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薄幸の少女と森の賢者達
23‐3:救いの手
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「動くな! 亜人共!」
咄嗟に足を止めたアザミや、呆然となるシェラや少年少女達の前に、建物の奥から飛び出して来た数十人の兵士が包囲を作り始める。
全員、隙間のない甲冑を身に纏い、あの弓に似た武器を構えて突き付けている。ぐるりと半円を描くように揃ったことで、アザミとシェラ達の逃走路は一切塞がれてしまった。
「よくもこの城を、汚い足で踏み荒らしてくれやがったな!? 覚悟しやがれ!」
「今ここで、汚らしい体液ぶちまけて死に絶えろ、糞虫が!」
心臓や脳を真っ直ぐに狙う鏃の輝きに、少年少女達は勿論、アザミとシェラも顔から血の気を引かせる。
この状況をひっくり返せるような力はない。この場での騒ぎが広がる前に撤収するつもりだったのに、逃げるどころか動くこともできなくなってしまった。
「み、見つかった…!」
「まずい…無駄に話をし過ぎた。本気でまずい…!」
「…! だから言ったんだよ、ちくしょう…!」
「何をぶつぶつ言っている…! 口を開くな! この清廉な空気が穢れていくのがわからんのか!?」
悲鳴を漏らす少女達に、兵士達は苛立ちを覚えたのか、引き金にかける指に徐々に力を込め始める。
陽光を受けて、鈍い光を放つ鏃。それを前にして、アザミとシェラ達は悔しさに歯を食い縛る。先ほどのような根拠のない自信など、木端微塵に吹き飛んでしまっていた。
「ゴミの分際で、人間様の手をここまで煩わせやがって…! 一回殺すだけじゃ足りねぇ、達磨にして責め続けてやろうぜ」
「いや…! これ以上こいつらの薄汚ねぇ面なんざ見たくねぇ、ここで駆除するぞ!」
兵士達全員が口々に罵倒の言葉を発し、汚らわしいものを見る目を向ける。
話す間も与えられない、ただ貫かれるための的になり果てた少年少女達は、襲い来るであろう痛みと衝撃を想像し、思わず目を瞑る。
アザミは矢を突き付ける兵士達を睨みつけ、意味のないことと知りながら、彼らを庇うように両手を広げ、前に立ちはだかる。
兵士達はそれに、滑稽なものを見るように嗜虐的な笑みを浮かべ、引き金をゆっくりと引き始めた。
「下らねぇな、さっさと死ね―――」
兵士の一人の台詞と共に、彼らの指に力がかかる。
ガッ、ガガガッ!と、弓が力を解放し鏃を放つ音が、立て続けに鳴り響く。前後左右から放たれた凶器が、風を切り近付いてくる音が聞こえてくる。
「っ…!」
「ねえ様…!」
もはやこれまで、と。アザミ達は身を固くしながらそう覚悟する。
少年少女達は嗚咽をこぼしながら、シェラはアザミの背に縋りながら。アザミは脳裏に、一つの大きな背中を思い浮かべながら、ひたすらに最期の瞬間を待つ。
だが、何時まで経っても、少女達に痛みが襲ってくることはなかった。
代わりに感じたのは、ざわりと奇妙な風が頬を撫でた感触だった。
「……え?」
「―――まったく…己が目を離した隙にこうも厄介事を引き寄せるとは、どういう星の元に生まれているのだ、お前は」
恐る恐る瞼を開け、顔を上げたアザミとシェラの視界に入って来たのは、漆黒の壁。
いや、壁と見まがうほどに大きく、揺るぎない後姿を持つ、見慣れた色と聞きなれた不思議な声を持つ者の姿が、そこにはあった。
「……お師、匠?」
「おししょう……様」
姉妹は呆然と、自分達の前に堂々と立っている師を凝視する。
何故ここに、何時ここに、様々な疑問が脳内に何度も浮かび、全く答えが見つからず、ぽかんと間抜けな顔で呆けたまま、立ち尽くす。
固まったままの弟子たちを背に庇いながら、師はゴキリと首を鳴らし、驚愕で目を見開き固まっている兵士達を見据えた。
「己の弟子に手を出したのは……お前達か?」
ばらばらと、砕けた全ての矢を地面にばらまきながら問いかける黒い鎧の大男。
どよどよと辺りからざわめきが響き始めると、獅子の仮面の奥に秘された赤い眼光が、ゆらりと鬼火のような不気味な光を放った。
咄嗟に足を止めたアザミや、呆然となるシェラや少年少女達の前に、建物の奥から飛び出して来た数十人の兵士が包囲を作り始める。
全員、隙間のない甲冑を身に纏い、あの弓に似た武器を構えて突き付けている。ぐるりと半円を描くように揃ったことで、アザミとシェラ達の逃走路は一切塞がれてしまった。
「よくもこの城を、汚い足で踏み荒らしてくれやがったな!? 覚悟しやがれ!」
「今ここで、汚らしい体液ぶちまけて死に絶えろ、糞虫が!」
心臓や脳を真っ直ぐに狙う鏃の輝きに、少年少女達は勿論、アザミとシェラも顔から血の気を引かせる。
この状況をひっくり返せるような力はない。この場での騒ぎが広がる前に撤収するつもりだったのに、逃げるどころか動くこともできなくなってしまった。
「み、見つかった…!」
「まずい…無駄に話をし過ぎた。本気でまずい…!」
「…! だから言ったんだよ、ちくしょう…!」
「何をぶつぶつ言っている…! 口を開くな! この清廉な空気が穢れていくのがわからんのか!?」
悲鳴を漏らす少女達に、兵士達は苛立ちを覚えたのか、引き金にかける指に徐々に力を込め始める。
陽光を受けて、鈍い光を放つ鏃。それを前にして、アザミとシェラ達は悔しさに歯を食い縛る。先ほどのような根拠のない自信など、木端微塵に吹き飛んでしまっていた。
「ゴミの分際で、人間様の手をここまで煩わせやがって…! 一回殺すだけじゃ足りねぇ、達磨にして責め続けてやろうぜ」
「いや…! これ以上こいつらの薄汚ねぇ面なんざ見たくねぇ、ここで駆除するぞ!」
兵士達全員が口々に罵倒の言葉を発し、汚らわしいものを見る目を向ける。
話す間も与えられない、ただ貫かれるための的になり果てた少年少女達は、襲い来るであろう痛みと衝撃を想像し、思わず目を瞑る。
アザミは矢を突き付ける兵士達を睨みつけ、意味のないことと知りながら、彼らを庇うように両手を広げ、前に立ちはだかる。
兵士達はそれに、滑稽なものを見るように嗜虐的な笑みを浮かべ、引き金をゆっくりと引き始めた。
「下らねぇな、さっさと死ね―――」
兵士の一人の台詞と共に、彼らの指に力がかかる。
ガッ、ガガガッ!と、弓が力を解放し鏃を放つ音が、立て続けに鳴り響く。前後左右から放たれた凶器が、風を切り近付いてくる音が聞こえてくる。
「っ…!」
「ねえ様…!」
もはやこれまで、と。アザミ達は身を固くしながらそう覚悟する。
少年少女達は嗚咽をこぼしながら、シェラはアザミの背に縋りながら。アザミは脳裏に、一つの大きな背中を思い浮かべながら、ひたすらに最期の瞬間を待つ。
だが、何時まで経っても、少女達に痛みが襲ってくることはなかった。
代わりに感じたのは、ざわりと奇妙な風が頬を撫でた感触だった。
「……え?」
「―――まったく…己が目を離した隙にこうも厄介事を引き寄せるとは、どういう星の元に生まれているのだ、お前は」
恐る恐る瞼を開け、顔を上げたアザミとシェラの視界に入って来たのは、漆黒の壁。
いや、壁と見まがうほどに大きく、揺るぎない後姿を持つ、見慣れた色と聞きなれた不思議な声を持つ者の姿が、そこにはあった。
「……お師、匠?」
「おししょう……様」
姉妹は呆然と、自分達の前に堂々と立っている師を凝視する。
何故ここに、何時ここに、様々な疑問が脳内に何度も浮かび、全く答えが見つからず、ぽかんと間抜けな顔で呆けたまま、立ち尽くす。
固まったままの弟子たちを背に庇いながら、師はゴキリと首を鳴らし、驚愕で目を見開き固まっている兵士達を見据えた。
「己の弟子に手を出したのは……お前達か?」
ばらばらと、砕けた全ての矢を地面にばらまきながら問いかける黒い鎧の大男。
どよどよと辺りからざわめきが響き始めると、獅子の仮面の奥に秘された赤い眼光が、ゆらりと鬼火のような不気味な光を放った。
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