水と言霊と

みぃうめ

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第315話    ギトー家との会食④

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 食事を終え、話をする体制が整った。

 私は気になることを先に聞いてしまおうと思い

「薬草は高級品ですか?」

 と聞いた。

「高級品と言えばそうかもしれんが……シモーネはどう思う?」
「価格からすると高級品の部類に入るとは思いますわ。ですが用途がほぼ薬ですから、平民は売るのみですわね。」
「あの、1つ疑問に思ったのですが、中央では薬はないと言われました。ですがここには薬と呼ばれる物がある。どういうことでしょうか?」
「そのことか……答えは簡単だ。中央のやつらにはここの薬は理解されないから受け入れられないんだよ。」
「理解されないと仰いますと?」
「中央の貴族達がどうやって育てた野菜を食べているかご存知か?」
「はい。魔力を与えて育てていますよね?」
「そうだ。ではここの薬草は?魔力など与えておらん。加えて薬の製法も、その殆どが擦り潰しただけのようなものなんだよ。つまり、魔力を与えてもいない得体も知れない緑色の液状の何か。それの何が薬だと、こう言いたいわけだ。」
「それに関しては同意だ。あんな物を薬と呼ぶなど有り得ない。」

 あっくんが急に口を開いた。
 黙ってる約束は!?

「ちょっと!!」
「これに関しては黙っていられない!しーちゃんは命の危険に晒されたんだ!」
「それに関しては本当に申し訳なく思っている。すまなかった。」
「やめてください!あれを薬として日常的に使用していたのであれば出して当然です!あっくんは黙っててよ!!」
「何で!?」

 このやりとりは絶対長引くやつだ。
 マックスさんの前でこれ以上揉める訳にはいかない。
 静かに怒りを乗せ、あっくんを咎める。

「約束は?ここ出て行くの?」
「…………ごめん。」

 私の冷たい口調に僅かに怯み、そのまま引き下がる。
 今度はマックスさんにあっくんのフォローを入れなければならない。

「川端が失礼しました。ですが、川端の怒りも仕方のない面はあります。我々が住んでいた国では、あの薬は到底受け入れられません。話はマックスさんにも伝わっているかと思いますが、あの薬で亡くなってしまった方もいると思います。」

 一気に場の空気が重苦しくなる。

「もし薬の内容物に問題がなかったとしても、深傷を負ってあの薬を使用すれば痛みによるショック死も有り得ます。私が考えた塗り薬が万全とは言えませんが、混ぜる薬草の成分によってはあの傷薬よりは幾分効果があるはずです。菌に関しては、ベンジャミンさんのように直ぐに受け入れられる話ではないかもしれません。ですが菌に関しては譲れません。人の命が懸かっているのです。竹炭が完成したら菌のことは手洗い含め、必ず平民にまで広く周知し、徹底させるようにお願いします。」

 マックスさんは居住まいを正し、私をしっかりと見つめる。

「マックス マルクグラーフ ギトーの名に誓い、必ずや周知させることを約束しよう。」

 当主がその名に誓うという誠意ある言葉を聞けてホッとした。

「ありがとうございます。話が脱線してしまいましたが、薬草は乾燥して用いたりもしていますか?」
「1部の薬には乾燥した物を使用したりもしているな。」
「乾燥した物も含め、薬草を少しわけていただくことは可能ですか?」
「薬草を?構わないが、何に使用するか聞いても良いか?」

 まずい!
 これは新たな薬を開発するのかと誤解を生んでいる!

「薬を作ると誤解させてしまったかもしれませんが、私に薬学の知識はありません。城に残っている地球人に植物の専門家がおりますので、その者に持ち帰りたいのと……非常に言いにくいのですが、料理に使ってみたいと思っております。」
「料理?1度調理場を貸してほしいとの願い出があったが、薬草を使った新しい料理を開発できるのか?」

 新しいと言うのは語弊がありまくる。

「新しいというよりは、地球では薬草を料理に使うのも珍しいことではありませんでしたので、この国の薬草でも色々と試してみたいと考えています。」
「紫愛殿は料理が得意であるか?」
「……どうでしょう?自分ではよくわかりません。」
「紫愛は料理が上手い。限られた材料で地球人が満足できる物を作れるんだから上手いと言っていいはずだ。」

 あっくんが他視点のフォローを入れてくれた。

「地球人は食に並々ならぬ拘りがあると聞いている。オニギリだったか……あれもハンスからわけてもらったよ。米があのようにして食べられるというのは驚きだった。我々からするとあれは新たな料理だ。」

 右にいるハンスに身体ごと向き直り問い詰める。

「マックスさんに渡したの!?」

 そんなこと言ってなかったよね!?

「いけませんでしたか?有用性があり現物もあるのですから持って行くのが筋だと思いますが。」
「1言あってもいいよね!?」

 あれは炊くのに成功したとは言えない代物だったのに!

「私は米を気に入ったよ。ハンスの言う通り、食してみねば判断のしようはないからな。米も非常に有用性のある話であった。既に広める準備はしているよ。」
「オニギリに使ったご飯は、炊くには炊けましたが少し水が多かったのです。炊くのならもう少し水分量の調整が必要だと思います。」
「良い良い。それは好みの問題であろう?それもこちらで試行錯誤しよう。」

 ここの人の好みに合わせての試行錯誤は確かに必要だ。お任せしよう。

「竹炭の灰に関してだが、上澄み液で本当に菌は殺せるのか?」
「はい。酸性、中性、アルカリ性はご存知ですか?」
「いいや、聞いたこともない。」

 やっぱり知らないよね…
 勘違いされては困るから前置きは必須。

「ではそこからお話しします。世の中の物全てを、酸性、中性、アルカリ性で分けることができます。どちらが良くてどちらが悪いと言う話ではなく、単純に分別が可能だというだけの話です。」

 上手に説明できるか不安に思いながら続きを話す。

「中性とは文字通り、中間を示します。酸性とアルカリ性の中間です。この座席で言うならば、私が中性。川端は酸性。ハンスをアルカリ性と見立てましょう。」

 こういう話は位置関係が大切だ。
 例えれば理解もしやすくなるはず。

「酸性をわかりやすく味で表現するならば、酸っぱい物です。例外もありますので、全ての酸っぱい物が酸性と言い切ることはできませんが、酸っぱい物の多くが酸性です。また、肌に触れるとヒリヒリするような物も酸性となります。」

 あっくんの方を示しながら酸性の話を。

「対するアルカリ性は、味で言うと苦い物です。触るとヌルヌルと滑るような感触を得る物もありますが、すぐに洗い流してください。それは実は皮膚の表面が溶けていてそう感じるだけなのです。長時間放置すると軽い火傷のようになってしまうこともありますから注意が必要です。」

 ハンスの方を示しながらアルカリ性の話をした後

「川端に近付けば近付くほど、より酸性になるので強酸性。川端から私に近付くほどに酸性が弱まりますので弱酸性。ハンスの側のアルカリ性も同じです。ここまでよろしいですか?」

 あっくんと私の間を、私の手をあっくんに近付けたり離したりしながら、少しでもわかりやすいようにと説明していく。

「ああ、大丈夫だ。」
「はい。」

 マックスさんもシモーネさんもまだ大丈夫そう。

「では続けます。人間の体表、私達の皮膚ですね。皮膚が位置しているのが私寄りの川端側。なので、弱酸性です。この弱酸性という位置は、菌にとってとても住み良い環境であるのです。そこにもし、人間に害がある菌が手に付き、爆発的に増殖した状態で手を洗わないまま物を食べればどうなるか、もうおわかりですね?その菌は手から食べ物へと移り、体内に侵入してしまいます。」

 真剣に話を聞いてくれているので、更に続ける。

「ですから、食べる前に綺麗に手を洗うということが必要になってくるわけです。ただの水で洗うだけでも十分効果は期待できますが、溜めた水で洗うのはいけません。その水が綺麗である保証がないからです。流水で洗ってください。手を洗った水は廃棄です。」

 水を再利用されたら堪らない。

「そして最も重要な怪我人、薬を作る人、人の口に入る物を作る人には、確実に菌を殺していただかなければなりませんよね?ここでは竹炭の灰を水に溶かしたその上澄みを使用します。竹炭はハンス側。アルカリ性なのです。弱酸性を好む菌が反対のアルカリ性に触れると、殆どの菌は生きていけません。だから有効なのです。1度水に浸けてしまった灰は成分が抜けてしまい効果がなくなりますから廃棄してください。」

 難しい顔をしたマックスさんが口を開く。

「初めて聞く話ばかりだ……だが、怪我人に使用しても問題はないのか?」
「問題ありません。何故なら、人間の体内は弱アルカリ性だからです。」
「……では何故皮膚が弱酸性であるのか…」

 根本的な疑問になるよね。
 この質問が出てくるということは私の説明である程度の理解はできたということかな?

「ありとあらゆる菌が至る所におりますが、人間の皮膚が弱酸性であるのは、周りからの有害な菌から守るために人間にとって有益な菌を皮膚表面に飼っているからです。だから人間は菌にさらされながらも簡単には菌に侵されたりしない構造になっています。」
「お2方の話はある程度把握しているつもりだが、紫愛殿は本当にその道の専門家ではないのか?」

 気にするのそこなの??

「はい、違います。酸性やアルカリ性の話は川端でも可能だったはずです。」
「ああ。紫愛ほど上手く説明できたかはわからないが、俺にもその知識はある。というよりも、地球では広く知られた一般教養の話だ。」

 あっくんも私に同調してくれた。

「みなが知っている周知の話だと!?今の話がか!?」

 マックスさんはあっくんの言葉を受け、初めて表情が歪んだ。

「ああ。だから俺達があれほどに髪を振り乱し怒り狂うのがわかっただろう?」
「本当に……すまなかった。」

 驚きと嘆きとが抜けきらない表情でまた謝罪をされてしまった。

「既に謝罪はいただきましたよ?これから変えていけば良いだけです。目に見えない物はなかなか信じられないですから。」















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