この美しくも残酷な世界で 〜薄幸少女が手にしたかけがえのない幸せな日々〜

春風駘蕩

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薄幸の少女と森の賢者達

01-4:天邪鬼とお人好し

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 師は喜ぶ弟子に横目をくれると、鈍い靴音を響かせ、部屋の奥に歩き出していく。

「先に、昨晩作った煮汁を保存してあるから、適当に温めて飲ませてやれ。その様子では、碌な物を食えていまい。流動食から腹に入れてやれ」
「うん…!」
「その濡れ鼠の格好もどうにかしてやれ…その分じゃ入り方もわかるまい、お前も一緒に入れ。風呂を沸かしておくから、上がったらお前の昔の服でも貸してやれ。埃を被っているだろうが、ないよりマシだ」
「う、うん…!」
「寝床はお前の部屋でいいだろう……製薬道具は片付けておくことだ。うっかりこぼしたら怪我では済まん…ほったらかしのままの着替えや本もどかさねば、横になる隙間などないぞ」
「……うん」

 遠ざかっていく最中、師の口から送られる注意事項に、アザミは次第に渋い表情になる。なぜだか、引き受けたのは自分だが、自身の思慮の浅さを咎められているような、微妙な気分に陥らされる。
 師弟のやりとりを見守っていた少女は、ぽかんと惚けたまま棒立ちになる。
 そんな彼女の手を掴み、しゃがみ込んだアザミが、優しい笑みと共に少女と視線を合わせた。

「あんな感じでさ、お人好しなのに悪ぶる変な師匠だけど、怖がらないであげてね? 口ではああ言ってたけど、聞いての通り君のこと心配してくれてるからさ」

 にこにこと、本心から迎え入れているのがわかる明るい笑顔に、少女はますます困惑の表情になる。
 本人の言葉も聞かないままに、この家で暮らす流れが出来上がってしまったことが、いまだに信じられない。何か、恐ろしいことでも考えているのではないかと、そんなことばかり考えてしまう。

「……どぅ、して」
「ん?」
「どうして……たすけ、て…くれる、の……?」

 疑わしげな、恐れを孕んだ少女の問いに、アザミはんー、と虚空を見上げて考え込む。
 しばらくの間、眉間に皺を寄せて唸っていた彼女は、やがて照れ臭そうに赤く染めた頬をかき、はにかみながら答えた。

「……似てたからかな、あたしに」
「似て、る…?」
「さーさー! 難しい話はこの辺にしといて! お師匠の言う通り風邪引いちゃうから、まずはお着替えして、その間にご飯用意しといてあげる。忙しくなるぞ~」

 無理やり話題を逸らし、大きな声をあげるアザミに促されるまま、少女は不思議そうに首をかしげたまま部屋の奥へと歩かされる。
 相変わらず流されてばかりだったが、なぜだか今は、悪い気はしていなかった。
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