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第251話 外スラム
しおりを挟む部屋を出ると、ラルフとニルスも安堵の表情を浮かべる。
「心配かけてごめんね。私はもう大丈夫。今から外行ってくるから。」
「私とニルスはお2人の護衛。ラルフは騎士団員達から魔物の報告を受けてきてくれ。当主への報告も任せる。」
「「了解。」」
ギトー家の建物を出る直前に、あっくんも私も魔力の圧を自身へ閉じ込める。
「……何度拝見しても信じ難い光景ですね。」
「これ、やり続けてると疲れるの。早く行こう。」
「はい。参りましょう。」
万が一、どうしても平民に紛れて逃げなきゃいけなくなった場合、1時間を過ぎると身体に支障が出てくるのを知られるとまずい。
だから嘘をついた。
あっくんはさっきまでの過保護はどこへいったのか、ここに来るまでずっと口を開かない。
緊張してるのかな?
広場へ出ると、そこには肌が白っぽい人達が100人はいた。
髪の毛は皆茶色っぽい。
間違いなく平民だ。
でも……スラムの人にしてはいやに小綺麗な格好をしてる。
痩せ細ってる人もいない。
子供達も元気に楽しそうに走り回ってる。
暗い表情の人が誰もいない。
私の頭の中でのスラムは日本のホームレス。
仕事がない。
それに伴って、お金がない、家がない、食べ物がない、着る物がない…
だから、数年前にテレビで見た今のホームレスの実情とやらの特集をチラッと見た時、ホームレスなのに携帯電話でやり取りをして、そこらへんのサラリーマンより稼いでいる人もいると紹介されていたことが信じられなかった。
私の知識不足が故に、その特集を見るまではダンボールの家に住み、空き缶や古本を売ってお金にしているという酷く偏ったイメージしかなかった。
ここのスラムは、そのテレビの特集で紹介してたような環境なの?
まずは話を聞いてみないと。
「ハンス達は離れてて。」
「ここにいる者達と騎士達は接触が頻繁ですから私達がいても何も障害にはなりません。むしろ顔馴染みが居た方が対話も円滑になるかと思います。1度、私と平民達とのやりとりを目にしたらおわかりいただけるかと思います。まずは広場の中に入りましょう。」
ハンスは平民達が集まる中へ足を進める。
私達もそれについて行く。
そんなに頻繁に接触があるの?
魔物が来る度に避難してくるのが日常ってこと?
そんなに頻繁なら中に入れてあげたほうが良いんじゃない?
でも、それはしていない。
貧困に喘いでいる雰囲気がない以上、何かしらの理由があって外で暮らしてるのかも…
「あっ!!きしさまだぁ!こんばんは!」
私の思考は、明るく駆け寄ってくる子供達の声で遮られた。
「おうっ!元気だな!」
それに応えたのはハンス。
その1度のやり取りだけでも、とても気安く、良い関係が築けているのがわかる。
これならハンスが言った通り、2人にも居てもらった方が助かる。
子供達はそのまますぐそばまで近づいてくるかと思いきや、その足は3mほど手前でピタッと止まった。
私達に近寄るのを躊躇っている。
その視線は私の方に釘付け。
もしかして、圧漏れてる?
でも、目は合わない。
視線を辿ると、私の後ろに立っているあっくんに集中していた。
背が高いだけならまだしも、あっくんは横幅も大きく厚みも凄い。
パッと見た感じ、平民の中にはあっくんのような高身長もガチムチも見当たらない。
初見でのあっくんの大きさは、私よりも小さな子供にとってはそれはそれは怖いだろう。
あっくんに“しゃがんで”と言おうとした、まさにその時。
あっくんは私の横を素通りしたったの2歩で子供達の目の前に聳え立つ。
迫り来る壁に怯えた様子を見せる子供達。
そんな子供達に目線を合わせるようにしゃがみ、更に背中まで丸めるあっくん。
しゃがむだけではあっくんの方が目線がかなり高かったからだろう。
そしてあっくんは子供達に話しかけた。
「何で外に住んでるんだ?危ないだろう?怖かっただろう?中に住めないのか?俺が中に住めるようにしてやるぞ。」
子供達に話しているとは思えない感情の乗らない事務的な口調。折角魔力の圧を消してきているのに、言葉での圧が重い。
あっくんて子供嫌いなの??
それに、話を聞くなら大人じゃないの?
こんなに小さな子供達には判断もできないし何も決める権利なんてないでしょう!
そんな聞き方、外は危ないって認めさせるような誘導尋問じゃない!!
初めて見る大きな身体の男に圧強めに話しかけられ、子供達は後退りしながら「ぇ?ぇ?」と困惑している。
それでもあっくんは止まらない。
「君達の両親は?何で一緒に走って来なかったの?守ってくれないの?」
嘘でしょ!?
何で責めるみたいに質問するの!?
子供達は何も悪くないし、今も楽しそうに遊んでただけだよね!?
あっくんの暴挙に怒りが湧く。
ハンスも思うところがあったのだろう。
「川端様、まずは大人に話を聞きませんか?」
と、あっくんに声をかける。
子供達が何も答えないことを悟ったのか
「ああ。」
1言のみを発しあっくんは立ち上がった。
だけど、周りでそれを見ていた平民の大人達は眉間に皺を寄せ警戒しているのが窺える。
あっくんがそちらに進むのを見て、話を聞くのはあっくんに任せて私は子供達のフォローにまわろうと、怯えさせてしまった子供達に近付き、しゃがみながら声を掛ける。
私の隣にハンスも来て一緒にしゃがんでくれた。
「ごめんね、今の人大きくて怖かった?でもね、本当は優しい人なんだよ。ここにいるのは1番最初にここに逃げて来た子達なのかな?」
「そう!1ばんはぼくたちだよ!」
「そっかぁ。頑張って走って偉かったね!転んだり、怪我とかはなかった?」
「ぼくたちがころぶわけないじゃん!」
思った以上にしっかり、ハキハキとした答えが返ってくる。
「わぁ!頼もしいんだね!誰も怪我とかなかった?」
「ないとおもうよ!ねぇ!お姉ちゃんいっしょにあそばない?ぼくたちなんだよー。」
「暇なの?楽しそうな声が聞こえてたんだけど、いつもはみんなでどんなことして遊んでるの?」
「ここにはあそぶものなにもないんだ。いえにはあるけどおいてきちゃったし。おいかけっこもあきた!」
「あーそうだよなぁ、何もないもんなぁー。」
そう言いながらハンスは子供の頭を撫でる。
「そうなの?」
「はい。皆ここには避難で来ているだけですので、滞在は長くても3日ほどになります。家に取りに行くのは不可能ですし、ここに保管するにも既にかなりの物を保管しているので…」
「大人はどうしてるの?」
「ここに避難してくればやることが多く、手が空いている者はほぼおりません。」
まさか地面の上にそのまま雑魚寝させるわけがない。色々な準備やら報告やら、大人達は目の回る忙しさだろう。
そこへ、さっきまで喋っていた男の子の元へ血相を変えダダダッと駆け寄ってきた1人の女性。
「すみません騎士様!うちの子が何かやらかしたんですか!?」
ハンスはスっと立ち上がり
「いいや、何もしていないよ?ただ話していただけだ。な?」
「そうだよ!母ちゃんぼく何もしてないよ!」
「ですが!あんな風にしゃがまれて!」
それを見て私も立ち上がる。
「ごめんなさい、子供達とお話がしたくて。私がしゃがんだからハンスも合わせてくれたんです。子供達はみんな良い子でしたよ。」
母ちゃんと呼ばれた女性に微笑みながら話しかける。
「そうですか?だったら良いのですが…」
「子供達が遊ぶ道具がないと教えてくれたんですが、何もないのでしょうか?」
「そうなんですよぉ。私達も構ってあげられなくて。でもこの中なら安全ですから。」
私に対しても普通に話してくれたことに感謝する。
この女性の言う通り、親なら子供の安全が第一だろう。
本当に外に住んでいるなら普段は無闇に走り回ったりはできないよね?
魔物を気にせず自由に走り回れるのは良いことだけど、その代わりに大人は忙しくなってしまう。
遊んであげたくとも、子供達が暇を持て余し大人の仕事の邪魔になってもそれはそれで困るんだろう。
玩具になる物、何か作れないかな?
そう思っていると
「俺達を馬鹿にしてんのか!?」
と、怒鳴り声が聞こえてきた。
そちらに視線をやる。
そこにはあっくんと対峙している人集り。
ちょっと目を離した隙に何がどうなってんの??
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