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薄幸の少女と森の賢者達
22‐4:因果応報
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「な、なんで…! なんで、あの出来損ないがこんな…こんな…!」
シェラの父は、ぶすぶすと黒い煙を上げる兵士達に、そして自分を見下ろしてくる少女を前に泣き叫ぶ。
ただ金目になると思っていた、役立たずを買い取らせるだけのはずだった、全てが自分に益があると思って行動したのに、待っていたのは真逆の結果を見せるこの惨状。
自分の正気を疑うほどに、予想だにしない展開であった。
「きっ…貴様! 貴様のせいか! 貴様があんな悪魔をここに呼び込んだから、私の…私の城が!」
「はっ、離せ! 俺じゃねぇ! 俺は何にも悪くねぇぞ! 悪いのは全部…!」
誰も動かなくなっている現状、突如恐怖で引き攣った顔で掴みかかってくる男に、シェラの父は必死の形相で首を振る。
どうしてこうなった、何であいつにこんな事ができる、と内心を疑問符で埋め尽くし、只管に現実逃避を繰り返す哀れな男達。
すると突如、シェラの父の姿が男の前から消え失せる。
いや、目にも止まらぬ速さで真横に吹っ飛ばされた。
「…あ~、やっと自由になれた。よくもまぁ好き勝手やってくれたよね、糞野郎共…!」
唖然となる男が、聞こえてきた低い声の方にぎこちない動きで振り向く。
ゴキゴキと首と手首を鳴らし、にんまりと笑みを浮かべる黒髪のエルフが、爛々と目を光らせて見下ろしてきている。
その視線の先を見れば、首がおかしな方に曲がったシェラの父が、口から血を噴いて倒れている姿が目に入り、男はより一層の恐怖に襲われる。
「あ、ぁあ、あああ…!」
「正直言えばあんたも一緒にぶっ飛ばしてやりたいけど……横取りするわけにもいかないからね。譲るよ、あんた達」
残念そうにそう告げ、引き下がるアザミ。
恐怖の対象の一人が引いたことに戸惑い、訝しげに首を傾げる彼の元に、ぞろぞろと集まる幾つもの小さな影があった。
近づく影に、そして足音に気付き、男はびくっと肩を震わせ、恐る恐る振り向く。
宙を飛び交っていたものより、一回りも二回りも大きな石礫を手に、ゆっくりと歩み寄って来るのは、彼らが虐げ続けていた亜人の少年少女達。
皆が皆、恐ろしいほどに冷め切った表情で男を見つめ、固く握りしめた石礫を近づけてきていた。
「お前のせいで…お前らのせいで…!」
「私の弟が…妹が…みんなが…!」
「許さない……許さない」
「く、来るな、来るんじゃない! き、汚い! 臭い! 近寄るな! 私を誰だと思っている!?」
迫り来る彼らを前に、男はガタガタと身を震わせ、抜けた腰で必死に後退ろうとする。
だが、幾度も命の危機を迎え、あるいは同じ境遇の仲間の命を奪われてきた彼らが、それを許すはずがなかった。
「…あ、あぁああぁああ…! や、やめ…やめろ…!」
顔中をぐちゃぐちゃにし、怯え続ける彼を前に、少年少女達が石礫を握った手を大きく振り上げる。
男の顔が、絶望に染まりきったその直後。
鮮やかな血の花が、幾つも幾度も辺りに咲き誇り、辺り一面を真っ赤に染め上げたのだった。
シェラの父は、ぶすぶすと黒い煙を上げる兵士達に、そして自分を見下ろしてくる少女を前に泣き叫ぶ。
ただ金目になると思っていた、役立たずを買い取らせるだけのはずだった、全てが自分に益があると思って行動したのに、待っていたのは真逆の結果を見せるこの惨状。
自分の正気を疑うほどに、予想だにしない展開であった。
「きっ…貴様! 貴様のせいか! 貴様があんな悪魔をここに呼び込んだから、私の…私の城が!」
「はっ、離せ! 俺じゃねぇ! 俺は何にも悪くねぇぞ! 悪いのは全部…!」
誰も動かなくなっている現状、突如恐怖で引き攣った顔で掴みかかってくる男に、シェラの父は必死の形相で首を振る。
どうしてこうなった、何であいつにこんな事ができる、と内心を疑問符で埋め尽くし、只管に現実逃避を繰り返す哀れな男達。
すると突如、シェラの父の姿が男の前から消え失せる。
いや、目にも止まらぬ速さで真横に吹っ飛ばされた。
「…あ~、やっと自由になれた。よくもまぁ好き勝手やってくれたよね、糞野郎共…!」
唖然となる男が、聞こえてきた低い声の方にぎこちない動きで振り向く。
ゴキゴキと首と手首を鳴らし、にんまりと笑みを浮かべる黒髪のエルフが、爛々と目を光らせて見下ろしてきている。
その視線の先を見れば、首がおかしな方に曲がったシェラの父が、口から血を噴いて倒れている姿が目に入り、男はより一層の恐怖に襲われる。
「あ、ぁあ、あああ…!」
「正直言えばあんたも一緒にぶっ飛ばしてやりたいけど……横取りするわけにもいかないからね。譲るよ、あんた達」
残念そうにそう告げ、引き下がるアザミ。
恐怖の対象の一人が引いたことに戸惑い、訝しげに首を傾げる彼の元に、ぞろぞろと集まる幾つもの小さな影があった。
近づく影に、そして足音に気付き、男はびくっと肩を震わせ、恐る恐る振り向く。
宙を飛び交っていたものより、一回りも二回りも大きな石礫を手に、ゆっくりと歩み寄って来るのは、彼らが虐げ続けていた亜人の少年少女達。
皆が皆、恐ろしいほどに冷め切った表情で男を見つめ、固く握りしめた石礫を近づけてきていた。
「お前のせいで…お前らのせいで…!」
「私の弟が…妹が…みんなが…!」
「許さない……許さない」
「く、来るな、来るんじゃない! き、汚い! 臭い! 近寄るな! 私を誰だと思っている!?」
迫り来る彼らを前に、男はガタガタと身を震わせ、抜けた腰で必死に後退ろうとする。
だが、幾度も命の危機を迎え、あるいは同じ境遇の仲間の命を奪われてきた彼らが、それを許すはずがなかった。
「…あ、あぁああぁああ…! や、やめ…やめろ…!」
顔中をぐちゃぐちゃにし、怯え続ける彼を前に、少年少女達が石礫を握った手を大きく振り上げる。
男の顔が、絶望に染まりきったその直後。
鮮やかな血の花が、幾つも幾度も辺りに咲き誇り、辺り一面を真っ赤に染め上げたのだった。
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