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第四話
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ラウシュリッツ王国-レシュテンウィッツ王国間、国境壁にて。
──そのような重大事を、他国に漏らしてよろしいのか?
──知らねばこの先話し合いにならぬ。貴殿も申しておっただろう。“こちらがまず信用しなければ、そちらも信用できぬであろう”と。儂は貴殿を試し、貴殿は儂の想像を超えた誠実さを見せることで信用に足る人物であることを示した。今度は儂が貴殿を信じる番だ。
──……余が貴殿を裏切ることになったら? 貴殿には余の裏切りを知る術すらなかろうに。
──その時はその時。儂に見る目がなかったと諦めるだけだ。
“鳥”を使って交わされた極秘書簡にて。
──何とか円満におさまったようだな。夫婦間、特に国王夫妻の間では、信頼関係が肝要だ。あの話をシュエラにもしてやるとよい。夫婦間に秘密があってはならないからな。
──貴殿の申し出を早速実行した。話した夜、シュエラは一晩中泣いていたぞ。どうしてくれる。泣きながらシュエラが書いた手紙が、そのうち届くはずだ。貴殿もせいぜい困るといい。
──手紙届いた。儂が見込んだ通り気丈な娘だ。伝えてもらいたい、泣くことはないと。それより、王妃としての地位を早急盤石にせよと。どのくらいの時間があるかわからないからな。
それから三年の月日が経って。
──貴殿もなかなかしぶといな。
──ああ。だが、そろそろのようだ。儂にできる限りのことをしたが、食い止めることはできぬであろう。レシュテンを、帝国の民を、そして我が最愛の孫娘グレイスのことを頼む。約束を反故にされても、儂は文句の一つも言えないのだが。
──見くびってもらっては困る。貴殿は約束を果たした。今度は余が貴殿との約束を果たす番だ。貴殿の信頼を裏切らないと誓う。それはシュエラも同じ気持ちだ。安心されるがよい。
──シュエラにかかれば、貴殿も形無しだからな。いや、冗談だ。貴殿の誠実さを疑ったことは、信じると決めてから一度もない。これが最後となろう。達者に暮らせ。貴殿らを息子娘と呼ぶことができて、しあわせであった。
ラウシュリッツ王国国王シグルドは、グラデンヴィッツ帝国からの書簡を、唇を噛みしめながら読み解いた。目が涙で滲み、唇がわななく。それを臣下の者たちに見られまいとして、シグルドは窓辺に寄って執務室にいる者たちに背を向けた。
人の上に立つ者として、動揺を見せるわけにはいかない。シグルドは震えそうになる声を抑え、冷静な口調で命じた。
「各所に通達を出す。伝令の用意を。それと、今から言う関係者を、シュエラのもとに呼び出しておいてくれ」
──・──・──
時同じ頃、王城北館前の庭園の一角にて。
赤い巻き毛の女性とウェーブの跳ね気味の栗色の髪をした男性が、ベンチに並んでいちゃついて……いや、もみ合っている。
「ちょ、ちょっとやめて」
赤毛の女性──カチュアが押し退けようとするけれど、栗色の髪の男性──デインは肩を押してくるカチュアの力などものともせず、彼女を抱き込んで顔を近付けようとする。
「久しぶりに会ったんだから、これくらいさせてよ」
そう言われ、カチュアの腕から少々力が抜けた。
「でも、こんなところで」
憚るように周囲を見回す。デインは小さく笑うと、カチュアの顎に手をかけた。
「誰も来やしないって。カチュアのために頑張ってきたんだから、ご褒美くらいくれよ」
「ご褒美って──っん」
思わずデインを見上げた拍子に顎をさらに持ち上げられ、斜め上向いたカチュアの唇に彼のそれが重なってくる。一度キスをされてしまえばカチュアの抵抗も萎えて、諦めてその甘い感触に浸った。
初めてキスをしたのは、デインが旅に出る直前のことだった。
二人の結婚を認めてもらうために、国王シグルドから任じられた使命を果たしに行く旅。
隣国レシュテンウィッツの民を自国ラウシュリッツに迎え入れる際に、新たな制度がいくつも施行された。それらの制度が正しく運用されているかを秘密裏に調査するよう、デインは命じられたのだ。
ところが、調査だけのはずだったのに、デインは街村で騒動を起こし、領主に不正を正させてしまう。その話は現地から遠く離れた王都にまで伝わり、人々の話題に上った。
これでは極秘任務にならない──とシグルドやデインの任務を知る少数の者たちは危惧したのだが、お供で中年小太りのブリュール子爵が意外に有能なせいか、何故だかバレることなく、世直しも継続されつつ、二年の月日が経過する。
カチュアは二十歳、デインは十九歳になった。
初めて会った時のデインは、まだ十五歳で、年の割にやんちゃな子どもだった。再会したのは彼が十六歳の時。同世代が大人への階段を上り始めているというのに相変わらずで、事あるごと面倒を起こして周囲の人々に迷惑をかけた(その一部はカチュアにも責任があるけれど)。
それからさらに二年。数カ月に一度、彼はその都度驚くほどの成長を遂げて帰ってきた。
毎日会っていたら、カチュアもそんなに驚かなかったかもしれない。
カチュアにとって、デインは眼中外だった。年下で、背が自分より低く、逞しくなくて、馬鹿。
それが、あっという間にカチュアの背を追い越し、ひょろひょろしていた体は逞しくなって、人々の口に上るほど鮮やかに、各地の問題を解決していく。顔立ちも、旅暮らしのため屋外にいることが多いせいか、日に焼け精悍になった。
一歳の歳の差なんて、子どもの頃は大きくても大人になればあってなきが如し──そんな話を最近痛感している。
好みに成長したデイン(但し、黙っていればの話)に、カチュアの気持ちは遅れ気味だ。
顎を持ち上げていたデインの手が胸に下りてきたのに気付いて、カチュアは慌ててその手を押し退ける。
「ちょ! 何やってんの! 嫌だってば!」
キスから逃れて抗議すれば、デインは名残惜しそうにカチュアの胸に手を置いたまま尋ねてきた。
「まだ駄目なの?」
カチュアは小声で文句を言った。
「まだ駄目って、こんなところですることじゃないでしょう!」
するとデインはにやっと笑う。
「ここでなければいい?」
「馬鹿っっ!」
カチュアは思わず肘を振り上げる。デインは「あはは」と笑って振り下ろされたそれを両手で防いだ。
顔面に直撃したらえらいことになっていたかもしれないけれど、防がれてしまったのも悔しい。
カチュアがむくれて立ち上がろうとすると、デインは両腕にカチュアを抱き込んで引き止めた。
「久しぶりに会ったんだからそんなにつれなくしないでよ」
「たった一カ月離れてただけじゃない。いつもなら二、三か月は帰ってこないのに」
「何でか知らん、しぐしぐに呼び戻されたんだ。任務の途中だったのにさ」
「あんたいい加減その名前使うのやめなさいよ。──で、何で呼び戻されたの?」
「知らね。そんなことより、オレには一カ月だって長すぎるんだよ。細切れに会ったって、カチュアはなかなか先に進ませてくれないしさ」
「結婚前にこれ以上させるつもりないわよ」
カチュアの文句を無視して、デインは話を続ける。
「しぐしぐもいい加減結婚を許可してくれたっていいと思うのに。カチュアだってもう二十歳なんだから嫁き遅れにならないうち──って!」
カチュアの肘が、今度はデインの脳天に直撃。頭を抱えるデインにそっぽを向いて、カチュアはベンチから立ち上がった。
平民の適齢期は、貴族よりも遅い。十七、八から結婚する者が出始めて、二十五歳を過ぎると嫁き遅れと言われる。
カチュアはまだ二十歳だ(といっても、もうすぐ二十一歳だけど)。しかも婚約者がそれを言うなんて、失礼極まりない。
デインって、ホントにあたしのこと好きなのかしら……?
キスを求められた時から、デインがカチュアを女性として見ていることは理解した。けれどそれが、本当にカチュアを好きだからなのか、それとも女性に興味があるだけなのか判別つかない。
──何であたしと結婚したいの!? あたしのどこをそんなに好きになったの!?
──そんなこと聞かれたって、オレにもわからないよ! 気付いたら、いつの間にか好きになってたんだ!
二年前、婚約の少し前にそういうやりとりをしたきり、デインの気持ちを再確認できていない。
あけすけに愛情表現をするくせに、肝心なことは言ってくれない。
だからカチュアは始終不安につきまとわれる。
「カチュア、悪かった。今のは失言だった。機嫌直してくれよ」
肩を抱いて顔を覗き込んでこようとするので、カチュアは涙に滲んだ目を見られまいと顔を背ける。
「あれ? 泣いてる?」
「うるさいって」
邪険に振り払おうとしたけれど、デインはカチュアをさらに抱きしめ、首筋に顔を埋めてくる。
「ホントごめん。──しぐしぐにいい加減結婚の許可してくれって頼むよ。オレだって待ち切れないんだ。カチュアと夫婦になるの」
耳元近くで囁かれて、カチュアは顔を真っ赤にする。
デインがカチュアを振り向かせ、目を閉じながら顔を近づけてくる。
仕方ないなぁ……
そう思いつつ目を閉じようとした時、遠くのほうから人を呼ぶ声が聞こえた。
それが自分たちを呼ぶ声だと気付いたカチュアは、両手を突っ張ってデインを押し退け叫ぶ。
「はーい! ここにいます!」
するといくらも経たないうちに、カチュアたちがいる庭園の入り口に侍従が姿を現す。
「国王陛下がお呼びだ。王妃陛下のお側に集まるようにと。──どうした?」
「い、いえなんにも! デインって急にこうすることがよくあるんですよ」
脛を押さえてうずくまるデインを不審げに見下ろす侍従に、カチュアは慌てて言い訳した。
──そのような重大事を、他国に漏らしてよろしいのか?
──知らねばこの先話し合いにならぬ。貴殿も申しておっただろう。“こちらがまず信用しなければ、そちらも信用できぬであろう”と。儂は貴殿を試し、貴殿は儂の想像を超えた誠実さを見せることで信用に足る人物であることを示した。今度は儂が貴殿を信じる番だ。
──……余が貴殿を裏切ることになったら? 貴殿には余の裏切りを知る術すらなかろうに。
──その時はその時。儂に見る目がなかったと諦めるだけだ。
“鳥”を使って交わされた極秘書簡にて。
──何とか円満におさまったようだな。夫婦間、特に国王夫妻の間では、信頼関係が肝要だ。あの話をシュエラにもしてやるとよい。夫婦間に秘密があってはならないからな。
──貴殿の申し出を早速実行した。話した夜、シュエラは一晩中泣いていたぞ。どうしてくれる。泣きながらシュエラが書いた手紙が、そのうち届くはずだ。貴殿もせいぜい困るといい。
──手紙届いた。儂が見込んだ通り気丈な娘だ。伝えてもらいたい、泣くことはないと。それより、王妃としての地位を早急盤石にせよと。どのくらいの時間があるかわからないからな。
それから三年の月日が経って。
──貴殿もなかなかしぶといな。
──ああ。だが、そろそろのようだ。儂にできる限りのことをしたが、食い止めることはできぬであろう。レシュテンを、帝国の民を、そして我が最愛の孫娘グレイスのことを頼む。約束を反故にされても、儂は文句の一つも言えないのだが。
──見くびってもらっては困る。貴殿は約束を果たした。今度は余が貴殿との約束を果たす番だ。貴殿の信頼を裏切らないと誓う。それはシュエラも同じ気持ちだ。安心されるがよい。
──シュエラにかかれば、貴殿も形無しだからな。いや、冗談だ。貴殿の誠実さを疑ったことは、信じると決めてから一度もない。これが最後となろう。達者に暮らせ。貴殿らを息子娘と呼ぶことができて、しあわせであった。
ラウシュリッツ王国国王シグルドは、グラデンヴィッツ帝国からの書簡を、唇を噛みしめながら読み解いた。目が涙で滲み、唇がわななく。それを臣下の者たちに見られまいとして、シグルドは窓辺に寄って執務室にいる者たちに背を向けた。
人の上に立つ者として、動揺を見せるわけにはいかない。シグルドは震えそうになる声を抑え、冷静な口調で命じた。
「各所に通達を出す。伝令の用意を。それと、今から言う関係者を、シュエラのもとに呼び出しておいてくれ」
──・──・──
時同じ頃、王城北館前の庭園の一角にて。
赤い巻き毛の女性とウェーブの跳ね気味の栗色の髪をした男性が、ベンチに並んでいちゃついて……いや、もみ合っている。
「ちょ、ちょっとやめて」
赤毛の女性──カチュアが押し退けようとするけれど、栗色の髪の男性──デインは肩を押してくるカチュアの力などものともせず、彼女を抱き込んで顔を近付けようとする。
「久しぶりに会ったんだから、これくらいさせてよ」
そう言われ、カチュアの腕から少々力が抜けた。
「でも、こんなところで」
憚るように周囲を見回す。デインは小さく笑うと、カチュアの顎に手をかけた。
「誰も来やしないって。カチュアのために頑張ってきたんだから、ご褒美くらいくれよ」
「ご褒美って──っん」
思わずデインを見上げた拍子に顎をさらに持ち上げられ、斜め上向いたカチュアの唇に彼のそれが重なってくる。一度キスをされてしまえばカチュアの抵抗も萎えて、諦めてその甘い感触に浸った。
初めてキスをしたのは、デインが旅に出る直前のことだった。
二人の結婚を認めてもらうために、国王シグルドから任じられた使命を果たしに行く旅。
隣国レシュテンウィッツの民を自国ラウシュリッツに迎え入れる際に、新たな制度がいくつも施行された。それらの制度が正しく運用されているかを秘密裏に調査するよう、デインは命じられたのだ。
ところが、調査だけのはずだったのに、デインは街村で騒動を起こし、領主に不正を正させてしまう。その話は現地から遠く離れた王都にまで伝わり、人々の話題に上った。
これでは極秘任務にならない──とシグルドやデインの任務を知る少数の者たちは危惧したのだが、お供で中年小太りのブリュール子爵が意外に有能なせいか、何故だかバレることなく、世直しも継続されつつ、二年の月日が経過する。
カチュアは二十歳、デインは十九歳になった。
初めて会った時のデインは、まだ十五歳で、年の割にやんちゃな子どもだった。再会したのは彼が十六歳の時。同世代が大人への階段を上り始めているというのに相変わらずで、事あるごと面倒を起こして周囲の人々に迷惑をかけた(その一部はカチュアにも責任があるけれど)。
それからさらに二年。数カ月に一度、彼はその都度驚くほどの成長を遂げて帰ってきた。
毎日会っていたら、カチュアもそんなに驚かなかったかもしれない。
カチュアにとって、デインは眼中外だった。年下で、背が自分より低く、逞しくなくて、馬鹿。
それが、あっという間にカチュアの背を追い越し、ひょろひょろしていた体は逞しくなって、人々の口に上るほど鮮やかに、各地の問題を解決していく。顔立ちも、旅暮らしのため屋外にいることが多いせいか、日に焼け精悍になった。
一歳の歳の差なんて、子どもの頃は大きくても大人になればあってなきが如し──そんな話を最近痛感している。
好みに成長したデイン(但し、黙っていればの話)に、カチュアの気持ちは遅れ気味だ。
顎を持ち上げていたデインの手が胸に下りてきたのに気付いて、カチュアは慌ててその手を押し退ける。
「ちょ! 何やってんの! 嫌だってば!」
キスから逃れて抗議すれば、デインは名残惜しそうにカチュアの胸に手を置いたまま尋ねてきた。
「まだ駄目なの?」
カチュアは小声で文句を言った。
「まだ駄目って、こんなところですることじゃないでしょう!」
するとデインはにやっと笑う。
「ここでなければいい?」
「馬鹿っっ!」
カチュアは思わず肘を振り上げる。デインは「あはは」と笑って振り下ろされたそれを両手で防いだ。
顔面に直撃したらえらいことになっていたかもしれないけれど、防がれてしまったのも悔しい。
カチュアがむくれて立ち上がろうとすると、デインは両腕にカチュアを抱き込んで引き止めた。
「久しぶりに会ったんだからそんなにつれなくしないでよ」
「たった一カ月離れてただけじゃない。いつもなら二、三か月は帰ってこないのに」
「何でか知らん、しぐしぐに呼び戻されたんだ。任務の途中だったのにさ」
「あんたいい加減その名前使うのやめなさいよ。──で、何で呼び戻されたの?」
「知らね。そんなことより、オレには一カ月だって長すぎるんだよ。細切れに会ったって、カチュアはなかなか先に進ませてくれないしさ」
「結婚前にこれ以上させるつもりないわよ」
カチュアの文句を無視して、デインは話を続ける。
「しぐしぐもいい加減結婚を許可してくれたっていいと思うのに。カチュアだってもう二十歳なんだから嫁き遅れにならないうち──って!」
カチュアの肘が、今度はデインの脳天に直撃。頭を抱えるデインにそっぽを向いて、カチュアはベンチから立ち上がった。
平民の適齢期は、貴族よりも遅い。十七、八から結婚する者が出始めて、二十五歳を過ぎると嫁き遅れと言われる。
カチュアはまだ二十歳だ(といっても、もうすぐ二十一歳だけど)。しかも婚約者がそれを言うなんて、失礼極まりない。
デインって、ホントにあたしのこと好きなのかしら……?
キスを求められた時から、デインがカチュアを女性として見ていることは理解した。けれどそれが、本当にカチュアを好きだからなのか、それとも女性に興味があるだけなのか判別つかない。
──何であたしと結婚したいの!? あたしのどこをそんなに好きになったの!?
──そんなこと聞かれたって、オレにもわからないよ! 気付いたら、いつの間にか好きになってたんだ!
二年前、婚約の少し前にそういうやりとりをしたきり、デインの気持ちを再確認できていない。
あけすけに愛情表現をするくせに、肝心なことは言ってくれない。
だからカチュアは始終不安につきまとわれる。
「カチュア、悪かった。今のは失言だった。機嫌直してくれよ」
肩を抱いて顔を覗き込んでこようとするので、カチュアは涙に滲んだ目を見られまいと顔を背ける。
「あれ? 泣いてる?」
「うるさいって」
邪険に振り払おうとしたけれど、デインはカチュアをさらに抱きしめ、首筋に顔を埋めてくる。
「ホントごめん。──しぐしぐにいい加減結婚の許可してくれって頼むよ。オレだって待ち切れないんだ。カチュアと夫婦になるの」
耳元近くで囁かれて、カチュアは顔を真っ赤にする。
デインがカチュアを振り向かせ、目を閉じながら顔を近づけてくる。
仕方ないなぁ……
そう思いつつ目を閉じようとした時、遠くのほうから人を呼ぶ声が聞こえた。
それが自分たちを呼ぶ声だと気付いたカチュアは、両手を突っ張ってデインを押し退け叫ぶ。
「はーい! ここにいます!」
するといくらも経たないうちに、カチュアたちがいる庭園の入り口に侍従が姿を現す。
「国王陛下がお呼びだ。王妃陛下のお側に集まるようにと。──どうした?」
「い、いえなんにも! デインって急にこうすることがよくあるんですよ」
脛を押さえてうずくまるデインを不審げに見下ろす侍従に、カチュアは慌てて言い訳した。
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