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第189話 香織の風魔法
しおりを挟むみんなで朝食を掻き込み、メイドを呼んで片付けてもらう。
メイドは燭台が見当たらずキョロキョロ辺りを見回し、床に転がっている破損した燭台を目にし慌てて外に出て行った。
どうやら護衛に報告に行ったらしい。
ラルフとハンスが部屋に入ってきて、メイドが燭台を指差し何かを言っている。
「皆様、すみませんが、この燭台はどうされたのですか?」
「悪い、俺が壁にぶん投げた。」
ラルフの質問にあっくんが答える。
「あの…何かお気に触ることでもありましたか?」
「いいや?何も?ちょっとした意見の食い違いがあっただけだ。こっちの奴等に何か文句があったわけじゃないから心配すんな。」
「そう、ですか。では、あちらは片付けさせていただいても問題ありませんか?」
「ああ、頼む。それからこの後、何があっても声を掛けるまで入ってくるな。」
あっくんの返答に若干顔を引き攣らせながらラルフがメイドに指示を出す。
片付けが終わりメイドと護衛が部屋を退出したのを確認する。
「あっくん、金谷さんの魔法内緒にするの?」
「いずれはバレると思うけどさ、金谷さんの土魔法がこの世界でどう思われるのかって一瞬考えたら、今の段階では受け入れられないんじゃないかと思ってね。」
「そうね。土でも何でもない。物質自体を操るなんて、土魔法とは絶対認識されないわよね?下手をすれば闇魔法か何かなんじゃないかって思われたりしないかしら?」
「それってマズイんじゃないの?」
麗が心配そうに言う。
私はカオリンの闇魔法という言葉に心臓がバクバクしていた。
絢音の魔法が光か闇だと思っている私にとってみたら、1番の心配の種だから。
闇魔法と聞いただけでみんなの空気感が心配に振り切っている。
金谷さんだって因子検査をしたんだから土因子を持っているのは確実だけど、闇の因子だって持ってる可能性はあるよね?
それを無意識で使っていたとしたら?
金谷さんはまだ土の因子があるから、土しか持っていないと言い訳もできるかもしれない。
でも、絢音は?
言い訳の材料なんて何も持ってない。
闇魔法と聞いただけでみんなが金谷さんが利用されるのではないか、と懸念するくらい危険だと認識している。
「みーちゃん?だいじょぶ?」
そんな思考の闇の中、私を心配する絢音の声が聞こえてきた。
「大丈夫だよ。ごめんね、ちょっと考え込んでただけだから。」
絢音に心配かけちゃ駄目だ。
まだ何もハッキリしていない。
不確定要素が多過ぎる。
「とりあえずもっとやれることを模索して、実力をつけてからこっちの奴等の前で因子検査をすればいい。目の前で因子がハッキリすれば理解も納得もされなくても、地球人だからということで押し通せる。俺やしーちゃんの魔法だって全く理解されていないのに、地球人は特別だという免罪符のような物が働いているからな。」
そうだよね……地球人は特別…
なんとかその思考を利用してこっちに有利になるようにしなくちゃ!
「それもそうね。結局のところ実力をつけるところに戻ってくるわ。さぁ!今度は私の風の番よ!風で何ができるか、みんな何か案はあるかしら?」
「俺は土以外サッパリわかんない!」
「俺は自分の魔法のことしか考えてなかった。」
「私も風みたいだけど……何も思いつかなかった…」
金谷さん、優汰、麗は其々何も思いつかなかったみたいだ。
私も、物語に出てくる風魔法くらいしか想像できない。
どうしたもんかと頭を抱えそうになった時
「俺達は其々物理に当て嵌めて考えていますよね?香織さんは特にそうだと思います。物理に当て嵌めて考えなければ多分連想自体できないと思います。そもそも風とは何か、それから考えるのが重要なのでは?」
と、あっくんが助言した。
「風とは何か?」
「そうです。風はどうして吹くのか……ですよ。」
「え?それ、誰かわかる人いるの?」
私の疑問に誰も答えない。
かと思いきや麗が口を開いた。
「風って、低気圧と高気圧なんじゃないの?台風とかそうでしょ?どっちがどっちに吹くとか知らないけど…」
「えー?そんなザックリでわかるのぉ?」
優汰がチャチャを入れるけど
「いや、誰も風が何かわからなかったんだ。それを思えば出てきただけで助かる。とりあえずやってみよう。間違ってたらまた考えれば良いだけだ。香織さん、やってみましょう。」
「そうね。麗ちゃん、ありがとう。」
「い、いやいや!まだ正解だって決まったわけじゃないし!」
「優汰!ここに立て!」
「えーーー!?何で俺!?」
優汰は凄く不満げな声を出す。
「折角の意見にチャチャ入れただろ?それとも他に風について意見あんのか?」
「わーかったよぉ!もーう!」
ぶつくさ言いながらも優汰は移動する。
「そこから動かず立ってろよ!もし風が吹いても踏ん張れ!」
「はぁーい!」
「香織さん、優汰の右が低気圧、左が高気圧と想像してください。」
「そう言われてもねぇ……低気圧も高気圧もどう想像していいかわからないわよ?」
「……では、左に圧力をかけるイメージはどうですか?」
「右には何もせず?」
「はい。左に圧力を、段々強くなるイメージでかけてみてください。風が吹けば成功です。」
「それならイメージできそうだわ。」
カオリンが魔力を放出しだす。
すると、フワッと微風が吹いてきた。
「カオリン!風吹いてきたよ!」
「香織さん、そのままどれくらい魔力を流せばどれくらいの威力になるのか、やってみましょう。その感覚を身体で覚えるんです!」
「わかったわ!」
徐々に風は強くなる。
それに伴って優汰も段々と姿勢が低くなり
「ちょっ!!ちょっとぉーーー!強い!強いってば!!!」
優汰は叫ぶ。
それを聞いてもカオリンは魔法を消さない。
完全に床に寝転んだ状態になった優汰は、もう何も言わない。
いや、言っているのかもしれないけど風の音が凄すぎて何も聞こえてこない。
漸くあっくんがカオリンの肩を叩いて終了を知らせると、カオリンは魔力を流すのをやめた。
「香織さんは何をイメージして魔力を流しましたか?」
「川端君が圧力、麗ちゃんが台風って教えてくれたから、hPaのイメージかしら?具体的な数字はわからないけれどね。」
「いえ、より具体的なイメージと物理に反していなければ発動するんですから、成功じゃないですか?風魔法、凄く強いかもしれませんよ?」
「ええ!これは凄いわね!麗ちゃんありがとうね!一緒に頑張りましょう!」
「はいっ!」
「麗凄いね!流石現役女子高生!」
「ちょっとぉ!俺も労ってよ!カオリン酷くない!?もっと早くやめても良かったじゃん!あんなに強いなら川端さんがやった方が良かったんじゃないの!?」
「何言ってんだ?俺がやったら意味ないだろ?俺ほどのガタイ持つやつなんて騎士には1人もいないんだぞ?騎士に近い体型の優汰にどれだけの威力が与えられるか、それが重要だったんじゃないか。」
「だったら金谷さんでも良くない!?」
「それは優汰がチャチャ入れたからだろ?」
「優汰君、ありがとうね。とっても参考になったわ。」
カオリンにお礼を言われたらもう何も言えないよね!
「カオリンが魔法使えたの俺のおかげ!?」
「「「「それは違う!!」」」」
再びみんなの声が揃う。
「なんだよみんなして!」
カオリンが威力の高い魔法を使えて良かった。
あっくんみたいにカマイタチの様な切り落とすタイプの魔法しか使えなかったら、もし襲われた時とても嫌な思いをしてしまう。
見たくもないグロい映像を目にして、自分でこれをやったんだと自覚してしまえば、もう魔法が使えなくなるほどのトラウマになってしまうんじゃないかと心配していた。
これなら相手を吹き飛ばすことも簡単。
わざわざ切りつけるなんてことしなくて良い。
あとは麗だけど、カオリンの風魔法を見てたら魔法が使えるようになっても絶対影響される。
イメージが何より大切だからね。
やっぱりあとは絢音だ…
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