水と言霊と

みぃうめ

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第230話    前日 信用

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「お話するのは構いませんが……よろしいのですか?」
「これからはもう知らないでは通らないわ。特に紫愛ちゃんは辺境に行くのよ?正しい情報を手にしていなければ判断を誤ってしまうわ。」
「畏まりました。」

 カオリンはみんなの顔を見回した後

「みんな、冷静に聞いてちょうだい。この国のことを正しく認識したうえで、何が自分の首を締めることになるのか考えてほしいの。」

 私達は全員頷く。
 一体何の話が始まるのか…

「では、簡単に説明させていただきます。神子とは、四肢のどこかしらが多い者達のことです。神が宿っているとされており、神殿に預けられ世話をされます。罪科者とは、神子の反対で産まれつきどこかしらの欠損がみられる者達のことです。辺境には寮という名の施設があります。辺境の騎士が亡くなってしまった場合、その子達を寮で成人になるまで面倒をみます。罪科者の子達もここで教育を受けます。変質者とは、見た目と魔力量に差異が出る者達のことです。神の寵愛を受けし者ともされています。色見での魔力量や因子の判断が不可能なだけで魔法は普通に使えますので、普通に働いております。最後に劣等者になりますが、言葉が通じなかったり動きがおかしかったりする者達のことです。こちらの者達も寮に入ります。劣等者はほとんどの者が娼館へ入るか奴隷となります。そして、辺境ではそのようには決して思いませんが、ここではアヤネ様と辻井様は劣等者の括りに分類されてしまうと思われます。」


 言葉が出なかった。
 カオリンとあっくんは知ってたんだ。
 知ってて私には話さなかった。



 ……違う。

 知った上で話せなかったんだ…

 話を聞くフリをして話を聞かず、魔法の力ばかりに頼り、自分の都合でしか考えず感情に振り回されてばかりの私に話せるわけなんてない。
 今も冷静に聞けと釘を刺されてしまった。

 何も知らず、知ろうともせず人に任せ続けた結果がこれでは…

 何から誰を守るべきかもわかっていない私に守りたいと叫ぶ資格はない。


「なんでよっ!!!何で私が劣等者になるのよ!私と絢音君は奴隷にされるってこと!?冗談じゃないわよっ!!!」

 激高する麗。

「少なくともここ中央ではそう思われてしまうということです。これだけ女子に産めよ増やせよなのです。」

 ハンスの非情とも思える現実の押し付けに、カオリンがフォローを入れる。

「麗ちゃん落ち着いて。わかりやすく言えば括りがないからそこに分類しただけであって、あなたはそこに引け目を感じる必要は何も無いわ。勝手に言わせておけばいいのよ。秘匿をするのなら尚更ね。性別の齟齬すら秘匿をするっていう話をしたなら、この際全てを秘匿しましょう。私達に関する情報はこれ以上は漏らさないこと。勝手に思う人間はそう思わせておけば、有事の際には自分を守ることに繋がる可能性もあるわ。能ある鷹は爪を隠すって言うでしょう?」

「……そう、ですね。」
「ええ。私は麗ちゃんをとても頼りにしているわ。みんな、わかったかしら?どうして麗ちゃんと絢音君を守らなければならないのかを。バレたら神殿なり奴隷なり、何処かしらに連れて行かれる可能性があるのよ。」

 私が本当にみんなを守りたいなら、冷静に、俯瞰の目線を忘れずに、感情に流されないようにするしかない。
 私は疑問をぶつける。

「そもそも、何で辺境に2週間も滞在しないと行けないの?本当にお金を落とさせる為だけ?私とあっくんをみんなと引き離して何するつもり?私とあっくんが魔物倒して何になるの?それで何が解決するの?今だって辺境の人達で何とかやれてるんならそれほど魔物に困ってる訳じゃないんでしょ?辺境で調べることが終わったら私とあっくんはここに戻りたい。ハンスには前にも言ったけど、利用され搾取され続けるなんて許容できない。」

 これにハンスが口を開く。

「この国をより良くしていくための率直な意見がほしいのです。現場を、平民を、その暮らし振りをその目で確認していただきたい。そのための2週間なのです。紫愛様や川端様の意見を聞き、どう活かすかは私共が考えることであって、紫愛様達に考えていただく必要はございません。そもそも、本来ならば意見を頂くほどでもないことではあります。紫愛様の仰る通り、魔物によっての逼迫した現状はございませんし、辺境での暮らしも回っております。」

 ふざけている。そう思った。

「だったら行きたくなんかない!」
「しーちゃん、大丈夫だから落ち着いて。」

 すかさず私のそばに来たあっくんに背中をポンポンと優しく叩かれる。
 ハンスは私に構わず再び口を開く。

「地球の皆様はどこで何をしていようと、皆様が研究者であり、探求者だとお見受けしております。巡り巡っていずれ私共の益になりましょう。本当は何をしてくださっても良いのです。辺境行きは、国の体裁上、辺境へ行って魔物を倒す実績を作ることで、皆様を守ることに繋がります。辺境で魔法の制限のない実力を魔物に対し使用すれば、自分より以下の実力の者への牽制には有効なのではありませんか?辺境へ行く紫愛様と川端様には実力をもって牽制を。残る5名様は、研究をすることで牽制になるのではありませんか?つまりは、殺しては惜しい。死んでしまうのは惜しい。機嫌を損ねて自分たちへの敵意がむき出しになるのは惜しい。と思わせることが重要だと考えます。」
「辺境に行くことが私達の立場固めに必要だって言いたいの?」

 ハンスの言っていることは、本当は理解わかっている。
 どこまでも地球人主体で考えられている。
 でも頭の中で“利用されるな”という声が響いている。
 私は搾取され利用され続けた人生を歩んできた。
 どこへ行っても何をしても捕まり奪われる。
 私はみんなに「紫愛ちゃん。私は辺境の人達のことは信用に足ると思うわ。」

 私の思考をぶった斬ったのはカオリンだった。

「これは私個人の意見ではなく辺境の者全てがそう正しく認識しています。」

 カオリンに続くハンスの言葉。
 つまりは、辺境の全員が地球人のために協力してくれるってことだ。

「信用できない者ばかりの外に行かせてしまってごめんなさい。頼りきっている私達の責任だわ。でもね、信用するということはとても大切よ。裏切られたらその時考えましょう。信用をして、前に進みましょう。信頼まではしなくても良いのだから。」
「……うん。そうだね……前に!ハンス、これからよろしくね。」

 このまま停滞するのが1番良くない。
 どんな形であれ進まないと!

「こちらこそよろしくお願いいたします。今1度忠誠を誓わせていただきます。」
「私も地球の皆様に忠誠を誓います。」

 ハンスとトビアスは跪き忠誠のポーズをした。


 それを見て、聞いて、思った。
 1番物事を俯瞰で見て判断しているのは辺境の人達なんじゃないのか、見極めた上での取捨選択なのではないか、と。


「話が聞きたいから顔上げて。さっきの奴隷についてなんだけど、どの程度の扱いを受けてるの?」

 2人は立ち上がり、ハンスが口を開く。

「それは奴隷の程度によります。労働力として酷使される奴隷もいれば、大切にされている奴隷もおります。ですが奴隷は奴隷です。」
「私が聞きたいのは、無理矢理奴隷にさせるのかってことなんだけど。」
「いいえ。皆自ら選択をします。」
「自ら?選択って言うからには他にも選択肢があるってことだよね?どんな選択肢があるの?」
「娼館か労働力か産腹です。」
「それで奴隷を選ぶの?」
「はい、そうです。」
「奴隷って身分を落とすってことじゃないの?」
「身分を落とす、ですか?」
「身分が下ってことでしょ?」
「上も下もないでしょう?平民は平民。貴族は貴族です。紫愛様は奴隷に良い印象がないように見受けられますが、辺境では全てを選択できるのです。実際目にすればおわかりいただけると思います。」

 そっか、ごちゃごちゃわかんないこと話してるより実際見た方が早いか…

「そうだね。そうする。じゃあミコは?聖女みたいな感じなの?」

 ミコって巫女だよね?
 祈りを捧げるなら聖女じゃない??

「セイジョ?それはなんですか?」
「神に祈りを捧げるオトメ、みたいな?」
「それは一体なんの役に立つのですか?神に祈って、それで?何の利益が得られるのでしょうか?」

 ハンスの返答に、神に祈るだけの存在など必要ないと明確な意志を感じた。
 神を軽んじる言動。
 神を信じていない人間の発言だ。

「いないならいいよ。」
「わかりました。他の皆様は御要望などありますでしょうか?」

 ここで口を開いたのは金谷さんだった。

「辺境に電気ある?それと魔法具の中身が気になる。分解させてほしい。」
「デンキとは何でしょうか?」
「エネルギー。」
「申し訳ありません。よくわかりません。」
「じゃあ魔法具は?」
「辺境にはさほど魔法具がございませんので、宰相様にお伺いした方がよろしいのではないでしょうか?」
「金谷さん、俺がギュンターに交渉する。」
「川端さん……お願いします。」
「俺は辺境の植物の苗が欲しい!あ、枯れちゃうかもしれないからもしあったら種がいい!畑の土の様子も見てきて!牛舎の様子も!牛に何食べさせてんのかも気になる!あと、食味も違うかもしれないからどんな植物がどんな味かその感想もよろしく!」

 優汰の要望が地味に多い。

「待ってちょうだい。紙とペンを持ってくるわ。リストアップしましょう。」
「紙とペンでしたらこちらに。」
「あら、トビアスさんありがとう。」
「とんでもございません。」

 紙とペンを受け取ったカオリンはサラサラと箇条書きでメモをしてく。

「麗ちゃんと私と絢音君はここで文献の解読ね。トビアスさん、私は保護の魔法陣がある図書館に行きたいのよ。貴方はそれについてきてちょうだい。金谷君は私が図書館に行っている間3人で居てちょうだいね。優汰君は今までと変わらず畑に向かう時は護衛を最低3人連れて行くこと。その中にクルトさんかゲルトさんどちらかを必ず伴うこと。食料庫に行く時はトビアスさんと行ってもらうことになるわ。みんな、それで良いかしら?」

 全員がカオリンに頷く。
 それを確認してから

「あとはこの国の宗教観ね。擦り合わせは必要だと思うわ。これだけ神子神子と崇め称える神殿があってどういう宗教であるかを知らないのは、根底にある物を見過ごすということだわ。」















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