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閑話1 妻たちのお茶会
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ケヴィンの内縁の妻の話は、とりあえず再び伏せられることになった。
シグルドがショックから立ち直っても、一切触れようとしなかったからだ。
再三にわたるシュエラの呼びかけで我に返ったシグルドは、その話をまるっきり聞かなかったかのように振るまい続けている。
本当に聞こえなかったわけでも、ショックのあまり記憶が抜け落ちたわけでもない。その証拠に、シグルドはケヴィンとヘリオットの二人と必要最低限の会話しか交わさなくなった。秘密を打ち明けてくれなかったケヴィンと、その秘密を知りながらシグルドに黙っていたヘリオットが許せないのだろう。
しかしシグルドは国王で、ケヴィンとヘリオットは国王の側近だ。不和はとっくに知れ渡り、官司や侍従たちの間に動揺が走っている。シグルドを追い落とそうとする者はもはや存在しないだろうが、この機にシグルドに取り入ってケヴィンやヘリオットに成り代わろうとする者が現れるかもしれない。いくら怒っていても、シグルドが二人を差し置いて誰かを側近に取り立てることはしないだろうけど。
シグルドの気持ちがわかるから、シュエラも強くは言い出せずにいた。
でもそろそろ一週間が過ぎようという頃になってさすがにマズいと思い、寝室にやってきてベッドの上に上がったシグルドに思い切って話しかける。
「そろそろ許して差し上げたらどうですか?」
「……」
この話題を振ると、シグルドはいつもだんまりを決め込む。拗ねたくなるのもよくわかる。何しろ、一番親しい二人に隠し事をされていただけでなく、そのことにまったく気付けなかったのだから。むしろ、気付けなかったことのほうがシグルドには重いのかもしれない。身近な人間のそんな大きな変化にも気付けない、自分本位な人間であると思い知らされたような思いなのだろう。
要するに、自分にも非があるから謝りたいのだけれど、一度怒って無視してしまったために引っ込みがつかなくなってしまったというところだ。
弟たちが頻繁に起こす不和をたくさん仲裁をしてきたため、シュエラにはシグルドの気持ちが手に取るようにわかる。
シグルドは無言のまま毛布の中にもぐりこみ、シュエラに背を向けて横になった。それを見て、シュエラはこっそりため息をつく。
しょうがないなぁ……
シュエラは苦笑しつつ、シグルドの背に声をかけた。
「シグルド様、わたし近いうちに内輪でお茶会を開こうと思っているんです」
急に話題を変えたことを変に思ったのだろう。シグルドは怪訝そうに振り返る。シュエラは満面の笑みをたたえて言った。
「そこにケヴィン様の奥様をお呼びするというのはどうでしょう? シグルド様もそのお茶会に参加されれば、きっとケヴィン様やヘリオット様を許す気になれると思いますわ」
「……は?」
シュエラの意図がわからず、シグルドはうろんげに返事をする。シュエラはシグルドの隣に滑り込み、おやすみの挨拶を兼ねたキスをシグルドの唇の端にすると、もう一度にっこり笑った。
「全てお任せくださいませ」
シグルドにも口添えしてもらってケヴィンの妻の出席を取り付け、いよいよお茶会の日。
ケヴィンの妻は一番最後に到着した。
「妻のアネットと、娘のエイミーです」
薄茶色の髪に緑の目をした女性はケヴィンの隣でドレスをつまんで礼をして、ケヴィンに抱かれたブルネットの髪に藍色の瞳をした少女はケヴィンに促されて頷くように頭を下げる。
先に到着していた女性たちは、シュエラと一緒に席を立ち、三人の周りに集まった。
「まあ、かわいい」
シュエラの母エイダがエイミーに声をかけると、シュエラの友人でエイドリアンの妻であるリィナはケヴィンを見て言う。
「ケヴィン様そっくりですわね」
リィナはケヴィンの親戚筋に当たるのだが、アネットとエイミーに会うのはこれが初めてだという。リィナたちはケヴィンに結婚を世話してもらったこともあってかなり親しい付き合いをしているのだが、そのリィナたちですらアネットとエイミーに会ったことがないということから、よっぽど存在をひた隠しにしていたことがわかる。
全員の自己紹介は席に着いてからにしましょうとシュエラが言って、全員は戸口から部屋の中央に移動した。長方形のローテーブルを三つくっつけた広いテーブルの周りに置かれた椅子に、シュエラが決めた席順でみな着席していく。角の席に座ったシグルドの隣にシュエラ、その隣にリィナ、エイドリアンと続いて、次の角を曲がったところからマチルダ、カレン、マントノンが座る。今日はごく私的な集まりだからと、普段なら絶対同席することのない近衛隊士や女官侍女の同席をシュエラが強く願い出たのだった。三つ目の辺にはヘリオット、セシール、シュエラの母エイダ。エイダの夫でシュエラの父であるラドクリフは、職務から手を離せないということで欠席している。そして最後の辺にケヴィンとアネットが、真ん中にエイミーを挟んで座る。
カチュアはシュエラの二番目の弟デインと一緒に、シュエラの一番下の弟でもうすぐ一歳になるルーミスの遊び相手を買って出た。お茶の席から少し離れたところに毛足の長いじゅうたんが敷かれ、そこに靴を脱いで上がって木のおもちゃで遊んでいる。
フィーナもカチュアと一緒にルーミスの遊び相手をすることになっているが、一番最初に出すお茶の準備を引き受けて、今給仕に回っているところだった。妊娠中の女性には温めたミルクや果物ジュースが出され、菓子類は匂いが薄く、一口大に切り分けられた果物の盛り合わせもテーブルに並ぶ。
お茶の給仕の最中に、自己紹介が一通り終わる。
戸口で一番最初に紹介を受けたアネットは、みんなの紹介の最後に角を挟んで隣の席に座るシグルドに対し改めて自己紹介をした。
「初めてお目にかかります。アネットと申します。といっても、あたしは遠目に陛下のことを存じ上げていましたが。──陛下がクリフォード公爵邸にご滞在の頃、あたしは公爵邸で下働きをしていたんです」
「え──えぇ!?」
マチルダが驚きのあまり声を上げてしまう。その驚きはシュエラたち他の面々も同様だった。
カタブツで規律に厳しいケヴィンが、よもや自分の邸に勤める下働きに手を出したとは。
どの邸でも、主人と使用人の付き合いは嫌忌される。特定の使用人がそのようにして優遇されれば他の使用人たちに示しがつかないし、もしかすると自分もそのチャンスに恵まれるのではと考える者も現れ規律が乱れるからだ。
そもそもケヴィンは現クリフォード公爵のただ一人の子で、跡継ぎである。然るべき相手を妻に迎え跡継ぎをもうけなければならない自分の役目を重々わかっていただろうに、何故内縁の妻を囲うに至ったのか。
アネットの告白に、ケヴィンも珍しく慌てた。
「アネット、その話は」
それをアネットは言葉でさえぎる。
「ここにお集まりのみなさまは、信頼できる方々ばかりなんでしょ? 包み隠さずお話しするためには、本当のことを話しておいたほうがいいから」
その言葉に一理あると思ったのか、ケヴィンは黙りこんだ。
アネットはにっこり笑い、まだ呆然としている面々を見回す。
「聞きたいことは、何でも聞いてください」
お茶の席から離れた場所にいるカチュアから、元気な質問が飛んだ。
「はい、はーい! お二人はどうやって出会ったんですか? 同じ邸に住んでたとはいえ、公爵様の跡取りと下働きとじゃ顔を合わせる機会も普通ないと思うんですけど」
「カチュア! 立ち入ったこと聞き過ぎ!」
全員にお茶を配って戻ってきたフィーナが、カチュアのそばに寄ってたしなめる。
けれどフィーナのそうした気遣いは不要だったようで、アネットはけろりと答えた。
「真夜中に酔っぱらって帰ってきたケヴィン様を介抱してたら、押し倒されちゃったの」
「ア、アネット……!」
ケヴィンがうろたえて止めようとするけれど、アネットは構わず話し続ける。
「正確には、ベッドに倒れ込んだケヴィン様に巻き込まれたんだけど。誰と間違えたのか知らないけど、ベッドの上に押さえ付けられてキスされたんです」
「誰とも間違えていない! それに確か君は、あの夜は何もなかったと」
「キスくらいじゃ“何かあった”うちに入らないですって。正体ないくらいに酔っぱらってたけど、ホントにまるっきり記憶にないの?」
ケヴィンはしどろもどろになる。
「いや、てっきり夢だったのかと……というか、人前でこういう話はやめないか」
するとアネットは苦笑した。
「“こういう話”をしにきたんですってば。このお茶会の趣旨ってそういうことですよね?」
「ええ、まあ……」
尋ねられて、シュエラは微妙な笑みを浮かべながら言葉をにごす。
「……どういうことだ?」
話を呑みこめないでいるケヴィンに、アネットは説明した。
「簡単に言えば“さらし者の刑”を甘んじて受けるようにってことです。どうしてケヴィン様が王子様に──っと、間違えた。国王陛下に打ち明けられなかったのかっていう事情を含めて暴露することで、陛下に許していただこうってことなの」
シグルドは顔をしかめ、ぼそっとつぶやいた。
「暴露されたからといって、許せるとは限らないのだが」
シグルドの耳元に顔を寄せ、シュエラはこそっとささやく。
「多分ですけど、お茶会の終わりには許す許さない以前の問題になっているかと思います」
シュエラの意味不明な言葉に、シグルドは首を傾げる。シュエラはあえて説明をせず、アネットに尋ねた。
「それはいつ頃の話なんですか?」
「ケヴィン様が十六歳の時ですから、もう十五年前のことになります」
「え? そんな昔からお付き合いしてたのですか?」
リィナが驚きの声を上げると、アネットはふふっと笑った。
「お付き合いはしてなかったです。いろんなことが重なって、縁が切れなかっただけでして。あたしを押し倒してすぐケヴィン様はぐっすり眠り込んだんで、起きないうちに逃げちゃえばあたしのこともバレないかな~って思ったんですが、うっかりケヴィン様のベッドに落し物をしてしまって、それをケヴィン様が拾って届けてくれたことでバレちゃって……」
~この辺りのことは、アルファポリスさん、小説家になろうさんにて公開中の別作品「らっきー♪」にて書いておりますので、詳しい話は割愛いたします~
シグルドがショックから立ち直っても、一切触れようとしなかったからだ。
再三にわたるシュエラの呼びかけで我に返ったシグルドは、その話をまるっきり聞かなかったかのように振るまい続けている。
本当に聞こえなかったわけでも、ショックのあまり記憶が抜け落ちたわけでもない。その証拠に、シグルドはケヴィンとヘリオットの二人と必要最低限の会話しか交わさなくなった。秘密を打ち明けてくれなかったケヴィンと、その秘密を知りながらシグルドに黙っていたヘリオットが許せないのだろう。
しかしシグルドは国王で、ケヴィンとヘリオットは国王の側近だ。不和はとっくに知れ渡り、官司や侍従たちの間に動揺が走っている。シグルドを追い落とそうとする者はもはや存在しないだろうが、この機にシグルドに取り入ってケヴィンやヘリオットに成り代わろうとする者が現れるかもしれない。いくら怒っていても、シグルドが二人を差し置いて誰かを側近に取り立てることはしないだろうけど。
シグルドの気持ちがわかるから、シュエラも強くは言い出せずにいた。
でもそろそろ一週間が過ぎようという頃になってさすがにマズいと思い、寝室にやってきてベッドの上に上がったシグルドに思い切って話しかける。
「そろそろ許して差し上げたらどうですか?」
「……」
この話題を振ると、シグルドはいつもだんまりを決め込む。拗ねたくなるのもよくわかる。何しろ、一番親しい二人に隠し事をされていただけでなく、そのことにまったく気付けなかったのだから。むしろ、気付けなかったことのほうがシグルドには重いのかもしれない。身近な人間のそんな大きな変化にも気付けない、自分本位な人間であると思い知らされたような思いなのだろう。
要するに、自分にも非があるから謝りたいのだけれど、一度怒って無視してしまったために引っ込みがつかなくなってしまったというところだ。
弟たちが頻繁に起こす不和をたくさん仲裁をしてきたため、シュエラにはシグルドの気持ちが手に取るようにわかる。
シグルドは無言のまま毛布の中にもぐりこみ、シュエラに背を向けて横になった。それを見て、シュエラはこっそりため息をつく。
しょうがないなぁ……
シュエラは苦笑しつつ、シグルドの背に声をかけた。
「シグルド様、わたし近いうちに内輪でお茶会を開こうと思っているんです」
急に話題を変えたことを変に思ったのだろう。シグルドは怪訝そうに振り返る。シュエラは満面の笑みをたたえて言った。
「そこにケヴィン様の奥様をお呼びするというのはどうでしょう? シグルド様もそのお茶会に参加されれば、きっとケヴィン様やヘリオット様を許す気になれると思いますわ」
「……は?」
シュエラの意図がわからず、シグルドはうろんげに返事をする。シュエラはシグルドの隣に滑り込み、おやすみの挨拶を兼ねたキスをシグルドの唇の端にすると、もう一度にっこり笑った。
「全てお任せくださいませ」
シグルドにも口添えしてもらってケヴィンの妻の出席を取り付け、いよいよお茶会の日。
ケヴィンの妻は一番最後に到着した。
「妻のアネットと、娘のエイミーです」
薄茶色の髪に緑の目をした女性はケヴィンの隣でドレスをつまんで礼をして、ケヴィンに抱かれたブルネットの髪に藍色の瞳をした少女はケヴィンに促されて頷くように頭を下げる。
先に到着していた女性たちは、シュエラと一緒に席を立ち、三人の周りに集まった。
「まあ、かわいい」
シュエラの母エイダがエイミーに声をかけると、シュエラの友人でエイドリアンの妻であるリィナはケヴィンを見て言う。
「ケヴィン様そっくりですわね」
リィナはケヴィンの親戚筋に当たるのだが、アネットとエイミーに会うのはこれが初めてだという。リィナたちはケヴィンに結婚を世話してもらったこともあってかなり親しい付き合いをしているのだが、そのリィナたちですらアネットとエイミーに会ったことがないということから、よっぽど存在をひた隠しにしていたことがわかる。
全員の自己紹介は席に着いてからにしましょうとシュエラが言って、全員は戸口から部屋の中央に移動した。長方形のローテーブルを三つくっつけた広いテーブルの周りに置かれた椅子に、シュエラが決めた席順でみな着席していく。角の席に座ったシグルドの隣にシュエラ、その隣にリィナ、エイドリアンと続いて、次の角を曲がったところからマチルダ、カレン、マントノンが座る。今日はごく私的な集まりだからと、普段なら絶対同席することのない近衛隊士や女官侍女の同席をシュエラが強く願い出たのだった。三つ目の辺にはヘリオット、セシール、シュエラの母エイダ。エイダの夫でシュエラの父であるラドクリフは、職務から手を離せないということで欠席している。そして最後の辺にケヴィンとアネットが、真ん中にエイミーを挟んで座る。
カチュアはシュエラの二番目の弟デインと一緒に、シュエラの一番下の弟でもうすぐ一歳になるルーミスの遊び相手を買って出た。お茶の席から少し離れたところに毛足の長いじゅうたんが敷かれ、そこに靴を脱いで上がって木のおもちゃで遊んでいる。
フィーナもカチュアと一緒にルーミスの遊び相手をすることになっているが、一番最初に出すお茶の準備を引き受けて、今給仕に回っているところだった。妊娠中の女性には温めたミルクや果物ジュースが出され、菓子類は匂いが薄く、一口大に切り分けられた果物の盛り合わせもテーブルに並ぶ。
お茶の給仕の最中に、自己紹介が一通り終わる。
戸口で一番最初に紹介を受けたアネットは、みんなの紹介の最後に角を挟んで隣の席に座るシグルドに対し改めて自己紹介をした。
「初めてお目にかかります。アネットと申します。といっても、あたしは遠目に陛下のことを存じ上げていましたが。──陛下がクリフォード公爵邸にご滞在の頃、あたしは公爵邸で下働きをしていたんです」
「え──えぇ!?」
マチルダが驚きのあまり声を上げてしまう。その驚きはシュエラたち他の面々も同様だった。
カタブツで規律に厳しいケヴィンが、よもや自分の邸に勤める下働きに手を出したとは。
どの邸でも、主人と使用人の付き合いは嫌忌される。特定の使用人がそのようにして優遇されれば他の使用人たちに示しがつかないし、もしかすると自分もそのチャンスに恵まれるのではと考える者も現れ規律が乱れるからだ。
そもそもケヴィンは現クリフォード公爵のただ一人の子で、跡継ぎである。然るべき相手を妻に迎え跡継ぎをもうけなければならない自分の役目を重々わかっていただろうに、何故内縁の妻を囲うに至ったのか。
アネットの告白に、ケヴィンも珍しく慌てた。
「アネット、その話は」
それをアネットは言葉でさえぎる。
「ここにお集まりのみなさまは、信頼できる方々ばかりなんでしょ? 包み隠さずお話しするためには、本当のことを話しておいたほうがいいから」
その言葉に一理あると思ったのか、ケヴィンは黙りこんだ。
アネットはにっこり笑い、まだ呆然としている面々を見回す。
「聞きたいことは、何でも聞いてください」
お茶の席から離れた場所にいるカチュアから、元気な質問が飛んだ。
「はい、はーい! お二人はどうやって出会ったんですか? 同じ邸に住んでたとはいえ、公爵様の跡取りと下働きとじゃ顔を合わせる機会も普通ないと思うんですけど」
「カチュア! 立ち入ったこと聞き過ぎ!」
全員にお茶を配って戻ってきたフィーナが、カチュアのそばに寄ってたしなめる。
けれどフィーナのそうした気遣いは不要だったようで、アネットはけろりと答えた。
「真夜中に酔っぱらって帰ってきたケヴィン様を介抱してたら、押し倒されちゃったの」
「ア、アネット……!」
ケヴィンがうろたえて止めようとするけれど、アネットは構わず話し続ける。
「正確には、ベッドに倒れ込んだケヴィン様に巻き込まれたんだけど。誰と間違えたのか知らないけど、ベッドの上に押さえ付けられてキスされたんです」
「誰とも間違えていない! それに確か君は、あの夜は何もなかったと」
「キスくらいじゃ“何かあった”うちに入らないですって。正体ないくらいに酔っぱらってたけど、ホントにまるっきり記憶にないの?」
ケヴィンはしどろもどろになる。
「いや、てっきり夢だったのかと……というか、人前でこういう話はやめないか」
するとアネットは苦笑した。
「“こういう話”をしにきたんですってば。このお茶会の趣旨ってそういうことですよね?」
「ええ、まあ……」
尋ねられて、シュエラは微妙な笑みを浮かべながら言葉をにごす。
「……どういうことだ?」
話を呑みこめないでいるケヴィンに、アネットは説明した。
「簡単に言えば“さらし者の刑”を甘んじて受けるようにってことです。どうしてケヴィン様が王子様に──っと、間違えた。国王陛下に打ち明けられなかったのかっていう事情を含めて暴露することで、陛下に許していただこうってことなの」
シグルドは顔をしかめ、ぼそっとつぶやいた。
「暴露されたからといって、許せるとは限らないのだが」
シグルドの耳元に顔を寄せ、シュエラはこそっとささやく。
「多分ですけど、お茶会の終わりには許す許さない以前の問題になっているかと思います」
シュエラの意味不明な言葉に、シグルドは首を傾げる。シュエラはあえて説明をせず、アネットに尋ねた。
「それはいつ頃の話なんですか?」
「ケヴィン様が十六歳の時ですから、もう十五年前のことになります」
「え? そんな昔からお付き合いしてたのですか?」
リィナが驚きの声を上げると、アネットはふふっと笑った。
「お付き合いはしてなかったです。いろんなことが重なって、縁が切れなかっただけでして。あたしを押し倒してすぐケヴィン様はぐっすり眠り込んだんで、起きないうちに逃げちゃえばあたしのこともバレないかな~って思ったんですが、うっかりケヴィン様のベッドに落し物をしてしまって、それをケヴィン様が拾って届けてくれたことでバレちゃって……」
~この辺りのことは、アルファポリスさん、小説家になろうさんにて公開中の別作品「らっきー♪」にて書いておりますので、詳しい話は割愛いたします~
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