水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
283 / 345

第283話    製薬所②

しおりを挟む



「ハンス!!!!私が使った薬はどれだけ前に作った物なのかわかる!!??」
「いえ!私と紫愛様の会話を聞いたニルスがここに取りに来たはずです!」
「ベンジャミンさん!昨日ニルスが取りに来た薬はいつ作ったの!?」
「あ……5日は前だと…」

 5日!?そんなに前!?
 それじゃあ菌の温床と化してるかもしれないじゃない!

「それ本当に効果あるの!?薬じゃなく有害物質に変化してたらどうするつもりなのよ!そんな無責任でここの責任者って一体どーなってんの!!!」

 私の頭の中は死への恐怖でいっぱいだった。

「そ、そんな!あんまりではありませんか!今まで何も問題になっていません!」
「酷い怪我に薬が効かなくて!薬のせいで死んだとして!それが薬のせいかそうじゃないかなんてあんたにわかるわけ!?ハンス!薬洗い流したい!今すぐ!!」
「ベンジャミン!出て行け!」
「突然そんなこと仰られても!!!」
「もういいっ!ハンス!私を連れて部屋に戻って!お風呂まで連れてって!」
「はい!失礼します!!」

 ハンスは私をお姫様抱っこしてその場を走り出す。
 私はハンスに抱かれながら心臓をバクバクと打ち鳴らしていた。
 こんなことで死ぬって有りなの??
 あんなに痛い思いして治療したのに、それが雑菌だらけの効果も怪しい代物だったなんて!!


 ギトー家からそう離れていない場所だったため、私達の部屋があるフロアにはすぐ到着した。
 私の部屋の2つ奥が風呂場。
 そこまで来て、そっと下ろされた。

「ハンス、ありがとう。もう1つ頼みがあるの。あっくん呼んできて。私じゃ応急処置の仕方がわからない。」
「畏まりました。」

 私は急いで脱衣所に入り、靴とズボンを脱ぎ捨て下着1枚になると、巻かれた包帯を解こうとする。
 が、手が震えうまく解けない。

「しーちゃん!入るよ!」

 あっくんはすぐに来てくれた。
 返事を返す間もなく扉が開かれ、下着姿の私を見て一瞬止まるけど

「何があったの?」

 と、ゆっくり脱衣所に入ってきた。

「早く、早く洗い流さないと!……でも手が震えて包帯が「俺がやるよ。解いてる間に何があったか簡単に説明してくれる?」

 昨日と同じように私の足元に跪き、包帯を解き始めたあっくん。

「製薬所に行ってきたの。私に使った薬が何で作られてどれだけの使用期間があるか聞いて……そしたら、わからないって。作った薬は貯められるだけ貯めてて、私が使った薬を作ったのは5日は前だって……作り方は薬草を生のまま擦り潰してるだけだって、そう、言われて……煮沸消毒してるかもわからない容器に生のまま擦り潰した薬草を5日も放置したのって、それ薬って言えるの?」

 声が、震える。

「なんてことだ……俺のせいだ……そんな物をしーちゃんに使っただなんて!」
「あっくん悪くない。咄嗟のことだったし、薬って言われたらそうなんだって思うよ。でも早く洗い流したいの。」
「あとちょっと……解けたよ。」
「ありがと。」
「しーちゃん、手が震えてる。そんな状態で綺麗に洗い流せる?今回も痛いかもしれない。俺がやろうか?」
「多分、だいじょ……あっくん、私………これで死んだりしないよね?」
「しーちゃん……」
「だってここには、抗生物質すら、無い……もしあれが雑菌の塊だったら「しーちゃん、俺がやる。抱き上げるよ。」

 私の返事も待たずに抱き上げられ風呂場へ入る。

「綺麗に洗い流さないといけない。傷が深いけど触れないわけにはいかないから、痛いけど我慢して。」
「うん…」

 痛みなんてどうでもよかった。
 死にたくない!

 あっくんは綺麗に洗い流してくれた。
 確かに痛かったけど、薬を使った時に比べたら何でもない痛み。
 洗ってくれてる間に段々頭が冷えて冷静になってきた。

「あっくん、ありがと。傷なんて触りたくもないだろうに…」
「俺のせいだ……俺のせいでこんなことに!」

 あっくんは泣いていた。

「フッ、あっくんが泣くの見るの久しぶり。さっきはごめんね。私も取り乱してた。きっと大丈夫。よく考えたらこの国の人があの薬ずっと使ってるんだもん。」

 そう、効果はさておき使っているのに変わりはない。

「俺のせいであんなに痛い思いさせてっ!しかも命の危険まで……俺が余計なことしなきゃこんな「ストーップ!あっくんはやれることやってくれたよ。本当に感謝してる。それより、今からこの傷どうすればいいかわかる?」
「……正直、此処には何もない、から……物があれば浸潤しんじゅん療法でも良いかと思ったけど、爪で無理矢理抉ったから傷口がガタガタしてるんだよ。ナイフでスパッと切った綺麗な傷口と違って治りが悪いんだ。浸潤療法は逆効果かもしれない。あれだけ傷に滲みたってことは何らかの殺菌作用はあったんだと思う。でもそうなると、常在菌まで殺した可能性が高いんだ。しかも態々傷口を2回も刺激してしまったから……今は傷口が開かないように包帯巻いて大人しくしておくべきだ。」
「何もせずベッドで過ごすなんて無理だよ。すぐ帰る日になっちゃう。」
「しーちゃん、じっとしてないとその分治りが遅くなる。お願いだから!」

 懇願し、泣きながら私の肩に顔を埋めるあっくんに、根負けした。

 元々私が全ての元凶なのに、あっくんにこれ以上負担をかける訳にはいかなかった。
 私が少しも休まなければずっと自分が悪いんだと責め続けるだろう。
 滅多に泣かないあっくんの涙が止まらないことに、申し訳なさでいっぱいだ。

「休むのは今日だけ。それ以降は動き出すからね。あ、魔物が来たら連れてってね!」

 あっくんは私の肩からばっと顔を上げ、両肩をガシッと掴む。

「なっ!駄目だ!」
「何で?一緒に戦うんでしょ?訓練場に行く時みたいに腕に乗せてよ!そしたら歩かなくて済むし!魔法だけ使ってりゃいいんだから私にもできるよ?」
「魔物と対峙した時のこと忘れたの!?」
「覚えてるよ。だから行くんじゃん。早く楽にしてあげたい。」

 あ、あっくんの涙が止まった。

「しーちゃんは……いつもそうだ……自分のことは後回しで他の人のことばっかり!!」
「そんなことないよ!自分のことしか考えてない!じゃなかったらこんな傷だってつけてないわけで!あ、ねぇ、もし私がこの薬で死ぬことになったとしたら、破傷風になるのかな?」

 無理矢理話題をすげ替える。
 誰も悪くないのに、俺が私がといつまでも言い合っていたって意味がない。

「そんな!そんなこと言わな「もしもの話だよ!それくらいしか思いつかないんだけど、あっくんはどう思う?」
「……俺も、破傷風は1番怖いと思う。破傷風はワクチン接種で簡単に防げたはず。でもここにはそんなものはない。注射器すらないだろうから……もしここで破傷風になったら…………死ぬ……その薬もないだろう。」
「それって、どんな症状が出る?すぐに出てくるの?」
「潜伏期間があるよ。約3日~21日の潜伏期間の後、症状が出てくる。一般的に知られてるのは口が開けにくい、物が飲み込みにくいが初期症状。」
「そんなに潜伏期間が長いの?」
「うん…」
「症状が酷くなるとどうなるの?」
「……身体中の筋肉が痙攣して、身体が弓形に反ったり、するよ。でも!破傷風にはなってないと思う!」
「なんで?」

 パッと思いついたのがそれしか無かった。

「破傷風っていうのは破傷風菌に感染して起こるんだ。しーちゃんの場合薬草を塗っただけ。破傷風菌は土の中にいるんだよ。しーちゃん土触った手でその傷つけたわけじゃないでしょう?だからよっぽどは……いや、絶対と言ってあげられないなら一緒だ……いや!それより、敗血症のほうだ!」
「あ!そっか!そっちか……駄目だ、頭回ってないね。」
「俺もだよ……でも敗血症も……ここに薬があると思えない。頭痛や下痢の症状が出てきたら教えて。さっき洗い流しながら傷の状態を見たんだ。多少腫れてはいるけど傷口自体が酷くなったりは見受けられなかった。まだ経過観察が必要だけど……ごめん、何もハッキリしたことが言ってあげられなくて…」
「あっくんが気にすることじゃないよ。医者でもないのに破傷風や敗血症の症状まで答えられるあっくんが凄いんだから!本当にありがとう!」
「うん…」

 あっくんの表情は暗いまま。
 やれるだけのことをやってくれた人にこの顔をさせ続けるのは嫌だな。
 何か明るくなれるような話題はないかと考え、魔法の話をすることにした。

「あーあ!魔法あるならこんなの“ヒール”とか“キュア”の呪文唱えてパパッと治せりゃいいのに!どうして漫画や小説の中だけあんなにご都合主義炸裂なわけ!?魔法全然便利じゃないじゃん!」

 私の愚痴とも苦情とも、馬鹿馬鹿しいとも言えるような言い分。
 それを聞いてあっくんは押し黙る。

「あっくん?」

 反応がない。

「おーい?」

 え、どうしたの?

「………おーい?」

 シカトっすか?

「あっくんってば!!!」
「ぅわっ!」
「どーしたんすかね?まるっとシカトされてましたけど!」
「ごめん、ちょっと考えてた。」
「何を?」
「しーちゃんが言った“ヒール”と“キュア”について。」
「え?何で?」
「ヒールって英語でhealって書くんだ。cureはこの場合には当て嵌まらないからhealを考えてたんだけど…」

 急に始まる英語の授業。

「あっくんや、何が言いたいんだい?英語で考える意味はあるのかい?」
「healは壊れたものを元に戻す的な意味合いがあるんだよ。」
「で?もっとわかりやすく言ってくれないと何が言いたいのかさっぱりわかりませんが!」

 英語苦手なんだってば!

「ああ、うん。しーちゃんの傷、治せないかと思って。」
「はい!?」

 衝撃の1言だった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

処理中です...