水と言霊と

みぃうめ

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第184話    side亜門 次期辺境伯ハンス④

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「流石古角様。やはり抜け目はないですね。わかりました。正しく現当主に伝えます。」
「おい!しーちゃんをそれほど崇める答えは?」

 自らしーちゃんの情報を遮断するくらい大切だと公言したも同然なのに見過ごせるか!

「答え、ですか。……紫愛様は、私共と似た考え方をお持ちだと思いました。私個人だけであれば、同じ因子持ちとして純粋な力への憧れもあります。それに、あの容姿もですね。崇めたくもなりますよ。」

 俺が更に言い詰めようとしたら、先に香織さんが口を開いてしまった。

「それについてなんだけれど、前々から疑問だったことがあるのよ。私達地球人は平民に近い見た目なのよね?魔力に関する色を何1つ持っていない。それはそれで侮蔑の対象にはならないのかしら?」
「初めこそ、そういった感情を周りから感じることもありましたが、川端様と紫愛様の圧倒的な魔力の圧を直接目にした者はそれらが誤った認識であると理解しました。そして、辺境の者には初めからそれらはなかった。魔法を使える者や貴族が特別だと思っていない者がほとんどですから。」
「区別はあれども差別はない。ということ?」

 ハンスは頷きながら

「要は適材適所ですね。」

 と答えた。

「本当に、ここの人達に比べたらかなり辺境の人達はまともなのね。」
「ですから言っているでしょう。馬鹿ばかりなんですよ。」
「ふふっ、そうね。これで政略結婚の意味がわかる人がいればまだ良いんだけれどねぇ。この世界には本当に誰と誰の子か証明する術はないのかしら?」
「ないですね。」
「魔法具にもないの?」
「ありません。」

 香織さんは頬杖をつきながら

「はぁー、何故こんなにも便利な魔法や魔法具があるのに、そういった類の物はないのかしら?」
「仕方ありませんよ。ここには医療の知識すらほとんどないんです。手術はおろか麻酔やまともな薬すらないようですよ?」
「薬も麻酔もないの!?じゃあ……酷い怪我をした場合は?」
「さぁ?死ぬのを待つだけなんじゃないですか?」
「何を他人事のように言ってるのよ!川端君も紫愛ちゃんも戦場に行くのよ!」

 俺の淡々とした口調が癪に触ったんだろう、香織さんは掴みかからんばかりに言い詰めてきた。

「無い物は仕方がないでしょう?俺だって聞いた時はビックリしましたよ!」
「あの……シュジュツやマスイとは?」

 しまった!
 ハンスを置いてけぼりにしていた!

「身体の中に悪いモノができた場合、身体を切り開いてその悪い部分を取り除くんだよ。それが手術だ。」
「そんなことをしたら死んでしまいます。何より痛みでとても耐えられないでしょう?」
「それを可能にするのが麻酔だ。感覚を一時的に無くす薬があるんだよ。」
「それは地球では当たり前なのですか?」
「当たり前だな。ここにはエコー検査もない、よな?」
「それはなんです?」
「超音波をあてて身体の中を探るんだよ。」
「身体の中を探る?ですか??」
「あーーーーなんつったらいいんだ?」

 それ以外に説明の仕方なんてあるのか??

「ハンスさん、そのエコー検査をするとね、身体の悪い部分だったりが知識を持つ人には簡易的にわかるのよ。」

 流石香織さん。用いた結果を話す事で説明を自然に省略した。

「悪い部分とは?」
「ではもっとわかりやすく言うわね。女性のお腹の中に子がいるとするわ。そこに超音波を当てるとね、子供の形が見えるのよ。男子か女子かの判別もできるわ。」
「……意味がわかりません。産まれる前にわかると仰るのですか?」
「ええ。大体妊娠半年で性別は完全にわかるわ。」
「ははっ!そんな馬鹿な!」

 乾いた笑いをこぼしながらハンスは肩をすくめた。

「一体どこまで水準が低いのかしら?これでは人が当たり前に死んでいってしまうじゃないの!」
「誰と誰の子かを判別する方法すらないんですよ?体外受精の話をラルフに言った時も驚いていましたし。それがあるのかないのか、確認するだけで一苦労ですからね。」
「待ってください!今の話全て教えてください!」

 慌てて香織さんと俺の会話に割り込んでくる。まぁ、ハンスになら言っても大丈夫だろう。

「体外受精の話か?それはな、女の子種と男の子種を外でくっつけて女の身体に戻すことだ。性交渉は必要ない。」
「それは……有り得ません。」
「誰と誰の子であるかの判別も、髪の毛数本ぶち抜いて検査にかければ確認の方法があった。」
「髪の毛数本!?数本で誰と誰の子か判別が可能だと仰るんですか!?」

 あまり表情を変えないハンスが驚愕に目を見開く。その表情が全てを物語る。

「ね?香織さん。これですよ。ラルフと同じ反応だ。ってことはやっぱりラルフが知らないだけじゃなく、この世界にはそもそも何もない。」
「性交渉がなくどうやって子を作るんです?」
「だからぁ!女の子種と男の子種を外で「男子の子種はわかります。問題は女子の方です。女子はどうするんです?」

 ぐいぐい来るなぁ…

「薬で卵子育ててな、太い注射器みたいなので取り出すんだよ。めちゃくちゃ痛いみたいだけどな。」
「……それを外でくっつける、と?」
「そうだな。男の子種に問題がある場合もあるだろ?それも子種が出てこないだけであれば女と同様に取り出せる。睾丸切り開いてなぁ、これも馬鹿みたいに痛いらしいな。外で受精卵作っても、着床するかどうかは運だからな。必ず妊娠するとは限らない。」
「それほどのことをする意味は?」

 驚き過ぎて頭働いてないのか?

「そういう技術があれば貴族達の妊娠は誤魔化しようがないだろう?それに、俺達の国では政略結婚なんてほぼないからな。お互い愛し合ってなきゃ結婚なんてしない。愛してる人の子供がほしくなるのは当然だろう?だから高い金出してでもそれをやってもらうんじゃねーか。」
「それは……つまり、金を払えば誰でもやってもらえるのですか?」
「あぁ。一般的なもんだ。」
「では子の血縁の検査は?流石に一般的な物ではないんでしょう?」
「一般的だろう。体外受精なんかよりよっぽど安価だったはずだ。香織さんは知ってますか?」
「私はさすがに費用までは知らないわ。でも、誰でも手が届くような金額だとは思うわ。」
「そんな……信じられない…」
「信じられないって言われても、これが俺達の国での普通だからな。」
「それができることが普通だとは、素晴らしいですね。」
「なぁ、4人子供作らないといけないのにその知識の無さは大丈夫なのか?数打ちゃ当たる戦法なんて、時間がなきゃ無理じゃねぇか?それともラルフが家に帰ってなかっただけで普通の騎士の奴等は家に帰ってんのか?」
「妻が妊娠するまでは頑張るしかありませんよね。」

 無表情に戻ったな。

「女性が妊娠可能な日数を知っているか?」
「日数?」

 本当に知らないんだな…
 説明が面倒だ。だがここまで話して説明しない選択肢は取れない、か…

「この会話まるでデジャヴだ。ラルフに言ったこととおんなじじゃねーか。女性の妊娠可能な日は生理から生理までの約1ヶ月のうちの僅か1日だ。」
「たったの……1日?」
「それとな、男が子種を中で出して、中で子種が生きてる期間はおよそ2日だ。」
「2日、ですか?」
「まぁ、その、な?子供が欲しければ女性の排卵日辺りで1日置きにすれば良いだけだ。」
「ハイランビとは?」
「女性の子種はな、卵みたいなもんだ。それが月に1度、ほぼ1つしか出てこない。その卵が出てくる日を排卵日って言うんだ。その卵の寿命は約1日。その出てくる日にちはある程度予測できるから、その日の前後に性交渉すれば妊娠の確率はグッと上がるってことだ。」
「それはいつなのです?」

 再び身を乗り出してくるハンスに苦笑が漏れる。

「生理が始まった日から10日~14日辺りじゃなかったか?」
「それを外せば子はできないのですか?」
「排卵日もズレる可能性は十分にある。無いとは言えない。それに、生理不順の女性だっているだろう?全ての女性に当て嵌まる訳ではない。だから言っただろう?妊娠の確率が上がるって。上がるだけだ。」
「それでも!その知識があるだけで全く違います!そんなことは初めて聞きました!」
「だろうな。」
「それは辺境で広めても?」
「好きにしろよ。ただ、必ず妊娠するわけでも、それをズラせば子供ができなくなるわけでもねぇ。あくまでも妊娠しやすい期間ってだけだ。それは正しく伝えろよ!間違った情報は逆に足枷になる。」
「必ずっ!必ず正しく伝えます!ありがとうございます。」

 はぁーーー思いっきり疲れた。
 あ!そうだ!

「おい!結局のところしーちゃんのことはどう思ってんだ?」
「女神ですが?」
「ちげぇよ!!女性としてどう見てんのかどうかが聞きたいんだよ!」
「もちろん、紫愛様が私を選んでくださるならば光栄なことですが、有り得ないでしょう?そもそも私は自分のモノにしたいなどこれっぽっちも思っていません。紫愛様が幸せならばそれで良いですから。紫愛様は嫌がると思いますが、崇拝者ですからね。」
「あの見た目というのは?」
「愛らしいでしょう?どう見ても。」

 愛らしいだと!?
 いや確かにその通りだが!!!

「逆にハンスは高位の貴族女子の見た目はどう思ってんだ?」
「それは、化粧のことを指していますか?」
「それもそうだが、高位に上がれば上がるほど顔も整ってるんだろ?」
「そうは言いますが、いくら顔が整っていたとしても、あれほどに肌を青く染めて、青を強調するために目鼻口を白に塗るのですよ?周りがしているから仕方なくやっている女子もいるにはいるでしょうが……愚かとしか言いようがないですね。」















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