水と言霊と

みぃうめ

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第190話    麗の焦り

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「一旦香織さんの部屋に入ってここを片付けてもらおう。」

 ロビーにはほとんど物がなかったにも関わらず、かなり散らかっている。
 椅子同士がぶつかり合ったのか、パッと見ただけでも2脚は壊れていた。

「あらまぁ、私のせいね。」
「大丈夫ですよ。片付けも奴等の仕事のうちですから。俺が声をかけてくるのでみんなは部屋に行っていてください。」
「そう?じゃあお願いするわ。」


 みんなでカオリンの部屋へと移動する。
 片付けを頼み終えたあっくんもすぐに合流した。
 私は絢音の事を口にする。

「みんなにお願いしたいことがあるの。絢音にも魔法を覚えてほしくて、とりあえず魔力を感じることからだと思ってみんなと同じように魔力を流してみたんだけど…絢音には魔力が流れなかったの。だからみんなにも絢音に魔力を流してみてほしい。まずはあっくんから。」
「えっ!?魔力流れなかったの?何で?紫愛ちゃんができないなら俺達にできる訳なくない!?」
「そうよ、紫愛にも川端さんにもできなかったら私達じゃ無理だと思う。」

 優汰も麗も否定的。
 それに対してカオリンがやんわりと仲裁に入る。

「まぁまぁ、優汰君も麗ちゃんも、やりもせずに無理だと決めつけるのは良くないわ。ここにいる全員が絢音君を守りたい。絢音君が魔法を使えなくても全力で守ることに変わりはないけれど、もしもという場合がないとは言い切れない。やれることは全てやりましょう。」
「カオリン!ありがとう!」

 あっくんは絢音に指示を出す。

「絢音、ここに座って楽にしててくれ。今から俺が絢音に魔力を流してみる。ほんの少しでも何かを感じたら教えてほしい。」
「うん。」

 あっくんは集中してシーケンをする。
 けれど…

「しーちゃんの言う通り、魔力が霧散してる感じがする。少しも流れていかない。流せないから絢音の魔力も感じない。絢音は何か感じたか?」

 絢音はやはり首を横に振る。

「次は私ね。絢音君、良いかしら?」

 頷く絢音を見て、カオリンがやってみようと魔力を練り上げるが

「駄目ね。そもそも紫愛ちゃんや川端君のように他人に魔力が流せる気がしないわ。」
「優汰も金谷さんもやるだけやってみて!」
「そりゃやるだけならやってみるけどさぁ…」

 と、優汰も金谷さんもやってみてはくれたが結果はカオリンと同じ。
 もしかしたら、私やあっくんに魔力を流された影響でカオリン達も流せるようになっているかもという希望も絶たれた…

「紫愛ちゃん、現状では何もわからないわ。私はとりあえず魔法に関しての昔の文献を漁って調べてみるから、ちょっと待っててちょうだい。」

 絶望的な気持ちからすぐさま引き上げてくれたのはカオリンだった。

「私も協力する!」
「気持ちだけ受け取っておくわ。紫愛ちゃんは自分の魔法の模索に力を入れてちょうだい。」
「でもっ!」
「でもじゃないわ。紫愛ちゃんにも川端君にも無事に帰ってきてもらわないと困るのよ。帰ってきた時に、もし紫愛ちゃんが怪我をしていたら絢音君はどう思うかしら?それぞれの分野で頑張るんでしょう?」

 そうだった…
 私には私にしかできないことをやらなければならない。

「紫愛ちゃんの絢音君を心配する気持ちはわかるわ。じっとしていられない気持ちもね。でもそれは私達全員が同じよ。紫愛ちゃんには紫愛ちゃんにできることをすれば、それも必ず絢音君を守る為の力になるわ。」
「……うん。」

 私は絢音の事となると周りが見えなくなりがちだ。
 目の前の事ばかりに囚われて目的を見誤ってはいけない。
 そんな反省をしていたら

「ねぇ!そもそも魔法って何なの?」

 と、麗が言ってきた。

 麗は未だに制御もままならないから疑問に思っても不思議じゃないけど、魔法って何とは?
 何が聞きたいんだろう?

「空気中の魔素を取り込んで身体に蓄え「それは知ってる!!みんなに馬鹿の1つ覚えみたいに聞かされたからもう耳タコ!!そうじゃなくてさ!身体に蓄えた魔素を魔力に変換して使うんでしょ!?やってることはみんな同じなのにどうして使える魔法が違うのかってことが聞きたいの!絢音君の色が見えるのって何!?色が見えるのなんて魔法使ってるとしか考えられないでしょ!?しかも見えてるのって属性の色なんでしょ!?何の魔法使ってるのよ!!豪のあれ!あんなの土魔法って言えるの!?動かしてるの土じゃないじゃん!!あれが魔法っていうなら何でも有りでしょ!?豪が土の一部は土の認識だって言うなら土の中にある水だって空気中にある塵や埃だって何だって土の認識できたら動かせるはずでしょ!?なのに動かせないのは何で!?優汰の魔法だってそう!土を生み出すって何よ!そもそも川端さんだって土因子持ってて豪や優汰の言ってることは理解できるって言ってるのに魔法としては使えないのは何で!?同じ土魔法使えるはずなのに同じ事ができないなんておかし過ぎるじゃない!!」

 一気に捲し立てて麗は息が上がっている。

 確かに………
 言われてみれば同じ事ができないことは不思議だよね?
 あっくんは原理は理解できてるはず。
 意味は理解できてるのに使えない…
 どこかで無理だと思ってるから?
 無意識にセーブしてるから?
 自分で縛りを作ってる?
 …………………………固定概念?
 私の中にも固定概念は存在する。
 地球人の固定概念は物理。
 私も物理に囚われている。
 でも物理的に不可能だったら魔法はそもそも発動しない。

 ..........本当に?
 金谷さんのあれは本当に土魔法なの?
 優汰のあれだって、本当に土魔法なの?
 カオリンの風魔法だって、風を吹かせるのに必要なのは単なる空気の移動じゃなく圧力だった。
 じゃあ私の水魔法は?
 優汰みたいに土の一部と認識できるなら私だって泥混じりの水だって水の認識はできるはず……動かせるはず…
 あっ!!!!!
 私やってるよ!!
「ーーーーーちゃん!」
 シロップ作りの時、あれは甜菜の成分が溶け出した純粋な水じゃなかったのに分離させられた!
 ………じゃあ私は土を動かせるの?
 でも因子検査した時に土は動かなかった。
 土の中に混じる水を意識してこれは水だと思って動かそうとすればできるの??
「しーちゃん!!」
「あっくん!!」
「ぅわっ!!!ビックリした!何度呼びかけても反応なかったのに急に動き出すんだから!」
「ごめん!それより土ある!?」
「土?練習場からパクってきた土ならまだあるけど、それがどう「ここに持ってきて!今すぐ!!」
「……わかった。部屋から持ってくるからちょっと待ってて。」

 すぐにあっくんは布袋に入った土を持ってきてくれた。
 お礼を言って受け取り床に布袋から土を出す。
 目の前には小さな土の山。
 土ってより……乾燥した砂?
 水分が抜けきってるのかな?
 とりあえず魔力で砂の山を包み込んでみるけど、動く気配はない。
 水を含ませてみよう。
 水を生み出し砂にかける。
 これならどうだ!?

 もう1度土に戻った砂?を魔力で包み込んでみる。
 ……これは水。これは水。これは水!

 結果。
 動きませんでした。
 何で?
「ーーーーーーゃん」
 水の割合が少なすぎるから?
 土の粒子が大きすぎるから?
 でも甜菜が溶け込んだ水を水として動かせたってことは泥水ならイけるってことだよね?
 液体じゃないと駄目?
 いや、それなら氷は?
 分子の速度の違い?
 重さの違い?
「しーちゃんってば!!!」
「うおっ!はいっ!!」
「1人で考え込みすぎ!何やってたの?」

 しまった、夢中で考えてた。

「あーーーごめん。麗の話聞いて私も土動かせるんじゃないかと思ってやってみたんだけど無理だった!」
「紫愛ちゃんはどうして土を動かせると思ったのかしら?」

 カオリンにそう聞かれて、さっき1人で考えていたことを全て言う。

「うーーん、そうねぇ……やっぱり水としての認識ができるかどうかが分かれ目なのかしら?」
「そうですね。香織さんの言う通り、これはどう見ても土ですから。」
「麗ごめん!わかんない!」
「見てりゃわかるわよ。はぁーーー。全然できる気がしない……」

 麗は自分だけが魔法を使えないことに焦っている。
 それに伴って自分への苛立ちもあるんだろう。

「焦っちゃ駄目だよ。まだ時間はあるんだからさ!」
「そうよ。麗ちゃんが頑張っていることもみんなわかっているんだから、焦るとできるものもできなくなってしまうわ。私も協力するから。ね?」
「……はい。」

 あまり言い過ぎても益々気にするだけだろう。

「もうすぐお昼ご飯じゃない?休憩しようよ!」
「もうそんな時間なの!?大してお腹空いてないのに!」

 ありゃ、話向ける方向間違えたな。
 これならどうだ?

「まぁまぁ!今日はオヤツでも作ろうか?みんなでおやつ食べて頑張ったご褒美タイムをとろうよ!」
「いいの!?」

 よしっ!悪く無い反応!

「頑張って作ってくるね!」

 やっと機嫌を直してくれた麗。

 やっぱり甘い物は正義だね!













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