」
「あんたがくるとおもって家の外で待ってたけど、全く出てくる気配がないから、起こしにきたらグッスリ寝てるし! 仕方ないから人が起こしてあげたっていうのにもーっ」
「ごめん! いやもー学校ってことすっかり忘れてたっ。あれ、星七は? 」
「星七ちゃんなら、とっくに学校に行ったわよ!」
「なんだよあいつ。起こしてくれてもいーのに」
「星七ちゃんのせいにしてないの。ほら、さっさと起きて支度して! 」
そんなこと言われてもお前が乗ってたら起きれないだろ。ん?こいつもしかして、自分の体勢がわかってないのか?
「あのー、翠さん?」
「なに?」
「起きろと言われましても貴女が重たくて起きれないのですが……」
「そんなに重たくないから!」
翠の顔がみるみるうちに、真っ赤に染まっていった。
***
夏のピークもおわり、蝉の声が少なくなった通学路を翔と翠は歩いていた。朝の日差しがキラキラと降り注ぎ、並木道を明るく照らしていた。
「だからごめんって」
「やだ。もー起こしてあげないからっ」
( 誰も起こしてくれなんて頼んでないんだけどなぁー…… )
などと思った翔だったが、口には出さなかった。
「反省してるって。帰りになんかおごるからさっ」
「えっ? ほんとに……じゃなかった、その手には引っかからないから! 」
「そーなの? せっかく翠の大好きな抹茶アイスでも買ってあげようと思ったんになー」
「ぐっ…………。」
「ほんとにいいのかなー? 」
「しょ、しょうがないなぁー。特別にケーキとアイスで許してあげてもいいけど? 」
「さりげなく注文増えてるし……」
「うるさいっ」
「そんなに食べると太るぞ? 」
「あんたに言われなくてもわかってるわよーだ」
「あーそーですか」
いつも通りの痴話喧嘩を繰り広げていると、いつの間にか学校についていた。玄関で靴を脱ぎ、上履に履き替える。
「それじゃ」
「うんっ」
そういって2人はそれぞれのクラスに向かう。
翔は低位魔導師(ブロンズ)の集まるクラスへ。
翠は高位魔導師(ゴールド)の集まるクラスへ。
***
西暦2046年、"七夕の魔法"から16年後。東京にある、一流魔導学校、"国立魔導書専門高等学校"(通称"魔専")は1学年420人、1クラス30人で生徒総数は1260人だ。この学校にはランクと呼ばれるシステムがあり、ランクごとに入れる人数が決まっていてる。
低位魔導師である "ブロンズ" 150人
中位魔導師である "シルバー" 150人
高位魔導師である "ゴールド" 90人
そして、最高位魔導師である "ダイヤ" 30人
この4つのランクで形成されており、どのクラスになるかは、1年生は入試の結果もあるが、大体が"魔導書選別"で決まる。2、3年生は定期テストや実技テストだ。なお、ランクごとに校舎も変わる。ブロンズは東校舎、シルバーは西校舎、ゴールドとダイヤが北校舎となっている。
"魔導書選別"とは、入学すると同時に、一年生が授業用とは別に、個々の魔導書を授かることのことだ。魔導書室と呼ばれる部屋へと行き、そこで、何万ものランクや種類の魔導書の選別を受けるのである。原則、そこで授かった魔導書を主軸として訓練に励み、卒業まで使うことになる。
ちなみに授業用のものとは、はるか昔に偉大なる魔導師たちに書かれた魔導書(真書)を元にして、人類が新しく開発したもの(虚書)のことだ。その中でも、低いレベルで扱いやすいものである。これは、なるべく簡単な魔導書をつかい、はやく生徒たちに魔法とういうものに慣れてもらうためである。
この虚書を開発したのが日本の政府( 魔導書機関)であり、真書の力までは及ばないものの、ある程度の魔法を使うことができる。
ただし、どの魔導書にも選ばれなかった場合は、魔法の素質がないとみなされ、退学となってしまう。
天ノ翔は、最初の魔導書選別のときに、かろうじて数本の低位虚書に選ばれ、なんとか退学はまぬがれた。しかしその結果、ブロンズに配置されてしまった。一方若草翠は、何本かの高位虚書に加え、学校に4冊しかない真書にも選ばれ、ゴールドに配置された。
同じような環境と場所で育ったのに、なぜこんなにも違うのか。少しの劣等感にさいなまれている翔であった。
のちに人類は、この日のことを"七夕の魔法"と呼ぶようになる。
***
「……ょう………しょう……っ……」
暗闇の中に少女の声が響く。またこの夢だ。知らない少女の声が、自分の名前を呼ぶ夢。一体何度目だろう。この夢を見るのは。
「……きて……」
あれ? こんどは聞き覚えのある声……。
「……起きて! 翔っ! 」
なんだか胸のあたりに重みを感じた天ノ翔はまだ眠そうな瞼をあけた。そこにはかわいらしい少女の顔があった。ツヤのあるショートヘアは、小麦畑のような、淡い茶色を帯びている。瞳は宝石をそのままはめ込んだような、エメラルドグリーン。そのあまりにも整った顔の持ち主が、家も隣で翔の幼馴染の若草翠である。
「おはよっ!よく眠れた? 」
美少女が起こしてくれる朝。
最高のモーニングコール。
これが現実だったらなぁ。そう解釈した翔は、再び夢の世界へ……
「って、いかせるか!! 」
こんどははっきりと声が聞こえた。なんだ、夢じゃなかったのかと思いつつ、体を上げようとしたが上がらない。なんで? あー、そうか。この女の子が乗っかってるからか。などと半分寝ぼけていると、
「さっさとおきなさい! 早くしないと遅刻するわよ! 」
再び聞こえた声で、翔の意識は完全に覚醒した。
「み、翠!? なにやってんの!! 」
「あんたがくるとおもって家の外で待ってたけど、全く出てくる気配がないから、起こしにきたらグッスリ寝てるし! 仕方ないから人が起こしてあげたっていうのにもーっ」
「ごめん! いやもー学校ってことすっかり忘れてたっ。あれ、星七は? 」
「星七ちゃんなら、とっくに学校に行ったわよ!」
「なんだよあいつ。起こしてくれてもいーのに」
「星七ちゃんのせいにしてないの。ほら、さっさと起きて支度して! 」
そんなこと言われてもお前が乗ってたら起きれないだろ。ん?こいつもしかして、自分の体勢がわかってないのか?
「あのー、翠さん?」
「なに?」
「起きろと言われましても貴女が重たくて起きれないのですが……」
「そんなに重たくないから!」
翠の顔がみるみるうちに、真っ赤に染まっていった。
***
夏のピークもおわり、蝉の声が少なくなった通学路を翔と翠は歩いていた。朝の日差しがキラキラと降り注ぎ、並木道を明るく照らしていた。
「だからごめんって」
「やだ。もー起こしてあげないからっ」
( 誰も起こしてくれなんて頼んでないんだけどなぁー…… )
などと思った翔だったが、口には出さなかった。
「反省してるって。帰りになんかおごるからさっ」
「えっ? ほんとに……じゃなかった、その手には引っかからないから! 」
「そーなの? せっかく翠の大好きな抹茶アイスでも買ってあげようと思ったんになー」
「ぐっ…………。」
「ほんとにいいのかなー? 」
「しょ、しょうがないなぁー。特別にケーキとアイスで許してあげてもいいけど? 」
「さりげなく注文増えてるし……」
「うるさいっ」
「そんなに食べると太るぞ? 」
「あんたに言われなくてもわかってるわよーだ」
「あーそーですか」
いつも通りの痴話喧嘩を繰り広げていると、いつの間にか学校についていた。玄関で靴を脱ぎ、上履に履き替える。
「それじゃ」
「うんっ」
そういって2人はそれぞれのクラスに向かう。
翔は低位魔導師(ブロンズ)の集まるクラスへ。
翠は高位魔導師(ゴールド)の集まるクラスへ。
***
西暦2046年、"七夕の魔法"から16年後。東京にある、一流魔導学校、"国立魔導書専門高等学校"(通称"魔専")は1学年420人、1クラス30人で生徒総数は1260人だ。この学校にはランクと呼ばれるシステムがあり、ランクごとに入れる人数が決まっていてる。
低位魔導師である "ブロンズ" 150人
中位魔導師である "シルバー" 150人
高位魔導師である "ゴールド" 90人
そして、最高位魔導師である "ダイヤ" 30人
この4つのランクで形成されており、どのクラスになるかは、1年生は入試の結果もあるが、大体が"魔導書選別"で決まる。2、3年生は定期テストや実技テストだ。なお、ランクごとに校舎も変わる。ブロンズは東校舎、シルバーは西校舎、ゴールドとダイヤが北校舎となっている。
"魔導書選別"とは、入学すると同時に、一年生が授業用とは別に、個々の魔導書を授かることのことだ。魔導書室と呼ばれる部屋へと行き、そこで、何万ものランクや種類の魔導書の選別を受けるのである。原則、そこで授かった魔導書を主軸として訓練に励み、卒業まで使うことになる。
ちなみに授業用のものとは、はるか昔に偉大なる魔導師たちに書かれた魔導書(真書)を元にして、人類が新しく開発したもの(虚書)のことだ。その中でも、低いレベルで扱いやすいものである。これは、なるべく簡単な魔導書をつかい、はやく生徒たちに魔法とういうものに慣れてもらうためである。
この虚書を開発したのが日本の政府( 魔導書機関)であり、真書の力までは及ばないものの、ある程度の魔法を使うことができる。
ただし、どの魔導書にも選ばれなかった場合は、魔法の素質がないとみなされ、退学となってしまう。
天ノ翔は、最初の魔導書選別のときに、かろうじて数本の低位虚書に選ばれ、なんとか退学はまぬがれた。しかしその結果、ブロンズに配置されてしまった。一方若草翠は、何本かの高位虚書に加え、学校に4冊しかない真書にも選ばれ、ゴールドに配置された。
同じような環境と場所で育ったのに、なぜこんなにも違うのか。少しの劣等感にさいなまれている翔であった。
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