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第245話 圧
しおりを挟む次の日、日の出とともに畑を抜け、昼過ぎ頃に平民街へと入った。
私達が通ってきた畑の大通りは、石での舗装はされていないけどかなり踏み固められていてそれなりだった。
でも平民街は違った。
大通りなのは変わらない。
定期的に騎士団が派遣されるから道幅は同じ。
だけどここから道は一気に悪くなった。
ガタガタ煩いのとそれに伴う振動だけだったのが、今ではガッタンガタガタガッタガッタ。
その衝撃で身体が浮き上がることもある。
私はまだ良かった。問題はあっくん。
身体の大きなあっくんは、その度に馬車の天井に頭をぶつけていた。
「いってー!」
「大丈夫!?」
とてもじゃないが馬車に乗りながら平民街を見る余裕はない。
腰とお尻の死亡案件です。
平民街を抜けるのは道の状態が悪いのも加味し、こまめに休憩もとりながらのため2日はかかるらしい。
こまめに休憩するために、どうしても1回の休憩時間は短くなる。
平民街を見て回りたくても時間がない。
そもそも腰が痛すぎてまともに歩けない。
それでもなんとか休憩の度に見回す。
平民の家も石造りなのは変わらない。
でも作り的には、なんというか、雑な感じがする。石の大きさも種類もバラバラで、その隙間を埋めるために土のような物が無理矢理詰め込まれている雰囲気。
目地に詰め込まれているのは色的にコンクリートじゃない。
更に目を引いたのは屋根。
どこの家も屋根が緑。
休憩の時に気になって1軒の家に近づいてみたら、なんと!
芝のような物が生えていた。
「ハンス!あの屋根!なんで草が生えてるの!?」
「あれは植えているんですよ。陽の光からも雨からも建物を守れ耐久力が上がるのです。」
「屋根の上には土もあるってことだよね?雨が降ったら屋根の土が水分含んで重くなっちゃうのに大丈夫なの?」
「石造りは頑丈ですよ。部屋が細かく分けられていて、壁兼柱になっていますからかなりの重量にも耐えられます。土も、根が張ってしまえば少量で大丈夫なのでそこまでの重さにはなりません。」
「石と石の隙間に詰め込んであるのは土?」
「申し訳ありません、建物の材料や知識は私の勉強不足であまりお答えできません。」
「ハンスが建物に詳しくなくてもおかしくないから大丈夫。」
「気になるようでしたら、辺境での視察の際に専門家に尋ねた方が間違いがないかと。」
「そりゃそうだね。」
次期当主なら、実際建物を建てたりするわけないんだから知らなくて当然だ。
「平民街見て回りたかったんだけど、腰が痛すぎて動きたくない。」
「辺境の大通り付近の平民街は人払いを済ませておきますから、体調が戻りましたら自由に見て回っていただけます。」
人払い?
いやいや、そんなことしたらそこに住んでる人達に話聞けないよ。
「住み心地はどうだとか改善してほしい事とか意見聞きたいから人払いはされたら困る。」
「ですが、川端様と紫愛様は魔力の圧が私共より遥かにお強いのです。平民達は姿を見るだけで怯え……いえ、失神してしまうかもしれません。」
「そんなに!?」
「はい。平民達はほとんど魔力を持ちませんから、紫愛様達を前に意識を保てたとしても、萎縮し意見を聞くことは難しいかもしれません。」
なんてこった…
どうすれば良いんだろう。
直に話を聞けなければ改善点なんて出てくるわけないよ?
うーーーん………………
そもそも、圧、とは?
制御できるようになっても、見てわからないだけで漏れてるから感じるのかな?
動物に近寄れば臭いがするのと同じ感じ?
だとしたら、私とあっくんの制御力なら完璧に身体に閉じ込めることは不可能じゃない気がする。
それでも駄目なら他に理由があるということだ。
あっくんに相談してみよう。
集中はできないかもしれないけど、移動中の馬車の中でやることなんてひたすら耐えるだけなんだから、ハッキリ言って時間の無駄だ。
やることがあればそれなりに時間も潰れる。
あっくんの元に戻り、圧の話をする。
「私達の魔力の圧で平民達は怖がって話も聞けないみたいなの。でもそれは困る。圧を感じるってことは、私達の魔力を感じるってことだよね?完全に内側に魔力を遮断できたら圧は感じないんじゃないかと思うんだけど、あっくんはどう思う?」
「俺もそこまで考えたことなかったけど、確かに話を聞けないのは困るよね。圧かぁ……もしかしたら溜め込めない分の魔力は無意識に外に放出してるのかも。もしそうだとしたら、本来溜め込んじゃいけない量まで体内に抱え込むことになる。完全に遮断できたとしても長い時間遮断するのは良くないと思う。」
「多少魔法を使ってからにした方が良いってこと?」
「それができるなら良いけど……魔法打てるところなんてないからなぁ。兎に角、完璧に遮断までいけるかやってみよう。もしできたとして、どんな弊害があるかはわからない。体調に変化が出たらどんな状況だろうとすぐに止めることは約束して。」
「わかった。」
そんな決め事をして、地獄の馬車の中で特訓を行うことになった。
結果、私は割りとすんなりできたと思う。
自分の中でのみ魔力を巡らせる。
血管を通って全身を巡っている魔力に、故意に内側へ回転をかけるイメージ。
更に、皮膚の下に魔力の壁を作る。
これをしていると、身体の内側からポカポカしてくる感じがする。
最初は不快でも何でもない。
でも、1時間を過ぎた辺りから少し頭痛がしてきた。
あっくんは揺れる馬車の中でのチャレンジは早々に諦めた。
そんなあっくんに実況中継をしながら行う。
「あっくん、なんか頭痛くなってきた!」
「しーちゃん!すぐ止めて!」
このまま続けたらどうなるのか、少し気になるところではある。
でも迷惑はかけられない。
あっくんに止められ回転をかけるのを止めると、頭痛もポカポカもすぐに引いた。
「やっぱり内側に溜め込むのは良くないんだよ!これ本当にやる必要ある!?」
私はあっくんからでさえ圧というものを感じたことがない。
本当に漏れていないのか、漏れていないことで圧がなくなるのかは認識できない。
「これが正解かどうか、ハンスに確かめてもらおう!これをやっても圧を感じるならやっても意味がないから次の手を考えよう!」
「でも俺はしーちゃんが苦しくなることはやらせたくない!」
「もし圧を感じなくなったって言われたら1時間をリミットにしよう!1時間以内なら大丈夫そうだよ!?」
「1時間と言わず体調が少しでも悪くなったらそこで中止して!」
「わかったよ!とりあえずハンスに確認しないと話が進まないから馬車降りる時に見てもらおう!」
休憩になり、馬車が停止する。
あっくんはまだ魔力漏れを防げていないから、あっくんの魔力漏れはそのまま。
私だけが魔力を閉じ込め、ハンスが開けてくれた扉からあっくんに続いて馬車を降りた。
ハンスは私を見て、小さく「えっ……」と漏らした。
その声で、これが正解なんだと答えをもらったようなもの。
それからのハンスの慌てようは凄まじかった。
ハンスに馬車に再び押し込められ、降りないように支持されあっくんに詰め寄っている。
その間ニルスは茫然自失状態。
護衛の立場でそれは駄目でしょう。
「一体何があったんですか!?魔力が!紫愛様の魔力がっ!!!」
小さな声で大騒ぎするという器用なことをするハンスに
「落ち着け。魔力を失ったわけじゃない。」
とあっくんは宥めているが、ハンスにその効果はなく
「しかし実際紫愛様の魔力が!!そんなっ!どうすれば良いんだ!」
と益々パニックに陥る。
ふぅーっとあっくんは息を吐き出し
「しーちゃん、それ解除して降りてきて。」
「なりません!他の者に見られでもしたらどうするのですか!!」
途轍もない罪悪感なんですけど!
まさかここまで慌てるとは思わなかった。
あっくんに言われた通り、すぐに解除して馬車の扉を自分で開ける。
私の姿を確認すると
「は?……え?……なん……え?…………私の勘違い?」
今度は違うパニックを起こしかけるハンス。
罪悪感が全くなくなりませんが!?
「2人共驚かせちゃってごめんね。」
謝るしか道はない。
何が何だかわからない様子のハンスとニルスにあっくんが説明をする。
「魔力の圧があるから平民と会えないって話だったんだろ?しーちゃんが圧を隠せないかやってみたんだよ。その結果がこれだ。」
「…………ははっ!そんな馬鹿な!思い立ってどうこうできるようなものではないでしょう!?」
とうとう現実逃避し始めたハンスに、これでは拉致があかないと思い
「じゃあ目の前で圧消したら信じる?」
と、冷静に問いかけた。
「まっ!……待って!待ってください!他の騎士達の目がありますからここではいけません!!」
「じゃあ確認は今日泊まらせてもらう家に着いたらにしよう。」
「……まさかとは思いますが、川端様も可能なのですか?」
「俺はまだできない。こんなに天井に頭ガンガンぶつけながら集中できるわけねぇよ。」
「まだ……ですか……では、確認はお部屋でいたしましょう。それまではもうおやめください!」
「わかったわかった、悪かったよ。」
結局私だけが馬車の中で訓練をすることになった。
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