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戦後
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「はあっ⁉︎おい、それはどういう意味だ⁉︎俺たちに危険な目にあえってことか⁉︎」
ヘカテーの唐突な指示にゼウスがすかさず意義を唱える。
せっかく生まれたヘカテーの信頼がこれで再びゼロに戻ってしまった。
『いえ、決してそういうわけではありません。私のはあくまで参考意見としてお聞き下さい。私の話を聞いてどうするかはあなた方次第です』
そう言われてしまえば、話を聞かない理由はない。
『この島にある闘技場は観客席が柱で支えられている形状をしており、下側には壁がありません。つまり、わざわざ観客席にいくというリスクを冒さなくとも私達の戦いを見ることができます』
「そこまでの話は分かった。でも、僕達がその試合を見るメリットが分からない」
『私の対戦相手であるアレスは『反逆軍』の中でも最強の実力者と言われています。先日の戦いも千里眼で見させてもらいましたが、アレスは全く本気ではありませんでした』
「ちょっと待って。まさか、暴走したヴァルカンと戦っている時もアレスは本気じゃなかったって事?」
割って入ったのはガイアだった。
しかし、ガイアがこのことを疑問に持つのは当然だろう。
他のメンバーも、口に出していないだけで、ヘカテーの話が終わってから問い詰めようと思っていただけなのだ。
『その通りです。あのアレスなら本気を出せば先日の戦いであなた方全員が死んでもおかしくありませんでした』
「あいつが手加減してたってことか⁉︎」
ゼウスはアレスに舐められていたと思い激昂する。
『いえ、舐めていたというより、戦闘を楽しみたかったのだと思います。アレスは強すぎるせいでいつも戦闘が味気ないと言っていました。アレスが好きなのはギリギリの命の取り合いというような緊迫した戦いです。しかし、アレスは強すぎるのです。そんな対戦相手が存在するわけもないのです』
五人は黙ってヘカテーの話に耳を傾ける。
アレスの昔の話がこれからの戦いに生きてくるとは思わないが、少しでも情報がほしい五人にとって、これは二度とないチャンスだったからだ。
『そして、アレスは王家の人間とならいい勝負ができるのではないかと考えました。しかし、王家の人物に一般市民があ会えるわけがありません。そこで、どうしても王家の人間と戦いたかったアレスは『反逆軍』に入ったのです』
「たったそれだけの理由であいつはこんなふざけた組織に入ったってのか⁉︎ふざけんな⁉︎」
怒りを堪えきれなかったゼウスが空に向かって怒鳴りつける。
「俺たちはあいつが一番の敵だと思ってたんだぞ!本気で倒さなきゃいけないと思ってたんだぞ!なのに向こうは俺たちの事をただのおもちゃとしか思ってねえのかよ⁉︎」
「落ち着け。ここで大声を出せば敵に見つかる。ここが敵の本拠地だという事を忘れたらダメだ」
「つまり、アレスを倒すためにあなたはアレスの全力を私達に見せてくれるってことでいいのかしら?」
『はい、今の話をまとめるとそうなります』
ヘカテーはもう一つだけ重要な情報を伝える。
『この決闘は実は儀式の様なものなのです。罪を犯した人間が本当に悪人か善人かを裁く、いわば裁判の場なのです。もし裁かれる人間、この場合は私が善人ならば、神の加護により敗北する事はないという考え方です』
「それになんの意味があるの?」
『裁判には立会人がが必ず必要です。この場合の立会人は私とアレス以外の隊長です。つまり、闘技場に全ての隊長が揃うのです。あなた方ならば、ある程度ならば見ただけでその人物の実力が分かるはずです。正直、隊長同士はあまり関わりがないので私も他の隊長の実力は分からないのでお教えする事はできません。私がお伝えできる情報は以上です』
そしてヘカテーからの通信は途絶えた。
「さて、これからどうする?決闘を見に行く?それとも逃げる?」
今度は誰も口を開かなかった。
それぞれが自分の考えを慎重に整理しているのだ。
「私は闘技場に行くべきだと思うわ」
最初に沈黙を破ったのはテティスだ。
誰もが誰かしらはそう言うと思ってはいたのだが、それがテティスであると言うことには全員が驚いた。
誰よりも知恵が回り、現実的なテティス。
そんな彼女がこんな危険な事を進んで言うことなど滅多にない。
しかし、それ故にそれなりの理由があるはずだと全員が考え、静かにテティスの次の言葉を待つ。
「考えてみて。私達の勝利条件は一体何?私達に迫っているこの危機はどうやったら終わるの?私達はいつまで逃げ続けるの?」
テティスの珍しいきつめの口調に全員が圧倒された。
「私達が敵を倒し切るまでこの危機は終わらないわ。逃げるだけじゃいつかは必ず限界が来るはずよ。それに、逃げても逃げても倒さない限り敵はどこまでも必ず追ってくるわ。私達はいつかどこかで必ず敵を倒さなきゃいけない。なら、敵の戦力を知っておくのは有効よ」
テティスの熱弁に全員が心を打たれた。
確かによく考えればテティスの言う通りなのだ。
最初はずっと逃げていた。
しかし、逃げるだけでは何も解決しない。
むしろ、時間が経てば経つほど逃げるという選択は五人にとって不利に働く。
その事は五人は全員分かっていた。
しかし、敢えて考えない様にしていたのだ。
今の自分達には敵には勝てない。
それが分かっていたからだ。
誰しも辛い現実からは目を逸らしたくなる。
しかし、テティスは運悪く敵の拠点に入ってしまったことで目が覚めたのだ。
「僕も賛成だよ。いつかは絶対戦うことになるのなら、敵の戦力は知るべきだと思う」
「ヴァルカン……」
テティスは賛同を得られたのが嬉しいのか、真剣な表情がほんの少しだけ綻んだ。
「うん、テティスの言う通りだよ。僕ももう現実逃避はやめるよ」
「ノトスが言うなら俺が反対する理由はねえな」
「四人が行くなら当然私も行くよ。私達はずっと一緒でしょ?」
テティスの案は満場一致で賛成を得、すぐに実行されることとなった。
ヘカテーの唐突な指示にゼウスがすかさず意義を唱える。
せっかく生まれたヘカテーの信頼がこれで再びゼロに戻ってしまった。
『いえ、決してそういうわけではありません。私のはあくまで参考意見としてお聞き下さい。私の話を聞いてどうするかはあなた方次第です』
そう言われてしまえば、話を聞かない理由はない。
『この島にある闘技場は観客席が柱で支えられている形状をしており、下側には壁がありません。つまり、わざわざ観客席にいくというリスクを冒さなくとも私達の戦いを見ることができます』
「そこまでの話は分かった。でも、僕達がその試合を見るメリットが分からない」
『私の対戦相手であるアレスは『反逆軍』の中でも最強の実力者と言われています。先日の戦いも千里眼で見させてもらいましたが、アレスは全く本気ではありませんでした』
「ちょっと待って。まさか、暴走したヴァルカンと戦っている時もアレスは本気じゃなかったって事?」
割って入ったのはガイアだった。
しかし、ガイアがこのことを疑問に持つのは当然だろう。
他のメンバーも、口に出していないだけで、ヘカテーの話が終わってから問い詰めようと思っていただけなのだ。
『その通りです。あのアレスなら本気を出せば先日の戦いであなた方全員が死んでもおかしくありませんでした』
「あいつが手加減してたってことか⁉︎」
ゼウスはアレスに舐められていたと思い激昂する。
『いえ、舐めていたというより、戦闘を楽しみたかったのだと思います。アレスは強すぎるせいでいつも戦闘が味気ないと言っていました。アレスが好きなのはギリギリの命の取り合いというような緊迫した戦いです。しかし、アレスは強すぎるのです。そんな対戦相手が存在するわけもないのです』
五人は黙ってヘカテーの話に耳を傾ける。
アレスの昔の話がこれからの戦いに生きてくるとは思わないが、少しでも情報がほしい五人にとって、これは二度とないチャンスだったからだ。
『そして、アレスは王家の人間とならいい勝負ができるのではないかと考えました。しかし、王家の人物に一般市民があ会えるわけがありません。そこで、どうしても王家の人間と戦いたかったアレスは『反逆軍』に入ったのです』
「たったそれだけの理由であいつはこんなふざけた組織に入ったってのか⁉︎ふざけんな⁉︎」
怒りを堪えきれなかったゼウスが空に向かって怒鳴りつける。
「俺たちはあいつが一番の敵だと思ってたんだぞ!本気で倒さなきゃいけないと思ってたんだぞ!なのに向こうは俺たちの事をただのおもちゃとしか思ってねえのかよ⁉︎」
「落ち着け。ここで大声を出せば敵に見つかる。ここが敵の本拠地だという事を忘れたらダメだ」
「つまり、アレスを倒すためにあなたはアレスの全力を私達に見せてくれるってことでいいのかしら?」
『はい、今の話をまとめるとそうなります』
ヘカテーはもう一つだけ重要な情報を伝える。
『この決闘は実は儀式の様なものなのです。罪を犯した人間が本当に悪人か善人かを裁く、いわば裁判の場なのです。もし裁かれる人間、この場合は私が善人ならば、神の加護により敗北する事はないという考え方です』
「それになんの意味があるの?」
『裁判には立会人がが必ず必要です。この場合の立会人は私とアレス以外の隊長です。つまり、闘技場に全ての隊長が揃うのです。あなた方ならば、ある程度ならば見ただけでその人物の実力が分かるはずです。正直、隊長同士はあまり関わりがないので私も他の隊長の実力は分からないのでお教えする事はできません。私がお伝えできる情報は以上です』
そしてヘカテーからの通信は途絶えた。
「さて、これからどうする?決闘を見に行く?それとも逃げる?」
今度は誰も口を開かなかった。
それぞれが自分の考えを慎重に整理しているのだ。
「私は闘技場に行くべきだと思うわ」
最初に沈黙を破ったのはテティスだ。
誰もが誰かしらはそう言うと思ってはいたのだが、それがテティスであると言うことには全員が驚いた。
誰よりも知恵が回り、現実的なテティス。
そんな彼女がこんな危険な事を進んで言うことなど滅多にない。
しかし、それ故にそれなりの理由があるはずだと全員が考え、静かにテティスの次の言葉を待つ。
「考えてみて。私達の勝利条件は一体何?私達に迫っているこの危機はどうやったら終わるの?私達はいつまで逃げ続けるの?」
テティスの珍しいきつめの口調に全員が圧倒された。
「私達が敵を倒し切るまでこの危機は終わらないわ。逃げるだけじゃいつかは必ず限界が来るはずよ。それに、逃げても逃げても倒さない限り敵はどこまでも必ず追ってくるわ。私達はいつかどこかで必ず敵を倒さなきゃいけない。なら、敵の戦力を知っておくのは有効よ」
テティスの熱弁に全員が心を打たれた。
確かによく考えればテティスの言う通りなのだ。
最初はずっと逃げていた。
しかし、逃げるだけでは何も解決しない。
むしろ、時間が経てば経つほど逃げるという選択は五人にとって不利に働く。
その事は五人は全員分かっていた。
しかし、敢えて考えない様にしていたのだ。
今の自分達には敵には勝てない。
それが分かっていたからだ。
誰しも辛い現実からは目を逸らしたくなる。
しかし、テティスは運悪く敵の拠点に入ってしまったことで目が覚めたのだ。
「僕も賛成だよ。いつかは絶対戦うことになるのなら、敵の戦力は知るべきだと思う」
「ヴァルカン……」
テティスは賛同を得られたのが嬉しいのか、真剣な表情がほんの少しだけ綻んだ。
「うん、テティスの言う通りだよ。僕ももう現実逃避はやめるよ」
「ノトスが言うなら俺が反対する理由はねえな」
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