水と言霊と

みぃうめ

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第299話    シモーネ マルクグラーフ ギトー

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 ブラックハンスとの会話を終え、案内されるままギトー家の次期当主の元へと向かう。

「ねぇハンス。」
「何でしょうか?」
「ラルフってさ、何で自分を次期当主だと思い込んでるの?」
「さあ?私には理解不能です。」

 うん、まぁその返答になるよね…

「次期当主っていつ決まるものなの?」
「幼い頃より見極めは始まります。完全に能力がないと判断されればその時点で当主教育は終わりますが、万が一があった場合に備え、候補は2人は居続ける形になります。その2人の内の1人が当主、1人は補佐となりますが、皆当主にはなりたがりません。責任が重過ぎるのです。当主にならずとも辺境への働きは可能ですから、各自今までの教育の元、連携を取りつつ動きます。」

 教育を受けててアレなの??

「それじゃあラルフの行動はおかしいんじゃないの?とても辺境のために動いてるとは思えないんだけど。」
「はい。ですから理解不能と申し上げました。紫愛様、此方の部屋です。」

 ラルフはラルフで好き勝手やってるってことだよね?
 ラルフのことは、もういいや。
 それより今から次期当主との面会だ。
 気合いを入れねば!

「よろしいでしょうか?」

 ハンスからの最終確認がされる。

「うん。」
「参りましょう。」

 コンコン

「ハンスです。お約束の紫愛様をお連れしました。」
「入ってちょうだい。」

 中からの許しを得て、ハンスが扉を開く。

「どうぞ、お入りください。」

 扉を支えてくれるハンスを通り越し、部屋の中へと進み入る。

 目の前にいる女性はラルフのお姉さん。
 でもあまり似ていない。
 瞳の色も緑だ。

「失礼します。初めまして。紫愛と申します。急な申し出にも関わらず、お時間を作っていただきありがとうございます。」
「あらまぁ、ご丁寧にどうも。シモーネです。よろしくねぇ。可愛らしい方ね、ふふっ。」

 口を開いたら想像と全く違った。

 なんでこんなにフレンドリーなの?
 横柄な態度や過度にへりくだるよりはよっぽどいいけど、逆に怖いですよ!!

 ……もしかして馬鹿にされてる?
 ほとほと自分のこの見た目が恨めしい。

「いくつかお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

 今更喋り方変えられるわけないよ!
 相手が何考えてるか不明ならばさっさと終わらせるに限るっ!

「まぁまぁ、折角来てくれたのにそう焦らないで。座ってお話しましょう。さぁどうぞ。」
「ありがとうございます。では、早速よろしいでしょうか?」
「紫愛さんとお呼びしても良いかしら?」
「お好きにお呼びください。私はシモーネさんとお呼びするのをお許しください。」

 いきなり“様”なんてつけて呼べるか!

「私も好きに呼んでちょうだい。それで、何が聞きたいのかしら?」

 何でこの人はこんなに上機嫌なんだろ?
 漫画なら言葉尻に音符でもついていそう。

「ギトー辺境伯領でのお悩みや問題がもしあれば、小さなことでも構いませんのでお聞かせください。」
「そうねぇ。最近は酔っ払いが増えていてね?それが結構問題になっているのよ。怪我人も増えてきているし、騒ぎも同様ね。」

 思った以上に平和な悩みっぽくない?

「酔っ払っている方は平民でしょうか?」
「ええ、そうよ。」
「酔っ払いの取り締まりはどうなっていますか?」
「自主的に見回りを申し出てくれている人達がいるのよ。その人達に任せているわ。」
「その見回りは同じ平民でしょうか?」
「ええ。」
「では、賃金は如何程お支払いされていますか?」
「無いわ。」

 は?給料なし?
 いくらなんでもそれは有りなの?
 無しでしょ?

「無償奉仕ということでしょうか?」
「そうよ?」
「紫愛様、その者達はスラムに出向いた際もおりました。」
「は?どこに?」

 思わず私の後ろに立つハンスヘと身体ごと振り返る。

「お耳を。」

 内緒話?
 ここで!?
 目の前で!?
 丸聞こえじゃないですか!

 口に両手を添え囁く気満々のハンスに、渋々私も左耳を両手で囲う。

「一緒に飲んで騒いでおりましたよ。」

 はーーーーーあ!?
 なぁーにが見回りだ!!!
 それはただの飲み仲間!!!
 ハンスが内緒話にしたがる理由に納得。
 ていうかハンスが知ってるんなら最初から教えてよね!違った!ハンスには聞いてないんだから答えるも何もなかった!

 頭の中は大忙し。
 落ち着けぇーーー!
 今のまま飲み仲間を放置は絶対だめだ!
 短く息を吐き、気持ちを落ち着けシモーネさんと対峙する。

「シモーネさん、意見をしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どんなことでも聞くわ。」

 “聞く”と言ったね?
 ならば遠慮はしない。

「今の形態では騒ぎは拡大するばかりです。その見回りは廃止とし、新たに自警団を設立してください。勿論有償で、です。仕事の1つとするのです。無償では責任感は生まれません。自主的に、それとなく、では話になりません。死亡者が出てからでは遅いのです。雇用する者は体格の良い屈強な者が良いでしょう。お酒に酔い、気が大きくなっているだけであれば、体格差に慄き、それだけで引いてくれるかもしれません。暴れる者は捕えなければなりませんから、見た目だけでなく、実力者であることは必須となります。捕えられた者は後日罰金を支払わせます。罰金を逃れようとする者も出てくると思いますので、住所、名前、年齢、家族構成、職場まで明らかにしてからの釈放となります。支払われなければ職場まで取り立てに行きます。もし職場まで自警団が来たら職を失うのではないかと思わせるのです。実際に取り立てにも行きますが、その噂が広がれば罰金の未納はかなり防げます。自警団員には騎士団員のように制服を用意してください。一目で自警団員とわかるようにする必要があります。制服を着ていなければ取り締まりはできません。また、制服を着ての飲酒もできないよう店側にも自警団員にも徹底させてください。これは仕事です!」

 一気に捲し立てるように話してしまった。
 シモーネさん固まっちゃってるよ…

「素晴らしい。」

 ボソッと呟くハンスの声が後ろから聞こえる。
 肝心のシモーネさんも漸く硬直から解かれ

「それは、今シアさんが考えたのかしら?」
「そうですが??」

 どう見たって今知ったところでしょうが!
 いつ考えたって同じでしょうに、一体何が言いたいんだ?

「1つ、良いかしら?」
「どうぞ。」
「罰則金はどれくらいをお考えかしら?」

 金額ね……払われなければ意味が無い。

「私の気持ちとしては、楽しく過ごしている者達の邪魔をし迷惑をかけたのですから平民の平均月収、と言いたいところですが、それは無理です。支払えない者も出てきましょう。平均日当の3日~5日分が妥当だと考えます。何度も繰り返すような者は罰金の増額も視野に入れましょう。払えば済むと思われては堪りませんから。自警団の運営費もありますからその辺りはシモーネさんにお任せします。」

 シモーネさんの瞳から揺らぎが見える。
 何か言いたいことでもあるんだろうが、それは後から!

「その少額を、職場に、態々、取り立てに来られてしまう。情けなくないですか?職場の人間には、酒を飲んで暴れる、罰金すら支払い能力のない人間だと知られてしまう。最悪、その職場すら失うことも有り得る。なんとしても払おうと思いませんか?」
「シアさんはとても頭が良いのね。」

 間髪入れずに次を口にする。

「あと2つほど追加事項があります。酔って暴れて壊した物、怪我を負わせてしまった人への保障についてですが、当然罰金とは別で徴収してください。それも自警団の仕事です。最後に、これが1番重要です。自警団員だからと傲岸不遜ごうがんふそんになるのは絶対に許さないでください。権力を持つと一定数の人間は自分が偉くなったと勘違いして暴挙に出ます。楽しかったはずのお酒が怖い物にならないよう、その指導も徹底してください。」
「え、ええ。徹底させるわ!」

 良し。言いたいことは言えた。
 次だ次!

「よろしくお願いします。子供達の学習や生活についてですが、そちらでも何か困ったことはありませんか?」
「特にはないわ。」
「子供達が無理矢理働かされたりするようなこともないでしょうか?」
「それはないわ。あっても家のお手伝いの範囲内ね。多少のお小遣い稼ぎは大丈夫だけれど、基本的に成人を迎える15歳までは職にはつけないの。」
「そうですか。わかりました。外に住んでいる方達やお酒に関することで当主と1度話し合いたいと思っているのですが、お時間は取れそうでしょうか?」
「そうねぇ……私からの提案を聞いてくださるかしら?」

 聞かない選択肢なんてないでしょう?

「何でしょうか?」
「ギトー辺境伯家で、公に食事会を催すの。その時に当主と話し合えば良いのではないかしら?」

 その提案にどんな意図が?
 今までずっとそれ関係は断ってきたのにここで受けることは良いの?
 簡単に首を縦に振れる話じゃない。
 私が少しの間悩んでいると、後ろから助け舟が。

「紫愛様、お受けください。」
「どうして?」
「公に行うことに意味がございます。先ほどの“対等だ”という話を思い出してください。」

 さっきの対等と言うと……皇帝と辺境伯家当主の話だよね?
 その家と初の食事会。
 今までどの家ともしなかった食事会の開催。
 良い関係を作れたと示すってことだよね?
 皇帝と対等な家と?
 良い関係で?
 食事会?

 あっ!!!
 ギトー家が地球人の後ろ盾になるって言ってるようなもんか!

「お受けします。日時は当主に合わせますのでまたご連絡ください。本日はありがとうございました。」
「此方こそ、有益な意見をありがとう!また何かあったらすぐに連絡を頂戴!シアさんならいつでもお会いするわ!また食事会でねぇ。」
「はい、失礼します。」

 ハンスが開けてくれた扉を出て、ふぅーっと一息つく。


 シモーネさん、食えない人だったな。
 何考えてるか全くわからなかった。
 なぁーんか喋り方が誰かに似てるような?
 あれはどれくらい猫を被っているんだろう。
 10枚は剥ぎ取らないと素顔が見えないような、そんな気がした。














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