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薄幸の少女と森の賢者達
19‐1:厄日
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銀の鎧を纏った優男の、美しくも気味の悪い笑みを前にして、アザミとシェラのこめかみを汗が伝う。
さらには二人の足元に突き刺さる一本の矢の存在が、それぞれの緊張に拍車をかける。
「…厄日だわ、今日は」
憲兵の一人が口にしたものとは真逆の一言をこぼし、アザミは頬を引きつらせる。
彼女の瞼にも、この男が見せた悍ましい行為は焼き付いている。妹分の手前、取り乱すようなことは決してしないが、時折その光景が脳裏をよぎり、寒気を止められずにいた。
「さて…あの男の情報通りでしたがこれからどうしましょうか? 俺としては、早いところ害虫は駆除してしまいたいんですけどねぇ……あれは遊んでも面白くなさそうですし」
「待て、馬鹿者」
くるくると、以前も弄んでいたナイフを手にぼやく若い兵士に、隊長格の兵士が険しい顔で睨みつける。
胡乱気に振り向いた部下に、隊長格の兵士はアザミとシェラの二人をじっと見下ろし、にやりと意味深な笑みを浮かべた。
「あれらは既に売買契約がなされている……下手に傷をつければこちらに賠償請求がくる。なるべく無傷で捕らえろとのお達しだ」
「ええ~…面倒臭いなぁ。自分の玩具にしたいだけじゃないですか」
「まぁ、そう言うな。しっかりやれば、その分報酬は弾むとのことだ。その金で好きなおもちゃを買えばいいだろう」
自分達を放置し、勝手な金勘定を行う憲兵たちに、アザミはたまらず目を吊り上げ、シェラはますます怯えてアザミの後ろで縮こまる。
何をされるか全く想像ができないが、このままでは死んだほうがましな目に遭わされるのは間違いない事だけがわかった。
「ふざけんな! なに勝手にあたし達を商品扱いしてんだ! 断固拒否するに決まって――」
「黙れ! 薄汚い亜人のめす風情が不満などたれるな!」
部下に対しては比較的穏やかに話していた隊長格の男は、アザミが抗議の声をあげると豹変し、唾を撒き散らしながら怒鳴りつけてくる。
前触れなく激昂する大柄な男の剣幕に圧され、アザミは思わず口を閉ざし、びくっと肩を竦めて後退ってしまう。気の強い彼女であっても一瞬怯むほど、彼の豹変は化け物染みた迫力があり、それ以上の抗議を諦めさせた。
「お前達亜人に何故口ごたえする権利があると思っている!? 畜生にも劣る出来損ないの分際で、我々人間の道具として重宝してもらえるだけありがたいと思えんのか!? これだから獣との混ざり物は汚らわしくて嫌いなのだ!!」
声にも表情にも、本気でアザミ達をゴミか汚物のように捉え、蔑んでいる様子がわかり、姉妹はその思考の歪さに言葉を失くす。
特に深い理由があるわけではない、ただそこにあって目に見えるのが嫌だという、幼稚とさえ言い難い偏見を臆面なく口にする彼が、恐ろしくて仕方がなかった。
隊長格の兵士は吠えるだけ吠えると落ち着いたのか、やや息を荒げながら居住いを正し、改めて姉妹を見下ろす。
その目に再び宿る悍ましい視線に、シェラはごくりと息を呑んだ。
「光栄にもお前達は…我々がじきじきに運んでやる機会に恵まれた。せいぜい感謝しながら、最期の空でも拝むことだな――行け」
隊長格の兵士がそう告げ、片手を振り下ろすと同時に、左右に控えていた彼の部下達が建物の上から飛び降り、一斉にアザミとシェラに向かっていった。
さらには二人の足元に突き刺さる一本の矢の存在が、それぞれの緊張に拍車をかける。
「…厄日だわ、今日は」
憲兵の一人が口にしたものとは真逆の一言をこぼし、アザミは頬を引きつらせる。
彼女の瞼にも、この男が見せた悍ましい行為は焼き付いている。妹分の手前、取り乱すようなことは決してしないが、時折その光景が脳裏をよぎり、寒気を止められずにいた。
「さて…あの男の情報通りでしたがこれからどうしましょうか? 俺としては、早いところ害虫は駆除してしまいたいんですけどねぇ……あれは遊んでも面白くなさそうですし」
「待て、馬鹿者」
くるくると、以前も弄んでいたナイフを手にぼやく若い兵士に、隊長格の兵士が険しい顔で睨みつける。
胡乱気に振り向いた部下に、隊長格の兵士はアザミとシェラの二人をじっと見下ろし、にやりと意味深な笑みを浮かべた。
「あれらは既に売買契約がなされている……下手に傷をつければこちらに賠償請求がくる。なるべく無傷で捕らえろとのお達しだ」
「ええ~…面倒臭いなぁ。自分の玩具にしたいだけじゃないですか」
「まぁ、そう言うな。しっかりやれば、その分報酬は弾むとのことだ。その金で好きなおもちゃを買えばいいだろう」
自分達を放置し、勝手な金勘定を行う憲兵たちに、アザミはたまらず目を吊り上げ、シェラはますます怯えてアザミの後ろで縮こまる。
何をされるか全く想像ができないが、このままでは死んだほうがましな目に遭わされるのは間違いない事だけがわかった。
「ふざけんな! なに勝手にあたし達を商品扱いしてんだ! 断固拒否するに決まって――」
「黙れ! 薄汚い亜人のめす風情が不満などたれるな!」
部下に対しては比較的穏やかに話していた隊長格の男は、アザミが抗議の声をあげると豹変し、唾を撒き散らしながら怒鳴りつけてくる。
前触れなく激昂する大柄な男の剣幕に圧され、アザミは思わず口を閉ざし、びくっと肩を竦めて後退ってしまう。気の強い彼女であっても一瞬怯むほど、彼の豹変は化け物染みた迫力があり、それ以上の抗議を諦めさせた。
「お前達亜人に何故口ごたえする権利があると思っている!? 畜生にも劣る出来損ないの分際で、我々人間の道具として重宝してもらえるだけありがたいと思えんのか!? これだから獣との混ざり物は汚らわしくて嫌いなのだ!!」
声にも表情にも、本気でアザミ達をゴミか汚物のように捉え、蔑んでいる様子がわかり、姉妹はその思考の歪さに言葉を失くす。
特に深い理由があるわけではない、ただそこにあって目に見えるのが嫌だという、幼稚とさえ言い難い偏見を臆面なく口にする彼が、恐ろしくて仕方がなかった。
隊長格の兵士は吠えるだけ吠えると落ち着いたのか、やや息を荒げながら居住いを正し、改めて姉妹を見下ろす。
その目に再び宿る悍ましい視線に、シェラはごくりと息を呑んだ。
「光栄にもお前達は…我々がじきじきに運んでやる機会に恵まれた。せいぜい感謝しながら、最期の空でも拝むことだな――行け」
隊長格の兵士がそう告げ、片手を振り下ろすと同時に、左右に控えていた彼の部下達が建物の上から飛び降り、一斉にアザミとシェラに向かっていった。
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