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第325話 sideシモーネ②
しおりを挟む会食が決まったその日の夜、ハンスが私の所へ来るなり
「シモーネも会食に同席するだろ?俺も同席するから1人分追加で食事を用意させとけ。」
と言ってきた。
一体どういうつもり!?
「ハンスは護衛でしょう?」
紫愛に常に付き従い私との面会にだって後ろに立っていたじゃない!
「護衛で同席なんてできるわけないだろ?プロイセン家の次期当主としてに決まってる。」
そう言い、私を鼻で笑う。
こいつ!!!
ハンスはいつもこうだ!私を馬鹿にして!
「今回の会食はギトー家と地球人の会食よ!」
「紫愛様が俺に同席してほしいと仰ったんだ。これ以上紫愛様の不況を買うような真似して大丈夫か?俺が直接当主に同席の報告に行っても良かったがシモーネの立場がなくなると思ったからここに来てやったんだ。要らぬ気遣いだったな。当主は書斎か?」
後ろに立っていたのにどうして私が不況を買ったことを知ってるのよ!!
紫愛は僅かに顔を顰めただけのはずよ!
……まさか、戻ってから私の不満を口にしていたとでも?
「私から当主に話しておくから結構よ。」
ハンスに行かれたら何を口走るかわかったもんじゃないわ!
「そうか。明日は紫愛様に取り入ろうとするな。川端様にも色目使うんじゃねーぞ。」
「はっ!何を馬鹿なことを!!!するわけがないでしょう!?陛下の娘がされたこと知ってるのよ!」
「何が逆鱗に触れるか、お前わかってないだろ?紫愛様を下に見るような発言をしただけで川端様は怒り狂うぞ?その意図がなくとも川端様がそう捉えたらお終いだ。口は開かない方が賢明だ。」
「何よっ!私を下に見てるのはハンスでしょう!!」
「はあ?上も下もあるか。同じ次期当主だ。昨日の面会でお前の態度が危険だと感じたから忠告したまでだ。いいか?俺は忠告したからな。」
言うが早いかハンスは退室して行った。
そんなこと態々ハンスに言われなくたって許可されてないのよ!
会食の場を整え、食事の不備はないか、お酒の量は不足していないかと万全を期する。
会食を催す室内で到着を待っていると、始まる前から心臓が早鐘を打ち息が上がる。
扉の奥から凄まじい魔力圧を感じるせいだ。
紫愛より川端の方が魔力が高いのは報告を読んで知ってはいても、実際に直面するとまるで違う。
そんな2人が揃っているのだから当然と言えば当然だけど、知らず知らずのうちに顔が引き攣る。
「おい、表情すら取り繕えないならさっさと出て行け。」
お父様から睨みを利かせられ、ぐっとお腹に力を込め耐える。
「大丈夫ですわ。退室などしません!」
「わかっているとは思うが不用意に口を開くなよ。」
「はい。」
「距離を保つため、また、見下ろすことのないよう先に座についてお2方を迎える。」
「そこまでするのですか?」
「当たり前だ。紫愛殿は報告以上に小柄なのだろう?威圧感を与えたくはない。」
私とて侮っているわけではないわよ!
席に着くなり外から騒々しい声が聞こえてくる。
また中央の馬鹿共か……うんざりだわ!
騒ぎの収拾を指示しに席を立とうとすると
「良い。すぐに収まるだろう。」
と、お父様に制された。
幾許もしないうちに、本当に騒ぐ声は聞こえなくなった。
お父様はギトー家の騎士団員に予め指示を出していたのかしら?
コンコン
「皆様がお越しになられました。」
扉からコンラートの声がかかる。
紫愛とは2度目。川端とは初対面。
魔力圧に怯まないよう、更にお腹に力を込めにこやかな表情を作り待ち受ける。
入室してきた3人はハンス、紫愛、川端の順。
初めて見る川端の、何と大きく立派な体躯か…
同じ人間とは思えないほど。
隣に並ぶのが少女のような紫愛だからか、余計に対比に拍車がかかっている。
その体躯に似つかわしくない整った顔。
私より年下に見えるが実年齢はいくつなのか…
そしてこの魔力量に加え、伝説の3因子の持ち主。
更に頭脳明晰だという。
こんなに素敵な男子が皇帝の娘に触れられただけで激怒するなど考えられなかった。
報告によれば紫愛に思慕の念を抱いている。
自身の命よりも大切だと言わしめる紫愛のどこにそこまでの魅力があるというのか…
川端ならば女子など選び放題。
この国の頂点にも易々と就けるだろうに…
今回の会食で川端からどんな意見が出てくるのか楽しみで仕方がない。
挨拶を終え、お父様は真っ先に自警団の運営費について紫愛に意見を仰ぐ。
今聞かれたばかりだというのに、私に話した時と同じく澱みなく持論を語る。
罰則金の値上げは1番してはいけないことだと言い放ち、私が反対した酒税を上げることを主張した。
私とは全く正反対の意見。
けれど!!!
私とは着眼点が、そもそも考え方が違いすぎる!
上手いこと説得したという話ではない!
お父様が運営費に悩んでいることも一瞬で見抜いての発言。
私の目の前にいるハンスはまたも優しげに微笑み、お父様は感心しきり。
膝の上で握り込んだ拳が力を込めすぎてわなわなと震える。
そこからは正に紫愛の独壇場だった。
辺境に来て僅か1週間だというのに紫愛が案を出す度、次々と採用が決定されていく。
水の魔法で氷を出すのかと思いきや、麦酒を冷やすという破天荒さ。
その麦酒の美味しさといったらない!!!
それに秘匿とされている年齢が、学びを22歳まで受けていたと自ら明かしたことで少なくともそれ以上の年齢であることが判明した。
私達へと意見をする時はお互いを紫愛と川端と言っているが、ふとしたやり取りでは“しーちゃん”“あっくん”と愛称呼び。
その様子から恋人同士になったのだと思ったが、紫愛が川端を咎める際股間を蹴った。
男子の股間を蹴るなど!!
恋人ならばそんなことするはずがない!
なんという端なさ!
それに、事あるごとに川端の発言を制し許さない。
一体何故??
お互いの意見の食い違い?
自分の意見を優先させたいがために止めた?
でもお酒の話に関しては頼っているようだった。
自分にお酒の知識がないから?
2人は普段から別行動。
別々に周ればそれだけ様々なことを知り得る。
一緒に過ごすのは夕食時の僅かな時間のみ。
その僅かな時間だけで1日かけて見てきたことの擦り合わせなど不可能。
ひょっとするとまだお互いに意見交換ができていないだけかもしれない。
けれど川端の意見も聞きたかったのに!
ワインに関して喋っている川端の説明も紫愛に劣らず簡潔でわかりやすく、辺境への話をしたとしても問題なく聞けるのはわかりきったこと。
惚れた弱み故か、紫愛に対し強く出られない川端に少々ガッカリした。
最後に簡単な体術の指導を実践を交えて披露されたが、こればかりは目の前で行われても本当に信じられない思いだった。
確かに体術の腕が立つと報告は上がってきていた。
けれどこんなに小柄な紫愛が川端ですら相手にならないなど、一体誰が信じられる?
魔法に体躯は関係ないが、体術は体躯と密接した関係であるはず。
ハンスは掛け声は発しても手加減など一切していない。にも関わらず瞬間的に指を掴み僅かに反らせるだけでハンスは崩れ落ちた。
それを事も無げにやってのける紫愛に、報告は誇大でも何でもなく単なる事実だったと悟ってしまった。
お父様は扉まで見送りを申し出て席を立つ。
紫愛は扉の手前で立ち止まり、何故かコンラートに名を問う。
コンラートはお父様付きの執事。
非常に気難しく何があっても表情を変えないというのに、紫愛に名を問われ微笑んだ。
紫愛の意を汲んだハンスが代わりに扉を支えたことにも驚いたが、そこから更に驚くことに、コンラートはあろうことか紫愛に忠誠のポーズをとった!!!
お父様にしかしてはいけないでしょう!!
早く頭を上げないと大変なことになってしまうわ!と、内心焦ってしまう。
けれど肝心のお父様はコンラートを咎めるどころか「ほぉー」と、感心した様子で呟くのみ。
忠誠のポーズを向けられた紫愛はというと、単にお礼が言いたかっただけだと言う。
普通は執事の存在など気にも留めない。
賓客に細やかな気配りをするなど、執事ならば当たり前。まして名を気にするなど有り得ない。
名を知った上でお礼を言うのは自分と相手を同等だとする明確な意思表示。
お父様や私への言葉遣いと変わらず、しっかりとコンラートの名前を呼び丁寧にお礼を言う姿に、私という人間の器の小ささに恥じ入る思いだった。
そして私に止めを刺したのはお父様だった。
目を合わせたまま手の甲に口づけを落とすのは深い敬愛を表す異性に向ける仕草。
“私には貴方が必要です”と言ったも同然。
この場では“辺境には貴方が必要です”となるが、お父様がこの仕草をしたことを今まで見たことがなかった。
そのあまりの衝撃的な場面に、見送りの礼すら忘れ去ってしまった。
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