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第166話 またの忘却
しおりを挟む絢音と部屋に戻り、お菓子を食べ漁り寝た。
本当は今日から別々で寝ようと思っていたけど、絢音が寝る寸前で泣きそうになったのを見逃せなかった。
「絢音と一緒に眠るのは今日までね。」
と言い、絢音も
「あしたからがんばる。」
と言ってくれた。
絢音を抱きしめて寝たはずが、目が覚めると絢音に抱きしめられていた。
寂しいのは絢音のはずなのに、いつの間にか私の方が絢音に依存してしまっている。
子供達と重ねて見てしまっている。
1人で勝手に絢音を守ると息巻いて空回りしてばかりだ。
本当の意味で絢音のためにできること…
私が守ってばかりでは駄目。
そばに居続けることは絢音の成長を邪魔してしまう。
こんな世界だから、過保護になるのは仕方がない。利用されてしまってからでは取り返しはつかない。
身体の傷は治っても、心の傷は一生消えないのだから。
でも、過保護で居続けるのも違う。
絢音はとても頑張り屋さんだ。
9歳とはとても思えないほどに。
絢音がピアノ以外で頑張れることを探さなければいけない。
やっぱり魔法は必須だ。
絢音のことがよっぽどの衝撃だったせいか、あっくんもイライラすることが突然無くなったし、絢音に前と同じように優しく接してくれるようになった。
とりあえず絢音に魔力を流してもらおう。
魔力を感じられなければ始まらないのだから。
カオリンも優汰も魔力操作はできるようになった。
昨日お菓子を食べながら絢音に優汰の顔が見えたか聞いたら、見えたと言っていた。
色はオレンジっぽい黄色だとも。
それならば土因子だ。
優汰と金谷さんは土因子。
カオリンと麗は風因子。
ここで懸念が1つ。
土魔法は土が出せるわけではない。
風魔法や水魔法と同じで、そこにあるモノを操るのみ。
土と1言で言っても、土には何かしら成分がある。
そんな複雑な物を生み出せるわけがない。
と、すると。
建物の中での自衛はかなり厳しくなる。
いつも土を持ち歩くの??
どれくらいの量の土を?
身を守るために使用するとなると、一握りでは厳しいだろう。あっくんのように風魔法で土の弾を飛ばすなんて、できっこない。
土魔法では自衛は不可能なの??
もし不可能だった場合、絢音を守ってもらうどころの話ではない。
駄目だ、1人で考えても良い案は思い浮かばない。
私はそっちの知識は全くないも同然。
専門家の優汰本人に聞いてみよう。
優汰が土因子というのは、何か運命的なモノを感じるなぁ。
私の水因子も、運命的なモノを感じた。
シーケンを行う時も私が想像するのは水だ。
水は一で水は全。
水が全てというイメージと感覚が強い。
魔法云々ではなく、理に起因するようナニかを感じているからだ。
水から産まれ、死んで再び水に還る。
大きく見た時、人間だって世界の循環の中の一部の存在。それ以上も以下もない。
と、因子に思いを馳せていると「う~~~ん…」と、絢音が身じろぎをしながら唸りだす。
そろそろ絢音が起きるなぁ。
頭を撫でたくとも手は届かない。
背中を優しく摩る。
「ん~~…………」
「おはよう。起きた?」
「……みーちゃ、おはよぅ。」
「ふふっ、おはよう。そろそろ起きて、ご飯行こうか?」
「……うん。」
「みーちゃんは今日行く所があるの。お出かけするのはお昼ご飯を食べてからなんだけど、そのお話をするために朝食食べたらあっくんの所へ行かないといけないんだ。絢音はピアノ弾いてる?」
「うん!ぼくよーせーさんとおはなししてる。」
「妖精さんは、絢音に優しい?」
「うん!」
「何か頼まれたり、お願いされたりはする?」
「ぴあのひいてっていう。」
「それだけ?」
「おかしのおはなしする。」
「お菓子?妖精さんは食べたがってるの?」
「どんなかんじなのって。」
「妖精さんが食べたがってるなら、私が妖精さんの分も作ろうか?」
「たべないとおもう。」
「そうなの?」
「うん。」
「じゃあ妖精さんの分はいらないね。妖精さんが見える時はピアノを弾いている時だけなの?」
「うん。」
「ピアノを弾いていない時に見たことある?」
首を横に振る絢音。
やっぱり魔法……だよね?
光か闇か……
探してみよう。
絢音と2人で手を繋いでロビーへ食事に向かう。
その場には優汰以外の全員が既に席に着いていた。
麗は私達を視界に入れると少し顔を歪めたけれど、それだけ。
何も言うことはなかった。
「みんなおはよう!」
「……おはよう。」
私に続いて小さな声で挨拶をする絢音。
「2人ともおはよう。優汰君はまだ起きて来ないのよ。」
と、カオリンが教えてくれる。
「放っておけばいい。優汰はいつも朝はギリギリだ。」
あっくんがそう言うので、絢音と私は並んで席に着くと丁度朝食が運ばれてきた。
優汰はのっそりと部屋から出てきて
「おはよ。」
と、ガラガラの声で挨拶をする。
「優汰、風邪でも引いたの?」
「不味い夕飯に不味い朝食にウンザリしてるだけ。日本食が食べたい!」
「ちょっと!!みんな我慢してるんだからそんなこと言ったら食べられなくなるでしょ!朝からやめなさいよ!」
麗が怒る。
「そうだよ!食欲失せるようなこと言わないでよ!絢音が食べられなくなっちゃうでしょ!」
「昨日から絢音絢音ってさぁ!紫愛ちゃんいくらなんでもそのイケメン君の肩持ち過ぎじゃない??俺にだって優しくしてよぉ!」
「なんでオジサンの優汰に優しくしなきゃいけないの?」
「そんなこと言ったら絢音君だってそんなに若くは見えないけど!?イケメンだ!って贔屓してるのは紫愛ちゃんじゃん!」
何言ってんだ??
絢音は9歳なんですけどっ!!!
「ご飯食べるなら寝癖直してきて。」
なんと金谷さんが口を開いた。
「そうよ!そんなボッサボサの頭で髭もボーボーでどっちか整えるくらいしなさいよ!」
麗もそれに続く。
「……わかったよぉー。めんどくさいなぁ。」
ブツブツいいながら部屋に戻る優汰。
優汰の姿が部屋に消えるのを確認した後、再び金谷さんが口を開いた。
「優汰は昨日居なかったから絢音君の話知らない。面白いから黙ってよう。」
あっ!!!そういえば優汰居なかった!
また忘れてた!
でも金谷さん…面白いから黙ってようって!
もしかしてそれを私達に言うために優汰を部屋に戻らせたの!?
「ふふふふっあはは!金谷君てば!確かに面白そうだわ!」
「俺達に口止めするために優汰を追い返したのか!?いい性格してんなっ!!あはは!」
カオリンもあっくんもノリノリだ。
「優汰に説明しだしたらまたうるさく騒ぐんだからいいんじゃない?」
麗も肯定した。
「話さなかったらいつ気付くんだろう。絢音はどう思う?」
「ぼく、みーちゃんといっしょ。」
「私と同じ?私が内緒にするって言ったら内緒にするってこと?」
「うん。」
「じゃあ絢音が9歳だって優汰がいつ気がつくか待ってみようか?優汰はそれはそれで喜びそうだし。」
「うん!」
優汰に秘密にすることが決定したら優汰が部屋から出てきた。
頭にはタオルが巻いてある。
「直らなかった。これならいい?」
「優汰が良いなら良いけどさ……ますますオジサン感出たね。」
土木にいたよ、こんなオッサン。
「えっ!?似合ってない!?」
ぷっと吹き出す金谷さん。
「タオルが似合うってなんなの?」
続けてツッコむ私。
「あはははは!紫愛ちゃんやめてっ!」
カオリンはまた爆笑している。
「ある意味、相当似合ってるぞ!」
あっくんも笑っている。
「畑感すごい。」
と、麗も頷いている。
「えー!!研究所では似合うって言われてたのに!それ信じてたのに!!!あれ嘘だったの!?」
優汰は研究者だったはず。
イメージが違いすぎる。
優汰に聞いてみよう。
「研究所で??頭にタオル巻くの?白衣のイメージなんだけど違うの?」
「白衣着てたよ!」
「白衣にタオル??」
「そう!」
「それ、みんなやってたの?」
「ううん、俺だけ!!」
「だろうね。」
そう冷静に言う私。
「あっははははは!だろうねって!!!」
カオリンはのけ反って手を叩いて笑っている。
金谷さんは顔を背け肩を揺らしている。
「しーちゃん、温度差ヤバいよ!!」
あっくんも笑っている。
麗は呆れていた。
「みーちゃん、ぼくおなかすいた。」
「そうだね、私もお腹空いたよ。みんな楽しそうに笑ってるし、私達だけ食べよっか。」
「うん!」
笑いに包まれながらの朝食は、いつもよりほんの少しだけ美味しく感じた。
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