国王陛下の大迷惑な求婚

市尾彩佳

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第一章 フォージ・ヒーレンス

3、気配の正体

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 陛下と同じ能力を持った人が他にもいる……?

 午後のおやつの時間になっても、あたしはそのことについて悩んでいた。
 何で昼食をすっとばしておやつの時間かというと、この国は一日二食で、朝食を作る際に同時に作ったお菓子やパンなどを午後に軽く食べて夕食まで腹を持たせるという文化があるからだ。ガスコンロやましてやIHなどない世界だから、そのほうが合理的だとわかったけどね。三食煮炊きが必要な食事を出すとなると、料理人の負担が大きすぎる。

 それはともかく、うわのそらなあたしと同じソファに座った陛下はびくびくしながら話しかけてきた。
「まだ怒っているのか?」
「ううん、怒ってるわけじゃなくて……」
 話していいものだろうか。陛下とは別の気配を感じたなんて。……嫉妬に狂って大暴れされたら困るな。

 ぴんとくるものがあったのか、隣のソファに座ったフラックスさんが話しかけてきた。
「舞花、何悩んでるの? もしかして【救世の力】関連のこと?」
 フラックス・ハイベロンという名前の中性的なこの男性は、二十七歳という若さで【救世の力】研究の第一人者なのだという。

 あ、説明し忘れてたけど、【救世の力】というのは陛下のようなス○ーカー行為に用いるものではなく、かつてはその力で国が守られたのだという。「あの○トーカーにしか使えなさそうな力でどうやって?」と思う人もいるだろう。
 そこが肝心なところなの。現在確認されている【救世の力】には、とてもじゃないけど国を守るほどの力はない。けれど、この国ディオファーンとディオファーンに忠誠を誓う属国は、諸外国が【救世の力】の伝承を恐れることによって、侵略から守られている。【救世の力】に伝承で語られているほどの威力はないと知れたら一大事だ。良質な金属の採れる山(というか、巨大な柱みたいなもの。円筒状に天高く伸び、その頂は雲や霞みに隠れて確認できない)は軍事力増強を狙う諸外国が喉から手が出るほど欲しがっているもの。軍隊を持たないディオファーンは見る間に侵略されてしまうだろう。

 だからディオファーンは【救世の力】の威力についてひた隠しにし、秘密裏に解明を進めている。そんな重大な役割を担う力のことなんだから、きちんとした記録を取っておけって思うんだけど、残念ながら、かつて国を救ったという【救世の力】がどんなものなのかわかる資料は一切ないのだという。まあ、いつだったかもわからない遙か昔のことらしいから、文字で記録する文化もなくて伝承からも抜け落ちてしまったという可能性が高いけど。

 そんなわけでフラックスさんは重要な地位につく偉い人のはずなんだけど、本人はとてもそんなふうには見えない。年若く、女性と見紛うばかりの美貌を持っていることもだけど、最大の要因は彼の性格にあると思う。
 研究バカなのか、好奇心旺盛なのか、期待に目を輝かせてる。「悩んでるの?」って聞くくらいなら心配顔の一つもしそうなものなのに、ちぐはぐだよフラックスさん。

 それはさておいて。研究者であるフラックスさんに正直に話すべきところなんだろうけど、勘違いかもしれないと思うとためらってしまう。こう目をきらきらさせて見つめられると、ぬか喜びさせたら申し訳ないと思うのね。

「ううん、なんでもないです」
「そう? 少しでも気になることがあったら何でも教えてね。そのために毎日会いに来てるんだからさ」
 あたしは笑って言った。
「軽食の時間をご一緒するのも定着しましたよね」

 すると、フラックスさんは思わせぶりなまなざしを送ってくる。
「ホントはもっと頻繁に会いたいんだけど、僕も責任ある立場だから、そうそう席を外せなくてね。──舞花、やっぱり僕のところで助手として働かない?」
 あたしの笑顔はひきつった。
「ええっとそれは……」

 あたしが言葉を濁すが早いか、フラックスさんは首根っこを掴まれたようにひょいと持ち上がり、空中を水平移動する。あたしがぎょっとしてるうちに、ひとりでに開いた窓からフラックスさんは放り出された。
 窓の外から声が聞こえてくる。
「これも定着しましたね~お見事です陛下~」
 その声は下へと遠ざかっていく。

 そう。ここは三階なの。人が落ちたら大変な高さ。だけどフラックスさんは王族の一人で宙に浮くという【救世の力】を持っているので、けがをしたとしてもかすり傷程度。それに、陛下に【救世の力】を使わせるために、フラックスさんはわざと陛下に嫉妬させてるのよね。しかもほぼ毎日のことなので、あたしは陛下とフラックスさんを説教するのにも疲れて慣らされつつあった。こんなことに慣れちゃうと、元の世界に帰ったとき、元の感覚に戻れるか心配。だかあらあたしは心の中で自分に言い聞かせる。人を三階から落としちゃダメ。危険だから絶対落としちゃダメ。

 あたしが懸命に常識にしがみついているというのに、陛下はふんと鼻を鳴らして言った。
「まったく、舞花と一日中一緒にいようなどと、油断も隙もない」
 そう言うあんた(陛下)も油断も隙もないよね!


 そんな騒ぎがあったから、あの謎の気配のことを一時的に忘れてたんだけど。
 その後何度も、あたしはあの小さな気配を感じた。それも時間が経つにつれ回数が増えてくる。これはもう気のせいなんかじゃない。

 しかも、回を追うごとに気配が遠くから飛んできてるのではないかと思うようになった。なんだろうこの気配はって考えてるうちに、陛下との『距離』の違いを感じられるようになってきたのよね。陛下は近くから飛んでくるような感じ。何しろ、陛下の執務室はすぐ上の階だし、私室は執務室近くの階段を上がってすぐだったはずだから(うろ覚え)。それと比べて、正体不明な気配は長い距離を飛んでくる感じがする。ホント感覚的なことなので、断言はできないけど。

 この日の早朝も、小さな気配を感じてあたしは目を覚ました。がばりと起きあがろうとしたけれど、陛下にぎゅうぎゅう抱きしめられてて起きられない。またあたしが寝てるうちにもぐり込みやがったな。……気付かないあたしもあたしだけどさ。

 上半身は身動き取れなかったので、下半身で抵抗する。腰を引いて膝で陛下を蹴ろうとすると、何か固いものに膝が当たって、陛下は「ぐっ」と呻き声を上げた。股間を押さえて丸くなる姿を見れば、どこに当たったのか一目瞭然だ。
「ごめん。そこまでするつもりなかったんだけど」
 さすがにこれは悪いことしたって思うわ。よい子の皆さんも悪い子の皆さんも絶対やっちゃいけません。特に朝は。一生残る怪我を負わせかねません。

 少しは楽になるかなと思って背中をさすっていると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。あたしは驚いて、声がしたと感じた方向を見る。だって、今まで気配だけで、少しも『声』が聞こえてこなかったんだもん。しかも、笑い声の雰囲気からどうやら小さな女の子のようだ。

「どうしたのだ?」
 不意に宙を見上げたあたしに、陛下が声をかけてくる。傷(?)は浅かったようだ。何しろ【救世の力】には無意識でも身を守れる能力が備わっているのだそうだ。だから致命傷に至ってないのはわかってたわよ。あたしの蹴りが効いたのは、陛下があたしの攻撃を受け入れたいと思ってるからで、そうでなければダメージなんて少しも与えられないらしい。……攻撃を受け入れたいって、どんなマゾなんだ、陛下は。

 それはともかく、これ以上隠しておくのもどうかと思い、あたしは思い切って打ち明けた。
「この間から陛下じゃない別の気配を感じるようになったの。今もその気配がして」

 陛下は憤慨してあたしの話を遮った。
「余の舞花をのぞき見する輩がいるのか? 許せん!」
 あああ、やっぱり怒り狂った!
 あたしは激高する陛下の寝間着を掴んで必死に説得(?)した。
「のぞき見するのは陛下でしょ! 別の気配は、あたしが着替えやお風呂に入ってるときなんかはちゃんと遠ざかってくれるの。それに、今笑い声が聞こえたんだけど、どうも小さな女の子みたいなのよね。といっても、絶対そうだとは言い切れないけど。そういうことのできる人の心当たりある?」

 小さな女の子という言葉で怒りが静まったのか、陛下はあっさりおとなしくなる。
「ふむ……」
 陛下は少し考え込んだ。
「その気配がどの方向から飛んでくるかわかるか?」
 気配がどこから飛んでくるのか、あたしは方向だけはなんとなくわかるということを、陛下は知ってる。散々実験させられたからね。──フラックスさんの好奇心を満たすために。

 あたしは城下町のほうを指さした。
「あっちのほう。遠くてよくわからないの」
「確かめてみよう。その気配に集中してみてくれ」
 そう言って陛下があたしの手を取る。あ、待って待って! 気配が遠ざかっていく。何となくあっちかなと思う窓の方を目をこらして見つめていると、くらりと目眩がした。

 景色が変わったと思った瞬間、身体がぐんと下に引っ張られる。
 違う、落下してるんだ──って。

「ぎゃ──────────────────!」

 あたしは陛下の首にしがみついて絶叫した。
 落ちる落ちる落ちる落ちてる──!

 恐怖と戦っていたあたしの耳元で、低くて心地いいささやき声が聞こえてきた。
「舞花、大丈夫だ。余は今、地面に足をつけておる」
 そろっと目を開けて確かめてみると、陛下は城壁の上に立っていた。あたしはその陛下に、しっかり抱きかかえられている。いわゆるお姫様抱っこね。普段なら「やめて、恥ずかしい!」と叫ぶところなんだけど、今は安堵と腹立たしさのほうが大きい。あたしは陛下の顔を見て文句を言った。
「あ、あんたね! いきなり何すんのよ! 何も瞬間移動しなくたって普通に行けばいいじゃないの、歩くかして普通に!」

 陛下がちょっとうんざりしたように肩をすくめた。
「余やそなたが歩いて城を出ようとすれば、供や護衛がぞろぞろついてきて、ちょっとした行事並に面倒がかかる」
「お供はともかく、陛下に護衛は必要ないんじゃないの? 襲撃された場合、危険にさらされるのは陛下じゃなくてむしろ護衛の人たちなんじゃ……」
 何しろ、陛下には自動防御付きの便利な能力が備わってるからね。
 あたしの疑問に、陛下はため息混じりに答えた。
「舞花の言うとおりだが、余が一人で出かけると国王の威厳が形無しになるとモリブデンがな」

 モリブデンとは宰相サマのことだ。あたしを今の厄介な状況(陛下の婚約者扱いされてること)に追い込むことになった張本人。宰相サマの思惑通り(ちょっと付き合えば陛下もあたしに飽きると思ったらしい)にならなかったことを「やーいやーい」とバカにしてやりたかったけれど、宰相サマが一番の味方になる可能性があることを考えると、敵対するのは得策じゃないのよね。結婚阻止のために一番有効な手を打てるのは、この国の実質的な最高権力者である宰相サマだと思うの。宰相という地位に就く人としてはかなり若いけど(年齢は忘れた。興味なくて)、陛下も宰相サマの言うことはよく聞くらしい。まあ、その宰相サマをしても陛下の暴走を止められないんだから、望み薄かもしれないけど。未だもって、どうして陛下があたしにそこまで執着するのかよくわかんない。──って相変わらず独白が長いな、あたし。

 思考がすぐ横にそれてしまうあたしと違って、陛下はブレなかった。
「今回は気配の正体を探ることだけが目的だ。そう時間はかかるまい。──して、今も気配をたどることができるか?」

「うん……あっちのほう」
 そう言って、あたしは城壁の外のある大きな屋敷を指さした。あの気配は居場所を見つけられるのを恐れるようにいったん離れたんだけど、盛大な悲鳴を上げたあたしを心配して完全に戻ることができないでいる。こっちが見られたくないと思ってるときはちゃんと離れてくれることといい、いい子なのよね。『子』と言っていい年齢かどうかは定かじゃないけど。

 そちらに視線を巡らせた陛下は、一人納得したように頷いた。
「ああ、余にもわかった」

 そのとたん、またくらり。

「きゃ──────! だからやめてってばー!」

 必死に恐怖と戦ってるあたしに、陛下ははははと笑った。
「舞花は恐がりなのだな」
「飛べない人間が飛ぶのを怖がって何が悪い!」
 言い返して初めて、あたしは落ちてる感覚がないことに気付く。

 それどころか、ここはどこかの部屋だった。ピンクを基調としたかわいらしい部屋。ピンクの天蓋付きのベッドとか、白いテーブルと椅子とか、いかにも女の子の部屋っていう感じ。
 その部屋の片隅に、小さな女の子がいた。鈍色のまっすぐな髪に赤みがかった大きな目。年の頃は七、八歳だろうか。お人形さんのようにかわいい。

 あたしは直感した。この子だ、気配の主は。

 陛下の腕から降りて(お姫様抱っこされたままだったのだ。小さな女の子の前で恥ずかしい/////)、あたしは女の子に謝った。
「ご、ごめんね。突然来たりして。ここ最近あたしのところに来てたのはあなたかな?」
 優しく言ったつもりなんだけど、女の子はますます怯えてじりじり下がる。そりゃ怖いよね。瞬間移動でいきなり部屋の中に現れるんだもん。常識を考えやがれ陛下! と思うのと同時に、陛下の行動パターンとしてあたしの頭にインプットしておく。こういうことやらかす人だというのを忘れずにいれば、あたしの言動一つで防ぐことができるかもしれないからね。

 それはともかく、この状況どうしよう。
 悩み始めたそのとき、女の子の後ろにあった扉が勢いよく開いた。

 鬼のような形相をしたその人は、あたしと陛下を見るとその表情を和らげた。
「陛下と舞花ですか。どうしてここに?」
 錆色の髪に細面の顔。何より特徴的な眉間の皺は毎日のように拝んでる。
「ええっと、話せば長くなるんだけど……ところで、何で宰相サマがここにいるの?」
 お城にいるときよりラフな格好だけど、目の前にいるのは宰相サマに間違いない。

 宰相サマは小馬鹿にしたような目であたしを睨んで言った。
「ここは私の屋敷です。ところで、私の娘になんのご用ですか?」
 あたしは目をひんむいて叫んだ。
「えええええ~!?」
 宰相サマって子持ちだったんですか!?
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