この美しくも残酷な世界で 〜薄幸少女が手にしたかけがえのない幸せな日々〜

春風駘蕩

文字の大きさ
上 下
39 / 99
薄幸の少女と森の賢者達

10-2:待ちぼうけ

しおりを挟む
 長い長い、依頼者の話が終わるのを、護衛の男達は師の家の外の草地で腰を下ろし、待ち続ける。
 この場に来た初めは頭上にあった陽も、だんだんと下がって光も弱くなり始めている。
 暗くなれば森の中は危険さを増し、戻る時間もなくなりそうなのに、それを考えられずしつこく話を続ける依頼者に、護衛達全員がうんざりした様子を見せていた。

「……お茶のお代わりは必要ですか」
「…いらん」
「無用だ」
「引っ込め、亜人」

 盆に乗せた木製の容器を運んでくるフードの少女の問いに、隊長格の男がぶっきらぼうに答え、その他の者達も厳しい目を返す。
 少女は小さく嘆息すると、さっさと背を向けて家の裏へと引っ込んでいく。
 その背中を見やり、護衛達は胡乱気な表情を浮かべた。

「…小間使いの割には、態度のでかい餓鬼だな」
「あれが噂の賢者の弟子か? 亜人を抱えるなんて……何考えてやがるんだ、あの野郎は」
「おい、聞こえるぞ」

 護衛の一人が、受け取った容器の中身を覗き込んで顔をしかめる。
 色こそ、さほど変わったところのない緑色の液体、おそらくは茶の一種であろう飲み物だ。しかし、亜人が淹れて持ってきたという印象の為か、汚らしいものを与えられたような、そんな顔を全員が見せている。
 中には、受け取ったはいいが飲む気になれず、その場に捨てる者さえいた。

「毒じゃねぇだろうな…あんまり撒き散らすなよ」
「亜人と言えど、そこまで馬鹿じゃないだろう。ここで俺達を殺したところで、何の益もない……あるならむしろ、彼の方の目の前にいるあの男だろうな」

 そう言って、隊長格の男が師の家に目を向ける。汚れた窓を覗いたところで、中の様子を伺うことはできそうになく、何よりそうした時点で師に悪印象を与えかねない。
 蔭り始めた空を見上げた仲間の一人が、苛々した様子で舌打ちをこぼした。

「くそっ…いつまでかかってんだよ。あいつ、あんな糞みたいな奴だけど、一応帝国の貴族だろ? 命令すりゃあ、あの賢者だってすぐに連れ出せるんじゃねぇのか? どのくらい偉いのか知らねぇけどよ」
「さぁな……余程頑固なのか、それともあの男が気に入らないのか。いずれにせよ、今我々にできるのは待つことだけだ」

 話し声一つ聞こえてこない、物音一つ聞こえてこないのをいいことに、一時任務から解放された護衛達は好き勝手に話し始める。
 不満げに頬杖をついていた一人が、不意に疑わしげな表情になり、師の家に視線を向けた。

「…何でもいいけどよぉ、さっさと面倒事は終わらせてほしいもんだよ」

 心底面倒くさそうに呟く彼に、仲間達は全員呆れた様子でため息をつくも、気持ちは同じなのか目を逸らし、肩を竦めるのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...