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第243話 ポツンと貴族②
しおりを挟むラルフは真横に吹っ飛ぶ。
ハンスは抜剣し、倒れたラルフの首筋へ刃をあてる。
「お前、何のための副団長だ?騎士団員達の連携とるために今まで動き回っていたんじゃないのか?先触れは出されていたはずだ。それを守らない馬鹿貴族がいることくらい想定の範囲内だろう。どうして確認を怠った?それにお2人の情報も漏れている。お前、もう死ね。」
ハンスは声も表情も感情がのっていない。
無だ。
あまりの怒りにそうなってしまったんだろうけど、いくらなんでもやり過ぎでは?
「おい待て落ち着け!」
あっくんの方が慌てている。
「何故止めるのですか?こいつは役立たずですよ?」
ラルフの首に刃をあてたまま、あっくんへ顔を向けるハンス。
「いいから止めろ!さっさと剣をしまえ!!」
「……川端様がそう仰るのでしたら。」
納剣しながらも納得のいかなそうな返答に
「あのなぁ、俺としーちゃんの護衛はお前ら3人しかいないんだ!ここで護衛の人数減らされてたまるか!」
「ですが、ラルフはそれほどのことをしたと私は思っています。」
「そもそもハンスもニルスも泊まる場所知らなかったんだろうが!ラルフだけを責めるのは違ぇだろ!」
「では、今からベッヒャー家全員を処刑して参ります。」
「それも駄目だ!そういうのはもう皇帝の仕事だ!俺は関わらないし、お前達に何かお咎めがあっても困る!」
「私がここに戻ってくる際ベッヒャー家の皆に“死んだ方がマシだと思うほどの処罰を覚悟せよ”とは申してきました。」
なんと、ニルスも激オコであった。
「先程ベッヒャー家当主の言では、お2人が昨夜の食事をどこでとっていたのかを把握していました。情報が漏れているのは確実です。野放しにはできません。」
「だったら早馬でもなんでも出して状況報告してどうするか確認すればいいだけだろ?」
「ちょっといい?」
「しーちゃん?どうしたの?なにか気になることでもあった?」
口を挟むべきか悩んだけど、ここまで話が進んでしまったんなら思ったことは言うべきだろう。
「まずはハンス、怒りを抑えて。顔すっごい怖いよ?当主の左右に並んでたのって、ここの子供達ってことで合ってる?」
私の言葉にハンスは自身の顔に手を当て、解すように頬をグリグリと手の平で押した後
「申し訳ありません。はい、子達とその配偶者です。」
「子供達は知らなかったんじゃない?」
「と、仰いますと?」
「ほら、地球人って見た目平民なんでしょ?どんな先触れ出されてたのか知らないけど、そういうのって皇帝の名前で出されるんじゃないの?あの真ん中にいた男女の2人は私とあっくんを見てもニコニコしてた。でもその左右に並んでた子供達は、私とあっくんを視界に入れた時、一瞬戸惑ったような、不快そうな、そんな顔をしてたの。すぐに取り繕ってたけどね。真ん中の夫婦2人はどこかから情報を仕入れて私とあっくんの容姿や今までの行動を把握してたから、どんな容姿だろうと歓迎してた。でも子供達は何も知らされてなくて、先触れ出されるほどの人間が来る、ただ誘惑しろとだけ言われてたから、どんな青い皮膚の人がくるのかって期待や妄想でもしてたんじゃない?でも、来たのは魔力量が凄くても見た目は平民。拒否感あったんじゃない?親が言うことって逆らえなくない?何も知らなくて、親から誘惑しろって言われただけなら全員処刑ってのは違うんじゃないかと思ったんだけど。」
私の考えを聞き、ハンスはすぐに指示を出す。
「ラルフ!騎士団員達を連れてベッヒャー家全員を1人残らず拘束してこい!」
「了解!」
ラルフは返事をし走って行く。
「ニルスは早馬の手配が終わり次第家探しだ!証拠を見つけろ!ベッヒャー家に情報流したのはここに来るまでに泊まった2家のどちらかだろう!」
「はい!」
ニルスも走り去った。
「先触れってのはどんな内容なんだ?」
「今回の遠征では、騎士団員以外の主要な人物2人も赴く。主要人物達への一切の接触は禁止。その間の香油の使用の禁止。主要人物達の情報を集めるのも流すのも禁止。これらが皇帝陛下の名で先触れとして出されていました。」
「全く意味の無い先触れになったな。」
「ここは中央から離れた隔絶されていると言ってもおかしくはない場所ですから、勘違いした愚か者がいても不思議ではありません。ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げるハンス。
「もういい。これからないように気をつけてくれ。それで?ここに泊まって安全なのか?」
「騎士団員達にはこの建物を囲むように野営をさせます。私達も外で護衛につきます。」
「しーちゃん、夕飯食べてさっさと寝て、早めにここを出ていこう。ハンス、できるか?」
「可能です!夜明けとともにここを出発でよろしいでしょうか?」
「時間はそっちの都合で決めてくれて構わない。兎に角早くここから離れたい。」
「畏まりました。」
話の区切りがついたら少し気が抜けたのか、途端に臭いが気になりだした。
「なんか……あっくん臭くない?」
「えっ!?俺!?臭い!!??」
私に突然臭いと言われ、焦って腕や服の匂いを嗅ぎまくるあっくん。
「くさい、かなぁ?臭いのかなぁ!?」
「ハンスも臭い!」
「え?私ですか!?」
ハンスも自身の匂いを嗅ぎまくる。
「あれ?なんか私も臭い!!!」
私自身も臭いのだ!
「ちょっと待って!しーちゃん何の匂いを感じて臭いって言ってるの!?」
「え?決まってるよ!香油の臭いだよ!」
「使ってないよ!!!」
「え?ハンスも?」
「苦手と伺っておりましたので使用しておりません。」
そこに食事が運ばれてきた。
「待って!そのご飯も臭いんだけど!!」
「しーちゃん!?まさか臭いって香油の臭い?」
「そう!!!」
「食事に香油は使わないでしょ!臭いしてないよ!?それにしーちゃんも香油苦手だから使ってないでしょ!?」
「でも!なんか臭いがするんだもん!……あっ!私クッキー作ってきたんだった!それ嗅げばわかるかも!」
荷物を漁り、自分で焼いたクッキーを取り出し匂いを嗅ぐ。
「クッキーも臭い!!!」
「そんな馬鹿な!それ俺としーちゃんが作ったクッキーだよ!?」
「どうしよう!!!私鼻が馬鹿になっちゃったんだよ!」
慌てふためき半泣きの私。
このまま一生臭い中で生きて行くのかと絶望する。
「しーちゃん落ち着いて!そういうのは大抵一晩寝たら改善するよ!」
「………………本当?」
「っっ!!!本当!早くご飯食べて寝よう!」
「わかった。早く食べて早く寝る!」
運ばれてきた食事に手を伸ばそうとして
「しーちゃん待って!こんな何が入ってるかわかんない物食べさせられない!」
「川端様、私が毒味をいたします。」
ハンスは全ての料理を1口ずつ食べ、10分以上時間を置き
「大丈夫です。どうぞ。」
と言って毒味済みの食事を渡された。
香油の臭いがする気がする…
でもお腹は空っぽ。
「しーちゃん、無理しなくてもいいんだよ?」
「でもお腹空いてるし、気がするだけで臭いしてないなら大丈夫、な、はず…」
そう言って食事を前にし、野菜を1口。
「……うん、野菜の匂いが、しなくもない。」
続いてお肉を食べようとするけど
「あっくんお肉は無理そう!!食べてくれる?」
「しーちゃんが無理なら貰うけど、横で俺が食べてても平気?」
「うん。大丈夫。」
お肉をあっくんに任せ、野菜だけを食べ
「ご馳走様!私お風呂入ってくる!」
「ちょっっっ!ちょっと待って!急いで食べるから!!!」
「あっくんはここでご飯食べてればいいよ?」
「いいや!!俺は部屋から出るからちょっとだけ待って!」
「わかった。急がなくてもいいよ?」
そう言ったけど、あっくんは急いでご飯を掻き込むと皿を持ち
「お待たせ!じゃあゆっくりね!」
と、慌てて出て行った。
あっくんはいつも食べるの早いからそんなに急がなくても良かったのに…
箱の中の瞬間霧状シャワーと違い、外のシャワーは普通にジャーっとお湯が出る。
こっちのが絶対良い。
ちゃんと綺麗になってる感じもする。
それが何故なのか、理由を考える。
鋏だってもらえないことを思うと、この世界に絶望して自殺をさせない為の予防策なのかなと思った。
洗面器1杯の水があれば人は死ねるから。
死のうと思い立ち、その自殺の方法に溺死を選択できるかと言われたら……できないと思うけど。
苦しすぎるでしょ。
本当に死にたいなら首吊る方がまだ現実的だ。
そんな想像しなくてもいいことを考えてしまい、気分は最悪。
さっさとシャワー浴びてとっとと寝よう。
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