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第290話 酒と筋肉
しおりを挟む「お帰り!どうだった?」
「ただいま!酒はやっぱり地球と同じ感じで作ってたよ。でも、菌のことをわかってなかったからね。運頼りだったみたいだね。」
「運?」
「そう。いくら数を作っていても失敗することが少なからずあるって。」
「そんなざっくりした感じでもお酒って作れちゃうんだね。」
「作る場所や入れ物に菌が棲みついてるもんなんだけど、それを知らないから安易に場所移動させたりしてたみたいだよ。」
「味噌とか醤油作るのと同じってこと?」
「そうそう!」
想像するのは何十年も同じ場所で造る古い建物やら樽やら…
「そりゃ失敗するよね。」
「うん。だからそれはやめろって言ってきた。」
「お酒の味はどうだったの?」
味を聞いたら、あっくんはわかりやすく顔を顰めた。
「濁酒は、正直滅茶苦茶不味かった。臭いのと酸味。あと何より色見に抵抗があり過ぎたよ。言い方悪いけど泥水っぽい感じ。だから原料の米見せてもらったんだ。優汰に見せないとハッキリ言えないけど、多分あれ古代米じゃないかな。原料の色がほぼ黒と少しの赤だったらあの色になるのは仕方ない。」
泥水の見た目で臭い。
おまけに飲めば酸味…
飲める気が全くしない。
「麦酒は、まぁ……飲めないこともないかな。でもビールってさ、冷えてないと上手いやつでも不味く感じるもんなんだよ。それに炭酸も弱い。常温のビールも飲みたいとは思わないな。」
ビールってそういうもんなんだね。
そういえばCMでもグラスが濡れたような見た目をしていた。
あれは結露みたいなもんか…
「此処に持ってくれば良かったのに。」
「何で!?飲みたかったの!?しーちゃんは飲んじゃ駄目だよ!」
「ちっがーーーう!飲みたくないってさっき言ったよ!此処に持ってきたらって言ったのは私が冷やしてあげられるから!」
「あ!!そうか!!しまった!」
「古代米だったらカオリンも優汰も喜ぶよね!貰って帰ろう!」
「そういえば古代米の話になった時香織さん興奮してたね。」
あっくんはお酒に強そう。
さっきも冷えたビールなら飲みたそうだったし。
「因みになんだけど、あっくんてお酒強いの?」
「強いと思うよ。」
「酔ったりはしないの?」
「ビールじゃどれだけ飲んでも酔えないよ。」
「どれだけ飲んでも?」
「どれだけ飲んでも。」
おうむ返しですかそーですか。
即答ってことはよっぽど強いんだろうな。
「そっか!あっくん身体が大きいからお酒が回りにくいんじゃない?ほら、お相撲さんもかなりお酒強いって言うでしょ?いつもどんなお酒飲んでたの?」
「俺はテキーラが好きだったよ。」
「テキーラ!?それ確かすんごいアルコール度数高いんじゃないの!?」
お酒に詳しくない私でも聞いた事あるよ!
「そうでもないよ?あ!しーちゃんのその情報源ってまた映画の影響なんじゃないの?テキーラってショットグラスで飲むイメージしかないんじゃない?」
「よくわかったね!そう!上に乗ってるライム齧りながら飲むやつ!」
「そうだと思ったよ。確かにあれは強いよ。テキーラをストレートで飲むスタイルだからね。齧りながらじゃなくて、ショットを一気に煽った後、口にまだテキーラが残ってるうちに齧るんだよ。ちなみに度数は40度。」
「激強じゃないか!!!」
それぶっ倒れるやつだよね!?
「俺が好きだったのはショットガンって飲み方だったよ。これもショットグラスで飲むんだけど、ショットガンはジンジャーエールとテキーラを半々で割って飲むんだよ。」
「半分でも20度じゃないか!」
「でも割ってるのがジュースだからね。飲みやすいよ?テキーラもカクテルは色々あるし。それに度数だけで言ったら焼酎の方がよっぽど高いと思うけど。」
「焼酎ってそんなに度数高いんだ…」
「うん。25度くらいじゃなかったかな?俺は常温の酒が好きじゃないんだ。邪道って言われるけど、赤ワインもクラッシュアイス入れて飲んでたし。」
それ、シャリシャリの細かい氷だよね?
「それは美味しいの?」
「まぁ、ジュース感覚だよね。」
「私にはわからん世界だ。」
「わからなくても問題ないよ。そうだ!日本に帰ったら一緒に飲みに行ってみる?初心者でも飲みやすい甘くて美味しいカクテルもいっぱいあるよ?」
「行かない。それなら私はジュースでいい。」
チャレンジするほど飲みたいと思えない。
「ははっ!しーちゃんらしいね!」
「それよりアイス食べたい。」
「しーちゃんはアイスが好きなの?」
「うん!」
「どんな味が好き?」
「アイスクリームなら何でも好き。」
「シャーベットやジェラートは?」
「酸っぱいのが多いでしょ?」
「あー、確かに。爽やかさがウリだからね。酸味は苦手?」
全てが苦手って訳じゃあない。
「果物なら平気になった。でもシャーベット系は、特にアイスになると甘さは遠くなっちゃうから酸味だけが強調されてるように感じるの。私がアイスに求めてるのは甘さとコクと滑らかさ。冷たいと普通は感覚が鈍るもんなのに美味しいって感じるなんて奇跡だよ!」
加糖されてても酸味が強いのは苦手。
「味覚障害があったって言ったでしょ?その影響なのか、加工した後の酸味って不自然に感じて警戒しちゃうんだよね。酢飯駄目だし。」
「じゃあ寿司食べれないの!?」
「うん、無理。多分組み合わせが最悪。生魚+酸味って即腐敗のイメージに繋がっちゃうの。」
「じゃあここの果物は!?大丈夫なの!?」
「覚悟してれば大丈夫。果物は最初からある程度酸味もあるし。」
「もしかしてミルクが美味しくなればアイスクリーム作れたりする?」
それは私も考えたことがあるけど…
「無理だと思う。アイスクリームの作り方は知ってても牛乳から生クリームを作る方法知らないし、そもそも卵を生で食べられないと駄目なの。ここでは卵食べないんだって。食べる習慣がないってことは私達が食べてたのは産みたての有精卵。そんなの知らなかったからガレットもどき作った時はちょっと半熟にしちゃったけど、食中毒が怖くてもうあれも2度と作れない。」
「まじかよ…」
絶句しているあっくんに更に残念なお知らせ。
「絢音が野菜の苦味も我慢してるからマヨネーズがあれば誤魔化せるかなって考えたんだけど、まぁ、あれも卵を生で食べられないと作れない。だからマヨネーズもアイスも無理そう。」
マヨネーズ嫌いな人ってあんまりいない万能調味料なのに、残念。
「マヨネーズも無理なのか……じゃあミルクシャーベットは?あれは生クリームいらないんじゃない?」
「それなら作れると思う。でも牛乳がアレだからね……あっ!!!それなら豆乳シャーベットが作れるかも!……駄目だ、大豆がわかんないんだった。」
「優汰に頼もう!」
やけに気合の入った返事が気に掛かった。
「なんか、あっくん必死?もしかしてあっくんもアイス系好きだった?」
「俺はそんなにだけど、そんなに好きならしーちゃんに食べさせてあげたい。それに豆乳作れれば絢音の栄養面の心配も解決するしね。」
「そうだったね!色んなことがありすぎて思いついてもすぐ他のことに気を取られちゃうよ。」
栄養が偏り続けるのは大問題だ。
帰ったら優汰に探してもらおう!
と、思っていると
「しーちゃん、ここで米って炊ける?」
あっくんがそう言ってきた。
「そっか!パンしか出てこなかったけどお米あるなら食べたいよね!」
「うん。塩もあるからオニギリがいいなぁ。」
「いいねそれ!うーーーん……蓋さえなんとか作れればフライパンでも炊けるけど、古代米は触ったことないからなぁー。」
「フライパンで!?……しーちゃんて本当に凄いね。」
「お金なかったからね。調べて色々やってた。そういえばあっくんは食事足りてるの?かなりお肉の量は食べてるけど、好きな食べ物あったりする?」
私の倍はありそうな体格なんだから、必要な食事量も比例して多くなるはず。
あっくんがここの食事に不満を漏らすことがあまりないのも気になった。
「うーん、正直言うとカロリーが足りてないんだよね。味はさ、食べられないくらい不味くなければ何でもいいんだ。そういう生活を紛争地帯で長く続けてきたしね。此処での食事に肉は足りてる。圧倒的に足りないのは脂質。脂肪がなくて筋肉ばっかりつけると見た目がちょっと……ね。」
「見た目の問題なの?」
「しーちゃんはボディビルダーの身体見たことある?」
「直接はないけど、TVではあるよ。」
「俺は気を抜くとあーゆーふーになるんだよ……気持ち悪くない?」
「キモ!?えっ!!??あっくんて筋肉好きかと思ってたけど違うの!?」
予想外過ぎる意見ですよ!?
「あの筋張った見た目と浮き出た血管が嫌いなんだよ。筋肉と血管に直接肌が張り付いてる感じがどうにもゾワゾワするっていうか……戦争言ってるとカロリーなんて最低限しか摂れないからね。それを思い出すと言うか……まあ、普通の生活してる人がそこまでいくには苦行とも言える食事制限とトレーニングが必要なんだけど。」
トラウマに関係してるのか…
「丸みが無いとしなやかさがないでしょう?俺は脂肪込みの丸い筋肉が好きなんだ。で、どういうわけか俺は普通では考えられないくらい筋肉がつきやすい。そして極端に落ちにくいんだ。だから俺は大したトレーニングもしてないのに筋肉落ちてないでしょ?でも丸みがね……減ってきてる。」
チラリとあっくんの腕を見るけど、私には1月前と違いがよくわからなかった。
「維持の為の肉は欠かせないけど、それより俺の体質で問題なのはカロリー摂取量なんだよね。肉以外での食事の拘りも制限もしてなかったんだけど、丸みを維持するために大して好きでもない板チョコを寝る前に限界まで胃袋に詰め込んだり、激甘の生クリームを直で食べたりしててさ……俺にはそっちの方がよっぽど苦行だった。それに体脂肪が減りすぎると免疫力が低下して体調崩しやすくなるしね。」
「……すっごい拘りがあるんだね。」
それしか言えなかった。
まさかの事実発覚だ。
甘い物を食べるのが苦行だなんて、世の女子達を敵に回す発言だよ!?
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