龍の王国

蒼井龍

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全面戦争

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「はあ…はあ…どうにかして…逃げ切らねえとな…」

 ゼウスは痛めた足を引きずりながら狭い路地を歩いていた。

「運が良かったぜ…本当なら絶対死んでたからな…」

 ついさっきまでゼウスはアレスと戦い、完膚なきまでに負けた。
 しかし、とどめを刺される直前、偶然近くの建物が倒壊した。
 ゼウスはその隙を突いて逃げ出してきたのだ。
 とはいえ、安心はできない。
 アレスはゼウスを探しているはずだ。
 痕跡を残せばすぐに見つかってしまう。
 だからゼウスは偽の痕跡を作ったりしながら、出来るだけ追っ手を撹乱しようとしている。

「とはいえ…こんな子供騙しがいつまで通じるか…」

 アレスの持つ強みは圧倒的な戦闘能力だけでない。
 ああ見えて、アレスは実は頭が切れる。
 少なくともゼウスはそう考えている。
 子供の小細工など簡単に看破されてしまうだろう。

「まさか…こんな事になるとはな…」

 今のゼウスは珍しく弱気になってしまっていた。
 ゼウスの中には、王家の四人を絶対に守るという気概と信念があった。
 しかし、アレスの強さを見てしまうと、ゼウスの目標は達成不可能なものに思えてしまうのだ。
 『反逆軍レジスタンス』には隊長と呼ばれる強者が四人存在する。
 つまり、あのレベルの強さを持つ敵が後三人もいる。
 隊長の一人であるヘカテーが本当にこちらの味方だとしても、一人では全く歯が立たない様な化け物がまだいると考えると、勝機はないように思えてしまう。
 そんな事を考えながら歩いていたゼウスは、不意に足を止めた。
 
「…早かったな…」

 ゼウスの目の前には、さっきと変わらずに腕を組んだアレスが立っていた。

「今度は逃がさんぞ」

 そう言った瞬間、アレスはゼウスに向かって蹴りを繰り出した。
 ゼウスはそれを間一髪で避ける。
 
「あれだけの攻撃を食らって尚その速さで動くか。中々やるな。そこだけは認めてやる。だが、それでもまだ貴様は弱い」

 アレスはさっきとは違う方の足でゼウスの体を大きく蹴り上げる。

「ぐっ…」

 アレスは攻撃の手を緩めない。
 大きく飛び上がり、宙に浮いたゼウスの体を地面に思いっきり叩きつける。

「がっ…はっ…」

「ほう…まだ息があるのか。死んでてもおかしくないのだが…タフだな。もし貴様が王家じゃなければ、いいライバルになれたかもしれんな」

 ゼウスの意識は既に朦朧としており、アレスの言葉は届いていない。

「だが、王家の者は例外なく殺せと言われている。残念だが、貴様はここで死ぬ。さらばだ」

 そう言ってアレスはとどめの一撃を放とうとする。
 しかし、その直前、強風が巻き上がり、ゼウスの体が屋根の上まで上げられた。
 
「よしっ…間に合った!」

 歓喜の声を上げたのはノトスだった。
 
「ゼウス!無事!?」

 そう叫ぶのはガイアだ。

「お前ら…何で…ここが…」

「さっきとんでもない爆発音が聞こえたからね…もしかしたらと思って様子を見に来たんだよ」

「とにかく、ゼウスが見つかって良かった…」

「貴様らも王家の人間だな?」

 ここまでのやりとりを見ていたアレスがようやく口を開いた。

「逃げ…ろ…そいつは…やべえ……」

「逃がさんぞ」

 アレスはすぐに攻撃を開始した。
 ガイアが壁を生やして応戦する。
 しかし、アレスはその壁をいとも簡単に砕いてみせた。

「嘘でしょっ」

 砕かれた壁の破片がガイアに命中する。

「ぐっ…」

「死ね」

「させないよ!」

 アレスの追撃がガイアに届く直前、ノトスがアレスの後ろから斬りかかる。

「遅い」

 アレスは後ろからの攻撃にノールックで対応する。
 ノトスはアレスのカウンターをまともに受けてしまう。

「がっ…」

 動けなくなった三人の姿を見ながらアレスは呟く。

「弱いな…王家の者と戦えば少しは楽しめると思ったのだが……やはり子供である以上はこの程度か……」

 そしてアレスは三人を殺そうと拳を振り上げた。
 しかし、その拳が振り下ろされることは無かった。
 アレスの意識は突如発生した巨大な火柱に奪われていた。
 
「何だあれは…?」

 火柱は一瞬で消え去った。
 しかし、その直後、右半身と剣に炎を纏った男がアレスの目の前に現れた。

「ナ…カマ…タス…ケル…!」

 ご乱心のヴァルカンの登場である。





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