184 / 346
第184話 side亜門 次期辺境伯ハンス④
しおりを挟む「流石古角様。やはり抜け目はないですね。わかりました。正しく現当主に伝えます。」
「おい!しーちゃんをそれほど崇める答えは?」
自らしーちゃんの情報を遮断するくらい大切だと公言したも同然なのに見過ごせるか!
「答え、ですか。……紫愛様は、私共と似た考え方をお持ちだと思いました。私個人だけであれば、同じ因子持ちとして純粋な力への憧れもあります。それに、あの容姿もですね。崇めたくもなりますよ。」
俺が更に言い詰めようとしたら、先に香織さんが口を開いてしまった。
「それについてなんだけれど、前々から疑問だったことがあるのよ。私達地球人は平民に近い見た目なのよね?魔力に関する色を何1つ持っていない。それはそれで侮蔑の対象にはならないのかしら?」
「初めこそ、そういった感情を周りから感じることもありましたが、川端様と紫愛様の圧倒的な魔力の圧を直接目にした者はそれらが誤った認識であると理解しました。そして、辺境の者には初めからそれらはなかった。魔法を使える者や貴族が特別だと思っていない者がほとんどですから。」
「区別はあれども差別はない。ということ?」
ハンスは頷きながら
「要は適材適所ですね。」
と答えた。
「本当に、ここの人達に比べたらかなり辺境の人達はまともなのね。」
「ですから言っているでしょう。馬鹿ばかりなんですよ。」
「ふふっ、そうね。これで政略結婚の意味がわかる人がいればまだ良いんだけれどねぇ。この世界には本当に誰と誰の子か証明する術はないのかしら?」
「ないですね。」
「魔法具にもないの?」
「ありません。」
香織さんは頬杖をつきながら
「はぁー、何故こんなにも便利な魔法や魔法具があるのに、そういった類の物はないのかしら?」
「仕方ありませんよ。ここには医療の知識すらほとんどないんです。手術はおろか麻酔やまともな薬すらないようですよ?」
「薬も麻酔もないの!?じゃあ……酷い怪我をした場合は?」
「さぁ?死ぬのを待つだけなんじゃないですか?」
「何を他人事のように言ってるのよ!川端君も紫愛ちゃんも戦場に行くのよ!」
俺の淡々とした口調が癪に触ったんだろう、香織さんは掴みかからんばかりに言い詰めてきた。
「無い物は仕方がないでしょう?俺だって聞いた時はビックリしましたよ!」
「あの……シュジュツやマスイとは?」
しまった!
ハンスを置いてけぼりにしていた!
「身体の中に悪いモノができた場合、身体を切り開いてその悪い部分を取り除くんだよ。それが手術だ。」
「そんなことをしたら死んでしまいます。何より痛みでとても耐えられないでしょう?」
「それを可能にするのが麻酔だ。感覚を一時的に無くす薬があるんだよ。」
「それは地球では当たり前なのですか?」
「当たり前だな。ここにはエコー検査もない、よな?」
「それはなんです?」
「超音波をあてて身体の中を探るんだよ。」
「身体の中を探る?ですか??」
「あーーーーなんつったらいいんだ?」
それ以外に説明の仕方なんてあるのか??
「ハンスさん、そのエコー検査をするとね、身体の悪い部分だったりが知識を持つ人には簡易的にわかるのよ。」
流石香織さん。用いた結果を話す事で説明を自然に省略した。
「悪い部分とは?」
「ではもっとわかりやすく言うわね。女性のお腹の中に子がいるとするわ。そこに超音波を当てるとね、子供の形が見えるのよ。男子か女子かの判別もできるわ。」
「……意味がわかりません。産まれる前にわかると仰るのですか?」
「ええ。大体妊娠半年で性別は完全にわかるわ。」
「ははっ!そんな馬鹿な!」
乾いた笑いをこぼしながらハンスは肩をすくめた。
「一体どこまで水準が低いのかしら?これでは人が当たり前に死んでいってしまうじゃないの!」
「誰と誰の子かを判別する方法すらないんですよ?体外受精の話をラルフに言った時も驚いていましたし。それがあるのかないのか、確認するだけで一苦労ですからね。」
「待ってください!今の話全て教えてください!」
慌てて香織さんと俺の会話に割り込んでくる。まぁ、ハンスになら言っても大丈夫だろう。
「体外受精の話か?それはな、女の子種と男の子種を外でくっつけて女の身体に戻すことだ。性交渉は必要ない。」
「それは……有り得ません。」
「誰と誰の子であるかの判別も、髪の毛数本ぶち抜いて検査にかければ確認の方法があった。」
「髪の毛数本!?数本で誰と誰の子か判別が可能だと仰るんですか!?」
あまり表情を変えないハンスが驚愕に目を見開く。その表情が全てを物語る。
「ね?香織さん。これですよ。ラルフと同じ反応だ。ってことはやっぱりラルフが知らないだけじゃなく、この世界にはそもそも何もない。」
「性交渉がなくどうやって子を作るんです?」
「だからぁ!女の子種と男の子種を外で「男子の子種はわかります。問題は女子の方です。女子はどうするんです?」
ぐいぐい来るなぁ…
「薬で卵子育ててな、太い注射器みたいなので取り出すんだよ。めちゃくちゃ痛いみたいだけどな。」
「……それを外でくっつける、と?」
「そうだな。男の子種に問題がある場合もあるだろ?それも子種が出てこないだけであれば女と同様に取り出せる。睾丸切り開いてなぁ、これも馬鹿みたいに痛いらしいな。外で受精卵作っても、着床するかどうかは運だからな。必ず妊娠するとは限らない。」
「それほどのことをする意味は?」
驚き過ぎて頭働いてないのか?
「そういう技術があれば貴族達の妊娠は誤魔化しようがないだろう?それに、俺達の国では政略結婚なんてほぼないからな。お互い愛し合ってなきゃ結婚なんてしない。愛してる人の子供がほしくなるのは当然だろう?だから高い金出してでもそれをやってもらうんじゃねーか。」
「それは……つまり、金を払えば誰でもやってもらえるのですか?」
「あぁ。一般的なもんだ。」
「では子の血縁の検査は?流石に一般的な物ではないんでしょう?」
「一般的だろう。体外受精なんかよりよっぽど安価だったはずだ。香織さんは知ってますか?」
「私はさすがに費用までは知らないわ。でも、誰でも手が届くような金額だとは思うわ。」
「そんな……信じられない…」
「信じられないって言われても、これが俺達の国での普通だからな。」
「それができることが普通だとは、素晴らしいですね。」
「なぁ、4人子供作らないといけないのにその知識の無さは大丈夫なのか?数打ちゃ当たる戦法なんて、時間がなきゃ無理じゃねぇか?それともラルフが家に帰ってなかっただけで普通の騎士の奴等は家に帰ってんのか?」
「妻が妊娠するまでは頑張るしかありませんよね。」
無表情に戻ったな。
「女性が妊娠可能な日数を知っているか?」
「日数?」
本当に知らないんだな…
説明が面倒だ。だがここまで話して説明しない選択肢は取れない、か…
「この会話まるでデジャヴだ。ラルフに言ったこととおんなじじゃねーか。女性の妊娠可能な日は生理から生理までの約1ヶ月のうちの僅か1日だ。」
「たったの……1日?」
「それとな、男が子種を中で出して、中で子種が生きてる期間はおよそ2日だ。」
「2日、ですか?」
「まぁ、その、な?子供が欲しければ女性の排卵日辺りで1日置きにすれば良いだけだ。」
「ハイランビとは?」
「女性の子種はな、卵みたいなもんだ。それが月に1度、ほぼ1つしか出てこない。その卵が出てくる日を排卵日って言うんだ。その卵の寿命は約1日。その出てくる日にちはある程度予測できるから、その日の前後に性交渉すれば妊娠の確率はグッと上がるってことだ。」
「それはいつなのです?」
再び身を乗り出してくるハンスに苦笑が漏れる。
「生理が始まった日から10日~14日辺りじゃなかったか?」
「それを外せば子はできないのですか?」
「排卵日もズレる可能性は十分にある。無いとは言えない。それに、生理不順の女性だっているだろう?全ての女性に当て嵌まる訳ではない。だから言っただろう?妊娠の確率が上がるって。上がるだけだ。」
「それでも!その知識があるだけで全く違います!そんなことは初めて聞きました!」
「だろうな。」
「それは辺境で広めても?」
「好きにしろよ。ただ、必ず妊娠するわけでも、それをズラせば子供ができなくなるわけでもねぇ。あくまでも妊娠しやすい期間ってだけだ。それは正しく伝えろよ!間違った情報は逆に足枷になる。」
「必ずっ!必ず正しく伝えます!ありがとうございます。」
はぁーーー思いっきり疲れた。
あ!そうだ!
「おい!結局のところしーちゃんのことはどう思ってんだ?」
「女神ですが?」
「ちげぇよ!!女性としてどう見てんのかどうかが聞きたいんだよ!」
「もちろん、紫愛様が私を選んでくださるならば光栄なことですが、有り得ないでしょう?そもそも私は自分のモノにしたいなどこれっぽっちも思っていません。紫愛様が幸せならばそれで良いですから。紫愛様は嫌がると思いますが、崇拝者ですからね。」
「あの見た目というのは?」
「愛らしいでしょう?どう見ても。」
愛らしいだと!?
いや確かにその通りだが!!!
「逆にハンスは高位の貴族女子の見た目はどう思ってんだ?」
「それは、化粧のことを指していますか?」
「それもそうだが、高位に上がれば上がるほど顔も整ってるんだろ?」
「そうは言いますが、いくら顔が整っていたとしても、あれほどに肌を青く染めて、青を強調するために目鼻口を白に塗るのですよ?周りがしているから仕方なくやっている女子もいるにはいるでしょうが……愚かとしか言いようがないですね。」
0
あなたにおすすめの小説
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる