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第213話 神殿とは
しおりを挟む「ミコと神殿ってなんの事なの?」
私はカオリンに気になってたことを聞く。
「俺も何の話なのかサッパリわかんなかったよ!空気読んでずっと黙ってたけどさ!しかも神がどうとか言ってたじゃん!?みんな神見たの!?俺見てないんだけど!?」
ずっと置物のように静かにしていた優汰が口を開いた。
そうだった。
優汰は話が全くわからなかっただろう。
「この国は魔法と宗教の国なのよ。魔法についてはもうわかっているわね。宗教と言っても地球では様々あるけれど、どの宗教でも神殿だったり神社だったり祀る場所があるわよね?ここも同じなの。そこを神殿と呼んでいるのよ。そして神子とは、わかりやすく言えば、主に多指症で産まれてくる者達のことよ。その者達の身体を使い神が降臨したとされているの。」
「その人達の扱いは?」
「神殿に保護されてとても大切にされているらしいわ。寄付されるお金で成り立っている。」
「さっき言ってたマスコットみたいな扱いはされないの?」
「程度によるのではないかしら?多指症と言っても、例えば指が1本多い人と、腕が3本生えている人、どちらがより神の顕現が多いとされると思う?」
「腕の方?」
「その通りよ。更に、多指症ではなく、双子が結合して産まれたりする場合もあるわね?健常者と呼ばれる人からかけ離れればそれだけ神が宿っている部分が多いとされるわ。そういう人は短命でしょう?無理をさせすぎてしまうと寿命はより短くなってしまう。一般に公開される人はある程度の人。貴族のような寄付が多額になる人はより重度の人を公開するなど、わけているのではないかしら?」
「じゃあ、扱い的には酷くないの?」
気になるのはそこだ。
「逆よ。とても大切にお世話されるの。寄付でお金を賄っているのですもの。神殿と言っても、一種の保護施設のような感じになっているのだと思うわ。家族にそのような人が産まれてきた場合、貴族はお金があるからなんとでもなるけれど、平民に産まれてしまったらお世話をする人を雇うこともできずに付きっきりになってしまう。そうなったら働きに出ることもできないで困窮してしまう。それに、魔物によってこれだけ住める土地が少なくなり、魔法も使えないとなれば希望が無さすぎるの。神子を産んだ人はそれだけ徳を積んだから得られた機会であるということも周知されている。これからどうやって生活していこう、という絶望ではなく、希望になる。だから必要な存在であると思うわ。」
良かった。
酷い扱いを受けているんだったらどうしたらいいのかと思った。
「じゃあ俺達は!?もし連れて行かれたらどうなんの!?」
「神を見たとされて連れていかれるならば、寄付金集めのマスコットよ。神子は神の降臨であって、神と会うことも言葉を交わすこともできない。では私達は?神を見て言葉も交わせる。呼び方がないだけで、神子より上なのよ?おまけに健常者で魔法も強い。神に近いから当然と捉えられるわ。」
「最悪じゃんか!!!」
優汰が悲鳴混じりに叫ぶ。
「そうよ。だから慌てて皇帝が裏取りまで済ませてここに来たのよ。確認のためにね。」
「あそこでハンスが口を開かなければ護衛をクビにしてたかもしれない。そうしたらより俺達の情報が漏れる危険性が増すだけだった。クビにしたらフリッツは殺されてたんじゃないか?」
あっくんの言葉にカオリンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「……そうだと思うわ。」
「本当に漏れないの?神殿に連れていかれるなんて絶対嫌!!」
麗は金谷さんにしがみつきながら叫ぶ。
「あれだけハンスが護衛を脅したんだ。それにフリッツだって俺達を守ろうとしての行動だっただろ?」
「違うわよ!目撃者の話よ!」
「それに関しては大丈夫だと思うわ。」
「何でそう言いきれるんですか!?」
「さっき私が何かと会話をしたのを見ていたでしょう?隣に居た紫愛ちゃんにすら何も見えず声も聞こえていなかったの。ということは、個別に範囲の指定も可能だということだわ。それに私のあの質問に答えたということは、アレも見られることは望んでいない。」
そうだった!カオリンが何と話していたのか聞いてなかった!
「カオリンには何が見えてどんな会話をしたの?アレが現れたの?」
「私が見たのは光の玉よ。最初は“外に出さないで”と聞こえてきたわ。だから、部屋から出さないことなのか、屋外に出さないことなのか確認したら“陽の光に当てないで”と返ってきたわ。それを守れば出てこなくて済むのか聞けば“そう”とだけ返ってきて、スっと消えたの。」
じゃあ私がカオリンに近付いた時はもう消えてたのか。
隣に居て何も見えなかったし聞こえなかったんだから範囲の指定で間違いない。
「ねぇ!アレって何!?光の玉ってどういうこと!?カオリンは何と会話してたの!?」
1人大混乱の優汰。
「幽霊みたいなのがいる。」
ボソッと金谷さんが呟く。
「……は?幽霊?んなのいるわけないじゃん!何言ってんの?」
「いる。」
「だから!そんなのいる、わけが…」
みんながシーンと静まり返り言葉を発しないのに気がついたんだろう。
優汰の声はだんだん尻すぼみになって途切れた。
「えっ!?いんの!?本当に!?みんな見たの!?喋ったの!?そもそも幽霊って会話できるもんなの!?いつ見たの!?何で俺だけ教えてもらってないんだよ!」
「優汰は畑に夢中だったろ?それに、話したら煩そうだったからな。」
「煩そうって何だよ!!!大切なことだろ!?教えてくれよ!」
「ほら、煩いだろ?それに今こうして話してるんだからいいだろ?」
「川端さんひでぇよ!!!」
「俺だけじゃなくみんなそう思ってたから誰も話さなかったんじゃないのか?」
「ごめん優汰!説明めんどくさかった!」
私は素直に謝る。
「紫愛ちゃんもなの!?」
「だってみんなと話した後にまた同じ話するのは手間だし、話さなくても優汰はどうせ畑に行くんだから良いかなって。」
「どうせってなんだよ!」
「優汰君、ごめんなさいねぇ。」
「優汰うるっさい!!」
カオリンは謝り、麗は怒っている。
金谷さんは肩を震わせてそっぽを向いている。
「何だよみんなして俺を除け者にして!」
「煩わしいことは気にせず畑に集中してほしいのよ。それだけ優汰君の野菜にみんなが期待して待ち望んでいるのよ。」
「あ、なんだそういうこと!?そうならそうと言ってくれればいいのに!応援ならいつでも受け付けるよ!なんなら畑に手伝いに来る?」
「ヒィッ!」
悲鳴のような声がした方を向くと、いつも通り金谷さんだった。完全に後ろを向いて両手でガッチリ口を押さえて肩をブルブル震わせいる。
折角カオリンが優汰を言いくるめ良い流れに持っていったのに台無しである。
「この前みたいにどうしてもって時以外は難しいだろうな。それに金谷さんには他のみんなを守ってほしいから離れてほしくもないしな。」
「俺はもし畑を拡大することになったらまた手伝ってほしい!土になったら俺も魔法使えるし!とりあえずお試しの野菜は植えたから!」
「俺達が帰ってきてもまだ実はなってないだろうなぁ。」
「そりゃそうだよ!てかどれくらい行ってんの?」
「前に聞いた時は2週間の滞在だって言ってたような気がするな。」
「その間戦いっぱなしなの?」
麗が心配そうに聞いてくる。
「いいや。魔物が出た時に応援に向かう時はそうかもしれないけど、定期的に赴く今回のようなものは森の様子を見ながらって感じらしい。」
「そうなんだ…」
麗は暗い表情。
「麗はカオリンのお手伝いよろしくね!」
きっと私とあっくんに向かわせるのを気にしているんだろう。気にさせないように明るく振る舞う。
「勿論よ!帰ってくるまでに魔法陣の謎を解いて驚かせてみせるわ!」
「楽しみにしてる!」
今回のことで私は大いに反省した。
魔法ばかりに気を取られ、この国の歴史や文化を全く学ぼうとしていなかった。
地球に帰るんだからと、知ろうともしていなかった。
神の話であんなに危険にさらされていたのに何を思うこともなく話を聞いていた。
カオリンに任せておけばいいと丸投げしていたのは怠慢だと気がついた。
そして、みんなのことも、こういう人だと自分の中で決めつけ思い込み行動していたことにも気がついた。
しっかり話を聞けば、私の思っていた答えとはまるで違う言葉が返ってくる。
物事を見極めるのには、主観ではなく俯瞰の目線が重要。
そして俯瞰で見極めようとするなら知識は必須なんだと思い知らされた。
もう間違えたくない。
絢音にしてしまったようなことは2度としたくない。
ここを出発する前に絢音は目覚めてくれるだろうか…
きちんと行ってきますを言って出発したい。
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