水と言霊と

みぃうめ

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第228話    歌声

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 ロビーに戻り、ピアノを弾いている絢音を呼び、騎士達に手伝ってもらいピアノを1階の麗の部屋の前へと運んでもらう。


「これからはここでピアノを弾いてね。私がいない時は絢音に1人でいてほしくないの。寝る時も金谷さんの部屋か、カオリンと麗がいる部屋で寝てほしいんだけど、絢音はどっちが良い?」

 絢音は俯いたまま

「…………かおちゃんとこがいい。」

 小さな声で答える。

「じゃあカオリンにお願いしようね。」
「……うん。」
「絢音?心配しなくてもみんな絢音と一緒にいてくれるよ。」
「みーちゃん、いついっちゃうの?」
「ここにいられるのは明日1日。明後日にはここを離れるよ。」

 絢音は私にギュッとしがみつき「いつかえってくるの?」と、泣きそうな声で呟く。

 そういえば、滞在は2週間て聞いたけど道程含めた時間は聞いてなかったな。

「1ヶ月、くらいかな?」

 多めに言っておけば早く帰ってくる分には問題ないだろう。

「……そんなに?」
「うん。なるべく早く帰ってくるからね。」

 私は絢音の背中を撫でながら言う。

「…………ぜったいかえってくる?」

 絢音の声も身体も震えている。
 私も絢音をぎゅーぎゅー抱きしめる。

「絶対!帰ってくるよ!約束する!みーちゃん頑張ってくるからね!絢音も魔力の制御頑張ってね!」
「ぼくがんばる。」
「うん!頑張ろうね!ご飯食べに行こっか。」
「……みーちゃん、ぼく……みーちゃんといっしょにねたい。」
「今日?」
「きょうも、あしたも…………だめ?」

 絢音は不安なんだよね…

「一緒に寝たら、私が行っちゃってからもっと寂しくならない?」
「ぼくがんばるから!」

 それで励みになるなら、良いかな?

「じゃあ今日と明日は一緒に寝よう!」
「うん!」
「じゃあ決まりだね!ご飯食べよっ!」
「うん!」



 そうしてロビーの食卓につく。
 カオリンに絢音と決めたことを話したいと思ったけど……カオリンの様子がおかしい。
 何やらずっとブツブツ呟いている。
 よく聞いてみると

「あの文字は一体どこに繋がってるの?でもあそこはあの解釈で間違ってないはず。だとするとあれは何て読めばいいの?」

 などと、解読に苦心しているような内容だった。
 しかもピリついている。
 わからなくてイライラしている雰囲気。
 考え込んでいるのに話しかけられない。
 麗をチラリと見ると、麗と目が合い首を横に振られた。
 麗もお手上げということだ。
 みんな雰囲気を察し黙って食事をする。
 カオリンは食べながらも俯き加減に変化はなし。


 重苦しい食事を終えメイドが片付けを終え退席すると、絢音が

「みーちゃん、ぼくきらきらみたい。おうたうたって。」

 と元気良くお強請りをしてきた。

「えっ!?ここで!?」

 カオリンの邪魔にならないかな?

「うん!」

 絢音はそう言ってカオリンをチラッと見た。
 絢音なりのカオリンへの気遣いなのかな?
 気分転換になるって考えたのかも。
 それなら歌わない選択肢はない。

「じゃあ歌います!」

 そう言って私が歌ったのはきらきら星。

「しーちゃん凄い!」
「紫愛歌うまっ!!」
「うまい。」
「紫愛ちゃんすっげー!」
「まぁ!紫愛ちゃん歌が上手だったのね。」

 口々に褒めてくれ、カオリンはピリついた空気がなくなった。

「きらきらきれいねぇ!みーちゃんもういっきょく!」

 なんと絢音にアンコールされた。
 みんな絢音のキラキラが綺麗だという発言には触れない。
 音楽家という者達の表現は様々なのだ。
 誰も気にしないだろう。

「じゃあもう1曲だけね!」

 そして今度歌ったのはチューリップ。
 童謡を選んだのは、絢音が少しでも知っていそうだと思ったから。

 〈さーいーたー   さーいーたー〉

 絢音は机の上でピアノを弾く真似をしだした。
 ここでなんとっ!!!
 優汰が一緒に歌いだした!

 〈ちゅーぅっ⤴︎︎︎りっぷぅのはなーがー⤵︎ ︎〉


 めちゃくちゃ音痴!!!

 思わず歌うのをやめて優汰を凝視。
 絢音は

「やめて!そんなのうたじゃない!せっかくみーちゃんがおうたうたってくれてたのに!きらきらきえちゃった!」

 とご立腹。

「俺のも歌だよ!ほら絢音君!聞いてて!」

 〈さあー⤴︎いー⤴︎たー⤴︎〉

「ちがう!!!きたないっ!!!」

 〈さぁー⤵いー⤵たー⤵〉

「やめて!!!みみがなくなる!!!」

 〈ちゅーぅっ⤴︎︎︎りっぷぅのはなーがー⤵︎ ︎〉

「そんなのうたじゃない!!!」

 絢音はもう半泣きだった。
 あまりの音痴に音楽家として許せなかったんだろう。
 カオリンも麗も顔を歪めている。

 ゴンッ!

 鈍い音が響き渡り

「歌うのやめろっ!!」

 あっくんが優汰の頭に拳骨を落としながら怒る。

「ひっでぇー!!!殴ることないじゃん!」
「お前が悪い!しーちゃんの歌邪魔しやがって!というか……学校で歌習わなかったのか?」
「習ったよ!音楽の授業あるじゃん!」
「その時音楽の先生は優汰の歌声聞いて何て言ってた?」
「個性的ですねって言われてた!俺褒められたんだよ!どう?すっごくない!?」
「個性……的、ではある、な?」
「ブッハ!ヒィーーーッヒャァッ!」

 今まで聞いた事のない大音量の金谷さんの笑い声が響き渡った。

「ヒャァァァッッッ!」

 床に転がり落ちお腹を抱えて笑っている。

「ちょっと!豪やめなさいよっ!!」

 麗は転がっている金谷さんをバッシバシ叩いている。

「む、り!死ぬ!!!」

 そう言ってひたすら笑っている金谷さん。

「ちょっと優汰!巫山戯るのやめてよ!歌うならちゃんと歌って!」

 私は優汰に注意を促す。

「真面目に歌ってんじゃん!」
「……へ?あれで?」
「あれでってなんだよ!!」
「だって音程ズレてるだけならまだしも、リズムすら合ってないよ?真剣に歌ってよ!」
「ハハッヒィッハハハッヒィッ!」
「真剣だよ!!!」
「ヒャァァァッッッ!」
「……嘘でしょ?あれで?」
「俺音程もリズムもズレてないし!!」
「し、ぬ!死んじゃう!」

 優汰との会話の最中もひたすら笑い続けて死んじゃうとまで言う金谷さん。
 そりゃそんなに笑ってたら死にそうでしょうよ。

「優汰君のは態とじゃなかったのね。ちょっと違う曲歌ってみてちょうだい!」

 なんとカオリンが優汰にリクエストした。
 カオリンを見ると……ああ、笑いを欲しがっているんだな。目が期待に溢れている。

「絢音、優汰は態とじゃないんだって。あれで本気で歌ってるみたい。ちょっと様子見てみようね。」

 コソッと絢音をフォローする。
 仕方なさそうに頷く絢音。

「何でもいーの?」
「そうね、国歌なら上手い下手がわかりやすいんじゃないかしら?」
「君が代でしょ?わかった!」

 そして始まる優汰リサイタル。

 〈キィィィイ⤴︎︎︎ミィィ⤴︎︎︎⤴︎︎︎ガァァ⤵︎ ︎ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙     
     ヨォォッワァ⤴︎︎︎

     チィヨォーんッ⤵︎ ︎ンにぃぃぃぃ⤴︎︎︎

     ヤチヨッにぃィィ⤴︎︎︎〉

「あっはははははははははははは!」

 盛大に笑いながら今度はカオリンが崩れ落ちた。

「ぷっ!あははは!優汰ひどっ!」
「ブハッ!そりゃねぇよ!」

 麗とあっくんも笑いだした。
 私と絢音はあまりの酷さに呆然。

「合ってるの入りと終わりの間隔だけじゃない?音程もリズムもあったもんじゃない…」
「ヒャァァァッッッ!」
「優汰、それ本気?」
「本気だって言ってんじゃん!」
「みーちゃん、ぼくみみある?」
「あるよ!絢音の耳はちゃんとあるよ!」
「ヒィッ!」
「ちょっとアン〇ンマン歌ってみて。」

 〈そう↓さ↑忘れ↑ない↑で↑〉

「そこ上がってくんだ……メロディもくっちゃくちゃ……じゃあドラ〇もんは?」

 〈とっても↓だい↑すき↓ドラ↓〇っもんぅぅぅ↓〉

「そっちは下がるんだ…」
「ハハッヒィッハハハッヒィッ!」
「あ!あれは!?だんご〇兄弟!あれなら曲調が早いでしょ?知ってる?」
「俺知ってる!」
「とりあえず私が歌うからさ!追いかけて“だんご”だけ歌ってみて!」

 リズムがとれるかは結構重要。

 〈くしにささってだんごっ!〉
 〈 ___だ⤴︎︎︎ん⤵︎ ︎ごっ⤴︎︎︎〉

「ねぇ!一拍遅いよ!!」
「遅くないし!合ってるし!」
「合ってないわ!それに音程もおかしい!!」
「ヒィーーッッッ!!………………………ヒャァッ」

 金谷さん?それ息吸えてます?

「あはははっ!!無理よっ!!!紫愛ちゃんっ!やめっ!もうやめてぇ!」

 カオリンも大爆笑。
 いつの間にかカオリンまで床に転がっている。

「優汰ヤッバ!!!」

 麗は変わらず金谷さんの背中を叩きながら爆笑している。
 それ、痛いと思うよ?

「優汰!だんごだけ歌ってみろ!」

 あっくんは笑いを堪えているんだろう。声を震わせながら指示を出す。

 〈だ⤴︎︎︎ん⤵︎ ︎ごっ⤴︎︎︎〉

「ブッハッ!」

 あっくんも吹き出した。
 もう誰からも笑い声は聞こえない。
 みんな笑い過ぎて瀕死だ。

 そんな状況を前に優汰がなんとも言えない顔をこちらに向けてきた。

「ぷっ!」

 私も思わず吹き出してしまった。

「紫愛ちゃんまで笑うの!?」
「私が笑ったのはその表情だよ!オヤツお預けくらい続けた犬みたいな顔こっちに向けないでよっ!!」
「どんな顔よそれ!そんな顔してないし!てかまだ犬扱いなわけ!?ふーんだ!もういいもんね!」

 優汰はヤケクソ気味に金谷さんに近づいて行き、何をするのかと思ったら

 〈だ⤴︎︎︎ん⤵︎ ︎ごっ⤴︎︎︎〉

 と耳元で歌った。
 金谷さんは既に瀕死だ。

「ぅぐぅぅぅぬっ!」

 と呻き声をあげる。

 それは大丈夫な声ですかね?
 そこまで笑っていれば、もう何もかもが面白くて仕方がないだろうに優汰に止めを刺されようとは…
 麗は麗で、さっきの優汰のあの表情を見たんだろう。

「お預けっ!いぬぅ!!!」

 と言いながら笑いながら蹲り、今度は床をバシバシ叩いている。
 それは金谷さんには追い打ちではないですか?そんな真横で意味不明な事を言いながら笑われたらいつまで経っても笑いは引きませんよ?
 止めは優汰ではなく麗だったか…


 いち早く笑いから復帰してきたカオリンが私と絢音の横に来て

「あー面白かったわぁ!」

 と言った。そのカオリンに

「げんきでた?」

 と絢音が聞いた。
 カオリンは目を丸くして

「まぁ!私を気遣ってのことだったのね!なんて良い子なのかしら!元気出たわよぉ!ありがとう!」

 そう言いながら絢音を抱きしめた。
 照れ笑いをする絢音。

 良い雰囲気だ。
 こんな空気を出せるなら私も安心して辺境に行けるな。
 そう思った。













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