水と言霊と

みぃうめ

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第181話    side亜門 次期辺境伯ハンス①

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「改めまして、ハンス マルクグラーフ プロイセンです。質問にお答えしましょう。」

 ハンスは脱剣をしたあと軽くお辞儀をし、改めてその名を名乗って席に着いた。
 香織さんに助けを求めた俺は極力黙っていることにした。

「よろしくね。では、罪科者について。ハンスさんの知っていることを教えてちょうだい。」
「罪科者とは、産まれつきどこかしらの欠損がある人間を指します。辺境伯領には寮という名の保護施設があります。親を亡くした騎士達の子のためにありますが、罪科者もまた、そこに預けられる事が多いですね。欠損の程度によって部屋がわけられます。自分でできることは自分でさせます。できない者へは手助けを。そこでその罪科者達にどんな仕事がやりたいか、できるかの模索をします。」

 寮は随分しっかりとした施設のようだ。

「騎士になりたい者はならせてもらえるのかしら?」
「それは程度によりますね。片腕がないだけならば魔法に支障は出ませんから騎士になれます。ですが足の欠損であった場合は不可能です。自ら歩けない者は流石に連れて行く訳には行きません。態々魔物の餌にしに行くようなものですから。」
「では、欠損が酷い場合は?」
「どの程度の、でしょうか?」
「そうねぇ、1番酷い欠損の子の行く末が知りたいわ。」
「娼館に行きます。または産み腹ですね。」
「それは強制的に?」
「いいえ、自発的にです。本人達は自身が足手纏いで、自身の世話すらできないことを自覚しています。寮にいられるのは15歳まで。その間に色々と模索はしますが、辺境伯領では役立たずは必要ありません。その事もまた全員が自覚しています。娼館にしろ産み腹にしろ、行けば食事に面倒に、全て見てもらえることはわかっています。ですから自ら決断します。」

 確かに仕事ができなければ食っていくのは難しいが、国からの援助はないのか?

「では、変質者というのは?」
「変質者とは、色見と魔力量の相違がある者達のことです。」
「相違?」
「貴族とは、肌の色、髪の色、瞳の色で大凡おおよその保有し得る魔力量や魔力の威力が判断可能です。歳を重ねてゆけば制御できるようになるまでは魔力が漏れ出ることはご存知でしょう?早い段階から色見と魔力量の相違がある事が判断可能です。」
「変質者の色はどのように違うの?」
「まず肌の色が違います。産まれてすぐに、一目で変質者と判断できる程の者もおりますが、そうではない者もおります。魔力量が多い場合、肌の色は青により近くなりますが、変質者は紫がかっていることが多いです。魔力量が少なければ肌の色はより白に近付きますので、肌の色だけでの判断はできませんが、変質者の髪の色は白い、または白っぽい者が多いですね。髪の毛の白は魔力の通りが良いと言う事ですから、もうここである程度は判断可能です。肌がそれほど青くないのに髪の色だけが白いのはそれはそれでおかしいからです。肌が紫っぽく髪が白ければ間違いなく変質者です。肌が白に近いのに髪の毛が白の場合も、ほとんどの場合は変質者です。最後に瞳の色ですが、こちらも因子の色とは異なる色見の物が多いです。瞳が赤いのに火の因子ではなかったり、紫っぽかったり、だいだいっぽかったりと、瞳の色での因子の判断が不可能な場合があります。」

 これは!アルビノのことじゃないか!?
 香織さんに顔を向けると、香織さんもこちらを見て頷いた。

「つまり、見た目は魔力が多くて強そうなのにそうではない、と?」
「そうですね、大体は見かけ倒しという印象です。」
「変質者達の扱いについてはどうなの?」
「変質者達もまた、神子ほどではなくとも神の寵愛を受けし者とされています。ですが、私達はほぼ色見で判断されます。神の寵愛を受けし者として、神以外にその姿を晒してはならないという名目で色見の違いを隠しています。皆様に始めのうちに付いていたメイド達は姿を黒い布で隠していませんでしたか?あの様な感じで隠しているのです。神の寵愛という名目で隠されればその見た目が気になる者は当然おります。隠すほどの美人なのか、破滅的な不細工なのか、と。そして、何かの拍子に隠された変質者の顔を見た者が、たまたま見た女子の変質者の顔が不細工だったと噂を広めたのです。変質者は肌が弱い者が多く、化粧の類はできません。お2人とも、高位の貴族女子を目にしたことはありますか?」
「俺はある。」

 化け物メイクだったな。

「私は川端君に話だけを聞いたわ。」
「でしたら想像がつくでしょう?高位ほどではなくとも、低位には低位の許される化粧があります。あの化粧を施した姿が美しいとされているのですから、化粧を一切していない変質者がどう見られるのか……今は顔を隠している者は総じて侮蔑の対象です。ですが、あからさまにそれを表に出すことはありません。何せ神の寵愛を受けし者達なのですから。ですが、本質的な部分で言えば色見での判断が不可能なだけで普通に魔法は使えるのです。ですから普通に仕事もしております。」

「香織さん、これがアルビノのことなら、反対のメラニズムは?いないとおかしいのでは?」
「!!!そうね!絶対いるはずよ!ハンスさん、その寮には肌や髪が真っ黒な人もいるわよね?」
「おりません。」
「なんでだ?変質者のように数は少なくとも絶対いるはずだろう?」
「私も直接出産に立ち会ったことがあるわけではありませんから、この目で直接見たことはありません。ですが話に聞いたことはあります。もし貴族間に真っ黒な者が産まれた場合、即座に処分され隠匿されます。」
「……殺すということだな?」
「はい。」

 胸糞わりぃ話だ。

「貴族の間ではそれほどに見た目が重要視されているのね?」
「魔法至上主義がこの国の現状で、見た目が魔法に直結するのです。肌も髪も真っ黒で潜在魔力すら判別不能。人間としての認識すらないかもしれません。」

 怒りを通り越して呆れる。
 無知は人を愚かにする。
 地球でも昔はこうだったはずだ。
 色々なモノを犠牲にして得た知識。
 その知識があるからこそ発展し、今の地球での暮らしがある。
 でもこの世界の奴等はその知識を捨てた節がある。知識の欠如によって弱くもなっている。
 何故だ?
 それほどに魔物の脅威が凄まじいのか?
 国を上げての魔物排除が強まれば教育なんて二の次になる。そういうことなのか?

 俺が考え込んでいても香織さんの質問は止まらない。
 話を聞き逃さないように一旦思考の底から戻ってくる。

「では、劣等者とは?」
「劣等者は言葉が通じなかったり、動きがおかしかったりする者です。」

 これは、知能的な障害者のことか?

「もう少し具体的に教えてちょうだい。どんな症状の人達がいるの?」
「言葉が通じないのはそのままの意味です。こちらが話しかけても返答がない。反応すらしない。反応がないから聞こえているのかすらわからない。逆に、歳を重ねて身体の成長は見られるのに言動に成長が見られない。動きがおかしいというのは、いきなり奇声をあげたり、突然走り回ったり、逆に小さく縮こまって動かない。1人でひたすらニヤニヤと笑っていたりと、様々です。」

 やっぱり知的障害者のことだ!

「そういう症状を持つ人に、顔に出るタイプの人もいるわよね?」
「はい。そちらも処分対象です。」
「処分されない人達の扱いは?」
「奴隷です。」

 奴隷!?
 だが、そこまで症状が酷い人達は何もさせられないだろう?

「奴隷にして何をさせるの?」
「辺境伯領では、王都の騎士団達が魔物退治に来た際の盾です。機能に問題がなければ孕み腹か種馬です。」

 なんということだ………
 ではやはり魔物の脅威がそれほどになっているということか?

「各家に産まれた劣等者の男女1人ずつは手元に確保されています。」
「それは、血筋を残すため?」
「まあ、それもありますが、貴族の中では子を作る機能に問題がある者も一定数はいますし、子を産むことを拒否する女子もおります。子を産めば産むほど身体は崩れていきますから。流石に産めるのに1人も産まない選択肢はありません。それはそれで石女というレッテルが貼られてしまいますからね。ですが貴族の政略結婚には4人の子が必須。では、どうするか、ですよ。」
「でも、そうなると妊娠や出産を秘匿することになるわ。それは現実的ではないのではないかしら?」
「貴族の中では妊娠も出産も秘匿が当たり前です。例え妊娠していることがあからさまでも誰も言及はいたしません。出産が必ずうまくいくとは限りませんし、皆がやっていることであり、皆がそれに恩恵を受けていますから。」
「恩恵というのは?」
「魔力が多い健康な子は譲られませんが、その貴族に認められるほどの魔力量でなければ、その血筋間で子のやり取りがされるからです。子の色と顔を見れば自分の子か否かは割と判断可能です。兄弟間や血筋の近いやり取りならば不自然にはなり得ません。」

 香織さんは溜息混じりに息を吐く。

「それが、政略結婚の成れの果てということなのね?」
「そうです。」
「本当に何の意味もない政略結婚なのね。」
「そんなことはありませんよ?」













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