257 / 346
第257話 side金谷 出発後 魔法具①
しおりを挟む俺は暇だった。
絢音が2人を見送りたい気持ちはわかる。
俺だって近くで見送りたかった。
でもこれはない!
姿が見えなくなるまでここを離れないってなんだよ!
いってらっしゃいって言えたんだし川端さんにも紫愛にも伝わったんだからそれで良いだろ?
見晴らしだけが良いだけの何もないここであと何時間過ごさないといけないんだ…
だけど香織さんがニコニコしながら絢音を見守ってる。
麗は絢音と一緒になって叫んでた。
意外なことに、最初こそ畑に行きたいと言っていた優汰も名残惜しそうに外を見ている。
部屋に戻りたいの俺だけかよ…
部屋に戻ったら魔法具が届いてるかもしれないのになんの拷問なのか…
お預けくらってる犬の気持ちを理解した。
結局暗くなるまで部屋に戻れず、戻ったらすぐにロビーを確認した。
………ない。
どこにもない!!!
てっきりロビーにある食卓の上に置いてあるんだとばかり思ってたのに!
急いで自分の部屋に確認しに行く。
部屋にもない!
……そうだ、俺以外の誰かが部屋に入れるわけなかった。
じゃあやっぱりロビーにあるのか?
食卓の下、本棚、平積みしてある本の隙間を確認しながらロビーを彷徨っていると
「豪、なにウロチョロしてんの?何か探してんの?」
と、麗が話しかけてきた。
「魔法具がない。」
「は?なんの話?」
「持ってくるって言ってたやつ。」
「それって川端さんが壊れたやつ持ってくるって言ってたやつ?今日だっけ?」
「今日持ってくるって言ってた。」
「持ってきてたとしても隠すように置いてあるわけないでしょ!?」
じゃあ持ってきてないのか?
やっと手に入ると思ってたのに!
絶望だ…………
「ハァ~~。聞いてきてあげるわよ!どうせ豪は聞けないでしょ!?」
俺の絶望を表情から読み取ったのか、麗はそう言って香織さんとトビアスさんの所へ歩いて行った。俺も後をついていく。
「トビアスさん、ちょっといいですか?」
「はい。麗様、どうかされましたか?」
「今日壊れた魔法具がここに届く予定だったんですけど見当たらないんです。何か知りませんか?」
「魔法具ならば、宰相様に確認しに行けばわかりますか?」
「香織さん、川端さんて何て言ってましたっけ?」
「宰相に交渉したと言っていたから、ギュンターさんで良いのではないかしら?」
「でしたら確認に行ってまいります。」
「お願いします。」
そう言ってトビアスさんは部屋を出て行った。
「麗ちゃん、魔法具届いてなかったの?」
「そうなんです。豪が探しまくってて。」
「あぁ、なるほどね。金谷君は気が気じゃなかったでしょうね。トビアスさんはすぐ戻ってきてくれるだろうから、もう少し待ちましょうね。」
香織さんと麗の会話に頷き、心の中で麗に感謝した。
トビアスさんは宰相を連れすぐに戻ってきた。
「お連れしました。」
仕事が早くて助かる。
早く魔法具くれ。
「魔法具は?」
トビアスさんの後ろにいる宰相に話しかける。
「1度こちらにお持ちしたのですが、誰もいらっしゃらなかったので一旦持ち帰ったのですよ。壊れた物といっても流石に放置しておくのはまずかったので。持ってまいりました。こちらです。」
そう言って差し出されたのは箱。
蓋を開け中を確認してみると、5cm程のキューブ型の魔法具が3つに、ランタンのような形をした20cm程の魔法具が1つ。
両方表面は真っ白。
それを隣で見ていた麗は
「えっ!?何それ!!サイコロ!?これ魔法具なの!?こんなちっさい魔法具あんの!?何に使うの!?」
俺が口を開くより先に宰相に次々疑問をぶつける。
騒がしいけど、俺が聞きたかったこと全部言ってくれたのは助かる。
「こちら全て灯りの魔法具です。」
「こんなちっさいのが光ったって使い道あるの?」
「夜に読書や手紙を書くぶんにはこれで十分なのです。」
「ふーん。」
麗は急に興味をなくしたようだ。
代わりに麗の後ろに居た絢音は魔法具に興味を示し「しろくてきれいだね」と俺に囁いてきた。
「金谷様。こちらの大きな方は、こうズラせば2つに分解できます。が、中身の構造については何もわかっておりません。そして、小さな方は分解の仕方も不明です。」
分解の仕方もわからないのにどうやって直せと?
とりあえず大きな方を見てみる。
斜めにスライドさせたら開くんだよな?
教えられた通りにランタンをスライドさせ、断面を胸が張り裂けそうになりながら確認する。
心臓が煩い。
頼む!機械構造であってくれ!
は?
なんだこれ…………
目にした断面は、確かに機械構造ではある。
そこは助かった。
でも意味がわからない。
懐中時計の中身のように大小はあれど細かい部品が何重にもギッシリ入っている。
これ、灯りの魔法具なんだよな?
灯りをつけるだけの為に何でこんなにも複雑な構造が必要なんだ??
そもそもこんな小さな歯車や、見た目にはわからないがネジもあるだろうパーツを作る技術はあるのか?
中を凝視していると
「金谷様?大丈夫ですか?」
と、宰相から声がかけられる。
思考に耽って身動き1つしなかったから心配されたのかもしれない。
「これ灯りの魔法具に間違いないの?」
「間違いございません。こちらはもう壊れておりますが、同じ形の物が複数存在しており、現在も使用しております。小さな方も同じです。」
「この中の小さなパーツは今も作れる?」
「不可能です。原材料もわからなければ、その技術も存在しません。」
馬鹿にしてんのか!?
材料なけりゃ直せる訳ないだろ!!
そもそも比較対象がなきゃどの部分が正解でどこが故障してるかなんてわかりゃしない。
こっちは初見だぞ!
「壊れてないやつも欲しい。」
「申し訳ありませんが使用可能な物の提供は許可できません。」
「なんの手掛かりもなく直せと?」
イラついて宰相を睨みつける。
「そのように申されましても、長年の研究者でも何も解明できていないのです。」
くそっ!
駄目か!
……待てよ、小さな方が中も単純だよな?
小さい方は3つもあるし、比較できないわけじゃない。
直せるとしたら小さい方だ。
問題は分解の仕方がわからないってこと。
分解できなければ1個は破壊して犠牲にしても良いか…
良いよな?
「わかった。」
「直せそうならお願いいたします。皆様夕食のお時間になりますので私はこれで失礼します。」
そう言って宰相は去っていった。
宰相の態度や言葉尻からも、期待を寄せられている雰囲気は感じられない。
一縷の希望に賭けたのか?
「一一一う!」
こんな状態で川端さんはよく魔法具の分解の許可をもぎ取ったな。
「一一一い!」
ランタンはとりあえず後回しで、キューブに全力を注ごう。
「ねぇ!!豪ってば!」
「麗?」
「ずっと話かけてんのに無視しないでよ!もうご飯だからそれ置いてきて!」
「飯いらない。今から魔法具を「何言ってんのよ!ちゃんとご飯食べてからにしなさいよ!時間なんてこれからいくらでもあるでしょ!」
麗に言葉を遮られながら怒られる。
でも俺はすぐにでも取り掛かりたいんだ!
「いやでも「金谷君、急がなくても魔法具は逃げたりしないわ。食事を抜いたりして体調を崩す方が心配なのよ。早く魔法具を見てみたい気持ちもわかるけれど、食事をしてからでも遅くはないでしょう?」
今度は香織さんにまで嗜められてしまった。
引くしかない。
「……はい、すみません。」
「おにーちゃんごはんたべよ!」
「わかった。」
そうだ、魔法具はもう手元にある。
時間もある。
心配かけたら迷惑になる。
部屋へ持って行こうとしたら優汰が部屋から出てきて
「これが魔法具?めっちゃちっさくね?壊れてんでしょ?これ直せるの?」
と、ひたすら煩かった。
時間はあるけど興味は抑えられない。
さっさと飯を胃袋に詰め込み、邪魔が入らないように魔法具を大事に抱えながら部屋へ籠もることにした。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる