3 / 5
黒猫と仮面②
しおりを挟む
「うごごご……ししょ~、それでゲンコツしないでって前にも言ったのに~」
腫れてる、絶対でっかいたんこぶできてる…!
そんなでっかい鉄の塊で殴っちゃ絶対駄目。下手したら死んじゃう。
「馬鹿をやったお前が言うな」
抗議の声を上げるけど、師匠は逆に私の頭頂部に拳を乗せて、上からぐりぐりしてくる……いだだだだだ。
「客の相手などしなくていいと、何回も何十回も言ってあったはずだが?鍵を閉めろ、ノックされても開けるな、返答もするな。……全部できてないとはどういう了見だ小娘」
「いだだあだだ」
延々お説教されてるけど正直耳に入ってこない。痛すぎて全然内容が入ってこない。
ふざけた私が悪いのはわかってるけどもうそろそろやめてほしい。歪む。頭の骨が凹む。
やめてやめて。最初にゲンコツを受けたところを延々ぐりぐりされて痛みが全然引かなくて───クセになりそう。
「……やめだ、阿呆らしくなってきた」
「あん」
ぽいっ、と師匠のぐりぐりが離れてしまう。
ああ、もうちょっとでなんか新しい扉が開きそうだったのに。
「客は今の1人だけか。…他にもいたりしないだろうな」
「ん、さっきの子だけ。きっと、勇気を振り絞ってここまで来たんだろうな……予想外の怖いもの見せられて、可哀想に」
「根本的な原因が何を言うか」
ごすっ
また師匠のゲンコツが脳天に落ちる。さっきより軽いけど痛い。
「……でもししょー、せっかくきたお客さんをビビらせて帰らせるのはどうかと思う」
「来いと言った覚えはない。そもそも───もうここで店などやるつもりもなかったのに」
あの女の子が逃げ去った入り口に目……じゃないな、顔を向ける事もなく、師匠はかちゃかちゃとカラフルな瓶をいじくっている。
またどっかで集めてきたのか。
売りもしないし使いもしないのに、なんで持って帰って来るんだろうな、この人……
「じゃあここにいる必要ないじゃん……町から遠いし、不便だし」
「人間が近付かなければどこでもいい」
「……ししょーが人間嫌いなのはわかってるけど、流石に度がすぎると思う」
まぁ…街に行く必要ないから別にいいんだけど。
森で食材は集まるし、必要なものは師匠が自分で作るし、なんなら私も師匠が直々に作り方とか教えてくれてるし。
……師匠、もしかして私も世捨て人にしようとしてる?
「は~…なんでそこまで他人とか変わりたくないかな。誰も彼もがししょーの敵じゃあるまいに」
「生憎、お前ほど能天気なお人好しではないからな」
「ししょーほどのひねくれ者にもなりたくないんだけど」
昔、何があったらこうなるんだろうか。
子供相手に全然優しくないし、大人気ないし、中身の年齢は一体幾つなんだか。
……そこで、ふと、いつも疑問に思っている事を考える。
「……だったら、ねぇ、ししょー」
「何だ」
いつも思ってる、というか。
思った時に近くにししょーがいたら、躊躇う事なく訊いてる事なんだけど。
「なんで私を拾ったの?」
───物心つく前、私が赤ん坊だった頃。
森の片隅で、ボロ布に包まれて捨てられていたらしい私。
どこのだれかも、誰が捨てたのかもわからない、身元不明の捨て子。
そんな私を見つけて、拾って、ここまで育ててくれた。
血の繋がりも、縁もない。
全くの赤の他人なのに、10年という時を一緒に過ごし、側に置き続けた。
赤子の私はさぞ手がかかっただろうに、思い出せる記憶はずっとこの森の家の中。
他の誰かと密接に関わった記憶はない……ずっとずっと、師匠が側にいて、守ってくれていた。
人間嫌いのくせに、人間を拾って育てて……いつも不思議でならない。
「……さぁな」
だけど師匠は、それしか答えない。
誤魔化してるわけでもなくて、単に答えるのが面倒臭そうな感じで、何も教えてくれない。決まってだんまり。
どういう想いで私を育てたかなんて、何にも教えてくれやしない。
…まぁ、どうせいつもの事だから、いいんだけどさ。
腫れてる、絶対でっかいたんこぶできてる…!
そんなでっかい鉄の塊で殴っちゃ絶対駄目。下手したら死んじゃう。
「馬鹿をやったお前が言うな」
抗議の声を上げるけど、師匠は逆に私の頭頂部に拳を乗せて、上からぐりぐりしてくる……いだだだだだ。
「客の相手などしなくていいと、何回も何十回も言ってあったはずだが?鍵を閉めろ、ノックされても開けるな、返答もするな。……全部できてないとはどういう了見だ小娘」
「いだだあだだ」
延々お説教されてるけど正直耳に入ってこない。痛すぎて全然内容が入ってこない。
ふざけた私が悪いのはわかってるけどもうそろそろやめてほしい。歪む。頭の骨が凹む。
やめてやめて。最初にゲンコツを受けたところを延々ぐりぐりされて痛みが全然引かなくて───クセになりそう。
「……やめだ、阿呆らしくなってきた」
「あん」
ぽいっ、と師匠のぐりぐりが離れてしまう。
ああ、もうちょっとでなんか新しい扉が開きそうだったのに。
「客は今の1人だけか。…他にもいたりしないだろうな」
「ん、さっきの子だけ。きっと、勇気を振り絞ってここまで来たんだろうな……予想外の怖いもの見せられて、可哀想に」
「根本的な原因が何を言うか」
ごすっ
また師匠のゲンコツが脳天に落ちる。さっきより軽いけど痛い。
「……でもししょー、せっかくきたお客さんをビビらせて帰らせるのはどうかと思う」
「来いと言った覚えはない。そもそも───もうここで店などやるつもりもなかったのに」
あの女の子が逃げ去った入り口に目……じゃないな、顔を向ける事もなく、師匠はかちゃかちゃとカラフルな瓶をいじくっている。
またどっかで集めてきたのか。
売りもしないし使いもしないのに、なんで持って帰って来るんだろうな、この人……
「じゃあここにいる必要ないじゃん……町から遠いし、不便だし」
「人間が近付かなければどこでもいい」
「……ししょーが人間嫌いなのはわかってるけど、流石に度がすぎると思う」
まぁ…街に行く必要ないから別にいいんだけど。
森で食材は集まるし、必要なものは師匠が自分で作るし、なんなら私も師匠が直々に作り方とか教えてくれてるし。
……師匠、もしかして私も世捨て人にしようとしてる?
「は~…なんでそこまで他人とか変わりたくないかな。誰も彼もがししょーの敵じゃあるまいに」
「生憎、お前ほど能天気なお人好しではないからな」
「ししょーほどのひねくれ者にもなりたくないんだけど」
昔、何があったらこうなるんだろうか。
子供相手に全然優しくないし、大人気ないし、中身の年齢は一体幾つなんだか。
……そこで、ふと、いつも疑問に思っている事を考える。
「……だったら、ねぇ、ししょー」
「何だ」
いつも思ってる、というか。
思った時に近くにししょーがいたら、躊躇う事なく訊いてる事なんだけど。
「なんで私を拾ったの?」
───物心つく前、私が赤ん坊だった頃。
森の片隅で、ボロ布に包まれて捨てられていたらしい私。
どこのだれかも、誰が捨てたのかもわからない、身元不明の捨て子。
そんな私を見つけて、拾って、ここまで育ててくれた。
血の繋がりも、縁もない。
全くの赤の他人なのに、10年という時を一緒に過ごし、側に置き続けた。
赤子の私はさぞ手がかかっただろうに、思い出せる記憶はずっとこの森の家の中。
他の誰かと密接に関わった記憶はない……ずっとずっと、師匠が側にいて、守ってくれていた。
人間嫌いのくせに、人間を拾って育てて……いつも不思議でならない。
「……さぁな」
だけど師匠は、それしか答えない。
誤魔化してるわけでもなくて、単に答えるのが面倒臭そうな感じで、何も教えてくれない。決まってだんまり。
どういう想いで私を育てたかなんて、何にも教えてくれやしない。
…まぁ、どうせいつもの事だから、いいんだけどさ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)電子書籍発売中!
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
私の物を奪っていく妹がダメになる話
七辻ゆゆ
ファンタジー
私は将来の公爵夫人として厳しく躾けられ、妹はひたすら甘やかされて育った。
立派な公爵夫人になるために、妹には優しくして、なんでも譲ってあげなさい。その結果、私は着るものがないし、妹はそのヤバさがクラスに知れ渡っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる