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第二章 王子王女 襲来
10、王子様王女様方がやってきた!
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翌日。お城は上を下への大騒ぎになった。
客室のあるところが王子様王女様方だらけになるので、一時的に(←ここ大事!)王族の居住区に部屋を移してもらったけど、客室はすぐ隣で廊下で繋がっているので、部屋にいても喧噪が聞こえてくる。
「お部屋に荷物が入り切りません。もっと広いお部屋を王女様はご所望です」
「部屋の大きさは皆様同じです。部屋に入りきらないお荷物はお返しください。瞬間移動装置がございますから、必要なものをすぐ取りに行っていただくことができます」
「侍女の部屋が足りません!」「侍従の部屋もだ!」
「お付きの方は四名までと事前にお伝えしてあったはずです! 余分な方々には帰ってもらってください!」
「我が国の王子殿下の部屋が一番端とはどういうことですか!? 殿下はご立腹です!」
「王子殿下ご自身がくじを引いたではありませんか! 殿下のクジ運の悪さを恨んでください!」
くじっていうのは、あたしの提案。部屋割りでテルミットさんやロットさんが困ってたので、「くじ引きにしちゃえば平等って言えるんじゃない?」と。くじ自体はこの世界にも存在してたんだけど、それを王族の部屋割りに利用するという発想はなかったみたい。すごく驚かれたけど、それなら恨みっこなしだろうと即採用してくれた。
何しろ、各国の代表がお城に滞在するのはこの国の歴史上初のことだそうで、あらゆることが手探り状態なのだ。
瞬間移動装置というもののおかげで、ディオファーンとその属国は一瞬で行き来できてしまう。用が済めばすぐ装置を使って帰国できるため、各国代表がこの城に宿泊することはごくまれで、一度に大人数が泊まることもなかったのだそうだ。
くじ、いい案だと思ったんだけど、やっぱり揉めるんだなぁ……属国をすべて平等に扱うというこの国の精神には賛同するけど、序列がなければないで面倒ごとになるのね。
にしても、事前に部屋の広さやお付きの人の定員を伝えてあったはずなのに、持って(連れて)きちゃえばごり押しできると思ったのかな。
王子様王女様方とそのお付きの人たちが他にもあれこれ要求するもんだから、お城の人たちはてんやわんや。
手伝いたいところだけど、お城の勝手を知らないあたしが手伝っても邪魔になるだけだろうし、不本意ながら『国王陛下の婚約者』ということになってるあたしがうろうろしたら迷惑だろう。
なので、フォージと一緒に部屋にこもって、おとなしく字の勉強をしてた。
部屋の外から大声が聞こえてくるたびに、フォージはびくびくと身をすくめる。
十歳にして初めて外出した(とこの間聞いた。びっくり!)フォージにはキツいだろうと、モリブデン様もあたしも自宅に帰ることを勧めたんだけど、フォージは帰ろうとしなかった。
あたしにくっついて離れないので、じゃああたしもフォージの家へと言ったら、今度は陛下だけでなくモリブデン様も反対する。曰く「おまえのせいで他国の者でも陛下と結婚できるかもしれないという夢を持たせてしまったのだ。その責任を取って、各国を牽制するためにおまえには留まってもらわなければ困る」だそうだ。
それを言うなら、あたしと結婚できるかもしれないという夢を陛下に見させたのはどちらさんで、その責任はとってもらえるんでしょうね? あたしは陛下と結婚することはもちろん、この国に骨を埋めるつもりもないんだったら。
心の中でぷんすか怒ってると、フォージが心配そうな顔をしてのぞき込んできた。
フォージは能力をコントロールすることはほぼできるんだけど、近くにいる人が心の中で強く思ったことだけはどうしても聞こえちゃう(感じちゃう?)みたいなのよね。
この子を目の前にして「日本に帰りたい」なんて思うべきじゃなかったな。
あたしはフォージの顔を覗き込んで安心させるように微笑んだ。
「フォージの問題を放り出して日本に帰ったりしないよ。フォージがあたしの手を必要とする限り、岩にしがみついてでもこの国にとどまるから」
フォージはほっとしたような悲しそうな顔をする。
能力を使わなくてもひとの心に敏感だからか、フォージは人一倍思いやりがあるのよね。故郷に帰れないあたしの、埋められない寂しさにも気付いてるに違いない。
「心を読まないって約束してくれたフォージに嘘はつかないよ。──日本にいる人たちのことを思うと、寂しくてたまらなくなる。でも、フォージがいてくれるから、前ほどつらくないの」
フォージの存在には本当に助けられてる。
時と場合や程度にもよるけど、頼られるということはひとに力を与えてくれることあるよね。どんなに頭をひねっても日本に帰る方法がわからなくて凹んでたあたしは、フォージを手助けすることで気力を取り戻しつつある。フォージがあたしを頼るだけじゃない。あたしもフォージに頼ってる部分があるんだ。
だからなのかな。フォージがあたしのそばを離れたがらなかったの。
あたしは隣の席に座るフォージの頭を撫でた。
「フォージは優しいね。ありがとう。フォージがいてくれて本当によかった」
フォージは嬉しそうにはにかむ。
そんなところに陛下の『声』が聞こえてきた。
──舞花! 余は? 余がいてくれてよかったとは思わないのか?
この場にいない人に向かって、あたしはきっぱりと言った。
「思わない」
いないほうがよかったとまで言わないのは、せめてもの情け。
すると、いつもの情けない声が聞こえてきた。
──舞花~!
嘆く陛下にあたしは容赦なく言った。
「陛下は各国の王子様王女様方の出迎えに忙しいんでしょ。今日くらいは専念してください」
そう、陛下は今、瞬間移動装置を使ってやってくる王子様王女様方とそのお付きの人たちを、儀式の間でお出迎え中。本体と気配はそれぞれ独立してるらしいけど、自分で言ったことなんだから、自分で責任取ってもらいたいのよね。
ことの発端は、あたしがこの国にトリップしてくる二日前のこと。この国ディオファーンと属国が、その関係を締結し直すために三年に一度行われているという【宣誓の儀】というものが行われた。その際に、リグナシカという国の王子が、ディオファーンを侮辱することを言ってのけたのだそうだ。その後、病床にあったリグナシカ王が謝罪に来ていろいろあったんだけど、最終的に王子と陛下が親交を深めるということで話に決着がついた。
ところが、その話が他の国々にも伝わり、リグナシカの王子だけがディオファーンに招かれるのはズルいという話が出てきて、ならば他の国もどうぞと言ったら、あれよあれよという間にすべての属国の王子王女を招待することになっちゃったというわけ。
陛下の安易な発言がお城中の人をてんやわんやにしたんだから、きっちり王子様王女様方をもてなしてもらいたいと思うのよね、うん。
一人うなずいていると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
この部屋は食事室なんだけど、この部屋のドアじゃない、隣の居間のドアが叩かれてる音だ。
間を置かずにすぐまた叩かれるので、あたしはフォージと顔を見合わせた。
なんだろう。今日はテルミットさんを含め、お城の人はみんな忙しいから、食事でも軽食でもない時間に誰かが来る予定ないのに。
「ちょっと見てくるね。フォージは念のため、瞬間移動でお部屋に戻っててくれる?」
フォージは心配そうな顔をしたけれど、あたしがもう一度促すと、ふわりと空気を揺らして姿を消した。
瞬間移動の仕方一つ取っても、陛下とフォージでは全然違うな。陛下は竜巻になりそうなくらい乱暴なんだもん。もうちょっと繊細にやってほしい。
あ、忘れるところだった。
「陛下もいい加減戻ってください」
バチッ
久しぶりにやったせいか、陛下はモロに食らったらしく、痛そうにした気配がよろよろと去っていく。
あたしもこういう暴力めいたことはしたくはないんだけどね。陛下が近くにいると余計な騒ぎを起こしそうで心配なんだ。お城のみんなが忙しくしている今は、面倒をかけたくない。
ドアを叩く音がひっきりなしに聞こえてくる。はいはいはい。急かさなくても今行きますよ。
あたしは隣の居間に入り、廊下とつながっているドアに近寄った。
「どちらさまですか?」
すると、相手からこんな言葉が返ってくる。
「こちらはディオファーン王ソルバイト陛下のご婚約者のお部屋とうかがっておりますが、ご婚約者はおいででしょうか?」
違います。お引き取りください──なんて言ったら、国際問題に発展しそうでコワいな。ここがあたしの(借りてる)部屋だと教えた人が罪に問われるようなことがあっても困るし。
あたしは仕方なくこう返事した。
「はい、いますけど……」
すると、居丈高な言葉が返ってきた。
「ドアをお開けなさい。アンローダー王女コンディータ様、トピード王女フェロー様、ロニッケル王女カーリン様が、ソルバイト陛下のご婚約者に面会を求めます」
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「侍女の部屋が足りません!」「侍従の部屋もだ!」
「お付きの方は四名までと事前にお伝えしてあったはずです! 余分な方々には帰ってもらってください!」
「我が国の王子殿下の部屋が一番端とはどういうことですか!? 殿下はご立腹です!」
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何しろ、各国の代表がお城に滞在するのはこの国の歴史上初のことだそうで、あらゆることが手探り状態なのだ。
瞬間移動装置というもののおかげで、ディオファーンとその属国は一瞬で行き来できてしまう。用が済めばすぐ装置を使って帰国できるため、各国代表がこの城に宿泊することはごくまれで、一度に大人数が泊まることもなかったのだそうだ。
くじ、いい案だと思ったんだけど、やっぱり揉めるんだなぁ……属国をすべて平等に扱うというこの国の精神には賛同するけど、序列がなければないで面倒ごとになるのね。
にしても、事前に部屋の広さやお付きの人の定員を伝えてあったはずなのに、持って(連れて)きちゃえばごり押しできると思ったのかな。
王子様王女様方とそのお付きの人たちが他にもあれこれ要求するもんだから、お城の人たちはてんやわんや。
手伝いたいところだけど、お城の勝手を知らないあたしが手伝っても邪魔になるだけだろうし、不本意ながら『国王陛下の婚約者』ということになってるあたしがうろうろしたら迷惑だろう。
なので、フォージと一緒に部屋にこもって、おとなしく字の勉強をしてた。
部屋の外から大声が聞こえてくるたびに、フォージはびくびくと身をすくめる。
十歳にして初めて外出した(とこの間聞いた。びっくり!)フォージにはキツいだろうと、モリブデン様もあたしも自宅に帰ることを勧めたんだけど、フォージは帰ろうとしなかった。
あたしにくっついて離れないので、じゃああたしもフォージの家へと言ったら、今度は陛下だけでなくモリブデン様も反対する。曰く「おまえのせいで他国の者でも陛下と結婚できるかもしれないという夢を持たせてしまったのだ。その責任を取って、各国を牽制するためにおまえには留まってもらわなければ困る」だそうだ。
それを言うなら、あたしと結婚できるかもしれないという夢を陛下に見させたのはどちらさんで、その責任はとってもらえるんでしょうね? あたしは陛下と結婚することはもちろん、この国に骨を埋めるつもりもないんだったら。
心の中でぷんすか怒ってると、フォージが心配そうな顔をしてのぞき込んできた。
フォージは能力をコントロールすることはほぼできるんだけど、近くにいる人が心の中で強く思ったことだけはどうしても聞こえちゃう(感じちゃう?)みたいなのよね。
この子を目の前にして「日本に帰りたい」なんて思うべきじゃなかったな。
あたしはフォージの顔を覗き込んで安心させるように微笑んだ。
「フォージの問題を放り出して日本に帰ったりしないよ。フォージがあたしの手を必要とする限り、岩にしがみついてでもこの国にとどまるから」
フォージはほっとしたような悲しそうな顔をする。
能力を使わなくてもひとの心に敏感だからか、フォージは人一倍思いやりがあるのよね。故郷に帰れないあたしの、埋められない寂しさにも気付いてるに違いない。
「心を読まないって約束してくれたフォージに嘘はつかないよ。──日本にいる人たちのことを思うと、寂しくてたまらなくなる。でも、フォージがいてくれるから、前ほどつらくないの」
フォージの存在には本当に助けられてる。
時と場合や程度にもよるけど、頼られるということはひとに力を与えてくれることあるよね。どんなに頭をひねっても日本に帰る方法がわからなくて凹んでたあたしは、フォージを手助けすることで気力を取り戻しつつある。フォージがあたしを頼るだけじゃない。あたしもフォージに頼ってる部分があるんだ。
だからなのかな。フォージがあたしのそばを離れたがらなかったの。
あたしは隣の席に座るフォージの頭を撫でた。
「フォージは優しいね。ありがとう。フォージがいてくれて本当によかった」
フォージは嬉しそうにはにかむ。
そんなところに陛下の『声』が聞こえてきた。
──舞花! 余は? 余がいてくれてよかったとは思わないのか?
この場にいない人に向かって、あたしはきっぱりと言った。
「思わない」
いないほうがよかったとまで言わないのは、せめてもの情け。
すると、いつもの情けない声が聞こえてきた。
──舞花~!
嘆く陛下にあたしは容赦なく言った。
「陛下は各国の王子様王女様方の出迎えに忙しいんでしょ。今日くらいは専念してください」
そう、陛下は今、瞬間移動装置を使ってやってくる王子様王女様方とそのお付きの人たちを、儀式の間でお出迎え中。本体と気配はそれぞれ独立してるらしいけど、自分で言ったことなんだから、自分で責任取ってもらいたいのよね。
ことの発端は、あたしがこの国にトリップしてくる二日前のこと。この国ディオファーンと属国が、その関係を締結し直すために三年に一度行われているという【宣誓の儀】というものが行われた。その際に、リグナシカという国の王子が、ディオファーンを侮辱することを言ってのけたのだそうだ。その後、病床にあったリグナシカ王が謝罪に来ていろいろあったんだけど、最終的に王子と陛下が親交を深めるということで話に決着がついた。
ところが、その話が他の国々にも伝わり、リグナシカの王子だけがディオファーンに招かれるのはズルいという話が出てきて、ならば他の国もどうぞと言ったら、あれよあれよという間にすべての属国の王子王女を招待することになっちゃったというわけ。
陛下の安易な発言がお城中の人をてんやわんやにしたんだから、きっちり王子様王女様方をもてなしてもらいたいと思うのよね、うん。
一人うなずいていると、ドアがノックされる音が聞こえてきた。
この部屋は食事室なんだけど、この部屋のドアじゃない、隣の居間のドアが叩かれてる音だ。
間を置かずにすぐまた叩かれるので、あたしはフォージと顔を見合わせた。
なんだろう。今日はテルミットさんを含め、お城の人はみんな忙しいから、食事でも軽食でもない時間に誰かが来る予定ないのに。
「ちょっと見てくるね。フォージは念のため、瞬間移動でお部屋に戻っててくれる?」
フォージは心配そうな顔をしたけれど、あたしがもう一度促すと、ふわりと空気を揺らして姿を消した。
瞬間移動の仕方一つ取っても、陛下とフォージでは全然違うな。陛下は竜巻になりそうなくらい乱暴なんだもん。もうちょっと繊細にやってほしい。
あ、忘れるところだった。
「陛下もいい加減戻ってください」
バチッ
久しぶりにやったせいか、陛下はモロに食らったらしく、痛そうにした気配がよろよろと去っていく。
あたしもこういう暴力めいたことはしたくはないんだけどね。陛下が近くにいると余計な騒ぎを起こしそうで心配なんだ。お城のみんなが忙しくしている今は、面倒をかけたくない。
ドアを叩く音がひっきりなしに聞こえてくる。はいはいはい。急かさなくても今行きますよ。
あたしは隣の居間に入り、廊下とつながっているドアに近寄った。
「どちらさまですか?」
すると、相手からこんな言葉が返ってくる。
「こちらはディオファーン王ソルバイト陛下のご婚約者のお部屋とうかがっておりますが、ご婚約者はおいででしょうか?」
違います。お引き取りください──なんて言ったら、国際問題に発展しそうでコワいな。ここがあたしの(借りてる)部屋だと教えた人が罪に問われるようなことがあっても困るし。
あたしは仕方なくこう返事した。
「はい、いますけど……」
すると、居丈高な言葉が返ってきた。
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