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第225話 side亜門とハンス
しおりを挟む「ハンスの配下はどれだけいる?潜ませてんだろ?」
まずはロタールの確認が重要だと、配下の確認をする。
「バレていましたか?」
「ハンスの手足となるやつが複数居なければハンス自身が自由に動けない。そんな無駄をするやつではない。」
「お見通しですね?護衛は半分は辺境の者です。城の内外にも複数おります。」
「ロタール パァルツグラーフ ポンメルン。この名の人物はハンスの配下か?」
「王領地の伯爵家ですね。同じ第一騎士団員ではありますが、その者は配下ではありません。ロタールがどうかいたしましたか?」
最悪だな…
ハンスの配下であれば良いと思っていたのに。
「ハンスは俺達から利益を得たい。その為には何でもする。信頼を得たい。これに間違いねぇな?」
ハンスは俺の言葉に姿勢を正し
「勿論でございます。」
と頭を下げた。
「ロタールが誰の配下か調べろ。あいつは馬鹿を装っていたが絶対に違う。誰かのイヌだ。」
「川端様がそれほど警戒する者でしたか?」
「俺が今何をしてきたか知ってるか?」
「内容までは存じませんが、恐らく以前古角様とお話された罪人達の生殖器を切り落とすことを実行されに行かれたのではと思っております。」
「その通りだ。ロタールは俺の罪人達のプライドも何もかもをへし折る発言や生殖器の切り落とし、その全てで怯える様子もなく平然としていた。その場の全員が恐怖で怯え震える中、俺が名を呼ぶだけで俺の意図を理解し動いた。自らの発言時のみ気弱そうな態度でな。」
「それは……畏まりました。探りを入れます。」
俺の言葉にハンスも思う所があったようだ。
「くれぐれも気をつけるように。自らの命が最優先だ。あれは只者ではない。勘づかれる恐れも十分にある。ロタールの正体がわからなくても構わない。信頼を得ようと危険な橋を渡る必要はない。」
「御配慮ありがとうございます。」
とりあえずロタールのことはここまでしかできない。
「あとな、俺達を呼び出すのに112人の被害が出たと聞いた。間違いねぇか?」
「間違いございません。」
「ハンスもそいつらが死ぬとわかっていたのか?」
「高位の一部は知っています。私もそこに含まれております。」
「皇帝が年老いた者や怪我をした低位の貴族を犠牲にしたと言っていたが?」
「はい。」
「ハンスの知っていることを全て話せ。」
「正確な内訳を申しますと、低位の貴族の犠牲者は91名です。周りを取り囲んでいた第一騎士団員は13名。残りの8名はその道の研究者です。魔法陣の起動に巻き込まれた形です。」
どういう意味だ?どの意味で言っている?
「……巻き込まれたとは?」
「研究者達は低位の貴族の中でも魔力量が多めの者を90名も集めれば起動に足りるであろうと申しておりました。ですが、足りなかったのでしょうね。」
「おい、おかしくねぇか?魔力が足りなかったら起動せず終いじゃねぇのか?」
魔法でも魔力が足りなければ発動には至らないはずだ。
「あの魔法陣は特殊だと聞き及んでおります。途中で止められないのではないかと……または、止めるつもりがなかったのか……途中で止めたとしても中の91名の命は戻りません。また1からその人数を集めるのは不可能です。本来でしたら魔法陣の中、または魔法陣に触れていなければ巻き込まれるなんてことは考えられません。その対象として認識される筈がありませんから。当然騎士団員も魔法陣の外に配置されておりました。研究者達は更に魔法陣よりも遠く、壁際ギリギリに待機していたようです。」
“特殊”の一言で片付けてはいけない気がするが、今はそこに拘っていては話が進まない。
「にも関わらず、巻き込まれた、と?91人の魔力で足りないのは、まぁそういうもんだとしよう。だが第一騎士団員は魔力が多いだろう?13人も巻き込まれて、それでも足りずに研究者までをも巻き込む程に魔力が必要なのか?」
「私もそこがわからないのです。魔力は正確な数値では計れませんが、下位91名と第一騎士団員13名では、恐らく第一の方が多い、または同等程度かとは思われます。だとすると、下位は最低でも200名は必要だった計算になります。研究者がそこまで計算違いをするでしょうか?」
「研究者の魔力量は?」
「下位とほとんど変わりません。」
研究者がどの程度の頭を持っているか不明だが、その道の者でそれ程の誤差が出るものなのか?
それとも記録が間違っている、または記録が満足に残されていない、か?
「これは何度繰り返されている?」
「はい?」
「異世界から人を連れ去る行為だ。繰り返してんだろ?魔法陣に関することは今何もわかっていないんだろ?過去の記録がなけりゃあ計算もクソもねぇだろうが。」
「そう、ですね……はい。」
「それは何に対しての“はい”なんだ?」
「繰り返されていることかと、思います…」
「思います?」
「文献で残り、且つ口伝でも伝えられているのは凡そ2000年前のことです。」
「2000年?そんなに前のことなのか?」
思っていたのとはだいぶ違う。
もっと高頻度で繰り返しているのかと考えていた。そんなに昔のことなら大した記録は残っていないだろう。
「はい。ですからそこまで正確な情報が残っているわけではないのです。」
「じゃあその2000年前はどうだったんだ?」
「どう、とは…」
「知っていることを全て話せと言ったはずだ。」
「……その時の被害は10名ほどだったようです。それに対し呼び出された人数は40名。」
「同じ魔法陣を使用してそこまで違うというのか?」
「2000年前も、既に魔法陣に関することはかなり失っていたようですから詳しくは書かれておりません。」
知識を失っている弊害がここでも出てきやがる。
「それで?その40人の行く末は?」
「知識の供給と、子孫繁栄に役立たれたと。」
「それ知ってんのはどこまでだ?」
「ここまで詳しいことは高位の貴族達でも知り得ないと思われます。」
「何故お前は知っている?」
「皇帝陛下のご側室から伺いました。」
「っ!!お前それ!はぁぁーーー。相手から漏れることはないんだろうな?」
まさか皇帝の側室にまで手を出してるとは…
「機密事項ですから漏らさないでしょう。自らの首が飛びますよ?」
「そこじゃねぇだろーが!お前との関係だよ!!!」
「漏らしませんよ。あの御方はご側室の中でも1番腹黒いですからね。」
「お前に情報渡してんじゃねぇか!」
「そこはほら!男女の駆け引きですよ!」
にっこりと作り笑いを浮かべるハンス。
「寝首掻かれないように気をつけろよ。男女のそれは最も容易く情報を引き出せる方法だが、1番恨みが深くなる部分でもあるんだからな。随分軽く考えてるみたいだが、本当にお前を愛していた場合、死なば諸共という考えにもなるんだ。」
「無い。とは言いきれませんが、ご婦人方に接する時は次期辺境伯当主としてです。相手方も腹の中でどんな利益に繋がるかこちらを値踏みしていますよ。」
ハンスはどうも人の恋愛感情に疎いようだ。
「……この事は地球人達にも言わない方が良さそうだな。どの口から皇帝に漏れるかわからない。」
「私としてはそうしていただけると大変に助かりますが、よろしいので?」
「皇帝の側室にまで手を出してるなんて思ってなかったんだよ!バレたら今回の制裁なんて比べ物にならないくらいの被害が出るだろうが!」
「そうでしょうね。」
当然のように同意するハンスはどこまでも他人事のようだ。
「お前、もうやるなよ。過去のことはどうにもならん。だがもう制裁は始まったんだ。これからのことは庇いきれない。」
「それは、これからもおそばに置いていただけると捉えてよろしいのでしょうか?」
「気色の悪い言い方すんじゃねぇよ!護衛として、だ!」
「はははっ!申し訳ありません!」
ハンスでも冗談言ったりするんだな。
それほど仲が深まったというアピールか?
「ハンスはどう思う?」
「何をどう、でしょうか?」
「112人も被害者を出してやることだと本当に思うか?」
「私は思います。巻き込まれてしまった騎士達は残念だったかと思いますが、下位達は年老いたり怪我をしたりの言わば役立たずでしょう?その代わりに地球の素晴らしい皆様に来ていただけたんです。過去地球から来た40名の皆様もとても素晴らしい知識をお持ちだったと伝えられております。ほぼ全員がこの国の人間と結ばれ「おい!!今なんて言った!?」
まさか!
まさか!!
「ほぼ全員がこの国の「そこじゃねぇよ!!過去呼び出された40人も地球人だったのか!?」
「はい。そうですが?」
なんてことだ!!!
「そいつらの見た目は!?年齢は!?国は!?性別は!?男女比は!?」
「見た目に関しては皆様と同じように記述されているかと、思いますが……正確ではありませんよ?何せ昔のことですから。」
「出身国は?年齢は?性別は?」
「国はわかりませんが、年齢はバラバラの成人された方達ばかりで、性別は半々だった、ような?」
「地球に帰った者は!?いたのか!?」
「私も詳しくはわかりません。何せ読めない部分が多いですから。」
じゃあ俺達が狙われるのも子ができると確信を持ってやってくる奴もいるってことだ!
呼び出しはずっと地球からしか行われていないのか!?
「昔の魔法陣のまま使ってんだろ?相応の数を呼び出す前提で。だから被害が増大したんじゃねぇのか?今回のは失敗したんじゃねぇのか?」
「……失敗、ですか?」
「だから8人しか来られなかった。魔法陣の中に8人以外の地球人の死体はなかったのか?」
「そんな!まさか!そんな報告は上がってきておりませんよ?」
「隠匿はされていない、と?」
ハンスに睨みを効かせる。
「……もう1度調べ直してみます!」
「本当に俺達を呼ぶのが目的か?」
「どういう意味です?他に何の理由があるというのです?」
「俺達は本当に利か?」
「実際辺境にも来てくださるではありませんか。」
「俺としーちゃんだけだろ?」
「地球の皆様の可能性は無限ですよ!これからそれが証明されてゆくのではありませんか!」
「この世界で子を成さなくとも、か?」
「以前にも申しましたが、そんなことをしていただかなくとも好きに行動していただくだけで途方もない利に成り得ると確信を持っております。」
ハンスはこれ以上知らなそうだな…
「そうか。辺境では頼むぞ。特にしーちゃんのことは何がなんでも馬鹿な騎士共から守れ!」
「心得ております。」
「ロタールと8人以外の地球人の存在の確認を頼む。話は以上だ。」
「はい。失礼いたします。」
ハンスは敬礼して部屋を出ていった。
それを見届け、俺は頭を抱えた。
一体何をどこまで誰に話せば良いんだ!?
過去からの呼び出しも地球からだったなんて考えてもいなかった!
それにそんな昔のこと文献にどこまで残されているかも不明だ!
この世界の奴等と結ばれてるってことは結婚したってことだろ!?
地球に帰るわけがねーじゃねぇか!
……そうか、俺達と違い序盤で力を持ち得ず制御の長い時間で籠絡されたんだ。
帰る手段がないと伝えられ、親切丁寧に敬われ続ければ誰かがその手に落ちても不思議ではない。なにせ40人もいたんだ。誰か1人でも異世界人と結ばれたらなし崩し的に拡がってゆくだけだ。
俺1人でも少ないヒントでここまで考えられるんだ。今の話の一部を話したら芋づる式に絶対全てに辿り着く。
香織さんもしーちゃんも頭の回転が早い!
そうなれば俺は黙っているわけにはいかなくなる。
特にこれから辺境に向かうしーちゃんを混乱させるようなことは言えない。
黙っているしかない。
少なくとも、今は…………
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