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第6章 人ならざる者
四十八、あなたのためだから
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ぎりっ、と歯が軋む音が聞こえる。
環を射抜く鋭い目。握り締めた拳がみしみしと音をたて、赤い雫が滴る。皮膚を爪が破ったのだろう、痛々しく血が垂れ落ちる。
「お前の所為だ……お前の所為だお前の所為だお前の所為だ! お前が現れて全部うまくいかなくなった!」
「…………」
「一人になった深月ちゃんはあたしに縋り付いてくるはずだった! 周りの邪魔者の誰にも近付かないように仕込んできたのに! ずっとずっと準備してきたのに! 後少しだったのに!」
「…………」
「なのにそうならなかった! お前が出てきたからだ! お前が全ての元凶だ!! お前の所為で……深月ちゃんをあたしのものにできなかった!!」
肩を上下させ、犬歯を剥き出しにして唸るその様は、まさに手負いの獣。
望んだ瞬間を迎える為に入念に備え、あらゆるものを犠牲にし、その上周りの誰にも悟られないよう偽り続け。
しかし一つの歯車が狂った事で、望む瞬間は訪れなかった。計画と異なる事態に進み、修正する事も叶わなくなった。
己の望み以外を思考から除外した少女は、願いの成就が遠のいた事で、より一層悍ましく狂っていた。
「殺してやる……殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる! あたしの邪魔をする奴……深月ちゃんに集る塵屑は消す! 潰す! 深月ちゃんに必要なのはあたしだけ! あたし以外いらない!」
「…………」
「深月ちゃんはあたしの物で深月ちゃんの幸せはあたしの物になる事で深月ちゃんはそれが一番幸せで相応しくてあたしの物になるのが当たり前でそうじゃなきゃ深月ちゃんは幸せになれなくてだからあたしの物になるのが必然でそうじゃないのはおかしくて狂ってて間違ってて深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん……!!」
息継ぎもせず、言葉にならない呟きをぶつぶつとこぼし続けるだけの此花。最早環を見る事もせず、感情のままに喋り、がしがしと髪を掻き毟るだけの機械と化す。
髪が抜けようが、頭皮から血が滲もうが止まる事なく、血走った目で虚空を凝視し。
やがて、かたかたと壊れた人形のように揺れながら甲高い声で笑い出す。
もう、それは人には見えなかった。
狂気そのものが人の形をとっているかのように、同じ生き物だと受け入れられなくなっていた。
「……ここまで、とはな」
近くにいる者にのみ聞こえる大きさで、ぬらりひょんが呟く。その声に、鎌鼬達が大きく頷き身を震わせる。
人ならざる者である妖達が、怯えている。嫌悪する。。
それほどまでに此花という人間の見せる姿は、化け物そのものの様を晒していた。
深月はただ、真っ青な顔で自らの口を塞ぐばかり。
強引に口を閉じていなければ、悲鳴が迸り、その場に崩れ落ちてしまいそうだった。気絶してしまえば楽なのに、それもできないほど煩く心臓が暴れている。
そうして、無理矢理に自らを律していた事が仇となったのだろうか。
かつん、と。
深月の靴の踵が、足元にあった小石を蹴り、乾いた音を辺りに響かせてしまった。
「……! あぁ、深月ちゃん……♡」
ぐるん、と異形じみた動作で振り向いた此花が、深月の姿を暗闇の中で捉え、恍惚とした笑みを浮かべる。
驚愕はほんの一瞬で、己の本性を見られた事を理解しつつも、悔いるどころか喜んでいるように見える。待っていた、と言いたげな雰囲気があった。
「ふふ、ふふひふひひひ……♡ ごめんねぇ、あたしぃ、いっぱいいっぱい頑張ったんだけどさぁ……この屑が邪魔する所為でぇ、計画が全然うまくいかなかったのぉ♡」
「ひっ……な、何……を」
「でもねぇ、大丈夫だよぉ♡ 今からこいつもぉ、他の邪魔する塵屑共もぉ、全部ぜ~んぶ深月ちゃんの前から消してあげるからねぇ♡」
後退る深月の元に、覚束ない足取りで近づく此花。泥酔しているかのような赤い顔で、焦点の失せた目を向け語りかける。
もう見ているだけで発狂しそうな恐ろしさで、数歩下がっただけで深月は動けなくなっていた。
「け、消すって……どういう、事」
「えへ、えへへへへ♡ そうだよ、最初からこうすればよかったんだよ……深月ちゃんってば本当に可愛いからぁ、そこら中で勝手に塵屑達を引き寄せちゃうもんねぇ? せっかく一人にしてもぉ、勝手に群がってきちゃうんだもんねぇ? やり方が間違ってたんだよねぇ♡」
けたけた、くすくす。
壊れた笑みでゆっくりと、深月に向けて近づく少女。
咄嗟にぬらりひょんが前に出るが……端から見えていない此花には認識すらされず、触れる事もない。ただ、するりと虚しくすり抜けるだけだ。
「遠ざけるのは、周りだけでよかったんだねぇ♡ 深月ちゃんに近づく塵屑全部にぃ、あたしが深月ちゃんの代わりに本音をぶちまけてやればぁ、みんな勝手にいなくなるよねぇ♡ そうだよ、そうすればよかったんだよぉ♡」
「や、ゃめ、やめて……」
「あは♡ 安心してよぉ、深月ちゃんが心配しなくてもぉ、ちゃんと終わるからぁ♡ 邪魔な塵屑全部片付けたらぁ、あたしの家でずっとずっとずっとずっと……可愛がってあげるからねぇ♡」
「わ、たし、は……!」
「深月ちゃんとこの糞婆もぉ、学校の塵共もぉ、厭らしい目で見てくる男共もぉ……ここにいるこいつもぉ、全部ぜぇんぶどっかにやっちゃうから、嬉しいでしょ? 褒めて、褒めて♡ 全部片付いたら、いっぱいいっぱい褒めて♡」
にゅるり、と伸ばされる此花の手。
軟体動物のように厭らしくくねる指先が、深月の頬を無遠慮に撫でる。蛞蝓にでも這われたような嫌悪感で、深月の肌に鳥肌が立つ。
足はもう、動かない。
縫い付けられたように、一歩たりとも動けなくなる。
「こんのっ……ええ加減にせぇや、この変態女が!!」
「待ちぃや、斬! 転ばしてからや!」
「……傷は塞がんでもええか? 正直触りたないんやけど」
「おう、いらん!!」
「「「っちゅうか、深月はん! もう離してくれんか!?」」」
遠慮のない、一方的な執着を塗りつける愛撫に我慢の限界に達した鎌鼬達が、深月の腕の中でもがく。
の、だが、深月にきつく抱き締められている所為で抜け出す事ができない。
だが……彼らの騒ぐ声によって、深月は正気に戻る。
そして震えながらも、目の前の少女をきっ、と強く見つめ返した。
「……そんな事、私、望んでない」
「……は?」
そう、小さくもはっきり告げた瞬間ーーー此花の表情が固まる。甘え声が途端に冷え切り、頬に這っていた指先が硬直する。
背筋に寒気が走るのも構わず、深月は此花を見据えたまま告げた。
「あなたの物になんか、なった覚えもなる気もない。一人になりたいなんて頼んだ事もないし、願った事すらないーーー全部、迷惑でしかない」
緊張で喉が渇き、心臓が激しく脈動する。
爆発間近の時限爆弾を目の前にしているような緊張感に苛まれながら、はっきりと拒絶の言葉を口にする。
鎌鼬達に唖然とした視線を向けられながら、深月はごくりと息を呑み、沈黙する。
しんと静まり返った闇の中で、此花は棒立ちになっていた。目を見開き、深月に手を伸ばしたまま、凍りついたように動かなくなっていた。
そそて不意にーーーかくん、と少女の首が傾げられる。
「……なんで?」
がっ、と深月の頬に痛みが走る。
頬に爪を立てられ、痛みに顔を顰めた直後、左右から顔面を掴まれ囚われる。
びくっと身を震わせた深月の目を、昏い闇の目がじっと覗き込んでくる。
「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでぇ! なんでそんな事言うのぉ!? あたしはずっとずっと深月ちゃんの為に深月ちゃんと一緒にいたくて深月ちゃんをあたしの物にしたくて深月ちゃんの物になりたくてずっとずっとずぅぅぅっと頑張ってきたのに!? なんで、なんでそんな事言うの!? なんであたしの全部を否定するの!? ねぇなんでなんでなんでぇ!?」
指先がこめかみに食い込み、髪がぶちぶちと引き千切られ、痛みと恐怖で悶え、もがく。
咄嗟に鎌鼬達から手を離してしまい、ぼたぼたと落ちる妖達が「ぎゃっ!」と苦悶の声を上げる。
殺される。瞬時にそう思い、強引に引き剥がそうと此花の手を取ろうとして。
「ーーーやっぱり全部、あんたの所為じゃん」
突如……ぱっ、と痛みが消える。
瞼を開いた深月は、踵を返し走り出す此花と、その向かう先で暇そうに佇む環の対峙を目にし。
ーーーそして、此花の手に握られたカッターナイフを目撃し、顔から血の気を引かせる。
「環君っ!?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
突然の凶行、思いもよらぬ少女の行動。
深月は少年の名を呼ぶ事しかできず、ぬらりひょんはかっと目を剥き慌てて飛び出し、鎌鼬達は一斉に狂人に襲いかかろうとし。
そのどれもが間に合わない、と全員が思考を凍りつかせる前で。
「……はぁ、面倒臭っ」
しょきん、と。
無慈悲な金属音が鳴り響いた。
環を射抜く鋭い目。握り締めた拳がみしみしと音をたて、赤い雫が滴る。皮膚を爪が破ったのだろう、痛々しく血が垂れ落ちる。
「お前の所為だ……お前の所為だお前の所為だお前の所為だ! お前が現れて全部うまくいかなくなった!」
「…………」
「一人になった深月ちゃんはあたしに縋り付いてくるはずだった! 周りの邪魔者の誰にも近付かないように仕込んできたのに! ずっとずっと準備してきたのに! 後少しだったのに!」
「…………」
「なのにそうならなかった! お前が出てきたからだ! お前が全ての元凶だ!! お前の所為で……深月ちゃんをあたしのものにできなかった!!」
肩を上下させ、犬歯を剥き出しにして唸るその様は、まさに手負いの獣。
望んだ瞬間を迎える為に入念に備え、あらゆるものを犠牲にし、その上周りの誰にも悟られないよう偽り続け。
しかし一つの歯車が狂った事で、望む瞬間は訪れなかった。計画と異なる事態に進み、修正する事も叶わなくなった。
己の望み以外を思考から除外した少女は、願いの成就が遠のいた事で、より一層悍ましく狂っていた。
「殺してやる……殺してやる……殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる! あたしの邪魔をする奴……深月ちゃんに集る塵屑は消す! 潰す! 深月ちゃんに必要なのはあたしだけ! あたし以外いらない!」
「…………」
「深月ちゃんはあたしの物で深月ちゃんの幸せはあたしの物になる事で深月ちゃんはそれが一番幸せで相応しくてあたしの物になるのが当たり前でそうじゃなきゃ深月ちゃんは幸せになれなくてだからあたしの物になるのが必然でそうじゃないのはおかしくて狂ってて間違ってて深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん深月ちゃん……!!」
息継ぎもせず、言葉にならない呟きをぶつぶつとこぼし続けるだけの此花。最早環を見る事もせず、感情のままに喋り、がしがしと髪を掻き毟るだけの機械と化す。
髪が抜けようが、頭皮から血が滲もうが止まる事なく、血走った目で虚空を凝視し。
やがて、かたかたと壊れた人形のように揺れながら甲高い声で笑い出す。
もう、それは人には見えなかった。
狂気そのものが人の形をとっているかのように、同じ生き物だと受け入れられなくなっていた。
「……ここまで、とはな」
近くにいる者にのみ聞こえる大きさで、ぬらりひょんが呟く。その声に、鎌鼬達が大きく頷き身を震わせる。
人ならざる者である妖達が、怯えている。嫌悪する。。
それほどまでに此花という人間の見せる姿は、化け物そのものの様を晒していた。
深月はただ、真っ青な顔で自らの口を塞ぐばかり。
強引に口を閉じていなければ、悲鳴が迸り、その場に崩れ落ちてしまいそうだった。気絶してしまえば楽なのに、それもできないほど煩く心臓が暴れている。
そうして、無理矢理に自らを律していた事が仇となったのだろうか。
かつん、と。
深月の靴の踵が、足元にあった小石を蹴り、乾いた音を辺りに響かせてしまった。
「……! あぁ、深月ちゃん……♡」
ぐるん、と異形じみた動作で振り向いた此花が、深月の姿を暗闇の中で捉え、恍惚とした笑みを浮かべる。
驚愕はほんの一瞬で、己の本性を見られた事を理解しつつも、悔いるどころか喜んでいるように見える。待っていた、と言いたげな雰囲気があった。
「ふふ、ふふひふひひひ……♡ ごめんねぇ、あたしぃ、いっぱいいっぱい頑張ったんだけどさぁ……この屑が邪魔する所為でぇ、計画が全然うまくいかなかったのぉ♡」
「ひっ……な、何……を」
「でもねぇ、大丈夫だよぉ♡ 今からこいつもぉ、他の邪魔する塵屑共もぉ、全部ぜ~んぶ深月ちゃんの前から消してあげるからねぇ♡」
後退る深月の元に、覚束ない足取りで近づく此花。泥酔しているかのような赤い顔で、焦点の失せた目を向け語りかける。
もう見ているだけで発狂しそうな恐ろしさで、数歩下がっただけで深月は動けなくなっていた。
「け、消すって……どういう、事」
「えへ、えへへへへ♡ そうだよ、最初からこうすればよかったんだよ……深月ちゃんってば本当に可愛いからぁ、そこら中で勝手に塵屑達を引き寄せちゃうもんねぇ? せっかく一人にしてもぉ、勝手に群がってきちゃうんだもんねぇ? やり方が間違ってたんだよねぇ♡」
けたけた、くすくす。
壊れた笑みでゆっくりと、深月に向けて近づく少女。
咄嗟にぬらりひょんが前に出るが……端から見えていない此花には認識すらされず、触れる事もない。ただ、するりと虚しくすり抜けるだけだ。
「遠ざけるのは、周りだけでよかったんだねぇ♡ 深月ちゃんに近づく塵屑全部にぃ、あたしが深月ちゃんの代わりに本音をぶちまけてやればぁ、みんな勝手にいなくなるよねぇ♡ そうだよ、そうすればよかったんだよぉ♡」
「や、ゃめ、やめて……」
「あは♡ 安心してよぉ、深月ちゃんが心配しなくてもぉ、ちゃんと終わるからぁ♡ 邪魔な塵屑全部片付けたらぁ、あたしの家でずっとずっとずっとずっと……可愛がってあげるからねぇ♡」
「わ、たし、は……!」
「深月ちゃんとこの糞婆もぉ、学校の塵共もぉ、厭らしい目で見てくる男共もぉ……ここにいるこいつもぉ、全部ぜぇんぶどっかにやっちゃうから、嬉しいでしょ? 褒めて、褒めて♡ 全部片付いたら、いっぱいいっぱい褒めて♡」
にゅるり、と伸ばされる此花の手。
軟体動物のように厭らしくくねる指先が、深月の頬を無遠慮に撫でる。蛞蝓にでも這われたような嫌悪感で、深月の肌に鳥肌が立つ。
足はもう、動かない。
縫い付けられたように、一歩たりとも動けなくなる。
「こんのっ……ええ加減にせぇや、この変態女が!!」
「待ちぃや、斬! 転ばしてからや!」
「……傷は塞がんでもええか? 正直触りたないんやけど」
「おう、いらん!!」
「「「っちゅうか、深月はん! もう離してくれんか!?」」」
遠慮のない、一方的な執着を塗りつける愛撫に我慢の限界に達した鎌鼬達が、深月の腕の中でもがく。
の、だが、深月にきつく抱き締められている所為で抜け出す事ができない。
だが……彼らの騒ぐ声によって、深月は正気に戻る。
そして震えながらも、目の前の少女をきっ、と強く見つめ返した。
「……そんな事、私、望んでない」
「……は?」
そう、小さくもはっきり告げた瞬間ーーー此花の表情が固まる。甘え声が途端に冷え切り、頬に這っていた指先が硬直する。
背筋に寒気が走るのも構わず、深月は此花を見据えたまま告げた。
「あなたの物になんか、なった覚えもなる気もない。一人になりたいなんて頼んだ事もないし、願った事すらないーーー全部、迷惑でしかない」
緊張で喉が渇き、心臓が激しく脈動する。
爆発間近の時限爆弾を目の前にしているような緊張感に苛まれながら、はっきりと拒絶の言葉を口にする。
鎌鼬達に唖然とした視線を向けられながら、深月はごくりと息を呑み、沈黙する。
しんと静まり返った闇の中で、此花は棒立ちになっていた。目を見開き、深月に手を伸ばしたまま、凍りついたように動かなくなっていた。
そそて不意にーーーかくん、と少女の首が傾げられる。
「……なんで?」
がっ、と深月の頬に痛みが走る。
頬に爪を立てられ、痛みに顔を顰めた直後、左右から顔面を掴まれ囚われる。
びくっと身を震わせた深月の目を、昏い闇の目がじっと覗き込んでくる。
「なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでぇ! なんでそんな事言うのぉ!? あたしはずっとずっと深月ちゃんの為に深月ちゃんと一緒にいたくて深月ちゃんをあたしの物にしたくて深月ちゃんの物になりたくてずっとずっとずぅぅぅっと頑張ってきたのに!? なんで、なんでそんな事言うの!? なんであたしの全部を否定するの!? ねぇなんでなんでなんでぇ!?」
指先がこめかみに食い込み、髪がぶちぶちと引き千切られ、痛みと恐怖で悶え、もがく。
咄嗟に鎌鼬達から手を離してしまい、ぼたぼたと落ちる妖達が「ぎゃっ!」と苦悶の声を上げる。
殺される。瞬時にそう思い、強引に引き剥がそうと此花の手を取ろうとして。
「ーーーやっぱり全部、あんたの所為じゃん」
突如……ぱっ、と痛みが消える。
瞼を開いた深月は、踵を返し走り出す此花と、その向かう先で暇そうに佇む環の対峙を目にし。
ーーーそして、此花の手に握られたカッターナイフを目撃し、顔から血の気を引かせる。
「環君っ!?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
突然の凶行、思いもよらぬ少女の行動。
深月は少年の名を呼ぶ事しかできず、ぬらりひょんはかっと目を剥き慌てて飛び出し、鎌鼬達は一斉に狂人に襲いかかろうとし。
そのどれもが間に合わない、と全員が思考を凍りつかせる前で。
「……はぁ、面倒臭っ」
しょきん、と。
無慈悲な金属音が鳴り響いた。
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