龍の王国

蒼井龍

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反逆

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 ゼウスとガイアの二人は街の大通りを歩いていた。
 フードを被り、顔を隠す事は忘れない。

「しっかし、テティスは本当に頭いいよね。羨ましいよ」

「てめえは馬鹿か。でっかい声で名前呼んでじゃねえよ。バレるだろうが」

 そう言いながらゼウスは周囲を伺うようにする。
 いつ攻撃されてもいいように、短剣をすぐに抜けるように準備している。

「てめえは今は戦えねえんだから足引っ張るんじゃねえ」

 そう、ガイアは現在はあの大剣を所持してはいなかった。
 さっきの会議でテティスが提案した作戦は、かなり合理的なものだった。
 まず、チームの機動力を上げるために、五人を二人のグループと三人のグループに分ける。
 そして、比較的目立たない武器を保有するゼウスとノトスを、その二つのグループに一人ずつ入れて行動するというのがテティスの作戦だった。
 これなら人目につく事はない。
 しかし、これではいざ戦闘になってしまった時のリスクが高いので、最低限のリスクケアとして、二つのグループの行動範囲を制限した。
 そうする事で、片方が襲われたとしても、もう片方のグループが助太刀出来るという算段である。
 連絡手段はないが、戦闘になった時は出来るだけ派手な戦い方をして戦闘をアピールするという取り決めもされたし、戻る時間も決めてある。
 まさに完璧と言える作戦だ。
 戦闘面においてゼウスとノトスの負担が大きくなってしまうのは仕方ないと割り切ればの話だが……

「ったく…にしても、本当にこんなんで情報が手に入るのかよ…」

「まあ、『反逆軍レジスタンス』としても、反逆開始を宣言して国民に王家の信頼を失わせる事が出来るから、そうしない手はないと思うよ」

 確かにそれはガイアの言う通りだ。
 しかし、それはあくまでただの憶測である。
 出来れば真実と確定させる事の出来る情報が欲しいとこだが、中々上手くいかない。
 そもそもこの二人は戦闘方面に力が入っているので、この手の事は苦手なのだ。
 どちらかといえば、テティスやノトスの方が向いている仕事である。

「ちっ……ノトスは無理だが、テティスを連れてくるべきだったな…」

 ゼウスは今更ながら、少しだけ後悔した。
 一方その頃、ノトス、ヴァルカン、テティスの三人は、人通りの少ない裏路地を歩いていた。
 用心には用心を重ねた方が良いと言うのがテティスの意見だったからだ。
 策士のような立ち位置にいる彼女の意見は至極正しいものだった。
 しかし、反対意見も出た。

「ちょっと待って。今回、僕達が街に来たのは敵の情報を探るためでしょ?人通りの少ない場所じゃ情報も手に入らないんじゃ…」

 普段控えめなヴァルカンがこれだけはっきりと反対意見を表明するのは珍しい。
 しかし、テティスにはテティスの考えがある。
 その考えとはこうだ。
 大通りは確かに発展しており、新しい情報が入手する事が出来る。
 しかし、その情報は隠蔽、または操作されている可能性が高く、信憑性に欠ける。
 そこでテティスが目を付けたのが裏取引だ。
 裏取引を行う者の中には、情報を専門として売買する者もいる。
 闇の取引現場なら、お金さえ積めば欲しいものは手に入る。
 そう考え、裏取引が行われている可能性の高い路地への潜入を提案したのだった。
 テティスの読みはしっかりと当たり、情報屋を見つける事に成功した。
 その情報屋はボロボロのコートを羽織ったいかにも怪しげな風貌をした男だった。

「『反逆軍レジスタンス』について知りたい事がある。それと、私達の事を誰にも話さないと約束してくれるのなら、口止め料としてお金を上積みするわ」

 情報屋の目がキラーンと光る。
 お金という言葉に反応したのだろう。

「ええよろしいでしょう。しかし、あっしの情報も口止め料も高いですぞお。あなた方の様なお若い者に払えますかなあ?」

「その事については心配いらないわ。これで足りるかしら?」

 テティスはそういうと、懐から袋を取り出した。
 その中には金貨がぎっしりと詰まっている。
 その気になれば家を買う事だって出来る程の金額だ。
 流石にこれでは文句は言えないだろう。

「報酬は確かに頂きました。こちらとしては文句はないですぞ。それで、どんな情報をお望みですかな?」

「『反逆軍レジスタンス』の戦力と目的が知りたい」

「成程…つまりあなた方は王家の人間ということですかな?」

 これには流石に驚きを隠せなかった。
 ノトスは隠し持っている双剣に手を伸ばす。

「安心してくれて結構ですぞ。お金をもらった以上は正当な取引ですからな。もちろん、あなた方の事を誰かに言ったりはしませんぞ」

 そして男はテティスの質問にようやく答える。

反逆軍レジスタンスは一番隊から四番隊の四つの隊からなる組織ですな。一つの隊の人数は大体百人程だったと記憶しておりますぞ。そして、各隊の隊長は一人一人が別格の強さを持つとも聞いておりますな」

 『別格の強さ』と聞いて三人の体に緊張が走る。
 男は更に話を続ける。

「残念ながら、その隊長達がどれ程の強さかは分からないですな。しかし、噂によれば神器を使う者もおるらしいですぞ」

 神器は王家の当主が持つ物以外にもいくつか存在する。
 しかし、どんな神器が存在するかまでは分かっていない。

「ちなみに、こっちの世界ではあの組織の連中は思惑がバラバラな事でも有名ですぞ」

 それは、テティス達にとってはとてもいい情報だった。
 敵の思惑が一致してないと言うなら、そこを付けば内紛を発生させたりする事が出来るかもしれない。

「と、まああっしが知ってる事はこれくらいですかなあ…元々あの組織は分からないことも多いのですな。あれだけの報酬に見合わない些細な情報で申し訳ないとは思うのですな」

 確かに、得られた情報は多いとは言えない。
 しかし、今はどんな些細な情報でも非常に助かるというのが本音だった。
 この情報は出来るだけ早く共有するべきだ。
 幸いにも、ちょうど森へと戻る時間なので、話がいいタイミングで終わったのは助かった。

「色々教えてくれて助かったわ、ありがとう。それじゃあ、私達はこれで失礼するわね」
 
「いえいえ、こちらこそ大金をくれた事に感謝するんですな」

 テティス達はその言葉を背中に受けながらその場を去った。
 何事もなく二つのグループが合流し、再び五人が揃ったのはここから十分後の話となる。
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