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薄幸の少女と森の賢者達
05-2:秘密の抜け道
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しばらく歩き続けること数十分。
堀の途中に、ボロボロの板を渡して作られた簡易的な橋を見つけた。
「あたし達が入れる入り口はこっち……何度も言ったけど、そのフード絶対外しちゃダメだからね」
「うん…?」
踏む度にぎしぎしと軋みを上げる板を渡り、二人で順番にゆっくり堀を越える。
向こう側に渡り終えると、アザミは壁の途中に生えた茂みを掻き分け、シェラとともに通れるよう道を作る。
そこに露わになった大きな亀裂に、シェラは思わず「あっ」と声をあげた。
「秘密の抜け穴。あたしが薬を売りに来る時はいつも、ここを使ってんの。さ、こっからは静かにね」
シェラを促し、茂みの中に入らせると、アザミは周囲を警戒しながら自分も入り込む。
アザミは先に亀裂の間に体を潜り込ませ、光が差し込んでくる方に四つん這いで進む。その後をシェラが追いかけ、言われた通り声を発さないように気を付け、奥を目指す。
やがて長い侵入が終わり、壁を抜けきると、シェラは目の前の光景に息を呑んだ。
「……なに、これ」
亀裂を抜けて最初に受けた刺激は、異臭だった。
肉が腐ったような臭い、泥の臭い、そして血の臭い。あらゆる悪臭が混じり合った凄まじい匂いが嗅覚に突き刺さり、シェラはすぐさま鼻をつまむ。
そして、視界に入ったその景色にも、吐き気を催しかけた。
白亜の美しい街並みとは比べ物にならない、街とも言えないほどに汚れた家々。
柱や壁、屋根に使われている木材は腐り、穴らだけになっており、所々焦げたような跡がある。道端には腐った食べ物の皮が散らばり、生物の死骸や糞も放置されている。中には、人と思わしき襤褸布に包まれた何かが転がっているのも目に映る。
生きている人も皆、およそ生気というものが感じられない。骨と皮だけになった彼らは、虚ろな目で侵入者であるアザミ達を見やり、ぼそぼそと何かを呟いていた。
「…こわい」
「離れないでね。ここらの奴らは、あたしには手を出してこない……前に結構痛い目に遭わせたから、近付いたら怪我するって学んでんの」
怯え、アザミの纏う襤褸布の端を掴んで身を隠そうとするシェラに、アザミはその手を掴んで語り掛ける。
二人が前に進み始めると、彷徨う人々はじっと視線を向けながら、一定の距離を保つように後退る。しかしすぐそばを通り過ぎると、また近づいて後姿を見つめ続ける。
まるで、アザミの一挙一動を監視し、彼女が気を抜く瞬間を待っているかのようだった。
「絶対離れちゃダメだよ……もう少し歩けば、あいつらが入れないところに行けるから」
ガタガタと震え、より一層襤褸布を掴む力を強めるシェラに、アザミはやや強張った表情で告げ、黙々と歩き続ける。
二人の後には、今も虚ろな目の人々がぞろぞろと付いてくる。穴の底のように昏い目の奥には、二人に対する明確な害意があり、ほとんど骨のような手に握られた棒きれも、その悪意を表していた。
その時、突如一人の男が飛び出し、アザミとシェラに棒切れを振り上げて飛び掛かった。
堀の途中に、ボロボロの板を渡して作られた簡易的な橋を見つけた。
「あたし達が入れる入り口はこっち……何度も言ったけど、そのフード絶対外しちゃダメだからね」
「うん…?」
踏む度にぎしぎしと軋みを上げる板を渡り、二人で順番にゆっくり堀を越える。
向こう側に渡り終えると、アザミは壁の途中に生えた茂みを掻き分け、シェラとともに通れるよう道を作る。
そこに露わになった大きな亀裂に、シェラは思わず「あっ」と声をあげた。
「秘密の抜け穴。あたしが薬を売りに来る時はいつも、ここを使ってんの。さ、こっからは静かにね」
シェラを促し、茂みの中に入らせると、アザミは周囲を警戒しながら自分も入り込む。
アザミは先に亀裂の間に体を潜り込ませ、光が差し込んでくる方に四つん這いで進む。その後をシェラが追いかけ、言われた通り声を発さないように気を付け、奥を目指す。
やがて長い侵入が終わり、壁を抜けきると、シェラは目の前の光景に息を呑んだ。
「……なに、これ」
亀裂を抜けて最初に受けた刺激は、異臭だった。
肉が腐ったような臭い、泥の臭い、そして血の臭い。あらゆる悪臭が混じり合った凄まじい匂いが嗅覚に突き刺さり、シェラはすぐさま鼻をつまむ。
そして、視界に入ったその景色にも、吐き気を催しかけた。
白亜の美しい街並みとは比べ物にならない、街とも言えないほどに汚れた家々。
柱や壁、屋根に使われている木材は腐り、穴らだけになっており、所々焦げたような跡がある。道端には腐った食べ物の皮が散らばり、生物の死骸や糞も放置されている。中には、人と思わしき襤褸布に包まれた何かが転がっているのも目に映る。
生きている人も皆、およそ生気というものが感じられない。骨と皮だけになった彼らは、虚ろな目で侵入者であるアザミ達を見やり、ぼそぼそと何かを呟いていた。
「…こわい」
「離れないでね。ここらの奴らは、あたしには手を出してこない……前に結構痛い目に遭わせたから、近付いたら怪我するって学んでんの」
怯え、アザミの纏う襤褸布の端を掴んで身を隠そうとするシェラに、アザミはその手を掴んで語り掛ける。
二人が前に進み始めると、彷徨う人々はじっと視線を向けながら、一定の距離を保つように後退る。しかしすぐそばを通り過ぎると、また近づいて後姿を見つめ続ける。
まるで、アザミの一挙一動を監視し、彼女が気を抜く瞬間を待っているかのようだった。
「絶対離れちゃダメだよ……もう少し歩けば、あいつらが入れないところに行けるから」
ガタガタと震え、より一層襤褸布を掴む力を強めるシェラに、アザミはやや強張った表情で告げ、黙々と歩き続ける。
二人の後には、今も虚ろな目の人々がぞろぞろと付いてくる。穴の底のように昏い目の奥には、二人に対する明確な害意があり、ほとんど骨のような手に握られた棒きれも、その悪意を表していた。
その時、突如一人の男が飛び出し、アザミとシェラに棒切れを振り上げて飛び掛かった。
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