水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
上 下
166 / 345

第166話    またの忘却

しおりを挟む



 絢音と部屋に戻り、お菓子を食べ漁り寝た。

 本当は今日から別々で寝ようと思っていたけど、絢音が寝る寸前で泣きそうになったのを見逃せなかった。

「絢音と一緒に眠るのは今日までね。」

 と言い、絢音も

「あしたからがんばる。」

 と言ってくれた。

 絢音を抱きしめて寝たはずが、目が覚めると絢音に抱きしめられていた。


 寂しいのは絢音のはずなのに、いつの間にか私の方が絢音に依存してしまっている。
 子供達と重ねて見てしまっている。
 1人で勝手に絢音を守ると息巻いて空回りしてばかりだ。

 
 本当の意味で絢音のためにできること…


 私が守ってばかりでは駄目。
 そばに居続けることは絢音の成長を邪魔してしまう。
 こんな世界だから、過保護になるのは仕方がない。利用されてしまってからでは取り返しはつかない。
 身体の傷は治っても、心の傷は一生消えないのだから。

 でも、過保護で居続けるのも違う。
 絢音はとても頑張り屋さんだ。
 9歳とはとても思えないほどに。
 絢音がピアノ以外で頑張れることを探さなければいけない。
 やっぱり魔法は必須だ。
 絢音のことがよっぽどの衝撃だったせいか、あっくんもイライラすることが突然無くなったし、絢音に前と同じように優しく接してくれるようになった。
 とりあえず絢音に魔力を流してもらおう。
 魔力を感じられなければ始まらないのだから。

 カオリンも優汰も魔力操作はできるようになった。
 昨日お菓子を食べながら絢音に優汰の顔が見えたか聞いたら、見えたと言っていた。
 色はオレンジっぽい黄色だとも。
 それならば土因子だ。
 優汰と金谷さんは土因子。
 カオリンと麗は風因子。

 ここで懸念が1つ。
 土魔法は土が出せるわけではない。
 風魔法や水魔法と同じで、そこにあるモノを操るのみ。
 土と1言で言っても、土には何かしら成分がある。
 そんな複雑な物を生み出せるわけがない。
 と、すると。
 建物の中での自衛はかなり厳しくなる。
 いつも土を持ち歩くの??
 どれくらいの量の土を?
 身を守るために使用するとなると、一握りでは厳しいだろう。あっくんのように風魔法で土の弾を飛ばすなんて、できっこない。
 土魔法では自衛は不可能なの??
 もし不可能だった場合、絢音を守ってもらうどころの話ではない。

 駄目だ、1人で考えても良い案は思い浮かばない。
 私はそっちの知識は全くないも同然。
 専門家の優汰本人に聞いてみよう。

 優汰が土因子というのは、何か運命的なモノを感じるなぁ。
 私の水因子も、運命的なモノを感じた。
 シーケンを行う時も私が想像するのは水だ。
 水は一で水は全。
 水が全てというイメージと感覚が強い。
 魔法云々ではなく、ことわりに起因するようナニかを感じているからだ。

 水から産まれ、死んで再び水に還る。

 大きく見た時、人間だって世界の循環の中の一部の存在。それ以上も以下もない。


 と、因子に思いを馳せていると「う~~~ん…」と、絢音が身じろぎをしながら唸りだす。
 そろそろ絢音が起きるなぁ。
 頭を撫でたくとも手は届かない。
 背中を優しく摩る。

「ん~~…………」
「おはよう。起きた?」
「……みーちゃ、おはよぅ。」
「ふふっ、おはよう。そろそろ起きて、ご飯行こうか?」
「……うん。」
「みーちゃんは今日行く所があるの。お出かけするのはお昼ご飯を食べてからなんだけど、そのお話をするために朝食食べたらあっくんの所へ行かないといけないんだ。絢音はピアノ弾いてる?」
「うん!ぼくよーせーさんとおはなししてる。」
「妖精さんは、絢音に優しい?」
「うん!」
「何か頼まれたり、お願いされたりはする?」
「ぴあのひいてっていう。」
「それだけ?」
「おかしのおはなしする。」
「お菓子?妖精さんは食べたがってるの?」
「どんなかんじなのって。」
「妖精さんが食べたがってるなら、私が妖精さんの分も作ろうか?」
「たべないとおもう。」
「そうなの?」
「うん。」
「じゃあ妖精さんの分はいらないね。妖精さんが見える時はピアノを弾いている時だけなの?」
「うん。」
「ピアノを弾いていない時に見たことある?」

 首を横に振る絢音。

 やっぱり魔法……だよね?
 光か闇か……

 探してみよう。




 絢音と2人で手を繋いでロビーへ食事に向かう。
 その場には優汰以外の全員が既に席に着いていた。
 麗は私達を視界に入れると少し顔を歪めたけれど、それだけ。
 何も言うことはなかった。

「みんなおはよう!」
「……おはよう。」

 私に続いて小さな声で挨拶をする絢音。

「2人ともおはよう。優汰君はまだ起きて来ないのよ。」

 と、カオリンが教えてくれる。

「放っておけばいい。優汰はいつも朝はギリギリだ。」

 あっくんがそう言うので、絢音と私は並んで席に着くと丁度朝食が運ばれてきた。
 優汰はのっそりと部屋から出てきて

「おはよ。」

 と、ガラガラの声で挨拶をする。

「優汰、風邪でも引いたの?」
「不味い夕飯に不味い朝食にウンザリしてるだけ。日本食が食べたい!」
「ちょっと!!みんな我慢してるんだからそんなこと言ったら食べられなくなるでしょ!朝からやめなさいよ!」

 麗が怒る。

「そうだよ!食欲失せるようなこと言わないでよ!絢音が食べられなくなっちゃうでしょ!」
「昨日から絢音絢音ってさぁ!紫愛ちゃんいくらなんでもそのイケメン君の肩持ち過ぎじゃない??俺にだって優しくしてよぉ!」
「なんでオジサンの優汰に優しくしなきゃいけないの?」
「そんなこと言ったら絢音君だってそんなに若くは見えないけど!?イケメンだ!って贔屓してるのは紫愛ちゃんじゃん!」

 何言ってんだ??
 絢音は9歳なんですけどっ!!!

「ご飯食べるなら寝癖直してきて。」

 なんと金谷さんが口を開いた。

「そうよ!そんなボッサボサの頭で髭もボーボーでどっちか整えるくらいしなさいよ!」

 麗もそれに続く。

「……わかったよぉー。めんどくさいなぁ。」

 ブツブツいいながら部屋に戻る優汰。


 優汰の姿が部屋に消えるのを確認した後、再び金谷さんが口を開いた。

「優汰は昨日居なかったから絢音君の話知らない。面白いから黙ってよう。」

 あっ!!!そういえば優汰居なかった!
 また忘れてた!
 でも金谷さん…面白いから黙ってようって!
 もしかしてそれを私達に言うために優汰を部屋に戻らせたの!?

「ふふふふっあはは!金谷君てば!確かに面白そうだわ!」
「俺達に口止めするために優汰を追い返したのか!?いい性格してんなっ!!あはは!」

 カオリンもあっくんもノリノリだ。

「優汰に説明しだしたらまたうるさく騒ぐんだからいいんじゃない?」

 麗も肯定した。

「話さなかったらいつ気付くんだろう。絢音はどう思う?」
「ぼく、みーちゃんといっしょ。」
「私と同じ?私が内緒にするって言ったら内緒にするってこと?」
「うん。」
「じゃあ絢音が9歳だって優汰がいつ気がつくか待ってみようか?優汰はそれはそれで喜びそうだし。」
「うん!」


 優汰に秘密にすることが決定したら優汰が部屋から出てきた。
 頭にはタオルが巻いてある。

「直らなかった。これならいい?」
「優汰が良いなら良いけどさ……ますますオジサン感出たね。」

 土木にいたよ、こんなオッサン。

「えっ!?似合ってない!?」

 ぷっと吹き出す金谷さん。

「タオルが似合うってなんなの?」

 続けてツッコむ私。

「あはははは!紫愛ちゃんやめてっ!」

 カオリンはまた爆笑している。

「ある意味、相当似合ってるぞ!」

 あっくんも笑っている。

「畑感すごい。」

 と、麗も頷いている。

「えー!!研究所では似合うって言われてたのに!それ信じてたのに!!!あれ嘘だったの!?」

 優汰は研究者だったはず。
 イメージが違いすぎる。
 優汰に聞いてみよう。

「研究所で??頭にタオル巻くの?白衣のイメージなんだけど違うの?」
「白衣着てたよ!」
「白衣にタオル??」
「そう!」
「それ、みんなやってたの?」
「ううん、俺だけ!!」
「だろうね。」

 そう冷静に言う私。

「あっははははは!だろうねって!!!」

 カオリンはのけ反って手を叩いて笑っている。
 金谷さんは顔を背け肩を揺らしている。

「しーちゃん、温度差ヤバいよ!!」

 あっくんも笑っている。
 麗は呆れていた。

「みーちゃん、ぼくおなかすいた。」
「そうだね、私もお腹空いたよ。みんな楽しそうに笑ってるし、私達だけ食べよっか。」
「うん!」


 笑いに包まれながらの朝食は、いつもよりほんの少しだけ美味しく感じた。














しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい

白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」 伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

処理中です...