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薄幸の少女と森の賢者達
13-3:シェラの本音
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「! ねえ様…!」
「追うな」
アザミの悲痛な表情を目の当たりにしたシェラが、慌ててその後を追いかけようと振り向くが、師はそれに一喝して制止させる。
「己が歪んだ存在であると認められぬ者に、優しくしてやる必要はない。己の間違いを受け入れられぬ者に、踏み出す明日はない。それができぬのなら、あれはそこまでの存在だったということだ」
「…! だとしても、あそこまで言う必要が、あったの…?」
「あれは我が強い…穏やかに言い聞かせたところで、過ちを認めはしない。己はいつも通りに告げただけだ」
傷付き、逃げ出した弟子を案じる様子などまったくなく、シェラは思わずキッと師を睨みつけるも、鋭い視線を受けた本人はどこ吹く風と言った様子で、椅子に腰かけたまま寛いでいる。
それが無性に腹が立ち、シェラの眉間により深くのしわが刻まれていった。
「何をそこまで怒る。赤の他人がどうなろうと関係がないだろうに…」
「…でも、恩人。何の関係もなかった私を助けてくれた……大切な人。だから、傷つけさせたくなかった。恐い目に遭わせたくなかった。なのに……」
「そうやって、自分一人で背負いこみ、自分ごと消してしまうつもりだったわけか。それも自己愛というものよ」
ぎょろり、と仮面の奥の目が蠢き、憎々しげに睨みつけてくるシェラを見つめ返す。黒い鋼鉄で覆われた師の顔からは感情が伺えず、淡々とした口調は無機物を相手に話しているようだ。
人の姿を持ちながら、人ではない相容れない存在に貶されているような気がして、シェラの胸中には苛立ちが募っていく。
「お前もあれと同じよ。あれの為と言いながら、己の事しか考えてはいない。お前一人が犠牲になった所で、連中は次なる手を打ってくる。その時あれは、お前を失った事で嘆き悲しみ、心を病んだだろう……お前の行いは、別の悲劇を呼ぶだけだ」
「だって……私には本当に、こんな事でしか…」
「周りを見よ、そして常に己の姿を顧みよ。己一人の善意にどれだけの正しさがある。己一人の尺度で物事を見れば、いずれ大きく己が指針を歪める事となるぞ」
師はシェラを見据えたまま、声を荒げる事も威圧してくる事もない。淡々と、自分が引っ掛かった部分を指摘し、再考を促すばかり。
未熟な少女達の浅はかさを、自分の思慮の浅さを見せつけられているような気分になり、シェラは恐ろしく居心地が悪くなっていた。
「……」
「認められぬならそれもいい。どうせ己は、お前の保護者ではない……名乗り出たあれも、お前自身が否定した。所詮は赤の他人なのだ。好きにするがいい」
沈黙の中、師がそう告げると、シェラはきつく唇を食い縛り、踵を返して扉を押し開けて走り出す。師はそんな少女の背中に一瞥だけをくれ、すぐにまた元の姿勢に戻る。
そのうちフッと、仮面の奥の赤い目の光が蝋燭を吹いかのように消え、室内に沈黙が降りた。
「追うな」
アザミの悲痛な表情を目の当たりにしたシェラが、慌ててその後を追いかけようと振り向くが、師はそれに一喝して制止させる。
「己が歪んだ存在であると認められぬ者に、優しくしてやる必要はない。己の間違いを受け入れられぬ者に、踏み出す明日はない。それができぬのなら、あれはそこまでの存在だったということだ」
「…! だとしても、あそこまで言う必要が、あったの…?」
「あれは我が強い…穏やかに言い聞かせたところで、過ちを認めはしない。己はいつも通りに告げただけだ」
傷付き、逃げ出した弟子を案じる様子などまったくなく、シェラは思わずキッと師を睨みつけるも、鋭い視線を受けた本人はどこ吹く風と言った様子で、椅子に腰かけたまま寛いでいる。
それが無性に腹が立ち、シェラの眉間により深くのしわが刻まれていった。
「何をそこまで怒る。赤の他人がどうなろうと関係がないだろうに…」
「…でも、恩人。何の関係もなかった私を助けてくれた……大切な人。だから、傷つけさせたくなかった。恐い目に遭わせたくなかった。なのに……」
「そうやって、自分一人で背負いこみ、自分ごと消してしまうつもりだったわけか。それも自己愛というものよ」
ぎょろり、と仮面の奥の目が蠢き、憎々しげに睨みつけてくるシェラを見つめ返す。黒い鋼鉄で覆われた師の顔からは感情が伺えず、淡々とした口調は無機物を相手に話しているようだ。
人の姿を持ちながら、人ではない相容れない存在に貶されているような気がして、シェラの胸中には苛立ちが募っていく。
「お前もあれと同じよ。あれの為と言いながら、己の事しか考えてはいない。お前一人が犠牲になった所で、連中は次なる手を打ってくる。その時あれは、お前を失った事で嘆き悲しみ、心を病んだだろう……お前の行いは、別の悲劇を呼ぶだけだ」
「だって……私には本当に、こんな事でしか…」
「周りを見よ、そして常に己の姿を顧みよ。己一人の善意にどれだけの正しさがある。己一人の尺度で物事を見れば、いずれ大きく己が指針を歪める事となるぞ」
師はシェラを見据えたまま、声を荒げる事も威圧してくる事もない。淡々と、自分が引っ掛かった部分を指摘し、再考を促すばかり。
未熟な少女達の浅はかさを、自分の思慮の浅さを見せつけられているような気分になり、シェラは恐ろしく居心地が悪くなっていた。
「……」
「認められぬならそれもいい。どうせ己は、お前の保護者ではない……名乗り出たあれも、お前自身が否定した。所詮は赤の他人なのだ。好きにするがいい」
沈黙の中、師がそう告げると、シェラはきつく唇を食い縛り、踵を返して扉を押し開けて走り出す。師はそんな少女の背中に一瞥だけをくれ、すぐにまた元の姿勢に戻る。
そのうちフッと、仮面の奥の赤い目の光が蝋燭を吹いかのように消え、室内に沈黙が降りた。
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