国王陛下の大迷惑な求婚

市尾彩佳

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第二章 王子王女 襲来

13、報復、まいります。

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 きらめくシャンデリアに照らされた、テニスコート三面はゆうにありそうな大広間。
 今夜の歓迎会に出席した人たちが窮屈しないだけの広さがあるのに、彼らはあえて押し合いへし合い、一カ所に集まっていた。
 その中心にいるのはあたし(と陛下)。あたし(の姿)をより近くで見たいと押し合いへし合いする様子からして、あたしの独擅場は整ったようだ。

 近くにいる王女の一人が、ちょっとすねるように話しかけてきた。
「ずっとお見かけいたしませんでしたが、どちらにおいででしたの? 取り次ぎを何度頼んでもご不在と聞き、いつお会いできるかとやきもきしてましたのよ」

 待ってましたその質問! ──とはしゃいだりせず、あたしは袖で口元を隠し、精一杯慎ましやかに答えた。
「その、隠れておりました……。わたくしが不在の折りに、お部屋に押し入ってきた王女様方がいらして、わたくしの宝物を勝手に触り、乱暴に扱って……あぁ、恐ろしい……」

 どこの箱入り娘だと自分で自分にツッコミながら、あたしはよよよと泣き真似をしてみせる。芝居臭くてシラケさせてしまうかもとひやひやしたけど、ありがたいことに、王子王女方は三人を除いた全員が同情的だった。
 除いた三人とは、もちろんバカ姫たちだ。人垣の外れで、慌てふためいたように何かを言い合ってる。

 王子の一人に話しかけられ、あたしはさりげなくバカ姫たちに向けていた視線をそちらに戻した。
「不在時に押し入るとは! とんだ不作法者ですね」
 別の王女が気遣わしげに訊ねてくる。
「その宝物は無事でしたの?」

「それが……」
と、言葉を濁せば、王子王女方は痛ましげに眉をひそめた。
「おかわいそうに……」

 他の王子王女も憤慨しながら口々に言った。
「誰ですか? そのようなひどいことをしたのは」
「ディオファーンに招かれた王女の中にそんな無作法な方がいらっしゃるなんて、同じ王女として恥ずかしい限りですわ」
「その王女たちには罰を与えるべきです」
「その通りですわ。国へ追い返して、ディオファーンへの立ち入りを禁止すべきです。もちろん、我が国にも立ち入っていただきたくないですわ」
 当人たちがこの場にいると知ってか知らずか、言いたい放題責め立てる。
「それでは生ぬるい! 婚約者殿がおられたら危害を加えていたかもしれないのですぞ。法に則って裁くべきです!」
 そうだそうだとあちこちから声が上がる。

 王子王女たちがこんなにも同情的なのは、宗主国の国王の婚約者だからということと、初めて見る『美』に面食らってるからだとわかってる。
 あたしがこの世界のおめかしをしたところで、「この程度の女が陛下の婚約者? 信じられない」と内心笑われ、あたしが宝物を壊されたと言ってもほぼスルーされたことだろう。
 もちろん、花魁衣装に身を包んだからといって、あたしが絶世の美女になったわけじゃない。ただ、彼らが今までに見たことのない『美』をあたしが持ち出したために、彼らには美醜の判断基準となるものがない。ま、これもあたしの作戦なんだけどね。ここにお集まりの皆さんが判断基準を持ち合わせていたら、あたしに勝ち目はなかっただろう。

 ──って、自分をこき下ろすようなことをつらつら考えてると、怒気をはらんだ叫び声が響いた。
「何が宝物よ! あんなすけすけでいかがわしいものを!」
 見れば、バカ姫のうちの一人が目と眉を吊り上げて肩を怒らせていた。
 やった。引っかかったわね。自分から名乗りをあげてくれてありがとう。

 あたしはちらりと横目を向けて、哀れを誘うように弱々しく言った。
「あなたがたでしたの……わたくしの宝物を引き裂いたのは」
 あんたたちの顔を知ってるのは使用人であるあたしであって、陛下の婚約者は知らないはずだからね。こちらから仕掛けるわけにはいかなかったのよ。

 墓穴を掘ったことに気付いたのだろう。バカ姫は怯んで口を引き結んだ。
 でももう遅い。非難の目が三人に集中する。二人は怯えて、叫んだバカ姫の陰に隠れた。

 叫んだバカ姫はひっこみがつかないのだろう。自己弁護をわめき立てる。
「お部屋に押し入ったりなんかしてないわ! 留守番をしていた侍女がわたくしたちを招き入れたのよ! ちょっと触ったくらい何よ! それなのにあの侍女が騒ぎ立てて引っ張るから破れたのよ!」
 その強気に押されてか、いったんは隠れたバカ姫たちも、わめき立てたバカ姫の両脇に立って睨んでくる。

 ……ふーん。反省の色なし、謝罪する気もまったくないってことね。
 あたしはちゃんと入室を拒んだし、ブラウスを返せと言ったのに無視して乱暴に扱ったのはあんたたちだってのに。

 じゃあ遠慮なく、報復まいります。

「あなた方が侍女と呼んでいるあの者は、わたくしの心を一番よく知っている者です。わたくしがあの宝物をどれだけ大切にしていたか知っていましたから、必死に取り返そうとしたのです」
 嘘は言ってない。あたしが一番あたしのことを知ってるからね。

 バカ姫たちが、自分は間違ってないと思っているのが、吊り上げた目と眉と肩からありありとわかる。
 あたしはその自信にトドメを刺した。
「わたくしはあの宝物を寝室に置いていたのです。それをあの者がわざわざあなた方に見せたはずがありません。ということは、あなた方はわたくしの寝室にまで入ったのでしょう? 百歩譲ってあなた方が部屋に招き入れられたことにしたとしても、わたくしが不在のさなかに寝室にまで入り込むなんて、あなたがたのほうがいかがわしいのではありませんか?」

 いかがわしいという言葉には、道徳上よろしくないという意味の他に、怪しいといった意味があるよね。それを逆手に取って言ってみたんだけど、自動翻訳がどう翻訳してくれたかはわからない。

 けど、「寝室にまで入り込んだ」のを暴露することに効果があることは、事前に確認済みなんだ。
 王侯貴族となれば、居室には他人を招いても、自分の寝室に滅多なことでは他人を入れないし(お世話してくれる人を除く)、他人の寝室にもまず入らない。極めて個人的な空間なので、プライベートを守るためにそういうマナーが存在する。
 つまり、バカ姫たちがしたことは、マナー違反もはなはだしいということだ。

 それを聞いた王子王女方はざわついた。
「寝室にまで入ったって?」
「これほどまでにマナー知らずだなんて、王女でありながら信じられませんわ」
「これはディオファーンへの公式訪問なんだぞ。あの王女たちの国は常識知らずを国の代表として送り込むほど厚顔無恥なのか?」

 自分たちがやりすぎたのだということを、バカ姫たちはこの段になってようやく気付く。
 自国までも非難されて、三人とも反論もなく青ざめた。

 そう。王女を名乗るからには、自国の名前を背負っているということ。
 今回の訪問はお遊びなんかじゃない。バカ姫たちは、国の代表としてここにいるのだという自覚に欠けすぎていた。そのせいで、自国の評判までも傷付けたというわけだ。

 報復のための下準備は整った。あとは時が経つのを待つだけ。

 あたしはふらっと陛下に寄りかかった。
「舞花、疲れたか?」
 色気のある低い声で囁かれ、あたしはゾワゾワしながらもそれをおくびに出さず答えた。
「はい……このような華やかな場には不慣れですので……」
「それでは部屋に送ろう」
「歓迎会に水を差してしまって申し訳ありません。皆さまは、このあとごゆるりとお楽しみください」
 そう言ってから陛下にうなずくと、頭がくらっとして景色が変わる。


 陛下が瞬間移動で送ってくれたのは、ディオファーン王家の居住区にある一室だ。花魁衣装のためだけに使わせてもらってる。
 あたしの部屋でも十分な広さがあるんだけど、また誰かが乱入してきて制作途中の衣装を見られでもしたら、計画が水の泡になっちゃうもんね。大勢の人をあっと驚かせるために、念には念を入れましたよ。
 部屋の入口には鍵をかけっぱなしで、出入りはフォージ(とごくたまーに陛下)の瞬間移動のみ。各職人さんたちのところから話が漏れないよう極秘で作成してもらい、ここで皆の作品を身につけさせてもらったんだ。

 そして、瞬間移動の直後、倒れないように足を踏ん張ったあたしを、デザイナーさんやお針子さんたちがわっと取り囲んだ。
「大成功でしたね!」

「フォージ様が大広間を投影してくださったので、ばっちり拝見いたしました!」
 そう言ったお針子さんが、部屋の隅を振り返る。
 お針子さんが振り返った先には、フォージが椅子に座って疲れ気味に微笑んでいた。

 大活躍だったもんね。この部屋に出入りする人たちの送迎から、衣装や小物を作るためのあたしの記憶の投影。成果を直接見られない人たちのために大広間の光景も投影してくれたみたいだ。頑張ってくれた人たちにあたしの勇姿(?)を見てもらえないのは心苦しかったので、本当にありがたい。

「フォージ、ありがとうね」
 あたしがそう声をかけると、デザイナーさんがフォージに近寄って言った。
「眠そうでいらっしゃいますね。わたしたちは明日帰れればいいので、もうお休みいただいてよろしいですよ。お部屋にお戻りになるのもつらいようでしたら、よろしければ隣の寝室のベッドでお休みになってください。あとからわたしたちもご一緒させていただきますけど」
 思わぬ申し出に、フォージは恥ずかしそうに頬を赤らめる。それから首を横に振って、ふわりとその場から消えた。

 これ、思わぬ副産物だったのよね。
 みんな、最初はフォージのことを怖がってた。だけど、花魁衣装の投影を見たとたん職人魂に火が付いたのか、フォージの能力に対する恐れをすっかり忘れて「もう一度見せて」の大合唱。着物の図柄を紙に描き出すお針子さんなんか「この映像をわたしの頭の中に直接くださいませんでしょうか!? ああありがとうございます! 見比べる手間が省ける分、写し取りがはかどります!」と、あっさりフォージの能力を受け入れてくれたのよね。
 そんなふうにフォージの能力を体験した人たちが、平気を通り越して高いテンションでフォージと仲良くしてくれたおかげで、フォージを敬遠する人が減ってきている。

 フォージが部屋に帰ると、デザイナーは振り返ってパンッと手を合わせた。
「さあさ! 名残惜しいですけど、舞花様も疲れてしまいますので衣装を解きましょう」
「はーい!」
 デザイナーさんもお針子さんたちも疲れてるだろうに、元気よく声を出して花魁衣装を解いていってくれる。あたし一人じゃ着ることはもちろん脱ぐこともできないから助かるわ。

 でも本当に名残惜しい。
 この五日間ほぼ不眠不休で作ってもらったものの、使ったのはほんの十数分のこと。あれ以上いたらボロを出しかねないから、早々に退場するしかなかったのよね。
 その上、この姿をすることは二度とない。
 かんざしや櫛、打ち掛けの中のものまではまた何かあったら使い回せるかもしれないけど、打ち掛けの使い回しはできないだろう。記事の表面をほとんど刺繍で埋め尽くした打ち掛けは、歓迎会に出席していた人たちの目に焼き付いているだろう。公式の場で同じ衣装を着ていると気付かれれば、一着しか持っていないのかと侮られることになる。バカ姫たちとの勝負が完全に決着するまで二度と使えないし、決着がついたらあたしが公式の場に出る理由がなくなっちゃうのだ。

 そう考えると申し訳なくて、あたしは謝った。
「ごめんなさい……あんな短時間のために、こんなに手の込んだ衣装を作ってもらって」
 すると、デザイナーさんがにこやかに答えた。
「豪華なお衣装は、だいたいそんなものですわ。一度の機会のために贅をこらして作り上げられ、その後はたいてい衣装部屋の奥にしまわれて忘れ去られるものなのです。ですが、舞花様は目的を果たしたらお衣装はわたしどもにくださると仰ってくださったではありませんか。あのいまいましい姫君たちがお帰りになったら、『国王陛下のご婚約者のお衣装』を店内に飾るつもりでおります。我が国風の図柄を使えば、ドレスに取り入れることもできます。きっと流行りますわよ」

 お針子さんたちも、はしゃいだ声を上げる。
「そうしたらお店の売上げが倍増ですね!」
「わたしたちのお給料も上がるのかしら?」
「これっ! 舞花様の前でそのようなはしたないことを!」
「ごめんなさーい!」
 全然悪いと思ってない調子で謝るものだから、ついつい笑ってしまう。
「約束の代金の他に特急料金もつけてもらうよう宰相サマに言っておきますので、お針子の皆さんにもボーナス弾んであげてくださいね」
「もちろんですわ」
 デザイナーさんの二つ返事に、お針子さんたちから「わぁ」と歓声が上がる。
 特急料金とかボーナスは、自動翻訳で通じたみたいでよかった。

 ──楽しそうであるな。
 急に音なき声が聞こえてきて、あたしはふっと宙に視線をさまよわせる。
──あ、陛下。さっきはごめんなさい。大事な公式の場で騒ぎを起こしちゃって。
陛下が気配を飛ばしてきてると知るとデザイナーさんやお針子さんたちがかしこまっちゃうので、あたしは心の中から話しかける。

 国の公式行事を使って復讐なんて、よく許してくれたと思う。許してもらったからといって、謝らなくていいわけじゃない。

 陛下にとっても、宗主国の国王としての威厳を他国に知らしめるための場だったはずなのに。
 ──かまわぬ。そなたを守りきれなかった詫びだ。皆の前で舞花を瞬間移動させたことで【救世の力】を知らしめることができたし、それにモリブデンも余に自国の王女を嫁がせようという属国たちのもくろみを牽制できたと言っていたしな。
 だからあたしの計画を聞いても止めなかったのか、宰相サマ。いや、最初からわかってたことだけどさ。

 むすっとすると、陛下が面白がる気配が伝わってきた。
 ──して、そなたを害した者たちをやりこめてすっとしたか?
──……うん。くだらないことにつき合わせちゃってごめんね。
 ──くだらないことなどない。そなたが故郷から持ってきたものをどれだけ大事にしているか、知っているからな。
──ありがとう──でも、あたし着替えの最中なの。覗かないで。
 バチッ
 ──痛ッ! 
 ビンタを張るイメージを心の中で作ると、陛下は痛そうな声を上げて遠ざかっていった。
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