龍の王国

蒼井龍

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反逆

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 「みんな逃げるよ!ついてきて!」

 ガイアはそう言うと、たった今受け継いだばかりの神器、大剣を思いっきり振り下ろした。
 すると、地面に円状の穴が空いた。

「早く!」

 そう言ってガイアは穴の中へと入っていった。
 敵の軍が王家の当主を逃さないとばかりに追撃をしてくる。

「矢は僕がなんとかする!早く穴の中に!」

 ノトスは神器である双剣を抜き、血の力を行使する。
 彼は風龍の末裔で、風を操る事ができる。
 そして、当然の如く、弓は風に弱い。
 矢が吹き飛ばされ、敵が再び矢を放つ前に、王家の当主は全員穴の中へと避難した。
 穴は奥深くまで続いており、一番下には、広いドームの様な空間が広がっていた。
 ガイアの力で作ったトンネルだ。
 普通、これだけ地下に居れば、気温はかなり高くなり、息苦しくなるものだが、ドームの中は意外と快適だった。
 当然、これには理由がある。
 お察しの通り龍の力だ。
 気温は、テティスが地下水を操って適切な気温を保っているし、空気はノトスの力で供給している。
 咄嗟の出来事にこれだけの行動力と判断力があるのは凄まじい事で、時と場合が違えば、自分達の力を喜べていたはずだ。
 しかし、当然、喜ぶことは出来ない。
 
「あいつら……ぜってえ許さねえ…」

 ゼウスがそんな風に毒付いた。
 他の四人も、口にこそ出さないものの、気持ちは同じだった。
 父や母を殺された恨みは、全員が持っている感情だ。

「…これからどうするの…?」

「う~ん…難しい質問だね…」

「…このまま地下でやり過ごす事は出来ないかな…」

「…出来るわけねえだろ…」

 出来るものならそれが最善だが、ゼウスの言う通りそれは出来ない。
 何故なら、地下には食料がない。
 二日以上地下に閉じ籠るのは不可能だ。
 それに、地上に開けた穴は埋めれない。
 まだ様子見しているのか、今は大丈夫だが、『反逆軍レジスタンス』が攻めてくる可能性もある。

「…じゃあ…ガイアの力でこの地下を迷路みたいにするのは…」

「…私の力じゃそれは無理だね…」

 ガイアはテティスの提案を言い切る前に却下した。
 ガイアの持つ力を使えば、あくまで理論的にそれは可能である。
 しかし、それにはかなり高度な技術が要求される。
 ただでさえ大きく、扱いづらいガイアの神器では、その調整は難しい。
 それに、ガイア自身がまだ力を使いこなせていないのも、ここではマイナスに作用する。

「…手詰まりかよ…一体どうすんだよ…」

 ゼウスが溜息混じりに言う。

「…なら、『龍の森』に行くのはどうかな…?」

 長い沈黙の末、ノトスがいかにも渋々といった面持ちで提案した。
 『龍の森』というのは、決して踏み込んでは行けない森と言われている森だ。
 なんでも、その昔、世界を創ったとされる龍がその森に降り立ち、眠りについたという伝説がある。
 迂闊に踏み込めば、龍の眠りを妨げ、怒りを買うと言われているので、国民なら近付くことさえしない森だ。
 そこにいけば、少しの間だけなら安全が保証されるだろう。
 伝説が真にしろ嘘にしろ、『反逆軍レジスタンス』といえど、すぐには森には入れないはずだ。
 それくらい、『龍の森』の伝説はこの国に浸透している。
 だが、当然この行為はリスキーな面もある。
 何がリスキーかというと、この五人が森に足を踏み入れた時に、龍の怒りが発生しないという保証がない事だ。
 下手をすれば、生き残るための行為が、死に繋がることになりかねない。
 しかし、他にいい案も思い浮かばず、ノトスの提案は受け入れられた。

「じゃあ、決まりだね。そうと決まればすぐに行くよ」

 そう言ってガイアはしばらくの間トンネルを掘り続けた。
 そして、歩き続けて三十分程経ち、ようやく森の真下にある地下に到達した。
 ガイアは気を引き締めた様に大剣を振るった。
 すると、地上に大穴が開き、日の光を確認できた。
 
「ノトス、お願い」
 
 ノトスは黙って頷き、双剣を手に取る。
 その直後、五人の体が上昇気流によって持ち上げられた。
 すぐに地上へと到達した。
 五人は怯えたようにそっと森の地面に足を付けた。
 この選択が正しいのかどうかは誰にも分からない。
 ただ、一つだけ言えることは、王家の当主たるこの五人が決断し、実行したこの行為は、今後の運命を大きく左右するという事だけである。
 
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