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第266話 諦めと気合い
しおりを挟むあっくんと話をすべく、部屋を訪ねる。
小さくノックを2回。
暫く待っても返事はなかった。
扉をそっと開けて部屋の中を覗き見ると、ソファに俯きながら腕を組み座っているあっくんがいた。
ハンスには外で待っていてもらい、部屋に入る。
……寝てる?
だからノックの音にも反応しなかったのかな。
「あっくん?」
私が小さな声で呼び掛ける。
するとあっくんは組んでいた腕を解きバッと勢いよく顔を上げ
「……しーちゃん?」
と呟く。
その目は真っ赤に充血していた。
もしかして昨日あんまり寝てないのかな?
「起こしちゃってごめんね。」
「しーちゃん……昨日は、ごめん…」
そう言ってまた俯いてしまった。
そんな真っ赤な目で謝られても…
「何に謝ってるの?」
「俺がしーちゃんに……声を荒げたから…」
その的外れで間抜けな言葉を聞き
「はあぁぁぁーーー。」
特大の溜息が出てしまったのは仕方がないだろう。
あっくんは何もわかってない。
わかるつもりもないのかもしれない。
私の溜息を聞いて縮こまってしまった。
昨日話し合った時に、怒ったら駄目だってことをちゃんと言ったのにこれだ。
今まであれだけ私達地球人に優しく、身を挺して守ってくれる人で、努力も怠らず、明確な理由はわからずとも格別に私には甘い人だと体感していた。
そんな優しく正義感溢れる人が、どうして怒りをぶつけることしかしないのかまるでわからない。
私には怒ったって良いんだよ?
私となら、あっくんが怒ってたって話し合いが可能なら納得いくまで対話ができる。
話し合えば新たな意見が出ることもある。
でも、私の話は聞いてくれない。
例えあっくんがこの国の人達を助けたいと思わなくても、未来に繋がる価値ある意見を出して私達の存在価値を高めることをしても良いはずなのに、それもしない。
謝るなら私じゃなくて外スラムの人達にでしょ?
今のままあっくんと会話を続けても、只管頓珍漢な謝罪を繰り返されるか、また私の話を聞かず怒りに支配されるかどちらかだろう。
そうなると私も感情に支配され冷静に話し合えなくなってしまう。
何より今の状況では、誰かに何かを言われてもあっくんは変われない。
あっくんが自分自身で気が付かなければ理解も納得もできず、同じことを繰り返してしまうだけだろう。
私はあっくんとの対話を諦めた。
とりあえずお昼ご飯を食べたらハンスと外スラムに行こう。
そう決意し部屋を出て行こうと歩き出すと
「しーちゃんどこ行くの!?」
焦った声であっくんから声が掛けられる。
「もうお昼だよ?ご飯取りに行こうと思って。それともあっくんはお昼も食べないの?」
もう、あっくんの目は見れなかった。
「あ、いや………食べ、ます。」
「わかった。ちょっと待っててね。」
視線を合わせないまま部屋の外に出て、深呼吸をする。
冷静に。
冷静に。
昨日の二の舞は駄目。
俯瞰を忘れずに。
自分に言い聞かせ、ハンスにお昼ご飯を頼む。
ハンスは一緒にいたニルスに顎で指示を出し、ニルスがその場を動く。
「お昼食べたら塀の外に行きたいから、ハンスは私についてきてくれる?その間にハンス達もお昼ご飯済ませておいてね。」
「畏まりました。紫愛様と私の2人で外へ。川端様にはニルスを残します。」
「うん。そうして。」
「お疲れのご様子ですが大丈夫ですか?」
「大丈夫。あ、そうだ。竹トンボ禁止になっちゃったから、今度は竹馬っていう玩具作りたいの。明日には子供達が帰っちゃうから急ぎじゃないけど、また竹を使いたいから用意しておいてほしいの。今度は長めの竹が必要だから1.5mくらいの長さでお願い。あとは竹を縛れる紐も。」
「本数はどの程度必要でしょうか?」
「そうだなぁ……12本お願い。今度は竹を切ったりもするから外でやろう。」
「準備しておきます。」
簡単な打ち合わせをして、あっくんとお昼を食べる。
ほぼ無言の食事。
何か言いたそうにしている視線を無視して素早く食事を終わらせ
「ご馳走様。じゃあね。」
と、食器を持ち部屋を出ようとする。
「しーちゃん!ほんとにごめん!」
やっぱりあっくんはまた謝ってきた。
「もうごめんは聞きたくない。謝るのは私にじゃないでしょ?」
「え?」
「わからないなら考えた方が良いよ。これから別行動ね。私とあっくんで見たい所も違うだろうし、2人で一緒に動いてたら時間が足りなくなるでしょ?」
「そんな!!」
「時間は無駄にできないよ。2週間しかないんだから。私はハンスと行動する。1人では動かないから心配はいらないよ。」
「じゃあ魔物が来た時はどうするの!?」
「それは一緒に行こう。」
私は頑なな姿勢を崩さなかった。
譲る気のない隙のない態度。
私のその姿、主張の強い口調に、あっくんは何かに耐えるように唇を噛み締め、身体中に力が入ったように筋肉が盛り上がり、全身が小刻みに震えている。
無言の重苦しい時間が続く。
でも私は引かない。
引くのはあっくんだ。
無理矢理ついてこられたらまた喧嘩になるだけ。
根負けしたのはあっくんだった。
「……絶対1人で動かないって約束して。魔物と戦う時は俺も絶対一緒に行く。」
あっくんは眉間に深く皺を寄せ苦悶の表情。
「そんなに心配しなくても1人では動かないよ。それに魔物がきたら私は多分、1人じゃ動けない。無駄死にするようなことはしないよ。あっくんを頼りにしてるから。」
「……………………わかった。」
「怒っちゃ駄目だよ?じゃあまた夜ね。」
「……うん…」
そうして私は部屋を出た。
同意してくれなくても一緒に行動する気は微塵もなかったけど、あっくんはこれ以上私を怒らせまいと渋々返事をしただけ。
別行動に納得している様子は全く無し。
子供達と駆け回るよりよっぽど疲れてしまった。
頼もしい味方だと思っていたあっくんのまさかのポンコツっぷりに、1人で頑張らないといけないと気合いを入れる。
知識をあまり持たない私だけの考えで、どこまでより良い具体案が出せるかに今後の地球人の未来がかかっているんだから。
早く地球に帰りたい。
ママ頑張るから。
愛流、紫流、待ってて…
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