32 / 36
第四章 全部まとめて解決します!
32、イベント開始前の一騒動 後編
しおりを挟む
はぐらかされたままでいてくれるといいんだけどな、と考えてたんだけど、そう都合よく事が運ぶわけもなく。
ヘマータサマたちと別れてすぐ、五十代くらいのディオファーンの貴族が面と向かって言ってきた。
「舞花様、そちらのお方の素性をお聞かせ願いたい」
うーん、どうごまかそうかな。なんて考えていたら、背後からあたしに代わって答える声が聞こえた。
「ラジアル・フェルミオン、余の弟である」
あーあ、言っちゃった。もうしばらくはぐらかしておきたかったんだけど。でもまあ、嘘を言えなければはぐらかすこともできないのが陛下のいいところだもんね。何とか収拾つけましょう。
ざわめきがひときわ大きくなった。
「弟ということは、やはり陛下のお父上は生きておいでで……!?」
「陛下は──いえ、前国王陛下は我々を騙したのですか!?」
「ソルバイト陛下はそれをご存じで今まで黙っておられたのですか!? だったとしたら、何故今まで我らをあざむいてこられたのですか!? 王家は我々貴族を何だと思っているのですか!?」
陛下に非難が集中しはじめる。主に騒いでいるのは五十代以上。二十二年前の次期国王を巡る争いに関わっていたと思われる人たちだ。やれやれ。自分たちのしたことを棚に上げて。
場が緊迫してくる中、あたしはわざとのんびり言った。
「前国王陛下がソルバイト陛下のお父上を亡くなったことにしたのは、仕方のないことだったとあたしは思うんですけど。誰が次期国王陛下にふさわしいかで貴族のみなさんが争って、国が分裂しかけたそうですから」
数人の貴族が口ごもる中、一人が憤慨して言ってきた。
「舞花様、口を挟まないでいただきたい。陛下の婚約者とはいえ、ディオファーンの貴族でないどころかこの世界の人間でもないのですから」
「あたしもそう思ってました。部外者が口を出すべきじゃないって。でも、あたしは関係ないって自分に言い聞かせるのも限界だったんです。ディオファーンのことを思って身を引こうとした方が、どうして表向き死んだことにされて軟禁生活を送らなくてはならないんです? その方のお子として生まれただけのラジアル様が、何故存在しない者として扱われなければならないんです? それもこれも、ディオファーンを混乱に陥れようとしたあなた方貴族のせいでしょう?」
「失敬な! 我々はディオファーンの存続と発展を願って」
あたしは怒鳴り声をさえぎれるよう声を張り上げた。
「だった何故、次期国王には誰がふさわしいかと言い出して、王家を無視して争いを始めたんです!? その争いが、当時幼かったソルバイト陛下から両親を奪ってしまったことに、心を痛めた方はいらっしゃらないんですか!?」
「う、奪ってなどいない! 現に、ソルバイト陛下のご両親はご存命だというではないか!」
あたしは深呼吸して、気を落ち着けた。
「死んだも同然だったんです。ソルバイト陛下は、即位するまでご両親が生きておられるとは知らなかったんですから。それに、生きているとわかったからといって、再会して会えなかった歳月を埋められたわけではありません。こう聞いても、王子派と王孫派に分かれて争ったことに罪悪感を抱かないんですか?」
「無礼な!! 我が国と関わりのないよそ者のくせに!」
「そのよそ者の方が、よっぽどかディオファーンのことを考えてます。先ほどから怒鳴り声を上げているあなた、国賓の皆様方を前にそのように騒いだら、あなたご自身だけでなくディオファーンの恥にもなると思うんですけど」
貴族の男性は、はっとして辺りを見回し、顔を赤くする。
「おっ、おまえが先に始めたことではないかっ! ラジアル様をこの場にお連れしたのはおまえであろう!?」
「ラジアル様を今日の催しに招待するよう勧めたのはあたしですが、実際に招待したのは陛下です」
貴族たちの視線が、あたしの後ろにいる陛下に集まる。陛下はあたしの横に並ぶと、貴族たちだけでなく王子王女方も見渡して悠然と話し始めた。
「舞花が言ったのだ。誰が国王になるべきかに口を出したい者が大勢いるなら、いっそみなに選んでもらったらどうかと」
大広間がざわめきで騒々しくなる。その中でもよく響く声で、陛下は話を続けた。
「余と父と弟を見比べて、誰を国王と仰ぎたいか選ぶとよい」
「へ、陛下まで何をふざけたことを……!」
陛下は真顔になって言った。
「ふざけてなどおらぬ。ラジアルか父のほうが国王にふさわしいという意見が多数を占めるなら、余はその結果を受け入れ、王位を譲ろう。そうして選ばれた国王になら、そなたたちも異論はあるまい。友好国も、我が国の国王に誰が選ばれるか、非常に気になるところであろう。我が国の貴族たちが誰を国王に選ぶか、注目しているがいい」
一部は文句を言い続けたけど、貴族たちの多くが押し黙った。賢明な人には先手を打たれたってわかるんだろうね。不意打ちの国王選定。友好国の代表たちというギャラリーあり。他の貴族と共謀して派閥を作る時間はないし、選定を見守る重要人物もたくさんいる。ふさわしくない人を国王にふさわしいと言えば、自身の評価を落とすことになる。つまり、誰もが国王と認める人を選ぶしかないっていうわけ。
陛下は背後の侍従に合図する。一度引っ込んだ侍従が案内してきたのは、陛下のご両親だった。
「父も本日の催しに招待した。選ぶにしても、見比べられたほうがよかろうと思ってな。これに納得できない者は、催しが終わってから文句を言いに来るといい。今は友好国の王子王女たちと親交を深めるための時だ。宗主国の貴族として恥ずかしくない態度で彼らをもてなしつつ、我が婚約者舞花の趣向を凝らしたゲームを楽しんでもらいたい」
これが開催のあいさつとなった。友好国の王子王女たちから拍手が起こって、ディオファーンの貴族たちもそれに倣わざるを得なくなる。
不満を残しつつも会場内は落ち着いてきたので、あたしは紙を巻いて作った即席メガホンを使って、ゲームのルール説明を始めた。
ヘマータサマたちと別れてすぐ、五十代くらいのディオファーンの貴族が面と向かって言ってきた。
「舞花様、そちらのお方の素性をお聞かせ願いたい」
うーん、どうごまかそうかな。なんて考えていたら、背後からあたしに代わって答える声が聞こえた。
「ラジアル・フェルミオン、余の弟である」
あーあ、言っちゃった。もうしばらくはぐらかしておきたかったんだけど。でもまあ、嘘を言えなければはぐらかすこともできないのが陛下のいいところだもんね。何とか収拾つけましょう。
ざわめきがひときわ大きくなった。
「弟ということは、やはり陛下のお父上は生きておいでで……!?」
「陛下は──いえ、前国王陛下は我々を騙したのですか!?」
「ソルバイト陛下はそれをご存じで今まで黙っておられたのですか!? だったとしたら、何故今まで我らをあざむいてこられたのですか!? 王家は我々貴族を何だと思っているのですか!?」
陛下に非難が集中しはじめる。主に騒いでいるのは五十代以上。二十二年前の次期国王を巡る争いに関わっていたと思われる人たちだ。やれやれ。自分たちのしたことを棚に上げて。
場が緊迫してくる中、あたしはわざとのんびり言った。
「前国王陛下がソルバイト陛下のお父上を亡くなったことにしたのは、仕方のないことだったとあたしは思うんですけど。誰が次期国王陛下にふさわしいかで貴族のみなさんが争って、国が分裂しかけたそうですから」
数人の貴族が口ごもる中、一人が憤慨して言ってきた。
「舞花様、口を挟まないでいただきたい。陛下の婚約者とはいえ、ディオファーンの貴族でないどころかこの世界の人間でもないのですから」
「あたしもそう思ってました。部外者が口を出すべきじゃないって。でも、あたしは関係ないって自分に言い聞かせるのも限界だったんです。ディオファーンのことを思って身を引こうとした方が、どうして表向き死んだことにされて軟禁生活を送らなくてはならないんです? その方のお子として生まれただけのラジアル様が、何故存在しない者として扱われなければならないんです? それもこれも、ディオファーンを混乱に陥れようとしたあなた方貴族のせいでしょう?」
「失敬な! 我々はディオファーンの存続と発展を願って」
あたしは怒鳴り声をさえぎれるよう声を張り上げた。
「だった何故、次期国王には誰がふさわしいかと言い出して、王家を無視して争いを始めたんです!? その争いが、当時幼かったソルバイト陛下から両親を奪ってしまったことに、心を痛めた方はいらっしゃらないんですか!?」
「う、奪ってなどいない! 現に、ソルバイト陛下のご両親はご存命だというではないか!」
あたしは深呼吸して、気を落ち着けた。
「死んだも同然だったんです。ソルバイト陛下は、即位するまでご両親が生きておられるとは知らなかったんですから。それに、生きているとわかったからといって、再会して会えなかった歳月を埋められたわけではありません。こう聞いても、王子派と王孫派に分かれて争ったことに罪悪感を抱かないんですか?」
「無礼な!! 我が国と関わりのないよそ者のくせに!」
「そのよそ者の方が、よっぽどかディオファーンのことを考えてます。先ほどから怒鳴り声を上げているあなた、国賓の皆様方を前にそのように騒いだら、あなたご自身だけでなくディオファーンの恥にもなると思うんですけど」
貴族の男性は、はっとして辺りを見回し、顔を赤くする。
「おっ、おまえが先に始めたことではないかっ! ラジアル様をこの場にお連れしたのはおまえであろう!?」
「ラジアル様を今日の催しに招待するよう勧めたのはあたしですが、実際に招待したのは陛下です」
貴族たちの視線が、あたしの後ろにいる陛下に集まる。陛下はあたしの横に並ぶと、貴族たちだけでなく王子王女方も見渡して悠然と話し始めた。
「舞花が言ったのだ。誰が国王になるべきかに口を出したい者が大勢いるなら、いっそみなに選んでもらったらどうかと」
大広間がざわめきで騒々しくなる。その中でもよく響く声で、陛下は話を続けた。
「余と父と弟を見比べて、誰を国王と仰ぎたいか選ぶとよい」
「へ、陛下まで何をふざけたことを……!」
陛下は真顔になって言った。
「ふざけてなどおらぬ。ラジアルか父のほうが国王にふさわしいという意見が多数を占めるなら、余はその結果を受け入れ、王位を譲ろう。そうして選ばれた国王になら、そなたたちも異論はあるまい。友好国も、我が国の国王に誰が選ばれるか、非常に気になるところであろう。我が国の貴族たちが誰を国王に選ぶか、注目しているがいい」
一部は文句を言い続けたけど、貴族たちの多くが押し黙った。賢明な人には先手を打たれたってわかるんだろうね。不意打ちの国王選定。友好国の代表たちというギャラリーあり。他の貴族と共謀して派閥を作る時間はないし、選定を見守る重要人物もたくさんいる。ふさわしくない人を国王にふさわしいと言えば、自身の評価を落とすことになる。つまり、誰もが国王と認める人を選ぶしかないっていうわけ。
陛下は背後の侍従に合図する。一度引っ込んだ侍従が案内してきたのは、陛下のご両親だった。
「父も本日の催しに招待した。選ぶにしても、見比べられたほうがよかろうと思ってな。これに納得できない者は、催しが終わってから文句を言いに来るといい。今は友好国の王子王女たちと親交を深めるための時だ。宗主国の貴族として恥ずかしくない態度で彼らをもてなしつつ、我が婚約者舞花の趣向を凝らしたゲームを楽しんでもらいたい」
これが開催のあいさつとなった。友好国の王子王女たちから拍手が起こって、ディオファーンの貴族たちもそれに倣わざるを得なくなる。
不満を残しつつも会場内は落ち着いてきたので、あたしは紙を巻いて作った即席メガホンを使って、ゲームのルール説明を始めた。
0
お気に入りに追加
1,659
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。

側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる