水と言霊と

みぃうめ

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第224話    side亜門と皇帝③

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 沈黙が部屋を支配し続ける。

「ずっとだんまりで通す気か?」

 安易に口は開けないだろうな。
 答え合わせをしたいが、仮に俺達が副産物だったとしても地球人はオマケですだなんて口が裂けても言えないだろう。

 黙っているのはただ俺が怖いからか?
 それとも言えない何かがあるからか?
 本当に何も無くて口を開けないのか?
 もし魔法陣の起動に他にも理由があり、それを俺に追及されれば証拠や文献を処分されたり秘匿される恐れもある。
 ここは黙って裏で動いた方が得策だ。
 香織さんに話してみよう。
 また香織さんの負担を増やしてしまうな…


「まぁいい。魔法陣の解読はここではどの程度の進捗なんだ?」

 俺が話を変えたことで皇帝は気が抜けたんだろう。身体の強ばりが解けた。
 他の者にはわからなくとも俺にはわかる。
 これが演技なら大したもんだが、無いな。
 相変わらずわかりやすくて助かる。

「解読はおろか、使用されている材質すら不明です。」
「はあ?それじゃあ本当に何もわからないってことか?それなのに使用方法と効果だけはわかるってのは都合が良過ぎやしねぇか?」
「失われて困る物は口伝でも残されます。ずっと使い続けられている物もまた失われませんから。」

 おいおい、ギュンターも危機を脱したと油断しすぎじゃねぇか?
 それを言ったら白い箱は失われては困る重要な物だと言ったも同然だ。ということは、他の世界からの人間の呼び出しも繰り返されてる可能性があるな。

 俺の推測全てしーちゃんには言えない……俺以上に怒り狂うだろうから。
 俺が冷静になれたのはしーちゃんの顔がチラついたからだ。俺を止めてくれるのはいつだってしーちゃんだ。

「俺はな、お前達の現状は自業自得だと思ってる。魔法に頼り過ぎてきたんだよ。魔法という便利で圧倒的な力に傾倒して行ったがために、そこばかりに目が行き知識を捨てたんだ。魔法を使うには知識は必要不可欠。それすらも忘れ去り只管ひたすら目の前にある魔法の威力アップに力を注いだ。言わば成れの果ての姿だ。」
「川端様っ!その様な物言いはおやめください!」

 ギュンターが口を挟んでくるが、事実でしかない事を言われても仕方がないことだろう?

「別に今現在の皇帝達を貶めるつもりで言っているわけじゃない。だが結果が出ているだろう?魔物を言い訳にし知識を捨て、結果どうなった?何千年もかけて数多の犠牲を出しながら得た知識も、捨て去ろうとすれば数年で消え失せる。便利だったはずの魔法は知識を捨て続けてきた現在、その威力すらままならない。」

 悔しそうに唇を噛むギュンター。
 皇帝は表情が抜け落ちている。

「にも関わらず未だ魔法に縋りついている。宗教や信仰なんて比ではない程に魔法に固執し盲信している。残った僅かな知識で苦心し努力しているのは見ていればわかる。過去の愚か者共の尻拭いをしているとも言える。何度でも言うが、この世界の奴等は俺達にその尻拭いを手伝えと言ってるんだ。俺としーちゃんはその為に尽力しよう。しーちゃんの説得は俺がする。その代わり他の地球人に何も望むな。知識の享受は勝手にやってくれ。だが、自ら望むのは許さない。これ以上俺達を苦しめようとするのは許容できない。」

 煩わしいことにこれ以上振り回されていたらいつまで経っても解読は進まない。
 地球に帰るのがどんどん遅くなる。
 協力する姿勢を見せれば貴族の雑魚共は兎も角、皇帝達の心情も少しは変わるだろう。

「それは、川端殿と紫愛殿には望んで良いということか?」
「俺に対して何かを望む時は俺1人でも良いが、しーちゃんに何か望む時は必ず俺も一緒に話を聞く。協力には力は惜しまない。だが無理難題を押し付けられるつもりはない。」
「私とギュンターは地球の皆に対して害意などないが…」

 言い淀む皇帝の言いたいことはわかる。

「貴族連中か?」
「ああ。制裁は終えたが、まだ法を破るとどうなるか、私がどう変わったのか、浸透しておらんのだ。」
「貴族の雑魚共は放っておいていい。そのうち思い知るだろ?もうみんな力があるから身は守れる。俺は煩わせるなと言ってるんだ。」
「承知した。私とギュンターからは川端殿と紫愛殿以外には何も望まないと誓おう。早速だが、訊ねたいことがある。」

 もうか?
 遠慮もねぇな。

「なんだ?」
「魔法の制御についてだ。何故あんなに習得が早いのだ?その方法を教えてほしい。」

 あー、それかぁ…
 教える気は更々ない。
 だが協力すると言ったばかりだし、最初からそれを知りたがっていたんだ。
 引き下がらないだろうな。

「拒否する。」
「何故だ?協力してくれるのではなかったのか?」
「教えても時間の無駄だからだ。絶対にできない。何万人もの人数を集めて教えても元の理解すら及ばないだろう。それは俺もしーちゃんも見解は一致している。そんな限りなく習得不可能だと思うモノに時間をかけられるのか?」
「それほどに難解なことであるのか?」

 簡単には引かないわな。
 だが、俺は何も嘘は言っていない。

「難しいと言うよりも、この世界の人間では多分無理だ。」
「地球で暮らしておったからこそ得られた技術なのか?」
「そうだ。しかも俺としーちゃんの様な特殊な状況下だったからこそ会得したモノでもある。因みに俺としーちゃん以外の地球人は誰もできない。できる気もしない、そもそもわからないと言っていたくらいだ。一生をかけても得られないであろうその技術をそれでも教えろと言うなら構わないが、正直時間の無駄だぞ?」
「……諦めよう。」

 肩を落とす皇帝。
 ここでの妥協案の提示もまた、俺達の有利に運ぶ材料だな。

「そう落ち込むな。制御の時間短縮は無理だろうが、操作なら短縮可能かもしれないぞ?」
「本当か!?」

 光明を得たとばかりの皇帝。
 ちったぁ隠せよ。

「ああ。この国の制御は静かにして自分の中の魔力を感じるだけだろう?」
「そうだ。」
「感じながら自分の中の魔力を動かすんだよ。」
「それから?」
「以上だ。」
「「は?」」

 2人共、目が点だな。
 間抜け面晒すんじゃねぇよ。

「操作の習得には人によってかなりの時間のバラツキがあるだろ?それは何故か?制御の段階で無意識に自分の中の魔力を動かしてる人間ほど操作の習得が早い。と、しーちゃんが思い至った。俺もそう思う。俺としーちゃんは制御の段階から魔力を故意に動かしながら習得した。制御を終えたら操作も自在にできたからこそそう感じた。」
「なんと…」
「そんな簡単なことだったのですか?」

 2人は言葉を紡げずにいる。

「制御を始めたばかりの人間だけでなく、制御中全ての人間にやらせ、時間の短縮が見られればそれは成果じゃないのか?」
「陛下!早速やらせてみましょう!」
「そうだな!川端殿、感謝する!」
「魔力を外に出すのではなく自分の中で動かすんだぞ!」
「そのように周知させていただきます!」
「もういいか?辺境でのことはとりあえずわかった。もう戻りたいんだが?」
「陛下、川端様はお疲れでしょう。今日はこれで良いのではないですか?」
「ああ。協力感謝する。」
「そうだ、あと1つ忘れていた。俺達の情報を流している奴がいる。ラルフの予想では恐らくメイドの誰かだと言っていた。俺もそう思う。探って処分してくれ。皇帝もギュンターもお疲れさん。」

 そう言い外に待機していた護衛達に案内され戻った。



 箱の外にはいつも通り護衛達が待機している。
 ラルフに言っても無駄だな…

「ハンス、ちょっと話したいことがある。俺の部屋へ一緒に来てくれ。」
「承知いたしました。」


 ハンスを伴いロビーへ入るとみんなからお帰りと出迎えられた。

「あっくん!お疲れ!話したいことがあるんだけど良い?」

 しーちゃんに話しかけられて気が緩みそうになるのをグッと堪える。

「ごめん、ちょっとハンスと急ぎで確認したいことがあるんだ。それが終わってからでも良い?」
「勿論!」
「じゃあ後でね!」

 そう言ってハンスと俺の部屋へ入った。
 












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