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第四話
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翌日の休憩の折。
「いい加減許してくれよ……」
草原の上に敷かれた敷物に膝をついて、デインは情けなく許しを乞う。その鼻先に突き付けられているのは、馬を操るための鞭。いざという時のために携帯しているだけで滅多に出番のないそれが、今はデインを操るのに活躍していた。
広い敷物には、カチュアの他にロアルとブリュール子爵が座っていて、カチュアやデインに給仕しながら自分たちも昼食を食べている。ただ、自分たちの主人とも言えるデインが敷物に座らせてもらえないでいるのが気になって、落ち着かない様子だ。
「悪かったって。ちょっと寝ぼけてただけなんだ」
“あれのどこがちょっと!?”と言い返したいのを、カチュアはぐっとこらえる。
今朝、誰かに揺り起こされる感じがして深い眠りから目覚めると、デインの手がカチュアの体をまさぐり、あろうことか、あろうことか……。
再び頭に血が昇りそうになって、カチュアは慌てて回想を振り払う。
すぐにベッドから蹴り落としたのでそれ以上のことは起きなかったけれど、あの時のショックはまだ引きずっている。
そういうことだから、まだデインを許す気にはなれない。デインが敷物の上に座ろうとするたびに鞭を手にとって鼻先に突き付けて、もう何度それを繰り返したことか。
見かねたロアルが、遠慮がちに仲裁に入ってきた。
「カチュアさん、そろそろ許してあげたほうがいいんじゃないでしょうか? 午後も馬を走らせなければならないし、デイン君も少しは足を休めないと……」
ロアルは旅の世話人として同行するよう、ケヴィンに言い遣ってきたのだという。それを聞いたカチュアは“国王陛下だけでなくその側近まで巻き込んだのか……”とげんなりしたが、ロアルが気を利かせて乗馬用のドレスを調達してきてくれたので、昨日よりは幾分道行きが楽だ。……昨晩のことさえなければ、もっと気楽だったろうけど。
ロアルの言葉に便乗して、ブリュール子爵も取りなそうとする。
「そうですそうです。とっとと用事を終わらせて、デイン君から解放されたいんでしょ?」
ロアルは貴族の血を引いていても平民だからわかるけど、ブリュール子爵は生粋の貴族でしかも爵位も継いでいるというのに、デインだけでなくカチュアに対してもちょっとへりくだった話し方をする。
理由は、朝食の席を一緒に囲んだ際にわかった(昨夜の夕食の際はそれどころじゃなかった)。
もう九年以上前のことになる。隣国への侵略の可否について政争が巻き起こっていた時、ブリュール子爵は爵位を継いだばかりで右も左もわからない状態だった。どちらにつくべきか迷っているうちに前国王が自らが隣国へ赴き兵を率いることに決定し、態度を確かにしなかった子爵はどちらの陣営とも縁が切れてしまった。そのため官職を干され、貴族社会で肩身の狭い思いをすることに。
それで四年前、今度こそ情勢に乗り遅れまいと愛妾だったシュエラに贈り物をして取り入ろうとしたり(シュエラに通用せず、すごすごと引き下がった)、押し付けて立ち去ったり(ケヴィンに没収されてしまった)した。それらが功を奏さず諦めていたところ、デインから声がかかったのだという。
──いやさ、姉ちゃんやカチュアがすごい奴がいるって話してたの思い出して。近衛隊士たちよりすばしっこいんだってね。仕事が欲しいならオレの従者やんない?
身分が下とはいえ、自分の父親に近い年齢の男性に、デインはずいぶん失礼なことを言ったものだ。けれどブリュール子爵は、一も二もなくその話に飛びついた。爵位を無事後継に譲り渡すために何としても官職が欲しかったし、そのきっかけになるかもしれない話を逃すわけにはいかない。それに窮屈な貴族社会にうんざりしていた。仕事を理由に王都から遠ざかれるのも願ったりだった。
そんな半ばやけくそな気持ちで引き受けた仕事だったのに、思わぬ恩恵にあずかったのだという。
こき使われるし振り回されるしで大変だけど、デインとの旅は楽しいし。極秘任務だから吹聴して回れないが、人助けをして回れるのは誇らしい気分だった。国王からはデインと同様極秘調査官に任命されるし、表向きの官職も与えられた。今まで貴族社会で肩身の狭い思いをしていた家族も、貴族としての面目が立つようになった。
それもこれも、シュエラとカチュアがデインに話してくれたからだと言う。が、カチュアにしてみれば、失礼にも子爵のことを笑いの種にしていただけだ。だが、それを聞いても子爵にとってカチュアは恩人で、デインは公私ともに相棒と呼べる存在なのだという。
そんなわけで、デインの婚約者であるカチュア(子爵は、婚約が解消されたと思ってないらしい)は相棒の妻としての敬意を払われている。
今朝、デインが離れている最中に、ブリュール子爵はカチュアに言った。
──騙されたと思って、デイン君についていって言い分を聞いてあげてください。
──騙されたと思うには、ちょっとスケールが大きすぎると思うんですけど。
──ははは、確かに。いきなり騎馬でも一週間もかかる所に連れていくっていうのは、スケールが大きいですよねぇ。でも、デイン君らしくありませんか? 彼にはスケールという概念がないような気がします。一番いいと思ったことを、ただ実行に移していくだけなんだと。
子爵の言う通りだとカチュアも思った。デインはやることはめちゃくちゃだけれど、いつも最善の結果を出す。フィーナの結婚問題の時もそうだ(カチュアも協力したけれど、発案はデイン)。大きな問題を引き起こしたけれど、そのおかげで国王やヘリオットをその問題に関わらせることになって、彼らの力を借りることでフィーナは反対していた父親にも祝福してもらえる幸せな結婚をした。極秘調査官としての職務を逸脱した働きも、“それってマズいんじゃないの?”と思いながらも評価している。
でも今回に限っては、デインも結果を出すのは無理だ。
“結果”が出せるものなら、こんなことをしなくてもとっくに出ているはずだったのだから。
カチュアは鞭を引っ込めて、誰に言うともなしに話し出す。
「……あたし用の馬を用意して。それと宿の部屋はできるだけ別に。少なくとも同じベッドでは寝ない。その代り、こっそり逃げ出さないって約束する。逃げ出したところで、どうせ連れ戻そうとするだけでしょ? とっとと行って、とっとと終わらせてあげるわ」
それが許しだと理解したデインは、ぱあっと明るい表情になって、いそいそと敷物に上がる。
「カチュア用の馬と、ベッドは別々だな!」
敷物の上にあぐらをかいたデインは、昨夜泊まった宿で用意してもらったサンドイッチを豪快に食べ出す。その姿はまるで、カチュアは最終的に承諾すると思っているかのようだ。
それが面白くなくて、カチュアは次第に無口になっていった。
正直、心は揺れている。
もう一つの心は、今の内に折れておきなさいとささやいてくる。デインがまだカチュアを求めているうちに、承諾の返事をしてしまいなさいと。
でも、理性はそれを押しとどめる。
欲しい答えが得られないから、デインのことは信用できない。そんなで結婚に踏み切ったら、破綻は目に見えている。
乗馬用のドレスはロアルが調達してくれたけれど、カチュアの逃亡を恐れたデインが馬を用意してくれなかったので、誰かの馬に同乗しなくてはならない。ひょろっこく非力なロアルではカチュアを支えきれないだろうし、身長が低いブリュール子爵ではカチュアを前に乗せられない。乗馬できるカチュアであっても、半日も騎手の後ろにしがみついていたら、何かの拍子に転げ落ちてしまわないとも限らない。
そういうわけで、午後もデインの馬に乗らざるを得なかったりする。
今朝の事を思うと、デインと離れられない状況には抵抗があった。抱きしめられるわけではなくてもデインの腕に囲われるのは、胸が張り裂けそうになるくらいどきどきするし。今度こそ何かされるのではと気が気でならない。そのせいで午前は緊張しっぱなしで、昼休憩を挟んだものの緊張疲れはまだ残っている。
馬具のチェックを終えたデインは、カチュアの葛藤に気付いたらしく、苦笑しながら声をかけてきた。
「馬の上じゃ何もできやしないって」
その通りだとカチュアも思うが、緊張してしまうのは止められない。けれど乗らないわけにはいかないから、デインが引いてきた馬の背に、彼の手を借りて先に乗った。カチュアの後ろに、デインはひらりと乗る。
恥ずかしさを紛らせるためもあって、カチュアは前を向いたままぼそっと言った。
「領民のみなさんは、次期領主の妻が平民だと聞かされたらがっかりするでしょうね」
「いや? そんなことはないよ。それよりオレが領主になるって聞かされるほうががっかりするんじゃないかな」
「そうかも」
込み上げてきた笑いのおかげで緊張がほぐれてくると、デインは馬を歩かせて街道に戻り始める。馬の背の動きに合わせて体を前後に揺らしていると、耳元で少し不機嫌な声がした。
「それに、カチュアは自分のことを見くびり過ぎだ」
「え?」
カチュアは思わず振り返ろうとしたけれど、デインが手綱を振って馬を走らせ始めるので、慌てて前を向き直す。
「所領に着いたらとくと教えてやるよ」
言うなり、さらに速度を上げる。
デインはこの話題についてはそれっきり口を閉ざし、ハーネット伯爵領に到着するまで、カチュアに問われても答えようとはしなかった。
「いい加減許してくれよ……」
草原の上に敷かれた敷物に膝をついて、デインは情けなく許しを乞う。その鼻先に突き付けられているのは、馬を操るための鞭。いざという時のために携帯しているだけで滅多に出番のないそれが、今はデインを操るのに活躍していた。
広い敷物には、カチュアの他にロアルとブリュール子爵が座っていて、カチュアやデインに給仕しながら自分たちも昼食を食べている。ただ、自分たちの主人とも言えるデインが敷物に座らせてもらえないでいるのが気になって、落ち着かない様子だ。
「悪かったって。ちょっと寝ぼけてただけなんだ」
“あれのどこがちょっと!?”と言い返したいのを、カチュアはぐっとこらえる。
今朝、誰かに揺り起こされる感じがして深い眠りから目覚めると、デインの手がカチュアの体をまさぐり、あろうことか、あろうことか……。
再び頭に血が昇りそうになって、カチュアは慌てて回想を振り払う。
すぐにベッドから蹴り落としたのでそれ以上のことは起きなかったけれど、あの時のショックはまだ引きずっている。
そういうことだから、まだデインを許す気にはなれない。デインが敷物の上に座ろうとするたびに鞭を手にとって鼻先に突き付けて、もう何度それを繰り返したことか。
見かねたロアルが、遠慮がちに仲裁に入ってきた。
「カチュアさん、そろそろ許してあげたほうがいいんじゃないでしょうか? 午後も馬を走らせなければならないし、デイン君も少しは足を休めないと……」
ロアルは旅の世話人として同行するよう、ケヴィンに言い遣ってきたのだという。それを聞いたカチュアは“国王陛下だけでなくその側近まで巻き込んだのか……”とげんなりしたが、ロアルが気を利かせて乗馬用のドレスを調達してきてくれたので、昨日よりは幾分道行きが楽だ。……昨晩のことさえなければ、もっと気楽だったろうけど。
ロアルの言葉に便乗して、ブリュール子爵も取りなそうとする。
「そうですそうです。とっとと用事を終わらせて、デイン君から解放されたいんでしょ?」
ロアルは貴族の血を引いていても平民だからわかるけど、ブリュール子爵は生粋の貴族でしかも爵位も継いでいるというのに、デインだけでなくカチュアに対してもちょっとへりくだった話し方をする。
理由は、朝食の席を一緒に囲んだ際にわかった(昨夜の夕食の際はそれどころじゃなかった)。
もう九年以上前のことになる。隣国への侵略の可否について政争が巻き起こっていた時、ブリュール子爵は爵位を継いだばかりで右も左もわからない状態だった。どちらにつくべきか迷っているうちに前国王が自らが隣国へ赴き兵を率いることに決定し、態度を確かにしなかった子爵はどちらの陣営とも縁が切れてしまった。そのため官職を干され、貴族社会で肩身の狭い思いをすることに。
それで四年前、今度こそ情勢に乗り遅れまいと愛妾だったシュエラに贈り物をして取り入ろうとしたり(シュエラに通用せず、すごすごと引き下がった)、押し付けて立ち去ったり(ケヴィンに没収されてしまった)した。それらが功を奏さず諦めていたところ、デインから声がかかったのだという。
──いやさ、姉ちゃんやカチュアがすごい奴がいるって話してたの思い出して。近衛隊士たちよりすばしっこいんだってね。仕事が欲しいならオレの従者やんない?
身分が下とはいえ、自分の父親に近い年齢の男性に、デインはずいぶん失礼なことを言ったものだ。けれどブリュール子爵は、一も二もなくその話に飛びついた。爵位を無事後継に譲り渡すために何としても官職が欲しかったし、そのきっかけになるかもしれない話を逃すわけにはいかない。それに窮屈な貴族社会にうんざりしていた。仕事を理由に王都から遠ざかれるのも願ったりだった。
そんな半ばやけくそな気持ちで引き受けた仕事だったのに、思わぬ恩恵にあずかったのだという。
こき使われるし振り回されるしで大変だけど、デインとの旅は楽しいし。極秘任務だから吹聴して回れないが、人助けをして回れるのは誇らしい気分だった。国王からはデインと同様極秘調査官に任命されるし、表向きの官職も与えられた。今まで貴族社会で肩身の狭い思いをしていた家族も、貴族としての面目が立つようになった。
それもこれも、シュエラとカチュアがデインに話してくれたからだと言う。が、カチュアにしてみれば、失礼にも子爵のことを笑いの種にしていただけだ。だが、それを聞いても子爵にとってカチュアは恩人で、デインは公私ともに相棒と呼べる存在なのだという。
そんなわけで、デインの婚約者であるカチュア(子爵は、婚約が解消されたと思ってないらしい)は相棒の妻としての敬意を払われている。
今朝、デインが離れている最中に、ブリュール子爵はカチュアに言った。
──騙されたと思って、デイン君についていって言い分を聞いてあげてください。
──騙されたと思うには、ちょっとスケールが大きすぎると思うんですけど。
──ははは、確かに。いきなり騎馬でも一週間もかかる所に連れていくっていうのは、スケールが大きいですよねぇ。でも、デイン君らしくありませんか? 彼にはスケールという概念がないような気がします。一番いいと思ったことを、ただ実行に移していくだけなんだと。
子爵の言う通りだとカチュアも思った。デインはやることはめちゃくちゃだけれど、いつも最善の結果を出す。フィーナの結婚問題の時もそうだ(カチュアも協力したけれど、発案はデイン)。大きな問題を引き起こしたけれど、そのおかげで国王やヘリオットをその問題に関わらせることになって、彼らの力を借りることでフィーナは反対していた父親にも祝福してもらえる幸せな結婚をした。極秘調査官としての職務を逸脱した働きも、“それってマズいんじゃないの?”と思いながらも評価している。
でも今回に限っては、デインも結果を出すのは無理だ。
“結果”が出せるものなら、こんなことをしなくてもとっくに出ているはずだったのだから。
カチュアは鞭を引っ込めて、誰に言うともなしに話し出す。
「……あたし用の馬を用意して。それと宿の部屋はできるだけ別に。少なくとも同じベッドでは寝ない。その代り、こっそり逃げ出さないって約束する。逃げ出したところで、どうせ連れ戻そうとするだけでしょ? とっとと行って、とっとと終わらせてあげるわ」
それが許しだと理解したデインは、ぱあっと明るい表情になって、いそいそと敷物に上がる。
「カチュア用の馬と、ベッドは別々だな!」
敷物の上にあぐらをかいたデインは、昨夜泊まった宿で用意してもらったサンドイッチを豪快に食べ出す。その姿はまるで、カチュアは最終的に承諾すると思っているかのようだ。
それが面白くなくて、カチュアは次第に無口になっていった。
正直、心は揺れている。
もう一つの心は、今の内に折れておきなさいとささやいてくる。デインがまだカチュアを求めているうちに、承諾の返事をしてしまいなさいと。
でも、理性はそれを押しとどめる。
欲しい答えが得られないから、デインのことは信用できない。そんなで結婚に踏み切ったら、破綻は目に見えている。
乗馬用のドレスはロアルが調達してくれたけれど、カチュアの逃亡を恐れたデインが馬を用意してくれなかったので、誰かの馬に同乗しなくてはならない。ひょろっこく非力なロアルではカチュアを支えきれないだろうし、身長が低いブリュール子爵ではカチュアを前に乗せられない。乗馬できるカチュアであっても、半日も騎手の後ろにしがみついていたら、何かの拍子に転げ落ちてしまわないとも限らない。
そういうわけで、午後もデインの馬に乗らざるを得なかったりする。
今朝の事を思うと、デインと離れられない状況には抵抗があった。抱きしめられるわけではなくてもデインの腕に囲われるのは、胸が張り裂けそうになるくらいどきどきするし。今度こそ何かされるのではと気が気でならない。そのせいで午前は緊張しっぱなしで、昼休憩を挟んだものの緊張疲れはまだ残っている。
馬具のチェックを終えたデインは、カチュアの葛藤に気付いたらしく、苦笑しながら声をかけてきた。
「馬の上じゃ何もできやしないって」
その通りだとカチュアも思うが、緊張してしまうのは止められない。けれど乗らないわけにはいかないから、デインが引いてきた馬の背に、彼の手を借りて先に乗った。カチュアの後ろに、デインはひらりと乗る。
恥ずかしさを紛らせるためもあって、カチュアは前を向いたままぼそっと言った。
「領民のみなさんは、次期領主の妻が平民だと聞かされたらがっかりするでしょうね」
「いや? そんなことはないよ。それよりオレが領主になるって聞かされるほうががっかりするんじゃないかな」
「そうかも」
込み上げてきた笑いのおかげで緊張がほぐれてくると、デインは馬を歩かせて街道に戻り始める。馬の背の動きに合わせて体を前後に揺らしていると、耳元で少し不機嫌な声がした。
「それに、カチュアは自分のことを見くびり過ぎだ」
「え?」
カチュアは思わず振り返ろうとしたけれど、デインが手綱を振って馬を走らせ始めるので、慌てて前を向き直す。
「所領に着いたらとくと教えてやるよ」
言うなり、さらに速度を上げる。
デインはこの話題についてはそれっきり口を閉ざし、ハーネット伯爵領に到着するまで、カチュアに問われても答えようとはしなかった。
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