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薄幸の少女と森の賢者達
12‐4:師に容赦はなし
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少女の圧を受け、男達は思わず気圧されるものの、すぐに我に返り逆にアザミを睨み返した。
「黙れ、薄汚い亜人が! 家畜の一匹や二匹、どう扱ったところで誰に咎められる道理はない! 俺達の予定通りにあの家にいなかったお前が悪いんだ!!」
「お前…!」
「だが…自分からのこのこ現われた点だけは評価してやる! さっさとこっちへ来い。お前には、あれを呼び寄せる餌になる役目があるんだからな」
アザミの都合も感情も、そして何より妹分の命の危機も、全てを一切無視した物言いに、アザミは益々怒りで目を滾らせる。
フーッと獣のような唸り声を漏らし、黒いエルフの少女はシェラを背に庇う位置に立ち、手にした杖の先端、月光に輝く宝玉を突き付ける。
「…今なら泣いて謝るだけで、殺さずに済ませてやる。さっさと地面に這いつくばれ」
「あぁ? 馬鹿かお前は! 命令してるのはこっちだ! ゴミが生意気に人の言葉を喋ってるんじゃねぇ!!」
「口を利くのも面倒臭ぇ……半殺しにしてさっさと連れていくぞ」
覆面の下をすさまじい形相に歪めた男達は、懐からナイフを抜き、いつでも駆け出せるよう体勢を低く身構え、アザミを睨みつける。
じりじりと近づいてくる男達を前に、アザミがこめかみから一筋の冷や汗を垂らし、息を呑む。
一触即発、いつ弾けてもおかしくない緊張感の中、互いが即座に接近するための一歩を踏み出しかけた、その時だった。
「…ぅわあああ!!」
「たすっ…助けてくれぇ!」
情けない悲鳴と共に、男達の背後の森の中から、彼らの同胞達が這う這うの体で飛び出してくる。
警戒の邪魔っをされた男達が鬱陶しそうに、同時に訝しげに振り向いたその瞬間。
一人の男の首と身体が、一瞬にして分かたれた。
「ぁが―――」
声帯ごと真っ二つにされたのか、断末魔の声を上げる暇さえなく、自由を失った同胞の首がごろごろと転がっていく。
ドサッと倒れ込む残りの身体を目の当たりにし、ナイフを構えていた男達や他の同胞達は、恐怖と混乱でその場に縫い付けられた。
「こ、こいつは…!」
「煩い上に、わらわらわらわら、次から次へと現われおって……邪魔な塵屑どもが」
硬直し棒立ちになり、あるいは尻餅をつく黒装束達に向けて、ズシン、ズシンと地面を踏み鳴らして現われた黒い巨体が、心底面倒臭そうな調子で吐き捨てる。
肩には人の背丈を優に超える戦斧を担ぎ、血のような赤い眼光をより毒々しく輝かせた黒い鎧の大男が、黒装束達を見下ろして肩を竦める。
もう片方の手に掴まれている、見覚えのあるいくつもの首の数々を凝視し、男の片割れが背筋を震わせる。
切り取られた首が、未だに元気に口や目を動かしていることにだけではない。師が持つ頸の数、そして自分達の近くに集まった同胞たちの数が、最後に数えた人数とぴったり符合したからだ。
「まさか……別動隊が全滅したのか」
「…! 馬鹿な、あの闇の中、それもあの数だぞ!? 一体どうやって…」
目の前に示された事実を、飲み込むことができない男達。
そんな彼らの動揺もしったことではないと、戦斧をぶるんと振り回した師が、残る黒装束達に近づいていく。あっという間に目の前に迫る巨体に、黒装束の一人の精神が限界を迎えた。
「う…うわあああ!」
「よせ!」
錯乱し、涙と鼻水で顔中をぐちゃぐちゃにした一人が、懐から抜いたナイフを滅茶苦茶に振り回す。
策も何もない、激情のまま振るわれたそれが真面に通るはずもなく、すぐに師の鎧に阻まれ、がきんと音を立てて弾かれ手から離れる。
得物を失くし、それでも腕を振り回す彼に、師は無情に戦斧を一閃する。
一瞬の静寂の後、彼の首は大きく宙を舞い、ぼとりとぬかるんだ地面に落下しめり込む。頭を失った体はだらりと力を失くし、草地の中にどさりと倒れ伏す。
わずか、数秒の間の出来事であった。
「ひっ…ひぃい!」
「に、逃げ―――」
甲高い声を上げ、背を向けて走り出そうとした残りの黒装束達も、次の瞬間首と胴体が断ち切られ、ぽんぽんと支えを失った頭が宙を舞う。
まるで悪夢のような光景を目の当たりにし、シェラを攫った男達は絶句し、震える足で後退る他になかった。
「……化け物」
「その化け物の縄張りで好き勝手暴れたのだ……楽に逝けると思うな」
ズン!と師の振り下ろした戦斧の刃が地面に突き立てられ、びりびりと大気まで震えだす。
男の片割れは憎々し気に死を睨み、やがて振り向くや否や走り出し、アザミに向かって刃を振りかざす。すぐ近くに居た彼女を人質に、この場を切り抜けようと考えたらしい。
だが、刃が目前に迫っても、アザミの顔に焦りも狼狽も表れてはいなかった。
「そういうの……予想済みなんだよ!」
雄々しく吠えたアザミが、杖で男の刃を弾くと同時に片足を軸に回転し、男の顔面に向かって加速させた蹴りを叩き込む。
男はまるで、シェラの分の意趣返しのように顔面を歪められ、刃を何本か砕かれながら吹っ飛ばされる。そしてその先の樹の幹に激突し、それ以降ピクリとも動かなくなった。
「黙れ、薄汚い亜人が! 家畜の一匹や二匹、どう扱ったところで誰に咎められる道理はない! 俺達の予定通りにあの家にいなかったお前が悪いんだ!!」
「お前…!」
「だが…自分からのこのこ現われた点だけは評価してやる! さっさとこっちへ来い。お前には、あれを呼び寄せる餌になる役目があるんだからな」
アザミの都合も感情も、そして何より妹分の命の危機も、全てを一切無視した物言いに、アザミは益々怒りで目を滾らせる。
フーッと獣のような唸り声を漏らし、黒いエルフの少女はシェラを背に庇う位置に立ち、手にした杖の先端、月光に輝く宝玉を突き付ける。
「…今なら泣いて謝るだけで、殺さずに済ませてやる。さっさと地面に這いつくばれ」
「あぁ? 馬鹿かお前は! 命令してるのはこっちだ! ゴミが生意気に人の言葉を喋ってるんじゃねぇ!!」
「口を利くのも面倒臭ぇ……半殺しにしてさっさと連れていくぞ」
覆面の下をすさまじい形相に歪めた男達は、懐からナイフを抜き、いつでも駆け出せるよう体勢を低く身構え、アザミを睨みつける。
じりじりと近づいてくる男達を前に、アザミがこめかみから一筋の冷や汗を垂らし、息を呑む。
一触即発、いつ弾けてもおかしくない緊張感の中、互いが即座に接近するための一歩を踏み出しかけた、その時だった。
「…ぅわあああ!!」
「たすっ…助けてくれぇ!」
情けない悲鳴と共に、男達の背後の森の中から、彼らの同胞達が這う這うの体で飛び出してくる。
警戒の邪魔っをされた男達が鬱陶しそうに、同時に訝しげに振り向いたその瞬間。
一人の男の首と身体が、一瞬にして分かたれた。
「ぁが―――」
声帯ごと真っ二つにされたのか、断末魔の声を上げる暇さえなく、自由を失った同胞の首がごろごろと転がっていく。
ドサッと倒れ込む残りの身体を目の当たりにし、ナイフを構えていた男達や他の同胞達は、恐怖と混乱でその場に縫い付けられた。
「こ、こいつは…!」
「煩い上に、わらわらわらわら、次から次へと現われおって……邪魔な塵屑どもが」
硬直し棒立ちになり、あるいは尻餅をつく黒装束達に向けて、ズシン、ズシンと地面を踏み鳴らして現われた黒い巨体が、心底面倒臭そうな調子で吐き捨てる。
肩には人の背丈を優に超える戦斧を担ぎ、血のような赤い眼光をより毒々しく輝かせた黒い鎧の大男が、黒装束達を見下ろして肩を竦める。
もう片方の手に掴まれている、見覚えのあるいくつもの首の数々を凝視し、男の片割れが背筋を震わせる。
切り取られた首が、未だに元気に口や目を動かしていることにだけではない。師が持つ頸の数、そして自分達の近くに集まった同胞たちの数が、最後に数えた人数とぴったり符合したからだ。
「まさか……別動隊が全滅したのか」
「…! 馬鹿な、あの闇の中、それもあの数だぞ!? 一体どうやって…」
目の前に示された事実を、飲み込むことができない男達。
そんな彼らの動揺もしったことではないと、戦斧をぶるんと振り回した師が、残る黒装束達に近づいていく。あっという間に目の前に迫る巨体に、黒装束の一人の精神が限界を迎えた。
「う…うわあああ!」
「よせ!」
錯乱し、涙と鼻水で顔中をぐちゃぐちゃにした一人が、懐から抜いたナイフを滅茶苦茶に振り回す。
策も何もない、激情のまま振るわれたそれが真面に通るはずもなく、すぐに師の鎧に阻まれ、がきんと音を立てて弾かれ手から離れる。
得物を失くし、それでも腕を振り回す彼に、師は無情に戦斧を一閃する。
一瞬の静寂の後、彼の首は大きく宙を舞い、ぼとりとぬかるんだ地面に落下しめり込む。頭を失った体はだらりと力を失くし、草地の中にどさりと倒れ伏す。
わずか、数秒の間の出来事であった。
「ひっ…ひぃい!」
「に、逃げ―――」
甲高い声を上げ、背を向けて走り出そうとした残りの黒装束達も、次の瞬間首と胴体が断ち切られ、ぽんぽんと支えを失った頭が宙を舞う。
まるで悪夢のような光景を目の当たりにし、シェラを攫った男達は絶句し、震える足で後退る他になかった。
「……化け物」
「その化け物の縄張りで好き勝手暴れたのだ……楽に逝けると思うな」
ズン!と師の振り下ろした戦斧の刃が地面に突き立てられ、びりびりと大気まで震えだす。
男の片割れは憎々し気に死を睨み、やがて振り向くや否や走り出し、アザミに向かって刃を振りかざす。すぐ近くに居た彼女を人質に、この場を切り抜けようと考えたらしい。
だが、刃が目前に迫っても、アザミの顔に焦りも狼狽も表れてはいなかった。
「そういうの……予想済みなんだよ!」
雄々しく吠えたアザミが、杖で男の刃を弾くと同時に片足を軸に回転し、男の顔面に向かって加速させた蹴りを叩き込む。
男はまるで、シェラの分の意趣返しのように顔面を歪められ、刃を何本か砕かれながら吹っ飛ばされる。そしてその先の樹の幹に激突し、それ以降ピクリとも動かなくなった。
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