水と言霊と

みぃうめ

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第217話    不安の解消

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 夕飯を終え、カオリン達はすぐに本を広げ始めた。
 私はあっくんと話をしてくると断りを入れ、あっくんと部屋へ向かう。



 部屋の中に入り、あっくんとソファに並んで座り謝罪する。

「さっきは不安にさせてごめんね。」
「俺が守るから……だから絶対やらないで!」
「うん、ごめんなさい。」
「しーちゃんが不安になるのもわかるよ。香織さんのあんな話聞いたら怖くなる。」
「……1回でもそういうことがあったらさ、なし崩し的に続くんじゃないかって思「そんなこと絶対させない!!!」
「ありがとう。ねぇ、あっくんは大丈夫?」
「俺はこっちの世界の女なんか欠片も興味ないから!!寄ってこられたらぶっ倒す!」
「それは知ってるよ。そうじゃなくてさ、不安になってない?」
「え?何を??」
「絢音が子供だってわかってから抱き枕役してないでしょ?だから不安にならなくなったのかな?って思って。」
「それは……しーちゃんは今は……男に触れられたくないでしょ?」

 私の事を考えて遠慮していたのかな?

「異世界人はいつだって嫌だけど、あっくんや絢音はいつでも大丈夫だよ?」
「……平気、なの?」
「うん。あっくん、さっき私がお腹触ってた時不安そうな顔してたから、不安にさせちゃったかと思って。」
「じゃあ、不安そうな俺のために話そうって言ってくれたの?」
「うん。抱き枕役の出番かと思ったんだけど、平気なら安心し「平気じゃない!」

 そう言って抱き寄せられた。
 いつも通り、あっくんはぎゅーぎゅー抱きしめてくる。もう慣れてるんだろう、私が苦しくならない程度に加減されている。
 抱きしめられながらあっくんの広い背中をゆっくり撫でる。

「ずっとずっと、平気な時なんてない。」
「本当は不安で仕方ない?」
「うん……でも、不安だって嘆いてても何も変わらないから、頑張るしかない。」
「私と同じだね。多分みんなもそう。気丈に振る舞わないとやっていけないもん。」
「うん…」
「私、絢音のことばっかりだったね。あっくんへの配慮が足りなかった。」
「それは当然だよ。子供の絢音を守りたいのもみんな同じだ。」
「ううん、あっくんは私が絢音に付きっきりで部屋にこもってた時も1人で練習場に行ってくれてた。1人でみんなを守ってくれてた。私はそれをわかってたのに甘えてた。あっくんなら任せても大丈夫だって勝手に思ってたの。1人で大丈夫な人なんて居ないのに…」
「しーちゃんが俺を頼ってくれるのは、どんな形であっても嬉しいよ。ただ、こうやって少しだけ……俺にも充電する時間が欲しい。」
「息抜きってこと?」
「うん。」

 やっぱり相当溜め込んでたんだね。

「私でよければいくらでもどうぞ。」
「ありがとう。」
「明日皇帝の所に行くんだよね?」
「そうだよ。しーちゃんはこの建物の外周を調べてきてね。」
「私って何も知らないよね…」
「それは、この世界のこと?」
「うん。魔法を習得することしかしようとせず、ここがどういう国なのかはカオリンに頼りっぱなしだった。ハンスに聞くまで辺境伯領が4箇所あるってことすら知らなかった。何も知らないままで利用されないようにしようなんて無理な話だよね。」
「それは俺も痛感したよ。立場が違えばそれだけ考えることが違ってくるよね。でもまさかハンスが地球人同士の子供を狙ってるなんて思いもよらなかった。」

 私達にそんな気持ちは微塵も無い。

「私達はこの世界で暮らし続けるつもりがないから気がつけなかったね。でもさ、ハンスがそう思うのって……やっぱり私達が帰れるわけがないって思ってるからだよね。」
「そうかもね。でも、俺達は地球に帰る。でしょ?」
「うん!」
「俺達がいくら頑張っても文献読めるようになろうとしたら途方もない時間がかかっちゃうから、それはもう香織さんに任せるしかないよ。俺としーちゃんは香織さんに邪魔が入らない様にできる限りやっていこう。」

 それを聞いてふと、邪魔をするならシューさんなのでは?と思った。

「そうだね……そういえば、シューさんて今なにしてるの?」
「相変わらず部屋に閉じこもったままで、欲しがるのは紙とペンだけらしい。」
「紙とペン、だけ?」
「そうなんだよ。ひたすら何かを書き続けてるらしい。」
「どういうこと??物理学者って本を読むんじゃないの?」

 身近に物理学者が居なかったから本を読み漁って知識をつけるイメージだったんだけど、その実態は知らない。

「ここには本以外の情報源が何もないから俺も本を読み漁ってるとばかり思ってたんだけど、違うみたいだね。ずっと何かを書き続けてるみたいだ。俺としては部屋から出てこないなら被害も狙われる心配もないから良いけど。」
「部屋から出てこなければおいそれと近付けないと思うし、そもそも何かに熱中してる人には声すら掛け辛いよね。」

 シューさんのあの感じだと、他を小馬鹿にし寄せ付けない姿の想像が容易くできてしまう。

「こう言っちゃなんだけど、ひたすら何かを書き続けてる魔力制御すらやろうとしない初老のオッサン。メイドや護衛にも食事以外で声を掛けることすら許してないみたいだから、不気味に見えてるかもね。ここの貴族連中にも利用価値は低いんじゃないかと考えられていると思う。」
「どんな形でも狙われる可能性が低いならちょっと安心だね。」
「そうだね。」
「あっくん、そろそろ大丈夫?」
「……うん。ありがとう。」

 そう言って、やっとあっくんの腕から解放された。

「あっくん、髪の毛弄らせてくれない?」
「編み込みの練習?」
「そう。やらないと忘れちゃう。」
「いいよ、どうぞ。」

 その言葉にソファの後ろに回り込む。

「あっくんは普通に座ってて。」
「わかった。会話はしてても平気?」
「うん、大丈夫。」
「しーちゃんて髪の毛長い方が好きなの?」
「そんなことないよ?」
「でも俺には切らない方が良いって言ったよね?」
「そのこと?あっくんはこれくらいの髪の長さが似合ってるって思っただけだよ。このユルっとした長さの天パと顔のバランスが良いかなって。もう少し短くても良い気もするけど、短髪よりも長い方が似合いそう。」
「ロン毛が苦手な女の人って結構いると思うんだけど。しーちゃんの好みってこと?」

 好みかどうかと聞かれると考えてしまう。

「う~~~ん……主観入りまくりだから、そうなんだと思う。」
「じゃあ苦手な髪型は?」
「私も完全なロン毛は苦手、かも?」
「皇帝みたいな?」
「あれは無理。サラサラで腰までありそうな長髪って、綺麗な髪の毛だなとは思うけど……似合ってるか似合ってないかは別じゃない?それに、ロン毛になると髪の毛の重さでトップの辺りがペットリするでしょ?それが嫌。」
「ははっ!ペットリって!!ボリュームがなくなるのが好みじゃないってこと?」

 難しいこと聞くよね!?

「……単純に男の人で皇帝みたいなストレートロングが似合ってる人を見た事がないからかも。」
「俺も前髪邪魔で最近後ろで括ってたけど、そのペットリは良いの?」
「全然違うよ!それにオールバックだもん。おデコ出してるでしょ?縛ってるのも全部じゃなくて上半分だけだし。」
「額が出てたら良いの?」
「どうなんだろ……でもあっくんは縛り始める前、片方の髪だけ耳にかけたりしてたよね?あれも似合ってたし、おデコが出ててもそれはそれでバランスが良いと思う。」
「単にこの長さに見慣れただけ?」
「それもあると思う。でもやっぱり今のこの肩につかないくらいの毛束感のあるふわふわクルクルしたのが似合ってると思う。短いのも似合うと思うよ。まぁイケメン爆モテ男子は何しても似合うもんだよ。」

 少しの間が開く。
 今私はあっくんの髪を弄っているから表情がわからない。

「……なんか、褒めてんだか貶してんだか良くわかんないね。」
「えっ!?イケメンて褒め言葉じゃないの!?」
「しーちゃんの言い方だと褒めてるってより揶揄われてる感じだよ。」
「えーっ!そんなつもりないのに!で、髪の毛短くするの?」
「しーちゃんは俺には長い方が似合ってると思うんでしょ?」
「うん。」
「なら切らない。」
「そっかー良かった。」
「良かった?」
「うん。だってあっくんが髪切ったら練習させてくれる人いないでしょ?絢音は縛るの嫌って言ってたし。カオリンは髪の毛かなり長いから今は難しいし、それに何より邪魔しちゃ駄目だし。ってなると護衛の誰か?」

 頭に過ぎるのはハンスの顔。

「しーちゃん!毎日俺の髪で練習しよう!朝食終わってから!そうしよう!ね?」
「いいの?」
「毎日やった方が上手くなるのも早いよ!」
「あっくんが良いなら!」
「決まりだね!」

 喋りながら髪を編んでは解き編んでは解きを繰り返し、私が満足するまであっくんは髪を弄らせてくれた。












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