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第二話
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歳の頃はカチュアより二つ三つ下だろうか。仕立てのいい上等な衣服を着て、近衛隊士の制服を来た男性を二人従えている。
それよりも何よりも、一目で少年が誰なのか気付いたカチュアは、慌てて大きく頭を下げる。
「すっすみません! 失礼しました!」
「え? あの──」
少年の呼びかけらしい声が聞こえてきたけれど、カチュアはそれも無視して、小道に通じる庭木の隙間に飛び込んだ。
庭園って言ったら、普通おしゃべりを楽しみながら散策する場所じゃない。なのに、まるでこそこそ隠れてるみたいに音も立てずに出てくるから……。
小道を走って少年から遠ざかりながら、言い訳じみたことを考えていたカチュアは、彼の立場からすればそれも仕方ないと思い直す。
先ほどの少年とは、シュエラのお供の際に何度か会ったことがある。
小道を走りながら、カチュアは今会った少年のことを思い起していた。
現ラダム公爵長男セドル──罪を犯し王城城壁の一角に幽閉された、前ラダム公爵イドリックの孫。
罪を償うことになったのは、イドリック一人ではなかった。父親の跡を継ぐことを許された息子アルノーは、嫡子であるセドルを人質さながらに王城に預けざるを得なくなり、公爵としての権限を国王の顔色を窺わずして行使することはできなくなった。そして人質同然に王城に滞在するセドルは、家族や友人たちから引き離され、わずかな世話係たちに囲まれて一人ひっそり王城北館、通称王家の館の片隅に暮らしている。
カチュアはシュエラにお供して、一度だけ会ったことがある。セドルの母は前国王の妹で、育ちのせいか、はたまたいとこ同士という血のつながりのせいか、今はすでに亡くなっているとされている現国王の異母兄で元王太子のウィルフレッドによく似ている。現国王のシグルドにも少し似ているが、前国王の姉を母に持つケヴィンとはまるで似ていない。
父親のクリフォード公爵も、シグルドもウィルフレッドも感情豊かなほうだと思うのに、何故ケヴィンだけあんなに表情が動かないのかと考えると笑えてくる。
と、ここまで思いをはせたところで、カチュアははたっとした。
道が、さっきよりわからなくなってしまった……。
仕事にはかろうじて間にあった。
約束の時間丁度に訪れた侯爵夫人は、シュエラに勧められたテーブルの席に着くと、遠慮がちに申し出る。
「内密のお話があるんですの。侍女たちを下がらせていただけないでしょうか?」
そう言って侯爵夫人は意味深な視線を侍女たちに走らせ、カチュアのところで目を止めた。
……やーな感じ。
デインのせいで、侍女という裏方仕事をしていながら、カチュアは王城内で有名だ。カチュアほどの鮮やかな赤毛は珍しいということもあって、誰もが簡単にカチュアを見分けてしまう。
彼らがカチュアに向けてくる感情は、大きく分けて二つ。
好奇心と嫌悪。
今をときめく王妃陛下の弟君が見染めたのはどんな人物なのか。身の程知らずにも王妃の侍女に収まり、貴族の子弟の求愛を受ける平民。
今回の客は後者だ。きっと、平民無勢に聞かせるような話はないと思ってるに違いない。けれど王妃陛下の手前カチュアだけを下がらせて欲しいとは言えず、“内密のお話”ということにして侍女全員を下がらせようというのだろう。
そんなことは別に、今に始まったことじゃない。平民であっても貴族の血筋を引くフィーナはともかく、全くの平民であるカチュアには王城に入ってから常に差別がつきまとっていた。
だからこの程度のことでくよくよしてたら、侍女なんて務まらない。
今日のお茶の当番が一杯目のお茶を出し終えると、マントノンはシュエラと侯爵夫人に頭を下げた。
「それではわたくしたちは下がりますので、何かございましたらお呼びください」
「マントノン夫人は残ってちょうだい。あなたにもお話があるの」
「……かしこまりました」
マントノンの返答に、めずらしく間が空く。
侍女たちだけにすることに躊躇したのだろう。カチュアだって、マントノンの立場に立ったら大いに躊躇し、断れるものなら断ったに違いない。
このメンバーを監視もできずに一緒にしておくなんて、したくないよねえ……。
自分も“このメンバー”に含まれることを自覚しながら、カチュアは内心ため息をつく。
彼女たちがシュエラ付きの侍女になると決まった時、マントノンはカチュアを呼び出して「問題を起こさないように」とくぎを刺した。
カチュアもそうしたいのはやまやまだが、彼女らがつっかかってくるのだから仕方ない。
この応接室には、使用人の控室がある。人払いしたいと言われた時、女官や侍女は続き部屋になっているその部屋に入って待機する。
カチュアがその部屋に最後に入って扉を閉め、空いている椅子に座ろうとしたところで、案の定嫌味を浴びせられた。
「平民のくせして間際に駆けこんでくるなんて、たるんでる証拠じゃないかしら?」
敵意のこもった視線を向けてくるのは三人。他にも二人、新しく入った侍女がいるけれど、その二人は隅に置かれた椅子に並んで座って、こちらのいさかいを見まい聞くまいとするように視線を逸らして黙りこくっている。
カチュアに敵意を向けるあとの二人も、先の嫌味に続いた。
「わたくしたちのことを職務怠慢だとこきおろしておきながら、自分は一体何なのよ?」
「王妃陛下のお気に入りだからって、いい気になってるんじゃない?」
その言葉に、カチュアはかちんとくる。シュエラにはよくしてもらっているけど、だからといっていい気になった覚えはない。
カチュアは椅子に行儀よく座り、つんとすまして言った。
「わたくしはちゃんと時間に間にあいましたし、どなたか方のようにとんずらこいて人に当番を押し付けたりなどいたしませんわ」
王城で覚えた上品な言葉を駆使して応戦すると、三人の中でも一番カチュアにキツく当たる侍女──ミゼーヌが、うすら笑いを浮かべた。
「あなたが何を言いたいのか、わからないわ。身分が低い者が雑用をするのは当然でしょう? むしろあなたが『わたくしがいたしますから、どうぞあなたがたはお手を汚さないように』と言い出さないほうが信じられないわ」
はぁ? ナニソレ!?
あまりに腹が立ったので、ついいつもの口調が出てしまう。
「同じ侍女として雇われてる以上、身分に関わりなく同等の仕事を受け持つことが正しいと思うんですけどね。あたしに言わせてもらえれば、身分をかさにきて与えられた仕事をサボろうとするせこい人が、あたしと同じ栄誉ある王妃陛下の侍女に選ばれたなんて、そのことが信じられないんだけど」
「せ、せ、せこい!?」
ミゼーヌだけでなく、他の侍女たちも顔を真っ赤にして叫び出した。
「い、言わせておけば、いい気になって……!」
「いい気になんてなってないわ! 自分たちのしたことを棚に上げて人に嫌味なんか言うから、足元をすくわれるのよ! これからは他人から事実を突き付けられないよう、せいぜい清く正しく行動することね」
「平民の分際で──!」
その時、扉が勢いよく開いた。
「何事ですか、あなたたち!」
はっとしてそちらを見れば、常は表情を見せないマントノン夫人が、眉を吊り上げてカチュアたちをにらみつけた。
「こちらの部屋にまで聞こえてきましたよ。王妃陛下にお仕えする侍女としてわきまえなさい」
「申し訳ありません……」
カチュアは、しゅんとして謝る。他の侍女たちも同じように謝るけれど、ミゼーヌだけは頭を下げながら憎しみのこもった視線だけカチュアに向けていた。
隣の部屋から声が聞こえてくる。
「今日のところは、これで失礼いたしますわ」
「え? ですが先ほど来られたばかりですのに」
「いえ、お話させていただきたいことは申し上げましたから。賢明であらせられる王妃陛下でしたら、正しい判断をなさると信じておりますわ」
「では、お見送りを」
がたがたと、一つではない椅子の音がする。
「いえ、結構です。王妃陛下にそのようなことをしていただくわけにはいきませんわ」
侯爵夫人の冷たい声を聞いたマントノンは、はっとしてカチュアたちに言った。
「お見送りにはわたくしが出ます」
いつも冷静沈着なマントノンにしては珍しく、あたふたと控室を出ていく。
その様子にいやーな予測を思い浮かべつつ、侯爵夫人が出ていったのを見計らって出ていくと、椅子に座りなおしたシュエラが困った様子で微笑んでいた。
「申し訳ありません、王妃陛下」
さっき声を上げた侍女たちが、殊勝に謝る。
「これからは気をつけてちょうだいね」
シュエラらしい、優しい言葉だ。使用人の不始末は主人の恥、客がそそくさと帰ってしまうほどの恥をかかされたのに、やんわりと注意するだけにとどめるなんて。
声を上げたわけじゃないけど、カチュアにも責任の一端はある。
「シュ──王妃陛下」
カチュアの謝罪の言葉は、シュエラに遮られた。
「この場を片付けて、次の面談の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
カチュアも、他の侍女たちと一緒に返事をする。仕事に加わろうとしたカチュアは、視線に気付いてシュエラを見た。目が合うと、シュエラは苦笑してほんの僅か肩をすくめる。
カチュアが謝ることはないわ。
そう言ってもらえているような気がして、カチュアの心は多少軽くなる。
けれどマントノンはそうは思ってないらしく、戻ってきてすぐカチュアを別室へ呼び出した。
それよりも何よりも、一目で少年が誰なのか気付いたカチュアは、慌てて大きく頭を下げる。
「すっすみません! 失礼しました!」
「え? あの──」
少年の呼びかけらしい声が聞こえてきたけれど、カチュアはそれも無視して、小道に通じる庭木の隙間に飛び込んだ。
庭園って言ったら、普通おしゃべりを楽しみながら散策する場所じゃない。なのに、まるでこそこそ隠れてるみたいに音も立てずに出てくるから……。
小道を走って少年から遠ざかりながら、言い訳じみたことを考えていたカチュアは、彼の立場からすればそれも仕方ないと思い直す。
先ほどの少年とは、シュエラのお供の際に何度か会ったことがある。
小道を走りながら、カチュアは今会った少年のことを思い起していた。
現ラダム公爵長男セドル──罪を犯し王城城壁の一角に幽閉された、前ラダム公爵イドリックの孫。
罪を償うことになったのは、イドリック一人ではなかった。父親の跡を継ぐことを許された息子アルノーは、嫡子であるセドルを人質さながらに王城に預けざるを得なくなり、公爵としての権限を国王の顔色を窺わずして行使することはできなくなった。そして人質同然に王城に滞在するセドルは、家族や友人たちから引き離され、わずかな世話係たちに囲まれて一人ひっそり王城北館、通称王家の館の片隅に暮らしている。
カチュアはシュエラにお供して、一度だけ会ったことがある。セドルの母は前国王の妹で、育ちのせいか、はたまたいとこ同士という血のつながりのせいか、今はすでに亡くなっているとされている現国王の異母兄で元王太子のウィルフレッドによく似ている。現国王のシグルドにも少し似ているが、前国王の姉を母に持つケヴィンとはまるで似ていない。
父親のクリフォード公爵も、シグルドもウィルフレッドも感情豊かなほうだと思うのに、何故ケヴィンだけあんなに表情が動かないのかと考えると笑えてくる。
と、ここまで思いをはせたところで、カチュアははたっとした。
道が、さっきよりわからなくなってしまった……。
仕事にはかろうじて間にあった。
約束の時間丁度に訪れた侯爵夫人は、シュエラに勧められたテーブルの席に着くと、遠慮がちに申し出る。
「内密のお話があるんですの。侍女たちを下がらせていただけないでしょうか?」
そう言って侯爵夫人は意味深な視線を侍女たちに走らせ、カチュアのところで目を止めた。
……やーな感じ。
デインのせいで、侍女という裏方仕事をしていながら、カチュアは王城内で有名だ。カチュアほどの鮮やかな赤毛は珍しいということもあって、誰もが簡単にカチュアを見分けてしまう。
彼らがカチュアに向けてくる感情は、大きく分けて二つ。
好奇心と嫌悪。
今をときめく王妃陛下の弟君が見染めたのはどんな人物なのか。身の程知らずにも王妃の侍女に収まり、貴族の子弟の求愛を受ける平民。
今回の客は後者だ。きっと、平民無勢に聞かせるような話はないと思ってるに違いない。けれど王妃陛下の手前カチュアだけを下がらせて欲しいとは言えず、“内密のお話”ということにして侍女全員を下がらせようというのだろう。
そんなことは別に、今に始まったことじゃない。平民であっても貴族の血筋を引くフィーナはともかく、全くの平民であるカチュアには王城に入ってから常に差別がつきまとっていた。
だからこの程度のことでくよくよしてたら、侍女なんて務まらない。
今日のお茶の当番が一杯目のお茶を出し終えると、マントノンはシュエラと侯爵夫人に頭を下げた。
「それではわたくしたちは下がりますので、何かございましたらお呼びください」
「マントノン夫人は残ってちょうだい。あなたにもお話があるの」
「……かしこまりました」
マントノンの返答に、めずらしく間が空く。
侍女たちだけにすることに躊躇したのだろう。カチュアだって、マントノンの立場に立ったら大いに躊躇し、断れるものなら断ったに違いない。
このメンバーを監視もできずに一緒にしておくなんて、したくないよねえ……。
自分も“このメンバー”に含まれることを自覚しながら、カチュアは内心ため息をつく。
彼女たちがシュエラ付きの侍女になると決まった時、マントノンはカチュアを呼び出して「問題を起こさないように」とくぎを刺した。
カチュアもそうしたいのはやまやまだが、彼女らがつっかかってくるのだから仕方ない。
この応接室には、使用人の控室がある。人払いしたいと言われた時、女官や侍女は続き部屋になっているその部屋に入って待機する。
カチュアがその部屋に最後に入って扉を閉め、空いている椅子に座ろうとしたところで、案の定嫌味を浴びせられた。
「平民のくせして間際に駆けこんでくるなんて、たるんでる証拠じゃないかしら?」
敵意のこもった視線を向けてくるのは三人。他にも二人、新しく入った侍女がいるけれど、その二人は隅に置かれた椅子に並んで座って、こちらのいさかいを見まい聞くまいとするように視線を逸らして黙りこくっている。
カチュアに敵意を向けるあとの二人も、先の嫌味に続いた。
「わたくしたちのことを職務怠慢だとこきおろしておきながら、自分は一体何なのよ?」
「王妃陛下のお気に入りだからって、いい気になってるんじゃない?」
その言葉に、カチュアはかちんとくる。シュエラにはよくしてもらっているけど、だからといっていい気になった覚えはない。
カチュアは椅子に行儀よく座り、つんとすまして言った。
「わたくしはちゃんと時間に間にあいましたし、どなたか方のようにとんずらこいて人に当番を押し付けたりなどいたしませんわ」
王城で覚えた上品な言葉を駆使して応戦すると、三人の中でも一番カチュアにキツく当たる侍女──ミゼーヌが、うすら笑いを浮かべた。
「あなたが何を言いたいのか、わからないわ。身分が低い者が雑用をするのは当然でしょう? むしろあなたが『わたくしがいたしますから、どうぞあなたがたはお手を汚さないように』と言い出さないほうが信じられないわ」
はぁ? ナニソレ!?
あまりに腹が立ったので、ついいつもの口調が出てしまう。
「同じ侍女として雇われてる以上、身分に関わりなく同等の仕事を受け持つことが正しいと思うんですけどね。あたしに言わせてもらえれば、身分をかさにきて与えられた仕事をサボろうとするせこい人が、あたしと同じ栄誉ある王妃陛下の侍女に選ばれたなんて、そのことが信じられないんだけど」
「せ、せ、せこい!?」
ミゼーヌだけでなく、他の侍女たちも顔を真っ赤にして叫び出した。
「い、言わせておけば、いい気になって……!」
「いい気になんてなってないわ! 自分たちのしたことを棚に上げて人に嫌味なんか言うから、足元をすくわれるのよ! これからは他人から事実を突き付けられないよう、せいぜい清く正しく行動することね」
「平民の分際で──!」
その時、扉が勢いよく開いた。
「何事ですか、あなたたち!」
はっとしてそちらを見れば、常は表情を見せないマントノン夫人が、眉を吊り上げてカチュアたちをにらみつけた。
「こちらの部屋にまで聞こえてきましたよ。王妃陛下にお仕えする侍女としてわきまえなさい」
「申し訳ありません……」
カチュアは、しゅんとして謝る。他の侍女たちも同じように謝るけれど、ミゼーヌだけは頭を下げながら憎しみのこもった視線だけカチュアに向けていた。
隣の部屋から声が聞こえてくる。
「今日のところは、これで失礼いたしますわ」
「え? ですが先ほど来られたばかりですのに」
「いえ、お話させていただきたいことは申し上げましたから。賢明であらせられる王妃陛下でしたら、正しい判断をなさると信じておりますわ」
「では、お見送りを」
がたがたと、一つではない椅子の音がする。
「いえ、結構です。王妃陛下にそのようなことをしていただくわけにはいきませんわ」
侯爵夫人の冷たい声を聞いたマントノンは、はっとしてカチュアたちに言った。
「お見送りにはわたくしが出ます」
いつも冷静沈着なマントノンにしては珍しく、あたふたと控室を出ていく。
その様子にいやーな予測を思い浮かべつつ、侯爵夫人が出ていったのを見計らって出ていくと、椅子に座りなおしたシュエラが困った様子で微笑んでいた。
「申し訳ありません、王妃陛下」
さっき声を上げた侍女たちが、殊勝に謝る。
「これからは気をつけてちょうだいね」
シュエラらしい、優しい言葉だ。使用人の不始末は主人の恥、客がそそくさと帰ってしまうほどの恥をかかされたのに、やんわりと注意するだけにとどめるなんて。
声を上げたわけじゃないけど、カチュアにも責任の一端はある。
「シュ──王妃陛下」
カチュアの謝罪の言葉は、シュエラに遮られた。
「この場を片付けて、次の面談の準備をしてちょうだい」
「かしこまりました」
カチュアも、他の侍女たちと一緒に返事をする。仕事に加わろうとしたカチュアは、視線に気付いてシュエラを見た。目が合うと、シュエラは苦笑してほんの僅か肩をすくめる。
カチュアが謝ることはないわ。
そう言ってもらえているような気がして、カチュアの心は多少軽くなる。
けれどマントノンはそうは思ってないらしく、戻ってきてすぐカチュアを別室へ呼び出した。
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