257 / 345
第257話 side金谷 出発後 魔法具①
しおりを挟む俺は暇だった。
絢音が2人を見送りたい気持ちはわかる。
俺だって近くで見送りたかった。
でもこれはない!
姿が見えなくなるまでここを離れないってなんだよ!
いってらっしゃいって言えたんだし川端さんにも紫愛にも伝わったんだからそれで良いだろ?
見晴らしだけが良いだけの何もないここであと何時間過ごさないといけないんだ…
だけど香織さんがニコニコしながら絢音を見守ってる。
麗は絢音と一緒になって叫んでた。
意外なことに、最初こそ畑に行きたいと言っていた優汰も名残惜しそうに外を見ている。
部屋に戻りたいの俺だけかよ…
部屋に戻ったら魔法具が届いてるかもしれないのになんの拷問なのか…
お預けくらってる犬の気持ちを理解した。
結局暗くなるまで部屋に戻れず、戻ったらすぐにロビーを確認した。
………ない。
どこにもない!!!
てっきりロビーにある食卓の上に置いてあるんだとばかり思ってたのに!
急いで自分の部屋に確認しに行く。
部屋にもない!
……そうだ、俺以外の誰かが部屋に入れるわけなかった。
じゃあやっぱりロビーにあるのか?
食卓の下、本棚、平積みしてある本の隙間を確認しながらロビーを彷徨っていると
「豪、なにウロチョロしてんの?何か探してんの?」
と、麗が話しかけてきた。
「魔法具がない。」
「は?なんの話?」
「持ってくるって言ってたやつ。」
「それって川端さんが壊れたやつ持ってくるって言ってたやつ?今日だっけ?」
「今日持ってくるって言ってた。」
「持ってきてたとしても隠すように置いてあるわけないでしょ!?」
じゃあ持ってきてないのか?
やっと手に入ると思ってたのに!
絶望だ…………
「ハァ~~。聞いてきてあげるわよ!どうせ豪は聞けないでしょ!?」
俺の絶望を表情から読み取ったのか、麗はそう言って香織さんとトビアスさんの所へ歩いて行った。俺も後をついていく。
「トビアスさん、ちょっといいですか?」
「はい。麗様、どうかされましたか?」
「今日壊れた魔法具がここに届く予定だったんですけど見当たらないんです。何か知りませんか?」
「魔法具ならば、宰相様に確認しに行けばわかりますか?」
「香織さん、川端さんて何て言ってましたっけ?」
「宰相に交渉したと言っていたから、ギュンターさんで良いのではないかしら?」
「でしたら確認に行ってまいります。」
「お願いします。」
そう言ってトビアスさんは部屋を出て行った。
「麗ちゃん、魔法具届いてなかったの?」
「そうなんです。豪が探しまくってて。」
「あぁ、なるほどね。金谷君は気が気じゃなかったでしょうね。トビアスさんはすぐ戻ってきてくれるだろうから、もう少し待ちましょうね。」
香織さんと麗の会話に頷き、心の中で麗に感謝した。
トビアスさんは宰相を連れすぐに戻ってきた。
「お連れしました。」
仕事が早くて助かる。
早く魔法具くれ。
「魔法具は?」
トビアスさんの後ろにいる宰相に話しかける。
「15時頃1度こちらにお持ちしたのですが、誰もいらっしゃらなかったので一旦持ち帰ったのですよ。壊れた物といっても流石に放置しておくのはまずかったので。持ってまいりました。こちらです。」
そう言って差し出されたのは箱。
蓋を開け中を確認してみると、5cm程のキューブ型の魔法具が3つに、ランタンのような形をした20cm程の魔法具が1つ。
両方表面は真っ白。
それを隣で見ていた麗は
「えっ!?何それ!!サイコロ!?これ魔法具なの!?こんなちっさい魔法具あんの!?何に使うの!?」
俺が口を開くより先に宰相に次々疑問をぶつける。
騒がしいけど、俺が聞きたかったこと全部言ってくれたのは助かる。
「こちら全て灯りの魔法具です。」
「こんなちっさいのが光ったって使い道あるの?」
「夜に読書や手紙を書くぶんにはこれで十分なのです。」
「ふーん。」
麗は急に興味をなくしたようだ。
代わりに麗の後ろに居た絢音は魔法具に興味を示し「しろくてきれいだね」と俺に囁いてきた。
「金谷様。こちらの大きな方は、こうズラせば2つに分解できます。が、中身の構造については何もわかっておりません。そして、小さな方は分解の仕方も不明です。」
分解の仕方もわからないのにどうやって直せと?
とりあえず大きな方を見てみる。
斜めにスライドさせたら開くんだよな?
教えられた通りにランタンをスライドさせ、断面を胸が張り裂けそうになりながら確認する。
心臓が煩い。
頼む!機械構造であってくれ!
は?
なんだこれ…………
目にした断面は、確かに機械構造ではある。
そこは助かった。
でも意味がわからない。
懐中時計の中身のように大小はあれど細かい部品が何重にもギッシリ入っている。
これ、灯りの魔法具なんだよな?
灯りをつけるだけの為に何でこんなにも複雑な構造が必要なんだ??
そもそもこんな小さな歯車や、見た目にはわからないがネジもあるだろうパーツを作る技術はあるのか?
中を凝視していると
「金谷様?大丈夫ですか?」
と、宰相から声がかけられる。
思考に耽って身動き1つしなかったから心配されたのかもしれない。
「これ灯りの魔法具に間違いないの?」
「間違いございません。こちらはもう壊れておりますが、同じ形の物が複数存在しており、現在も使用しております。小さな方も同じです。」
「この中の小さなパーツは今も作れる?」
「不可能です。原材料もわからなければ、その技術も存在しません。」
馬鹿にしてんのか!?
材料なけりゃ直せる訳ないだろ!!
そもそも比較対象がなきゃどの部分が正解でどこが故障してるかなんてわかりゃしない。
こっちは初見だぞ!
「壊れてないやつも欲しい。」
「申し訳ありませんが使用可能な物の提供は許可できません。」
「なんの手掛かりもなく直せと?」
イラついて宰相を睨みつける。
「そのように申されましても、長年の研究者でも何も解明できていないのです。」
くそっ!
駄目か!
……待てよ、小さな方が中も単純だよな?
小さい方は3つもあるし、比較できないわけじゃない。
直せるとしたら小さい方だ。
問題は分解の仕方がわからないってこと。
分解できなければ1個は破壊して犠牲にしても良いか…
良いよな?
「わかった。」
「直せそうならお願いいたします。皆様夕食のお時間になりますので私はこれで失礼します。」
そう言って宰相は去っていった。
宰相の態度や言葉尻からも、期待を寄せられている雰囲気は感じられない。
一縷の希望に賭けたのか?
「一一一う!」
こんな状態で川端さんはよく魔法具の分解の許可をもぎ取ったな。
「一一一い!」
ランタンはとりあえず後回しで、キューブに全力を注ごう。
「ねぇ!!豪ってば!」
「麗?」
「ずっと話かけてんのに無視しないでよ!もうご飯だからそれ置いてきて!」
「飯いらない。今から魔法具を「何言ってんのよ!ちゃんとご飯食べてからにしなさいよ!時間なんてこれからいくらでもあるでしょ!」
麗に言葉を遮られながら怒られる。
でも俺はすぐにでも取り掛かりたいんだ!
「いやでも「金谷君、急がなくても魔法具は逃げたりしないわ。食事を抜いたりして体調を崩す方が心配なのよ。早く魔法具を見てみたい気持ちもわかるけれど、食事をしてからでも遅くはないでしょう?」
今度は香織さんにまで嗜められてしまった。
引くしかない。
「……はい、すみません。」
「おにーちゃんごはんたべよ!」
「わかった。」
そうだ、魔法具はもう手元にある。
時間もある。
心配かけたら迷惑になる。
部屋へ持って行こうとしたら優汰が部屋から出てきて
「これが魔法具?めっちゃちっさくね?壊れてんでしょ?これ直せるの?」
と、ひたすら煩かった。
時間はあるけど興味は抑えられない。
さっさと飯を胃袋に詰め込み、邪魔が入らないように魔法具を大事に抱えながら部屋へ籠もることにした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】捨てられ正妃は思い出す。
なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」
そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。
人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。
正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。
人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。
再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。
デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。
確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。
––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––
他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。
前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。
彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる