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第一章 フォージ・ヒーレンス
1、これまでのあらすじが何となく分かる朝の風景
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柔らかなベッドの上で身体を起こし、あたしは腕を上げて伸びをした。
「ん~~~!」
気持ちいい朝の目覚め。先日心配事もなくなったし、不快なアレも終わったしで気分爽快。
──と思っていたら、腰に巻き付くものがあって、あたしは「ひっ」となった。
恐怖におののいたあたしの気も知らないそいつは、あたしの腰に顔を擦り付けながら脳天気な寝言をのたまった。
「舞花~むにゃむにゃ……」
あたしは無言で、そいつの二の腕に肘鉄を食らわせた。
がつっ──という音はしなかったけど、かなり効いたらしい。相手は悶絶してあたしから手を離す。あたしはその隙を逃さず、素早くベッドから出た。
「また性懲りもなくあたしのベッドに入ってきて! 駄目だっていっつも言ってるでしょう!?」
あたしが叱りつけている相手は誰であろう、この国ディオファーンの若き国王、ソルバイト・フェルミオン陛下その人である。
日本からある日突然、日本とは異なる世界にあるこの国に飛ばされてきたあたしに何故かご執心で、大迷惑なレベルで言い寄ってくる。あたしは日本に帰りたいから、結婚はもちろん恋愛もしたくないと言っても聞きやしない。ベッドに勝手に潜り込んでくるのもそうだ。一度あたしが──ゲフンゲフン。
陛下は優雅に起き上がり、けだるく髪をかき上げながら甘ったるい笑みをあたしに向けた。
「いいではないか。婚約したのだし。カタいことは言いっこなしだ」
「あたしは婚約した覚えないんですけど?」
顔が良くて色っぽいからといって、ほだされちゃいかんぞあたし! あたしは半目で睨み付けながら腕を組んだ。でも陛下は全然気にせず、鷹揚な笑みを浮かべて言う。
「デキたら結婚すべきであろう?」
「でっ、デキてなかったって言ったじゃないの!」
うろたえながら言い返しているところに、ノックの音が聞こえた。ノックの主は返事を聞かずに入ってくる。
「おはようございます。舞花様、陛下。舞花様がいつも叫んでくださるので、起床なさっているかどうか確かめる手間がなくて助かりますわ」
メイドさん風の制服を着てにっこり笑う女性に、あたしはがっくりうなだれて言った。
「……テルミットさん、あたしの侍女兼護衛だというのなら、他に言うべきことがあると思うの……」
侍女も護衛も欲しいわけじゃないんだけどさ。
洗面をすませ着替えをすると、あたしはテルミットさんに先導されて食事室に向かう。あたし、今お城に部屋を借りてるんだけど(あたしを今の苦境に追いやった人の費用持ち)この部屋がまたすごいの! 高価そうな家具類が配置された広ーい寝室と居間がそれぞれあって、少し小さい食事室までついてる。これ全部があたしの部屋だっていうんだから、感動を通り越して恐縮なんだけど。
ともあれ、その食事室に二人分の朝食が隣り合わせに並べられていた。そしてその片方の席には身支度を調えてきた陛下が当然のように座ってた。
「舞花、さあ食事にしよう!」
わくわくそわそわした陛下のテンションに、あたしはげんなりしてくる。
この人が周辺諸国を属国に従える大国の王だなんて信じがたい。以前ちらっとその片鱗を見たけど、片鱗だけじゃねぇ……。
陛下と食事なんて御免こうむりたいけど、居候に近い立場だからなかなか言えない。
仕方なしに席に着くと、スープをすくったスプーンが目の前に突き出された。
「あ~ん」
突き出してきたのは陛下だ。にこにこしながら毎度懲りずに食べさせようとしてくる。これが嫌だから一緒にご飯食べたくないのよ。
「自分で食べられます」
自分でスープをすくいながらつっけんどんに言ってやると、陛下は悲しそうに眉尻を下げた。
「舞花は余が嫌いなのか?」
ちょっと気持ちがぐらついたけれど、心を鬼にしてあたしは言葉を返した。
「ええ、嫌いです」
「舞花~」
陛下が情けない声を上げると、お給仕をしてくれているテルミットさんがにこにこしながら話しかけてきた。
「舞花様ったら、またそんなことをおっしゃって。お好きでなかったらベッドをともに──」
「わー!!! 言わないでそれは!!!!!」
あたしはありったけの声を上げて、テルミットさんの声を遮った。
あれはテルミットさんも一枚噛んでたんじゃないの! 騙されたのよあたしは。……まあそれだけじゃなくて、あたしの気の迷いもあったんだけどね。あれは一生の不覚だったのよ。
朝からげっそりしながら食事を終えるころ、ロットさんが陛下を呼びに来た。
ロットさんは十代にしか見えない若々しい外見をしてるんだけど、実際は三十歳なんだって。聞いた時はびっくりしたわ。だって、子どもだと思って話しかけちゃってたもん。「ロット君」なんて呼んじゃってさ。年齢を聞いてからというのも失礼だけど、今は目上に対する礼儀をもって接してる。
「おはようございます、舞花様」
「おはようございます、ロットさん」
ロットさんは陛下のお世話係だから、朝の身支度を手伝ったときに挨拶したのだろう。あたしに真っ先に挨拶する。それからテルミットさんにも挨拶した。
「おはようございます。テルミットさん。いつも陛下の給仕もありがとうございます。忙しいときは僕が代わるので言ってくださいね」
「おはようございます、ロットさん。大丈夫ですわ。ロットさんのほうが大変ですもの。陛下のお給仕はどうぞわたしにお任せください」
和やかに話してる二人を見ていると、お似合いだなぁなんて思っちゃう。美男美女だし、テルミットさんは二十一歳でロットさんとは九歳違いだけど、ロットさんが童が……いやいや、外見が若く見えるからむしろロットさんのが年下に見えるし。
そんな妄想をつらつら考えるんだけど、実際は二人の間に礼儀正しさ以外のものを感じたことがほとんどないのよね。一度だけ、ぐっと近付いたように見えたことがあったけど、あれは身内に対する気安さの範疇を超えなかったように思うし。(二人は王族の血を多少引いていて、どのくらい近しい血縁か分からないけど、親戚同士であることには間違いないの)
あたしが余計なことを考えてる間に、ロットさんは陛下の腕を取って立たせようとしていた。
「陛下、政務のお時間です。はやく行かないとモリブデン様に叱られますよ」
あ、モリブデンというのはこの国の宰相のこと。陛下の保護者的な存在みたいで、陛下は宰相サマに頭が上がらないらしい。口には出さないけど、この国の最高権力者は宰相サマだと思う。ちなみに、あたしが「宰相サマ」と呼ぶのは、面と向かって言えない嫌味の代わり。いけすかない人なのよ。眉間にいっつも縦皺寄せてる気難しい人でもあるし。
陛下は、ロットさんに引っ張られても席を立たなかった。
「だが朝食がまだ……」
何言ってんだか。少ししか残ってないのをちびちび食べてるくせに。そうまでしてあたしの側から離れたくないというのが理解できない。
「残すと舞花が叱るから」
また駄々っ子みたいなことを言って。仕方ないなぁ。
あたしはフォークを持った手を陛下の皿に伸ばして、残っていたベーコンの一切れに突き刺した。
陛下の顔がにわかに輝く。あたしにあ~んしてもらえるとでも思ったのだろう。
だが、あたしはそれを自分の口に運んでぱくんと食べた。
残りのジャガイモ、ソーセージも、ぱくぱく食べてやる。
陛下の皿がすっかり空になったところで、あたしはにっこり笑った。
「これでごちそうさまね。さ、お仕事頑張ってらっしゃい!」
「舞花~!」
陛下は叫びながら、ロットさんに引きずられて出て行った。
涙ちょちょぎってる陛下を見てすっとしたわ。あたし、この世界に来てからSに目覚めたのかもしれない。……だとしたら嫌だな。
「ん~~~!」
気持ちいい朝の目覚め。先日心配事もなくなったし、不快なアレも終わったしで気分爽快。
──と思っていたら、腰に巻き付くものがあって、あたしは「ひっ」となった。
恐怖におののいたあたしの気も知らないそいつは、あたしの腰に顔を擦り付けながら脳天気な寝言をのたまった。
「舞花~むにゃむにゃ……」
あたしは無言で、そいつの二の腕に肘鉄を食らわせた。
がつっ──という音はしなかったけど、かなり効いたらしい。相手は悶絶してあたしから手を離す。あたしはその隙を逃さず、素早くベッドから出た。
「また性懲りもなくあたしのベッドに入ってきて! 駄目だっていっつも言ってるでしょう!?」
あたしが叱りつけている相手は誰であろう、この国ディオファーンの若き国王、ソルバイト・フェルミオン陛下その人である。
日本からある日突然、日本とは異なる世界にあるこの国に飛ばされてきたあたしに何故かご執心で、大迷惑なレベルで言い寄ってくる。あたしは日本に帰りたいから、結婚はもちろん恋愛もしたくないと言っても聞きやしない。ベッドに勝手に潜り込んでくるのもそうだ。一度あたしが──ゲフンゲフン。
陛下は優雅に起き上がり、けだるく髪をかき上げながら甘ったるい笑みをあたしに向けた。
「いいではないか。婚約したのだし。カタいことは言いっこなしだ」
「あたしは婚約した覚えないんですけど?」
顔が良くて色っぽいからといって、ほだされちゃいかんぞあたし! あたしは半目で睨み付けながら腕を組んだ。でも陛下は全然気にせず、鷹揚な笑みを浮かべて言う。
「デキたら結婚すべきであろう?」
「でっ、デキてなかったって言ったじゃないの!」
うろたえながら言い返しているところに、ノックの音が聞こえた。ノックの主は返事を聞かずに入ってくる。
「おはようございます。舞花様、陛下。舞花様がいつも叫んでくださるので、起床なさっているかどうか確かめる手間がなくて助かりますわ」
メイドさん風の制服を着てにっこり笑う女性に、あたしはがっくりうなだれて言った。
「……テルミットさん、あたしの侍女兼護衛だというのなら、他に言うべきことがあると思うの……」
侍女も護衛も欲しいわけじゃないんだけどさ。
洗面をすませ着替えをすると、あたしはテルミットさんに先導されて食事室に向かう。あたし、今お城に部屋を借りてるんだけど(あたしを今の苦境に追いやった人の費用持ち)この部屋がまたすごいの! 高価そうな家具類が配置された広ーい寝室と居間がそれぞれあって、少し小さい食事室までついてる。これ全部があたしの部屋だっていうんだから、感動を通り越して恐縮なんだけど。
ともあれ、その食事室に二人分の朝食が隣り合わせに並べられていた。そしてその片方の席には身支度を調えてきた陛下が当然のように座ってた。
「舞花、さあ食事にしよう!」
わくわくそわそわした陛下のテンションに、あたしはげんなりしてくる。
この人が周辺諸国を属国に従える大国の王だなんて信じがたい。以前ちらっとその片鱗を見たけど、片鱗だけじゃねぇ……。
陛下と食事なんて御免こうむりたいけど、居候に近い立場だからなかなか言えない。
仕方なしに席に着くと、スープをすくったスプーンが目の前に突き出された。
「あ~ん」
突き出してきたのは陛下だ。にこにこしながら毎度懲りずに食べさせようとしてくる。これが嫌だから一緒にご飯食べたくないのよ。
「自分で食べられます」
自分でスープをすくいながらつっけんどんに言ってやると、陛下は悲しそうに眉尻を下げた。
「舞花は余が嫌いなのか?」
ちょっと気持ちがぐらついたけれど、心を鬼にしてあたしは言葉を返した。
「ええ、嫌いです」
「舞花~」
陛下が情けない声を上げると、お給仕をしてくれているテルミットさんがにこにこしながら話しかけてきた。
「舞花様ったら、またそんなことをおっしゃって。お好きでなかったらベッドをともに──」
「わー!!! 言わないでそれは!!!!!」
あたしはありったけの声を上げて、テルミットさんの声を遮った。
あれはテルミットさんも一枚噛んでたんじゃないの! 騙されたのよあたしは。……まあそれだけじゃなくて、あたしの気の迷いもあったんだけどね。あれは一生の不覚だったのよ。
朝からげっそりしながら食事を終えるころ、ロットさんが陛下を呼びに来た。
ロットさんは十代にしか見えない若々しい外見をしてるんだけど、実際は三十歳なんだって。聞いた時はびっくりしたわ。だって、子どもだと思って話しかけちゃってたもん。「ロット君」なんて呼んじゃってさ。年齢を聞いてからというのも失礼だけど、今は目上に対する礼儀をもって接してる。
「おはようございます、舞花様」
「おはようございます、ロットさん」
ロットさんは陛下のお世話係だから、朝の身支度を手伝ったときに挨拶したのだろう。あたしに真っ先に挨拶する。それからテルミットさんにも挨拶した。
「おはようございます。テルミットさん。いつも陛下の給仕もありがとうございます。忙しいときは僕が代わるので言ってくださいね」
「おはようございます、ロットさん。大丈夫ですわ。ロットさんのほうが大変ですもの。陛下のお給仕はどうぞわたしにお任せください」
和やかに話してる二人を見ていると、お似合いだなぁなんて思っちゃう。美男美女だし、テルミットさんは二十一歳でロットさんとは九歳違いだけど、ロットさんが童が……いやいや、外見が若く見えるからむしろロットさんのが年下に見えるし。
そんな妄想をつらつら考えるんだけど、実際は二人の間に礼儀正しさ以外のものを感じたことがほとんどないのよね。一度だけ、ぐっと近付いたように見えたことがあったけど、あれは身内に対する気安さの範疇を超えなかったように思うし。(二人は王族の血を多少引いていて、どのくらい近しい血縁か分からないけど、親戚同士であることには間違いないの)
あたしが余計なことを考えてる間に、ロットさんは陛下の腕を取って立たせようとしていた。
「陛下、政務のお時間です。はやく行かないとモリブデン様に叱られますよ」
あ、モリブデンというのはこの国の宰相のこと。陛下の保護者的な存在みたいで、陛下は宰相サマに頭が上がらないらしい。口には出さないけど、この国の最高権力者は宰相サマだと思う。ちなみに、あたしが「宰相サマ」と呼ぶのは、面と向かって言えない嫌味の代わり。いけすかない人なのよ。眉間にいっつも縦皺寄せてる気難しい人でもあるし。
陛下は、ロットさんに引っ張られても席を立たなかった。
「だが朝食がまだ……」
何言ってんだか。少ししか残ってないのをちびちび食べてるくせに。そうまでしてあたしの側から離れたくないというのが理解できない。
「残すと舞花が叱るから」
また駄々っ子みたいなことを言って。仕方ないなぁ。
あたしはフォークを持った手を陛下の皿に伸ばして、残っていたベーコンの一切れに突き刺した。
陛下の顔がにわかに輝く。あたしにあ~んしてもらえるとでも思ったのだろう。
だが、あたしはそれを自分の口に運んでぱくんと食べた。
残りのジャガイモ、ソーセージも、ぱくぱく食べてやる。
陛下の皿がすっかり空になったところで、あたしはにっこり笑った。
「これでごちそうさまね。さ、お仕事頑張ってらっしゃい!」
「舞花~!」
陛下は叫びながら、ロットさんに引きずられて出て行った。
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