水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
189 / 345

第189話    香織の風魔法

しおりを挟む



 みんなで朝食を掻き込み、メイドを呼んで片付けてもらう。
 メイドは燭台が見当たらずキョロキョロ辺りを見回し、床に転がっている破損した燭台を目にし慌てて外に出て行った。
 どうやら護衛に報告に行ったらしい。
 ラルフとハンスが部屋に入ってきて、メイドが燭台を指差し何かを言っている。


「皆様、すみませんが、この燭台はどうされたのですか?」
「悪い、俺が壁にぶん投げた。」

 ラルフの質問にあっくんが答える。

「あの…何かお気に触ることでもありましたか?」
「いいや?何も?ちょっとした意見の食い違いがあっただけだ。こっちの奴等に何か文句があったわけじゃないから心配すんな。」
「そう、ですか。では、あちらは片付けさせていただいても問題ありませんか?」
「ああ、頼む。それからこの後、何があっても声を掛けるまで入ってくるな。」

 あっくんの返答に若干顔を引き攣らせながらラルフがメイドに指示を出す。
 片付けが終わりメイドと護衛が部屋を退出したのを確認する。

「あっくん、金谷さんの魔法内緒にするの?」
「いずれはバレると思うけどさ、金谷さんの土魔法がこの世界でどう思われるのかって一瞬考えたら、今の段階では受け入れられないんじゃないかと思ってね。」
「そうね。土でも何でもない。物質自体を操るなんて、土魔法とは絶対認識されないわよね?下手をすれば闇魔法か何かなんじゃないかって思われたりしないかしら?」
「それってマズイんじゃないの?」

 麗が心配そうに言う。

 私はカオリンの闇魔法という言葉に心臓がバクバクしていた。
 絢音の魔法が光か闇だと思っている私にとってみたら、1番の心配の種だから。
 闇魔法と聞いただけでみんなの空気感が心配に振り切っている。
 金谷さんだって因子検査をしたんだから土因子を持っているのは確実だけど、闇の因子だって持ってる可能性はあるよね?
 それを無意識で使っていたとしたら?
 金谷さんはまだ土の因子があるから、土しか持っていないと言い訳もできるかもしれない。
 でも、絢音は?
 言い訳の材料なんて何も持ってない。
 闇魔法と聞いただけでみんなが金谷さんが利用されるのではないか、と懸念するくらい危険だと認識している。

「みーちゃん?だいじょぶ?」

 そんな思考の闇の中、私を心配する絢音の声が聞こえてきた。

「大丈夫だよ。ごめんね、ちょっと考え込んでただけだから。」

 絢音に心配かけちゃ駄目だ。
 まだ何もハッキリしていない。
 不確定要素が多過ぎる。

「とりあえずもっとやれることを模索して、実力をつけてからこっちの奴等の前で因子検査をすればいい。目の前で因子がハッキリすれば理解も納得もされなくても、地球人だからということで押し通せる。俺やしーちゃんの魔法だって全く理解されていないのに、地球人は特別だという免罪符のような物が働いているからな。」

 そうだよね……地球人は特別…
 なんとかその思考を利用してこっちに有利になるようにしなくちゃ!

「それもそうね。結局のところ実力をつけるところに戻ってくるわ。さぁ!今度は私の風の番よ!風で何ができるか、みんな何か案はあるかしら?」
「俺は土以外サッパリわかんない!」
「俺は自分の魔法のことしか考えてなかった。」
「私も風みたいだけど……何も思いつかなかった…」

 金谷さん、優汰、麗は其々何も思いつかなかったみたいだ。
 私も、物語に出てくる風魔法くらいしか想像できない。
 どうしたもんかと頭を抱えそうになった時

「俺達は其々物理に当て嵌めて考えていますよね?香織さんは特にそうだと思います。物理に当て嵌めて考えなければ多分連想自体できないと思います。そもそも風とは何か、それから考えるのが重要なのでは?」

 と、あっくんが助言した。

「風とは何か?」
「そうです。風はどうして吹くのか……ですよ。」
「え?それ、誰かわかる人いるの?」

 私の疑問に誰も答えない。
 かと思いきや麗が口を開いた。

「風って、低気圧と高気圧なんじゃないの?台風とかそうでしょ?どっちがどっちに吹くとか知らないけど…」
「えー?そんなザックリでわかるのぉ?」

 優汰がチャチャを入れるけど

「いや、誰も風が何かわからなかったんだ。それを思えば出てきただけで助かる。とりあえずやってみよう。間違ってたらまた考えれば良いだけだ。香織さん、やってみましょう。」
「そうね。麗ちゃん、ありがとう。」
「い、いやいや!まだ正解だって決まったわけじゃないし!」
「優汰!ここに立て!」
「えーーー!?何で俺!?」

 優汰は凄く不満げな声を出す。

「折角の意見にチャチャ入れただろ?それとも他に風について意見あんのか?」
「わーかったよぉ!もーう!」

 ぶつくさ言いながらも優汰は移動する。

「そこから動かず立ってろよ!もし風が吹いても踏ん張れ!」
「はぁーい!」
「香織さん、優汰の右が低気圧、左が高気圧と想像してください。」
「そう言われてもねぇ……低気圧も高気圧もどう想像していいかわからないわよ?」
「……では、左に圧力をかけるイメージはどうですか?」
「右には何もせず?」
「はい。左に圧力を、段々強くなるイメージでかけてみてください。風が吹けば成功です。」
「それならイメージできそうだわ。」

 カオリンが魔力を放出しだす。
 すると、フワッと微風が吹いてきた。

「カオリン!風吹いてきたよ!」
「香織さん、そのままどれくらい魔力を流せばどれくらいの威力になるのか、やってみましょう。その感覚を身体で覚えるんです!」
「わかったわ!」

 徐々に風は強くなる。
 それに伴って優汰も段々と姿勢が低くなり

「ちょっ!!ちょっとぉーーー!強い!強いってば!!!」

 優汰は叫ぶ。
 それを聞いてもカオリンは魔法を消さない。
 完全に床に寝転んだ状態になった優汰は、もう何も言わない。
 いや、言っているのかもしれないけど風の音が凄すぎて何も聞こえてこない。
 漸くあっくんがカオリンの肩を叩いて終了を知らせると、カオリンは魔力を流すのをやめた。

「香織さんは何をイメージして魔力を流しましたか?」
「川端君が圧力、麗ちゃんが台風って教えてくれたから、hPaのイメージかしら?具体的な数字はわからないけれどね。」
「いえ、より具体的なイメージと物理に反していなければ発動するんですから、成功じゃないですか?風魔法、凄く強いかもしれませんよ?」
「ええ!これは凄いわね!麗ちゃんありがとうね!一緒に頑張りましょう!」
「はいっ!」
「麗凄いね!流石現役女子高生!」
「ちょっとぉ!俺も労ってよ!カオリン酷くない!?もっと早くやめても良かったじゃん!あんなに強いなら川端さんがやった方が良かったんじゃないの!?」
「何言ってんだ?俺がやったら意味ないだろ?俺ほどのガタイ持つやつなんて騎士には1人もいないんだぞ?騎士に近い体型の優汰にどれだけの威力が与えられるか、それが重要だったんじゃないか。」
「だったら金谷さんでも良くない!?」
「それは優汰がチャチャ入れたからだろ?」
「優汰君、ありがとうね。とっても参考になったわ。」

 カオリンにお礼を言われたらもう何も言えないよね!

「カオリンが魔法使えたの俺のおかげ!?」
「「「「それは違う!!」」」」

再びみんなの声が揃う。

「なんだよみんなして!」

 カオリンが威力の高い魔法を使えて良かった。
 あっくんみたいにカマイタチの様な切り落とすタイプの魔法しか使えなかったら、もし襲われた時とても嫌な思いをしてしまう。
 見たくもないグロい映像を目にして、自分でこれをやったんだと自覚してしまえば、もう魔法が使えなくなるほどのトラウマになってしまうんじゃないかと心配していた。
 これなら相手を吹き飛ばすことも簡単。
 わざわざ切りつけるなんてことしなくて良い。
 あとは麗だけど、カオリンの風魔法を見てたら魔法が使えるようになっても絶対影響される。
 イメージが何より大切だからね。


 やっぱりあとは絢音だ…













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

処理中です...