水と言霊と

みぃうめ

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第257話    side金谷 出発後 魔法具①

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 俺は暇だった。

 絢音が2人を見送りたい気持ちはわかる。
 俺だって近くで見送りたかった。
 でもこれはない!
 姿が見えなくなるまでここを離れないってなんだよ!
 いってらっしゃいって言えたんだし川端さんにも紫愛にも伝わったんだからそれで良いだろ?
 見晴らしだけが良いだけの何もないここであと何時間過ごさないといけないんだ…

 だけど香織さんがニコニコしながら絢音を見守ってる。
 麗は絢音と一緒になって叫んでた。
 意外なことに、最初こそ畑に行きたいと言っていた優汰も名残惜しそうに外を見ている。
 部屋に戻りたいの俺だけかよ…
 部屋に戻ったら魔法具が届いてるかもしれないのになんの拷問なのか…
 お預けくらってる犬の気持ちを理解した。


 結局暗くなるまで部屋に戻れず、戻ったらすぐにロビーを確認した。

 ………ない。

 どこにもない!!!

 てっきりロビーにある食卓の上に置いてあるんだとばかり思ってたのに!
 急いで自分の部屋に確認しに行く。
 部屋にもない!
 ……そうだ、俺以外の誰かが部屋に入れるわけなかった。
 じゃあやっぱりロビーにあるのか?
 食卓の下、本棚、平積みしてある本の隙間を確認しながらロビーを彷徨っていると

「豪、なにウロチョロしてんの?何か探してんの?」

 と、麗が話しかけてきた。

「魔法具がない。」
「は?なんの話?」
「持ってくるって言ってたやつ。」
「それって川端さんが壊れたやつ持ってくるって言ってたやつ?今日だっけ?」
「今日持ってくるって言ってた。」
「持ってきてたとしても隠すように置いてあるわけないでしょ!?」

 じゃあ持ってきてないのか?
 やっと手に入ると思ってたのに!
 絶望だ…………

「ハァ~~。聞いてきてあげるわよ!どうせ豪は聞けないでしょ!?」

 俺の絶望を表情から読み取ったのか、麗はそう言って香織さんとトビアスさんの所へ歩いて行った。俺も後をついていく。

「トビアスさん、ちょっといいですか?」
「はい。麗様、どうかされましたか?」
「今日壊れた魔法具がここに届く予定だったんですけど見当たらないんです。何か知りませんか?」
「魔法具ならば、宰相様に確認しに行けばわかりますか?」
「香織さん、川端さんて何て言ってましたっけ?」
「宰相に交渉したと言っていたから、ギュンターさんで良いのではないかしら?」
「でしたら確認に行ってまいります。」
「お願いします。」

 そう言ってトビアスさんは部屋を出て行った。

「麗ちゃん、魔法具届いてなかったの?」
「そうなんです。豪が探しまくってて。」
「あぁ、なるほどね。金谷君は気が気じゃなかったでしょうね。トビアスさんはすぐ戻ってきてくれるだろうから、もう少し待ちましょうね。」

 香織さんと麗の会話に頷き、心の中で麗に感謝した。



 トビアスさんは宰相を連れすぐに戻ってきた。

「お連れしました。」

 仕事が早くて助かる。
 早く魔法具くれ。

「魔法具は?」

 トビアスさんの後ろにいる宰相に話しかける。

「15時頃1度こちらにお持ちしたのですが、誰もいらっしゃらなかったので一旦持ち帰ったのですよ。壊れた物といっても流石に放置しておくのはまずかったので。持ってまいりました。こちらです。」

 そう言って差し出されたのは箱。
 蓋を開け中を確認してみると、5cm程のキューブ型の魔法具が3つに、ランタンのような形をした20cm程の魔法具が1つ。
 両方表面は真っ白。

 それを隣で見ていた麗は

「えっ!?何それ!!サイコロ!?これ魔法具なの!?こんなちっさい魔法具あんの!?何に使うの!?」

 俺が口を開くより先に宰相に次々疑問をぶつける。
 騒がしいけど、俺が聞きたかったこと全部言ってくれたのは助かる。

「こちら全て灯りの魔法具です。」
「こんなちっさいのが光ったって使い道あるの?」
「夜に読書や手紙を書くぶんにはこれで十分なのです。」
「ふーん。」

 麗は急に興味をなくしたようだ。
 代わりに麗の後ろに居た絢音は魔法具に興味を示し「しろくてきれいだね」と俺に囁いてきた。

「金谷様。こちらの大きな方は、こうズラせば2つに分解できます。が、中身の構造については何もわかっておりません。そして、小さな方は分解の仕方も不明です。」

 分解の仕方もわからないのにどうやって直せと?
 とりあえず大きな方を見てみる。
 斜めにスライドさせたら開くんだよな?
 教えられた通りにランタンをスライドさせ、断面を胸が張り裂けそうになりながら確認する。
 心臓が煩い。
 頼む!機械構造であってくれ!


 は?


 なんだこれ…………

 目にした断面は、確かに機械構造ではある。
 そこは助かった。
 でも意味がわからない。
 懐中時計の中身のように大小はあれど細かい部品が何重にもギッシリ入っている。
 これ、灯りの魔法具なんだよな?
 灯りをつけるだけの為に何でこんなにも複雑な構造が必要なんだ??
 そもそもこんな小さな歯車や、見た目にはわからないがネジもあるだろうパーツを作る技術はあるのか?

 中を凝視していると

「金谷様?大丈夫ですか?」

 と、宰相から声がかけられる。
 思考に耽って身動き1つしなかったから心配されたのかもしれない。

「これ灯りの魔法具に間違いないの?」
「間違いございません。こちらはもう壊れておりますが、同じ形の物が複数存在しており、現在も使用しております。小さな方も同じです。」
「この中の小さなパーツは今も作れる?」
「不可能です。原材料もわからなければ、その技術も存在しません。」

 馬鹿にしてんのか!?
 材料なけりゃ直せる訳ないだろ!!
 そもそも比較対象がなきゃどの部分が正解でどこが故障してるかなんてわかりゃしない。
 こっちは初見だぞ!

「壊れてないやつも欲しい。」
「申し訳ありませんが使用可能な物の提供は許可できません。」
「なんの手掛かりもなく直せと?」

 イラついて宰相を睨みつける。

「そのように申されましても、長年の研究者でも何も解明できていないのです。」

 くそっ!
 駄目か!

 ……待てよ、小さな方が中も単純だよな?
 小さい方は3つもあるし、比較できないわけじゃない。
 直せるとしたら小さい方だ。
 問題は分解の仕方がわからないってこと。

 分解できなければ1個は破壊して犠牲にしても良いか…
 良いよな?

「わかった。」
「直せそうならお願いいたします。皆様夕食のお時間になりますので私はこれで失礼します。」

 そう言って宰相は去っていった。

 宰相の態度や言葉尻からも、期待を寄せられている雰囲気は感じられない。
 一縷の希望に賭けたのか?
「一一一う!」
 こんな状態で川端さんはよく魔法具の分解の許可をもぎ取ったな。
「一一一い!」
 ランタンはとりあえず後回しで、キューブに全力を注ごう。

「ねぇ!!豪ってば!」
「麗?」
「ずっと話かけてんのに無視しないでよ!もうご飯だからそれ置いてきて!」
「飯いらない。今から魔法具を「何言ってんのよ!ちゃんとご飯食べてからにしなさいよ!時間なんてこれからいくらでもあるでしょ!」

 麗に言葉を遮られながら怒られる。
 でも俺はすぐにでも取り掛かりたいんだ!

「いやでも「金谷君、急がなくても魔法具は逃げたりしないわ。食事を抜いたりして体調を崩す方が心配なのよ。早く魔法具を見てみたい気持ちもわかるけれど、食事をしてからでも遅くはないでしょう?」

 今度は香織さんにまで嗜められてしまった。
 引くしかない。

「……はい、すみません。」
「おにーちゃんごはんたべよ!」
「わかった。」

 そうだ、魔法具はもう手元にある。
 時間もある。
 心配かけたら迷惑になる。
 部屋へ持って行こうとしたら優汰が部屋から出てきて

「これが魔法具?めっちゃちっさくね?壊れてんでしょ?これ直せるの?」

 と、ひたすら煩かった。

 時間はあるけど興味は抑えられない。
 さっさと飯を胃袋に詰め込み、邪魔が入らないように魔法具を大事に抱えながら部屋へもることにした。














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